爆走娘のダンジョン探訪記

桜咲 京華

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1章 異世界転生してすぐ爆走!?

10 ルーシェさんとお風呂  

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 ルーシェさんの先導で宿の二階の一番奥の浴室へと連れて来られた。浴室は一つだが鍵は必要な時に借りて、上がったら返しに行く方式なので他人とブッキングしないようになっているらしい。
 脱衣所で服を脱いで、中へ入ると、タイル張りの小さな浴室に、二人程度なら入れそうな少し大きめな石組みの浴槽に洗い場がついていた。
 絶対私みたいな元日本人の転生者が関わっていると思う。設備こそ良くわからないものが使われているけど、大凡の形はどう考えても少し古い日本のお風呂だ。もう少し広ければ銭湯と思える位の。
 洗い場が一人分しか無いので、予備でおいてある椅子に座って、ルーシェさんが身体を洗うのを設備の使い方を教えて貰いながら待つ。
 水栓のところの水の魔石を押すと水が出て。火の魔石を押すとお湯になるという構造だった。
 どちらも押した回数で強弱を調整できるし、魔石の上のスイッチのようなパネルを押すとオフにできるという魔力調整がヘタな人でも安心の設計だとか。大助かりだ。
 固定式だがシャワーもついている。私でも戸惑うことなく使えそうだ。
 身体を洗うのは瓶に入っている「ポージェ」という謎の液体エックス。良くわからない薬草の汁のようなものだけど、それを全身に使うらしい。最後の最後で良くわからないファンタジーを発揮されてしまった。
 身体が清潔になるし、髪もサラサラになるらしいが……。
 身体を洗っている女の人をジロジロ見るのも悪いので、彼女が使い終わったポージェの瓶の蓋を取って匂いを嗅いでみると、薬草というより、爽やかな香水のような匂いがした。

「もういいわよ。先湯船に入ってるわね」
「ありがとう」

 ルーシェさんと場所を変わって、シャワーから出ているお湯をそのまま使わせて貰う。昨日はお風呂に入れなかったし、朝も沢山走って汗をかいたので物凄くさっぱりする。
 ポージェを使ってみると、石鹸のように泡立たないのでちょっと変な感じだが、キチンと洗えてるのだろうと信じて、全身に馴染ませてから洗い流す。

 身体を洗い終わったらルーシェさんの隣に腰を下ろすと、程よい湯加減に、ぉおお……。と変な声が出た。文字通り生き返る心地だ。
  
「それにしても、さっきのマーサの顔傑作だったわぁ」
「そりゃそうですよ、いきなり男のフリしてる私と一緒に入るなんて伝えたら誰だってああなると思う」

 先ほど鍵を借りにマーサさんに声を掛けた時のひと悶着をクスクスと思い出し笑いしているルーシェさん。じつは彼女はルーシェさんの妹さんだったらしい。なんとも言えない顔で「うちはそういう宿じゃないから控えて欲しい」なんて言われた時は目が点になったものである。
 
 結局私が女である事をばらす事になったが、しばらくここで暮らすならいつかはバレる事なのでそれは問題ではないのだが、確信犯なルーシェさんは物凄く楽しそうだ。

「でも、私は女の子だって言われて納得したけどね、男の子だったら褒め言葉にならないから言わなかったけど、瞳が大きくて可愛いんだもの。髪だって短くしてるのが勿体無いくらい綺麗だし、お肌だってすべすべ。ここだってこれから育ってくるでしょうし、いずれは隠しきれなくなるわよぉ」
「わっどこ触ってるんですか!!」

 突然後ろから胸を触ってくるルーシェさんに慌てて抵抗するが、すぐに離れてくれたのでうぅーと軽く唸りながら距離を取る。
 ルーシェさんは笑顔でホールドアップポーズだ。揺れる双丘が美しい。じゃない、羨ましい……でもない。なんと言えばいいのかわからないが思わず見てしまう。

「私はそこまでは大きくならないと思いますよ」

 なりたいとも思ってないけど、走るのに邪魔そうだし。でも背は伸びて欲しい。せめて子供と間違えられなくなる位に。

「分からないわよ。今はそうでも、好きな人とか出来たら女は変わるんだから!」
「……それは実体験ですか? ルーシェさんは恋をしてそんな風な身体になったんですか?」
「えっ私?」

 ニヤニヤとからかいモードのルーシェさんを睨みながら何とか反撃を試みると、彼女は虚を突かれた顔をした。恋をしただけで私のような貧相な身体がルーシェさんのようなボンキュッボンになるならそれはもう魔法ではないかと思うのだけどどうなのか。

「……いつのまにかこうなっていたわね」
「ほらやっぱり」

 思い当たるような恋はしていないのだろう、眼を逸らされた。
 

 
      ◇  ◇  ◇  ◇


 

「はぁ……」

 ようやく一人になり、自分に割り当てられた部屋のベッドに腰掛けると、自然と溜息が漏れた。
 階下の食堂はまだ営業しているので、まだざわざわとした声や物音が響いてくるが、距離が離れている為か、さほど気にならない。

「うぉーなんだありゃ」

 何気なく窓から空を眺めていたら思わず変な声が出た。星のような無数の小さな光が空を覆う程大量に流れて行ったのだ。
 これが地球ならUFOの襲来だと疑う異常事態だと思うが、町往く人にあの光景を気にしている人は見当たらない。
 やはりここは異世界なのだなと再確認させられた気分だった。
 ゆるいズボンをたくし上げて足を確認してみるが、以前あった傷跡が跡形もなく消えている。

「夢……じゃ、無いんだよね」

 足が治ったのは嬉しいけれど、家族と離れ離れになったのは辛い。
 チャリっと鳴った冒険者タグを取り出してみる。やはり何が書いてあるのか分からない。知らない文字、知らない世界。一人ぼっちだ。
 いきなり魔物を殺して、生きていけなんて酷いよ。
 でも、スキルのお陰で生きていけそうなのだから感謝すべきなのかもしれない。
 少し涙が出そうだ。
 神様というものが目の前に現れたら、少し位文句を言っても許されるのではないだろうか。
 









 

 
 ……きなさい。

 …………何? まだ眠い……

 ……起きなさい!

 …………?

「起きなさいってば!!」
「ほえぁ!?」

 脳を揺さぶられるような大声にがばっと身を起こして周囲を見回すと、先程までいた宿の部屋ではなく、真っ白な空間にポツリと座っていた。

「まったく、何を呑気に寝てるのヨ! いつまで経ってもダンジョンに行こうとしないんだからモウ」
「だんじょん? 何の話……!?」

 まだ眠気でぼんやりしつつ何もない真っ白な空間を見るのをやめて声の主の方を確認すると、腰までの金色の髪が波打つゴージャスな雰囲気の男の人が立っていた。服装こそギリシャ神話なんかに出てくるようなゆったりとシーツを巻いたような服だが、男らしくがっしりと引き締まっているのが分かる。
 でも、あのオネエのような口調は一体……。

「何がシーツよ、誰がオネエヨ! ちゃぁんと名前だって教えておいたでしょうガ」
「……どちらさま?」

 声に出していない筈の言葉を拾われたことよりも思い当たる節の無い詰問に首を捻る。
 こんなインパクトしか無い人に会ったら忘れるはずが無いのに。

「あー駄目ネ、さすがに死んでから転生するまでの間の記憶は残らないかぁ。でも何度も同じ説明するのも面倒ネェ」

 何やらオネェさんは一人で頷きつつ納得している。言葉から察するに地球で私が死んだ後私をここに転生させたのはこの人である可能性が高そうだ。
 しかも何かしらの約束があったものと思われる。

「とりあえず、単刀直入に言うワ! 貴方、このままじゃ死ぬわヨ!」
「へ?」

 
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