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異世界転生ー私は騎士になりますー

34 寝室での秘め事

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「……ん」

 まるで水底から浮上するような覚醒に戸惑う。
 全身を包むぬくもりは柔らかい寝具のもので、それだけでプリモワール邸から移動させられていることが分かる。かの屋敷には整えられた寝具など無い筈だからだ。
 重い瞼をこじ開けるように眼を開けると隣に誰かの気配があってギクリとした。

「誰?」
「起きたの?」

 声の主の正体に気付いて慌てて飛び起きようとして、ぐらりと眩暈がしてベッドに逆戻りした。
 身体が動かない……。まるで自分の身体がドロドロとした何かに変えられてしまったかのような不快感と気怠さに包まれている。
 周囲を確認しても、どこにいるのか全く分からない。頭の方からうっすらとした光が薄い膜越しに差し込んでくる以外は全くの暗闇だった。

「動けないんでしょう? 無理をしない方がいいわ。マナスールはね、自分の体積以上の大きさを錬出するとそのオーバーした分だけ血液を奪うの。覚えておくことね。死ぬ前に貧血で気絶するから失血死することはないけど、戦場だと命取りになるわ」
「御忠告有難うございます……。あの、私どうしてレイチェル様と寝てるんでしょう。ここは一体」

 マナスールの意外な弱点に焦る。あの時空中で貧血を起こして気絶していたら二人とも無事では済まなかっただろう。どの大きさまでが許容範囲なのか調べておいた方がよさそうだ。
 少しだけ眼が慣れてきたが、天蓋が掛かった寝台の中であるということが分かっただけだった。ふっかふかで全身を包み込むようなベッドのぬくもりは私を再度の眠りへと誘ってくるけれど、今この状況で寝るわけにはいかないと気合で瞼を開けている。

「ここは私の寝室よ。話がしたかったからここに運ばせたの」
「話、ですか?」

 話がしたいだけで他人を自分の寝室に連れ込むなんて警戒心が無いのかな? まぁ、貧血で身動きが取れない人間に何が出来るのかって話ではあるけど。
 と考えていると、レイチェルが肩を震わせてクスクスと笑っている気配がした。外からの月明かりがレイチェル様の黄金色の髪を柔らかく照らしている。

「大丈夫よ、誰でも連れ込むなんてことはしないわ。私の命の恩人であり、お兄様の婚約者の貴方だからよ。お・ね・え・さ・ま」
「……聞きたいことって何ですか?」

 レイチェルってこういうキャラだったっけ?
 いつも野良猫みたいに警戒心むき出しで毛を逆立ててるイメージしか無かったからなぁ。
 貧血で気分が悪いのは寝転がっていても変わらないので、仰向けで寝ていたのをレイチェルの方へ寝返りを打つのすら結構精一杯だ。
 若干はっきりと見えるようになったレイチェルは緊張しているというか、悩まし気な顔をしている。どんな顔をしていても可愛いのは変わらないなぁ。ウィルも可愛いけど、女の子であるというだけでレイチェルの方が同じ顔でも愛らしく見える。

「どうして私を助けたりしたの。命を賭けてまで」
「どうしてって」

 愛らしい声が湿り気を帯びていてドキドキする。私って前世で男に囲まれて育っていた所為か女の子に弱いのだ。別に女の子が好きとかそういう訳では無い。か弱い女の子は守らなくてはいけないという気持ちが根付いているのだ。漫画でも女の子を守る為に戦うヒーローに憧れていた。その点レイチェルは守るべき対象としてドストライクなのだ。

「私を助けたってお兄様は手に入らないわ! お兄様が一番大事にしているのは私! この婚約だって私を守るためだってそうおっしゃっていたのよ!」
「あ、やっぱり? そうだと思ってた」
「は!?」

 私があっさり肯定すると、レイチェル様は物凄く驚いたようだ。涙が吹っ飛んでくれたようで良かった。
 泣かれたらどうして良いか分からない。

「……それで良いの?」
「ええ勿論」
「どうして?! 私を守ったからって何も手に入らないわ」

 起き上がれないのが残念だ、この可愛い女の子を優しく撫でて甘やかしてあげたいのに。
 きっと、兄を望まない政略結婚から守りたくてずっと戦ってきたのだろう。彼女自身が強い人間不信を抱えていて、頼る相手が居ないのだ。ウィルはウィルでレイチェルを守ろうとしているから、余計に。

「内緒なんですけど、私騎士になりたかったんです」
「……はぁ?」
「だから、可愛いお姫様を守れるなんてこれほど栄誉なことは無いと思いませんか? 出来れば明るい所で笑った顔を見せてくれるともっと嬉しいんですけど」
「何言っているのよ、お兄様の婚約者なのに騎士にも成って栄誉が欲しいなんて、強欲だわ」

 クスクスと笑ってくれる愛らしい声に心が暖かくなる。
 良かった、あ、駄目だ限界。眠い。

「この婚約はレイチェル様の為のもの……。ウィルには……私より……相応しい……相手が……」
「ちょっと! 何言ってるの? ちょっと!」

 身体が揺すられるのは分かったけれど、意識は奈落に吸い込まれるように途絶えて、次第に何も聞こえなくなった。

 







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