特別な記念日に花束を贈るよ(華KAGEROU外伝 特別SS)

天瀬由美子

文字の大きさ
5 / 18

(3)-----2

しおりを挟む


 ルキナスには非日常のスパイスがある。

 たとえ一夜の夢であるとわかっていても、この圧倒的な豪華さと熱気に人々は惹きつけられる。

 しかもアオイはタキシードの下に例の下着をつけていた。

 良い大人の自分がスレイブたちが身に着けるようないやらしい下着をつけて、何食わぬ顔で古巣のハイ・クラブを訪れている。それはかつての美少年でなくなってしまった今だからこそ、いっそうふしだらな感じがした。

(この男は俺がそんな下着をつけていると知ったら、どんな顔をするだろう。ルキナスのクラブで働くくらいだから、よくあることだと大目に見るだろうか。それじゃ、あそこにいるゲストたちは? いやらしいと言って、顔を顰めるだろうか)

 上質のタキシードに身を包み、そういう自分を隠しているのは気分が良かった。だが、アオイは知っていた。どんなに贅を尽くし、上流階級の社交場の雰囲気を醸しだしていても、ここは要するに売春をするためのクラブだ。

 紳士も淑女も部屋にあがれば卑しい本性をむき出しにする。

 あの男たちも、女も、ベッドでは肉欲に溺れる豚だ。

 かれはスレイブであった頃、そんなふうにゲストたちを思っていたことを思い出した。

「かしこまりました。他にご要望は?」

 黒いスーツの男はアオイをサロンに案内しながら、訊ねてきた。

 アオイは男がさりげなくアオイの様子をチェックしていることに気が付いていた。金を十分に持っている相手かどうか見極めようとしてるのである。一見の客の場合、それによって案内される席が変わる。

 アオイはチップを渡した。その額に男の顔色が変わり、いっそうにこやかになった。

「一人で来たけど、それは今夜の相手を探すためだ。賑やかなほうが楽しめるから、他のゲストとの相席を頼みたい。後で誰か指名すると思うけどな。場合によっては相席のゲストと部屋にあがっても良い」

「ではそのように手配しましょう。当クラブは初めてですか。初めてでしたら、ルールを説明いたしますが」

「何度か来てる。ここ数年は来てなかったけど――ルキナス自体には何度も」

「それは失礼いたしました」男は奥にいる店の男に目配せして、頷いた。

「お席にご案内いたします。その前に相席の交渉をしてまいりますので、あちらのスペースでお待ち下さい。今宵は当クラブのトリプルエークラスのスレイブもサロンに下りてきております。夜のほうは売約済ですが、数分であれば話すことができます」

「トリプルエーが」

 アオイは興味を持った素振りで言った。

 クラブの男娼たちは明確なランク付けをされていて、トリプルエークラスはスレイブのトップだ。

 ランクはスレイブたちのプライドであり、全てだった。客側からすればランクの高いスレイブを買ったほうが、仲間内の自慢になる。だがあまり高ランクのスレイブは高額になりすぎて、後で困ることになる。

 アオイは考えるふうに黙った。

 トリプルエークラスのスレイブはハイ・クラブの看板だ。たった数分、酒の席に呼ぶだけでも、信じられないほどの金がかかる。もっともこの遊びにかかった費用はセラが全て払うので、アオイは金の心配はしてなかった。それにクラブ側がトリプルエーを紹介したということは、それなりの上客として認められたということだった。

(面白い。セラと競わせてやろう)

 こんな茶番を計画したセラに反省させてやろうという気持ちが働いた。

(いくらあいつでも現役のトリプルエーに勝てるわけがない。俺がセラより若くてセクシーなスレイブを誘惑してるところに、自信満々のあいつが登場してきたらどうなる。あいつに恥をかかせてやる)

 勿論、かれはセラを愛していたし、最後はセラを選ぶつもりだった。だが、ここまで言いなりになったのだから、少しくらい仕返しをしても良いだろうと思った。

「親切に有難う。じゃあ、せっかくだからトリプルエーを指名するよ。ルキナス旅行の土産話になるだろう」

 アオイはわくわくする気持ちを抑えながら言った。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

青龍将軍の新婚生活

蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。 武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。 そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。 「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」 幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。 中華風政略結婚ラブコメ。 ※他のサイトにも投稿しています。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

何度でも君と

星川過世
BL
同窓会で再会した初恋の人。雰囲気の変わった彼は当時は興味を示さなかった俺に絡んできて......。 あの頃が忘れられない二人の物語。 完結保証。他サイト様にも掲載。

処理中です...