魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記

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訓練役に立たず

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 それから、俺はローレンス・デリンとしてふるまうための訓練を受けてきた。

 執事のトマスだけでなく、領地を切り盛りしている夫人も時々俺の教育に手を貸してくれた。

「ほらほら、みて頂戴」
 俺の肉体上の母親は嬉しそうにたくさんのローレンスの映像を魔道具で見せてくれた。

 ローレンスは小柄な少年だった。背の低い俺から見ても小柄……だと思う。
 こげ茶色の髪の毛も茶色の瞳も、ちらっと見には驚くほど俺に似ていた。

 ただ、彼は俺よりもずっと華奢で色白だった。透き通るような、ちょっと触れただけで壊れそうな雰囲気が漂っている。俗にいう箱入り息子というやつなのだろう。
 こんなにかわいかったら、そりゃ、親も必死になって探すだろう。

 俺は優雅に窓辺に座るローレンスの絵を見せられて小さなため息をついた。絵の中のローレンスは淡く笑っていた。ちょっとはにかむような笑顔が忘れられない印象を残す。
 野山を駆け回って過ごしてきた俺とは似ても似つかない雰囲気だ。

「これは、……さすがに無理があるのでは」
 鏡の中の俺は仏頂面をしている。

「大丈夫よ。任せておいて」
 生物学上の母親はふんわりとほほ笑む。
「何のために化粧というものがあると思っているの? それにね、便利なものがあるのよ」

 俺はその時初めて化粧用の魔道具というものがあることを知った。大きな造作は変えられないけれど、少し肌の色を白く見せたり体を細く見せたりするのに役に立つという装身具だ。
 こんなものがあると知ったら、故郷の姉妹たちが取り合いをするだろう。

 そして、化粧と魔道具の相乗効果は偉大だった。

 鏡の中で、少し色白でほっそりした俺が不安そうに見つめ返してきた。
 田舎者のランドルフが帝国の高位貴族令息に早変わりしていた。

「どう? こうすると、本当にそっくり。まるであの子がここにいるみたい」
 デリン婦人は目の端をぬぐう。

「これ、つけてないと効果がないんですよね?」

 俺は耳につけた赤い繊細なイヤリングを確認する。どう見ても女物だ。男の俺がつけていて、変だと思われないだろうか。

「実をいうと、この魔道具はあの子が使っていたものなの。今の学校での流行は色白でどことなく物憂げな男の子なんですって」

 そうなんですか、ええ……

 俺の通っていた学校とは世界が違う。その時初めてそう感じた。

 そして、それは、外見だけではなく勉強の中身も、だった。

「え? 格闘術がない? 剣術も?」

 俺は学校の時間割を見て心底驚いた。語学、修辞学、音楽……それに魔法、魔法、魔法……俺の学校でメインだった体を使った授業がない。

「もちろん、本来はあります。でも、お坊ちゃまは前年、不本意な成績を……」
 俺の指導係になった執事がごにょごにょと言葉を濁した。

「とにかく、卒業するのに必要な最低限の教養を優先した結果、今年度はこういう授業の割り振りになりました」

「……今年も単位を落としてもいいですか」

 魔法、魔道学、魔法論理基礎、精霊魔法基礎……いやというほど魔のついた時間割を見て俺はうめいた。

「……できれば、最低の成績でもいいので合格してほしいところです」

「無理です」
 俺はきっぱりと言い切った。

 学問としての魔法は俺にとって未知の世界だ。実学としての魔法剣や精霊剣は多少かじっていたけれど、魔法理論は門外漢。魔法は帝国の得意とする分野で、使う人を選ぶ、そのくらいの知識しかない。

「……今はいいでしょう。他に優先することがありますから」

 執事は勉強に関してはあきらめてくれた。
 その代わり、帝国貴族としての立ち居振る舞いをみっちりとしごかれた。

 幸いにも俺の住む北部王国と南の帝国は多少の違いはあっても言葉は同じだ。俺だって王国で戦士として育った。少なくともボロが出ない程度には礼儀作法を合わせることはできた、と思う。でも……

「極力、しゃべらないようにしてください」
 魔道帝国の首都に向かう馬車の中で執事は最後に念押しをした。
「もともと、坊ちゃまは無口な方でした。なにか、いわれたら、こう、微笑んで……」

「こうですか?」
 俺が笑って見せると執事は首を振った。

「ですから、歯を見せて笑うなと……とにかく、北の訛りは早く消してください。……ほら、そういう罵り言葉は帝国では使いません。最初はとにかく口をつぐんで。何かあったら、わかりませんと、覚えていません。これです」
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