魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記

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試験

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 ようやく長期の休みが始まろうとしていた。これで、うまくいけばこの学校をおさらばできる。毎日背後を気にしながら廊下を歩いたり、人気のない通路をこそこそと移動したり、そんな努力をしなくてもよくなるのだ。

 俺は休みを心待ちにしていた。ただ、その前に乗り越えなければいけない試練が待っていた。
 試験だ。

「リーフ先生、頼みがある」
 俺はカリカリと勉強をしているリーフの数少ない休憩時間を狙って話しかけた。
「この、素晴らしい先生特性のノート、小さくできないだろうか」

 俺はリーフのノートを差し出した。
「できれば、こう、袖口に入れられるくらい小さくできないかな? 魔道具で」

「……それは不正行為じゃないですか? 普通のカンニングですよ」

「無理か? 無理なのか?」

「駄目です。そういう不正がばれたら、全科目0点です」
 きっぱりと否定された。

「じゃぁ、空中に言葉が浮かぶとか、そういう装置は……」

「ないです。あっても作りませんよ」

 そこへ、兄貴が焼き串を片手に現れた。

「リーフ。我が兄弟よ。差し入れを持ってきたぞ。食べてくれ」

「邪魔になるから、後ろの机にでも置いておいてください」
 リーフは兄貴を邪険に扱う。

「なぁ、弟。実は頼みがあるのだ」
 兄貴は懐からノートを取り出す。
「このノート、もう少し小さくならないものか。こう、折りたたんで持ち運びができる大きさに……」

 リーフはため息をついた。

「あなたたち、兄弟ときたら……まじめに勉強してください。正当なやり方で」

「兄弟……そんなことをいわれても」
 兄貴はしょんぼりと頭を垂れた。

「がんばりましょう。兄貴、何か方法はあるはずです」
 俺は励ました。

「そうだな。あらかじめ机に答えを彫っておくのはどうだろう。暗号で」

「それなら、この筆記用具に細かい文字で書いておいたほうが楽かもしれません」

 リーフが勉強道具をもって立ち上がった。

「そんなことを考えるくらいなら、魔法陣の一つでも覚えてください」

 そういって、個室に移動してばたりと扉をしめた。
 あとに残された俺たちは顔を見合わせる。
 年下の少年に説教されてしまった。格好が悪い。

 しかたなく、俺はイーサンの隣の席に座って教科書を開く。この学校に来たころよりはましだと思うのだ。あの頃はひっくり返して読んでも同じくらい内容がわからなかったからな。今ではわからないところが分かるまでになったぞ。

 試験ということで、俺の周りは静かだった。
 一時期、俺と第一王子が呪われているという噂が流れかけたことがあったくらいだ。そんな噂を神殿が許すことはなく、あっという間に立ち消えた。少なくとも表面上は。

「休みが始まってからが問題だな。この作戦を続けるかどうかの判断に迫られると思うぞ」
 兄貴がまじめな顔をした。
「生徒ではなく、その親共が騒ぎ始めるだろうからな」

 どんなに神殿が抑えても、貴族や王室は動くだろう。彼らにとって守護獣の代替わりよりも誰が王になるかのほうが重要だからな。
 俺たちにとってはその前に試験が重要なんだけどね。


 そして、試験が始まった。

 試験期間中のことは思い出したくない。ずっと椅子に座って、よそ見もできないなんて新手の拷問かと思った。隣とおしゃべりもできないなんて。

 それでも、俺はすれすれ合格の点を取った。この点を取っただけで、デリン家の依頼はほとんど終わったも同然だろう。みんなで勉強会をした甲斐があった。
 リーフはもちろん学年で首位に近い成績を取り、イーサンもいい成績だった。
 兄貴は……様々な不正行為で成績がつかなくなった。もともと留学生だから正規の成績ではないのだけれど、それでも記録に残る限り最悪の成績らしい。

「一つの不正行為で全科目ゼロ点なのに、どうしてこんなに不正行為を重ねたのですか」
 リーフ先生は嘆いた。

「いやな、どうせ点がないのなら、どこまで通用するものか、試してみたくなったのだ」
 兄貴は頭を掻いた。

「それで、どのやり方がうまくいきましたか?」
 自分の身を犠牲にしてまで、検証を重ねるなんて。俺は後々のために聞いておこうと意気込む。

「だから、そんなことをするよりはまじめに勉強したほうが早いですよ……それに、なんで不正行為をしてもこの点数なんですか?せめて優くらいはとってくださいよ」
 リーフは怒っている。兄貴や俺にいろいろと教えてくれていたからな。リーフ先生は。

 久しぶりに訪れた秘密の図書館は静かで、穏やかな日が差し込んでいる。

「猫ちゃん?」
 俺は白い猫を探した。あの毛並みをなでるだけで、試験でたまった疲れを癒してくれそうな気がする。

「ラーク、何を探してるんだ?」
 しかし、先にこの部屋に来たものがいた。本屋のローレンスだ。俺が机の下を覗き込んでいるのを不思議そうに見ている。

「お、本屋。試験はどうだった?」

「ぼちぼちだな。来期も奨学金がもらえそうだ。君は?」

「去年よりはましだな」
 底辺だったからな。あの成績以下なのは兄貴くらいだ。

 そんな会話を交わしながらも、探してみたが猫はいない。あのふわふわな毛を触れなくて、俺はがっかりする。

「机の下に何がいるのか?」

「猫だよ。猫。ここに住み着いている」

「猫? そんなものいたか?」

「それはそうと、本屋。何しに来たんだ?試験、終わっただろ」

「ああ。ちょっと気になることがあって」
 本屋は棚から古い本を引っ張り出した。

「前に神殿の儀式について話していただろ? 守護獣を呼びだす例の儀式の」
 あれ? そんなこと言ったかな。

「あー、その儀式は秘密ということになっているんだが? 俺、秘密を漏らしてしまったかな」

「リーフから聞いた。普通の精霊の呼び出し方とは違うって。それで調べていたんだ」

「試験中に? すごいな」この熱量、真似ができない。

「さすがに試験の間は調べていない。……ただ面白い資料を見つけていて」

 彼は本を広げた。

「何の本だ?」

「歴史の、王位継承のときの神殿側の記録だな」

 立派な本だった。極彩色の挿絵があちこちに描かれて、字も飾り文字になっている。地図もあったが、俺の知る帝国の範囲とは違っていた。

「何年位前の?」

「およそ、200年前だ。帝国の中興の祖フェリクスの代替わりの記録だね」
 中興の祖とやらがあのくそ王子と同じ名前だとは。いや、エライ人だったからあいつにその名前を付けたのか。

「どうやら、この代変わりも守護獣の交代とともに行われたらしい」
 俺は文字を追ってみた。くねくねした飾り文字で何と書いてあるのかさっぱりだ。

「王……はいわれ。これ……地? ぬけにへ?」

「王は言われた。これより後、血の生贄をささげることを禁じる。不必要な血は、我が王国の呪いとなり、我らを子々孫々まで苦しめるであろう」

「なんだ? それは?」

「この王の代替わりのときに内乱があったんだ。かなりひどい争いで、だからそういう言い方をしたのかと思っていた……」
 本屋は挿絵を示す。血を流した人が積み重なっている不気味な挿絵だ。

「まぁ、おかしくないな」

「ただ、この文章が入っている場所がおかしい。これは守護獣を得た直後の祝いの場での台詞なんだよ」

「? おかしくないだろう? どこが問題なんだ?」

「いや、おかしいだろう。祝いの席にこんな話なんて。普通呪いとか血といった単語は祝いの席に出さないだろう」

 ……北では普通に使うけどな。価値観の違いかな?

「呼び出しに血を使ったという話なのか? 帝国では黒魔法と呼ばれる部類になるんだろ」
 北ではいまだに血と魔法陣で呼び出しをするというのは言わないでおこう。

「今はね。黒魔法と呼んでいる。この当時はそういう使い方をしていた。古い魔法の形だから」

「国を挙げて黒魔法を行っていたと、そういうのか?」

「黒魔法ではなくて、古魔法」律儀に本屋は訂正した。「とにかく調べてみたら、内乱が起こる時期は守護獣の代替わりと被っていることが多い」

「守護獣の選択で王が決まるんだろ。王と宣告される前に対抗者を殺しておくんじゃないの?」

「……そうなのか?」

「あ……秘密だった?呪われる?」
 これは話してはいけない儀式の内容だったか? 俺は口を閉じたが遅かった。

「呪われることはないと思うぞ。みんな、知っているからな。ただ平民にはどちらが王になっても変わりないから、気にもしていないだけだ」

 リーフも似たようなことをいっていたな。しかし、儀式と内乱がいつも同じ時期だとか、物騒だ。

「神殿の結界については、もっと調べておくよ」本屋は約束してくれた。
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