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しおりを挟むルキナスには非日常のスパイスがある。
たとえ一夜の夢であるとわかっていても、この圧倒的な豪華さと熱気に人々は惹きつけられる。
しかもアオイはタキシードの下に例の下着をつけていた。
良い大人の自分がスレイブたちが身に着けるようないやらしい下着をつけて、何食わぬ顔で古巣のハイ・クラブを訪れている。それはかつての美少年でなくなってしまった今だからこそ、いっそうふしだらな感じがした。
(この男は俺がそんな下着をつけていると知ったら、どんな顔をするだろう。ルキナスのクラブで働くくらいだから、よくあることだと大目に見るだろうか。それじゃ、あそこにいるゲストたちは? いやらしいと言って、顔を顰めるだろうか)
上質のタキシードに身を包み、そういう自分を隠しているのは気分が良かった。だが、アオイは知っていた。どんなに贅を尽くし、上流階級の社交場の雰囲気を醸しだしていても、ここは要するに売春をするためのクラブだ。
紳士も淑女も部屋にあがれば卑しい本性をむき出しにする。
あの男たちも、女も、ベッドでは肉欲に溺れる豚だ。
かれはスレイブであった頃、そんなふうにゲストたちを思っていたことを思い出した。
「かしこまりました。他にご要望は?」
黒いスーツの男はアオイをサロンに案内しながら、訊ねてきた。
アオイは男がさりげなくアオイの様子をチェックしていることに気が付いていた。金を十分に持っている相手かどうか見極めようとしてるのである。一見の客の場合、それによって案内される席が変わる。
アオイはチップを渡した。その額に男の顔色が変わり、いっそうにこやかになった。
「一人で来たけど、それは今夜の相手を探すためだ。賑やかなほうが楽しめるから、他のゲストとの相席を頼みたい。後で誰か指名すると思うけどな。場合によっては相席のゲストと部屋にあがっても良い」
「ではそのように手配しましょう。当クラブは初めてですか。初めてでしたら、ルールを説明いたしますが」
「何度か来てる。ここ数年は来てなかったけど――ルキナス自体には何度も」
「それは失礼いたしました」男は奥にいる店の男に目配せして、頷いた。
「お席にご案内いたします。その前に相席の交渉をしてまいりますので、あちらのスペースでお待ち下さい。今宵は当クラブのトリプルエークラスのスレイブもサロンに下りてきております。夜のほうは売約済ですが、数分であれば話すことができます」
「トリプルエーが」
アオイは興味を持った素振りで言った。
クラブの男娼たちは明確なランク付けをされていて、トリプルエークラスはスレイブのトップだ。
ランクはスレイブたちのプライドであり、全てだった。客側からすればランクの高いスレイブを買ったほうが、仲間内の自慢になる。だがあまり高ランクのスレイブは高額になりすぎて、後で困ることになる。
アオイは考えるふうに黙った。
トリプルエークラスのスレイブはハイ・クラブの看板だ。たった数分、酒の席に呼ぶだけでも、信じられないほどの金がかかる。もっともこの遊びにかかった費用はセラが全て払うので、アオイは金の心配はしてなかった。それにクラブ側がトリプルエーを紹介したということは、それなりの上客として認められたということだった。
(面白い。セラと競わせてやろう)
こんな茶番を計画したセラに反省させてやろうという気持ちが働いた。
(いくらあいつでも現役のトリプルエーに勝てるわけがない。俺がセラより若くてセクシーなスレイブを誘惑してるところに、自信満々のあいつが登場してきたらどうなる。あいつに恥をかかせてやる)
勿論、かれはセラを愛していたし、最後はセラを選ぶつもりだった。だが、ここまで言いなりになったのだから、少しくらい仕返しをしても良いだろうと思った。
「親切に有難う。じゃあ、せっかくだからトリプルエーを指名するよ。ルキナス旅行の土産話になるだろう」
アオイはわくわくする気持ちを抑えながら言った。
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