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気づいたら神社ごと異世界に飛ばされていた件
12話目
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ザパァーーン
「ぐふぇっ」
一度は水に飲まれたものの、元の水量は多くない為すぐに打ち上げられるようにして陸に放り出されて変な声が漏れた。
慌てて周囲を見渡すと、ボスコは隣で仰向けに寝そべって放心状態になっていて、メルは湖の中で四つん這いのまま呆然としている。
やはり水量は多くはないようで、まだ寄せては返すように水の流れが止まらない為に軽く翻弄されているもののひっくり返ったりはしなさそうだ。
二人とも怪我はしていなさそうで良かった。
「キョウスケ!」
「うわっはい! ごめんなさい!」
ザバァンと水を振り払うように立ち上がるメルの迫力に思わず謝ってしまったが、彼女の姿を正面から見て息を呑んだ。
濡れてしたたる赤い髪から雫が頬を滑って顎へ、そして鎖骨へと流れてゆく。髪と同じ色の丸い瞳も宝石のようにきらめいて吸い込まれそうだ。言葉を探すようにわななく唇も、少し覗く歯も舌も全てに意識が持っていかれそうになる。
惚けている間にもメルはザバザバと水を蹴散らしながら接近していて、その眉間にはシワが寄り、鋭く目尻を釣り上げ、唇は噛み締められている。
明らかに怒気を露わにされているのに何をされてもいいとさえ思ってしまった。
その右手がふりかぶられて頬を強かに打ち据えられた今でも。
「なんで窓から飛び降りたりしたんだ!? 私が何かしたのか?わけがわからないんだけど!」
「……ごめん」
メルさん胸ぐら掴んでグラグラされると吐きそうになるのでそれはさすがにやめてほしいのですが……。
メルからしてみれば、村に招待したらいきなり気絶して、部屋に運んで朝食食べさせたら、直後に窓から飛び降り自殺されたような状態だ。
うん、わけわからんよね。俺でもわけわからないもの。
「ごめん、あの窓の外が崖だなんて思わなかったんだ」
村の外からみた様子だと高くても二階建ての建物しかなかったし、校舎の二階からなら何度か飛び降りているので問題ないと思ったのだ。
なぜそんなことをしていたのかって?
人の多いところを避けて移動してたらそこからしか帰れなくなっただけだ。
よくよく思い出すと校舎には一階と二階の間に非常扉の屋根があるので出来た芸当だった。さすがに何もない二階から飛び降りたら足が骨折してたかもしれない。あの時は色々焦りすぎて周りが見えてなさ過ぎた。反省しかない。
「でも、メルこそあんなところから飛び降りるなんて危ないなんてもんじゃないと思うけど…」
「だって死んだかと思ってたから。生きてるってわかっていてもたってもいられなくなったんだよ」
「苦しいです…ごめんなさい…許して下さい」
苦言を呈すと、さらに力を込めて締め上げられて思わずタップする。メルってなにげに力持ちだなぁ、俺結構筋肉あって重い筈なんだけど。なんて明後日な思考がぐらんぐらんしている頭を流れていく。
「くぉら京介! いつまでじゃれどんねん。俺の寝床めちゃくちゃにしおってからに! どないしてくれんねん」
今度はボスコが飛びついてきた。
本当はメルと同じようにしたかったようだけど、手が短くて空振りしたので体当たりになっていた。ありがたいことに爪は立てないでいてくれた。
かわいいなんて言ったらひっかかれそうだと思いながら、短い手で指し示されたボスコの寝床を確認すると、ひどい有様になっていた。
布団代わりの落ち葉は散らばってしまっているし、保存食入れという名の花壇は土が流れ出て中身が顔を出してウニョウニョしている。うへぇ。
「ごめん後で落ち葉集めて返すから! 昨日言ってた頼みごとも何でも言ってくれていいから! 食事集めだけはちょっと難しいんだけど…」
何でもと言いながら条件をつけるのは人の性というものだと思いたい。ミミズを素手で探すのはきつい。
「おう! その言葉忘れんな…なんや!何するんや!」
鼻がくっつくほど近かったボスコの顔が遠ざかっていったと思ったらメルが両脇に手を入れて抱き上げていた。
もがいて暴れるボスコをひっくり返して対面すると、顔をまじまじ見ている。
「はなせ! はなさんがこのアマぁ」
「かわいい! 何この子京介が飼うの?」
「降ろせや、その無駄にでかい目ん玉に足蹴り食らわすぞこのこの!」
「こらこら暴れないの。お腹すいてるのかな何か食べさせるものあるかなぁ」
二人の話が全く噛み合っていない。メルの機嫌が良くなったのは助かったが…。
もしかして言葉が通じていないのか?
昨日も何故言葉が通じたのかと不思議に思っていたが、分かったことは、俺とメル、俺とボスコは会話が通じるけど、メルとボスコは通じないということだ。
クラヴィスといい。こちらにきてから不思議なことが多い。地上に出られたら自分に何が出来るのかを確認しておかないといけない。風のクラヴィスが使えるかも確認しないと。
そういえば本殿には収納が沢山あるが、元の世界に居た頃は触っても目立たない場所に毛布をつっこんだことしかなかった。全部開けてみれば使えるものが何かあるかもしれない。
食料があれば良いがそこまでは期待できないと思う。だってご神体を掲げている本殿に生活用品を入れるなんて罰当たりなことは普通しない。でも、何か使えるものがあれば助かる。
「聞いてる京助!?」
「聞いとるんか京助!」
「うわっはい!……あれ?」
思案にくれていて全く聞こえていなかった。慌てて立ち上がろうとしたが、出来なかった。
身体に力が入らないのだ。たしかに昨日から何も食べていない為、空腹だし体力も限界だったのはあるが、そういうのとは少し違う。
視界がぼやけて、ボスコやメルの慌てた顔がじんわりとにじんでいく。声すら遠のいていく気がする。
「身体が……うごか……ない」
これは、やばいかもしれない。
「ぐふぇっ」
一度は水に飲まれたものの、元の水量は多くない為すぐに打ち上げられるようにして陸に放り出されて変な声が漏れた。
慌てて周囲を見渡すと、ボスコは隣で仰向けに寝そべって放心状態になっていて、メルは湖の中で四つん這いのまま呆然としている。
やはり水量は多くはないようで、まだ寄せては返すように水の流れが止まらない為に軽く翻弄されているもののひっくり返ったりはしなさそうだ。
二人とも怪我はしていなさそうで良かった。
「キョウスケ!」
「うわっはい! ごめんなさい!」
ザバァンと水を振り払うように立ち上がるメルの迫力に思わず謝ってしまったが、彼女の姿を正面から見て息を呑んだ。
濡れてしたたる赤い髪から雫が頬を滑って顎へ、そして鎖骨へと流れてゆく。髪と同じ色の丸い瞳も宝石のようにきらめいて吸い込まれそうだ。言葉を探すようにわななく唇も、少し覗く歯も舌も全てに意識が持っていかれそうになる。
惚けている間にもメルはザバザバと水を蹴散らしながら接近していて、その眉間にはシワが寄り、鋭く目尻を釣り上げ、唇は噛み締められている。
明らかに怒気を露わにされているのに何をされてもいいとさえ思ってしまった。
その右手がふりかぶられて頬を強かに打ち据えられた今でも。
「なんで窓から飛び降りたりしたんだ!? 私が何かしたのか?わけがわからないんだけど!」
「……ごめん」
メルさん胸ぐら掴んでグラグラされると吐きそうになるのでそれはさすがにやめてほしいのですが……。
メルからしてみれば、村に招待したらいきなり気絶して、部屋に運んで朝食食べさせたら、直後に窓から飛び降り自殺されたような状態だ。
うん、わけわからんよね。俺でもわけわからないもの。
「ごめん、あの窓の外が崖だなんて思わなかったんだ」
村の外からみた様子だと高くても二階建ての建物しかなかったし、校舎の二階からなら何度か飛び降りているので問題ないと思ったのだ。
なぜそんなことをしていたのかって?
人の多いところを避けて移動してたらそこからしか帰れなくなっただけだ。
よくよく思い出すと校舎には一階と二階の間に非常扉の屋根があるので出来た芸当だった。さすがに何もない二階から飛び降りたら足が骨折してたかもしれない。あの時は色々焦りすぎて周りが見えてなさ過ぎた。反省しかない。
「でも、メルこそあんなところから飛び降りるなんて危ないなんてもんじゃないと思うけど…」
「だって死んだかと思ってたから。生きてるってわかっていてもたってもいられなくなったんだよ」
「苦しいです…ごめんなさい…許して下さい」
苦言を呈すと、さらに力を込めて締め上げられて思わずタップする。メルってなにげに力持ちだなぁ、俺結構筋肉あって重い筈なんだけど。なんて明後日な思考がぐらんぐらんしている頭を流れていく。
「くぉら京介! いつまでじゃれどんねん。俺の寝床めちゃくちゃにしおってからに! どないしてくれんねん」
今度はボスコが飛びついてきた。
本当はメルと同じようにしたかったようだけど、手が短くて空振りしたので体当たりになっていた。ありがたいことに爪は立てないでいてくれた。
かわいいなんて言ったらひっかかれそうだと思いながら、短い手で指し示されたボスコの寝床を確認すると、ひどい有様になっていた。
布団代わりの落ち葉は散らばってしまっているし、保存食入れという名の花壇は土が流れ出て中身が顔を出してウニョウニョしている。うへぇ。
「ごめん後で落ち葉集めて返すから! 昨日言ってた頼みごとも何でも言ってくれていいから! 食事集めだけはちょっと難しいんだけど…」
何でもと言いながら条件をつけるのは人の性というものだと思いたい。ミミズを素手で探すのはきつい。
「おう! その言葉忘れんな…なんや!何するんや!」
鼻がくっつくほど近かったボスコの顔が遠ざかっていったと思ったらメルが両脇に手を入れて抱き上げていた。
もがいて暴れるボスコをひっくり返して対面すると、顔をまじまじ見ている。
「はなせ! はなさんがこのアマぁ」
「かわいい! 何この子京介が飼うの?」
「降ろせや、その無駄にでかい目ん玉に足蹴り食らわすぞこのこの!」
「こらこら暴れないの。お腹すいてるのかな何か食べさせるものあるかなぁ」
二人の話が全く噛み合っていない。メルの機嫌が良くなったのは助かったが…。
もしかして言葉が通じていないのか?
昨日も何故言葉が通じたのかと不思議に思っていたが、分かったことは、俺とメル、俺とボスコは会話が通じるけど、メルとボスコは通じないということだ。
クラヴィスといい。こちらにきてから不思議なことが多い。地上に出られたら自分に何が出来るのかを確認しておかないといけない。風のクラヴィスが使えるかも確認しないと。
そういえば本殿には収納が沢山あるが、元の世界に居た頃は触っても目立たない場所に毛布をつっこんだことしかなかった。全部開けてみれば使えるものが何かあるかもしれない。
食料があれば良いがそこまでは期待できないと思う。だってご神体を掲げている本殿に生活用品を入れるなんて罰当たりなことは普通しない。でも、何か使えるものがあれば助かる。
「聞いてる京助!?」
「聞いとるんか京助!」
「うわっはい!……あれ?」
思案にくれていて全く聞こえていなかった。慌てて立ち上がろうとしたが、出来なかった。
身体に力が入らないのだ。たしかに昨日から何も食べていない為、空腹だし体力も限界だったのはあるが、そういうのとは少し違う。
視界がぼやけて、ボスコやメルの慌てた顔がじんわりとにじんでいく。声すら遠のいていく気がする。
「身体が……うごか……ない」
これは、やばいかもしれない。
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