イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-

流右京

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第1章

第11話「浄化装置」

――4人は、大きな広い部屋へとやってきた。

そこは白一色に統一され、壁も床も天井も、まるで世界そのものがその色に包み込まれているかのような、純粋で無垢な空間が広がっている。

そして部屋の中央には、壮大な装置が静かに設置されていた。

「うぉおっ! 何だあれ! でっかくてキラキラしてんぞ!」

その装置は巨大なガラス玉のような形状で、無数のケーブルに繋がれていた。

ケーブルは床や壁から伸びており、玉の中には微細な光の粒が漂う様は、まるで空に輝く星のようだ。

「ここには、死んだ地上人の魂たちが運ばれてきます。そして、あの中央にある装置で浄化されるのです」

「……浄化?」

「死んだ魂は、色んな感情に満ちてるの。そのままだと次の体に転生した際の人格形成に支障が出ちゃうから、ここで綺麗にお洗濯するわけ」

そう言うとグリオールはガラス玉の中央を指差して続ける。

「ほらライガちゃん。あれ見て? 人間みたいな形のエネルギー体がいくつか浮かんでるでしょ?」

「お! ほんとだ」

装置の中には、グリオールの指摘通り大小様々な人の形をした光があった。

しかし、装置が光るとすぐに形は崩れ、光の粒子へと変わっていく。

「あれ……? 形が無くなったぞ」

「今は浄化の真っ最中なんですよ。死んだばかりの地上人の魂は意識という“殻”に守られていますからね。ああして、浄化装置で無垢な魂を抽出しているのです」

「んん~? よくわっかんねぇな」

と、説明を受けてもライガは理解できていないらしい。

「ううむ……困りましたね。僕らにとっては日常的な光景なので、うまく言葉に出来ない」

二人の様子に見かねたのか、レオンが口を挟む。

「ライガ。さっきお前から卵の匂いがしたんだが、何か食べたのか?」

「んぁ? そういえば、朝にオムレツ作ったぞ!」

「そうか、じゃあ卵を割ったんだよな?」

「うん、殻を割って……あ、そうか!」

そこまで口に出すと、ライガは何か納得した表情になった。

「魂も卵と同じってことだよな? 殻を割って中身を出してるのか!」

「え、ええ! そう、そうです。つまりこの装置は魂の殻と中身を分離しているんですよ」

「ふ~ん? で、その際に流れ出た“キラキラ”が、つまり“魂力”ってことか」

感心するライガを見て、ノクスはレオンにそっと耳打ちする。

「フォローありがとうございます、レオン君。なるほど、ライガの経験則に基づいて例えれば理解させやすいのですね」

「……いえ。お役に立てて何よりです」

ノクスはレオンにニコッと笑顔を見せると、すぐにライガの元に駆け寄った。

その時、ふとグリオールが鋭い目を向けているのが視界の端に映る。視線の先はレオンだ。

「申し訳ありません、グリオール様。出過ぎた真似でした」

レオンがこうべを垂れる。表情までは読み取れなかったが、グリオールの眼差しはやや冷たく見えた。

「あ~ら、別に気にしてないわよぉ? それにしても、ライガちゃんの扱い方よく分かってるじゃなぁ~い」

その言葉に、レオンの肩がわずかに動く。
ノクスには、触れられたくない話題に反応したように見えた。

「クスッ♪ ああ、そうだったわねぇ~? だってあの子は、アンタの大事な……」

そこまで言いかけた時、ライガの大声が響いてくる。

「なぁ、おい! このキラキラってどうなるんだ? なぁってば!」

どうやら興味津々のようで、目を輝かせながら必死にノクスの服を引っ張って質問してくる。

「ああもうっ! 引っ張らないでください!」

「自分の知らないこと知るのって、こんなに楽しいんだな! 俺、もっと色んなこと知りたい!」

今までの粗暴な印象のせいか、ライガが勉強嫌いな性格だとばかり思い込んでいたノクスにとって、知らなかった事を知れたという喜びを体中で表現するライガの姿は驚きだった。

(ライガにこんな一面があったなんて……。さっきの説明も自分なりに噛み砕いて理解していたし、実は地頭が良いのかも……?)

ゴホンと軽く咳払いすると、説明を続けた。

「ちなみに、ここで抽出された魂力は天人達に分配されます。もちろん、様々な働きに応じた対価としてね」

「……対価?」

「ライガ。君は受肉人形なんですから、主人から魂力を貰わないとそのうち動けなくなるんですよ?」

「え、そうなのか?」

「ほっほっほ! それどころか、召喚者が死ねば自動的に被召喚者である守護者も消滅してしまうんですよ~?」

と、突然後ろからしゃがれた男性の声が聞こえてきた。

「な、何だお前……?」

「ジルミス……様。おられたのですか」

ノクス達の後ろに、いつのまにか白いローブを着た初老の男性が立っていた。

その老人は終始ニコニコしながら話を続ける。

「ほうほう? もしかしてその子が召喚された子ですか。何だか個性的な子ですねぇ」

「あ、ははは……。すみません……」

「おや、もしかして嫌味だと思ってます? いえいえ可愛いじゃないですか、男の子らしくて。ほっほっほ! これはつまり、品質の良い媒介の人形を作れたということですね。結構結構♪」

「……はぁ? どういう意味だ?」

ライガはジッと目の前の老体を睨みつける。

「こ、こらっ! ライガ! 失礼ですよ?」

「ほほう! ライガ君と言うのですか。自己紹介が遅れましたね? 私はジルミス。ここで人形達の管理をしています」

「ふぅん……? じゃあアンタが人形作ってんのか?」

「ええ、その通り。君がいま受肉している“媒介人形”、そして“リンク人形”はね。私たちの部署で管理してるんですよ? もしかしなくても窓際部署ですがね? ほっほっほ!」

「……窓際部署??」

「媒介人形は、元は異世界人を呼んでその知識や技術を教えてもらうだけの用途に過ぎなかった。私たちの文化に異世界人の技術や文化が混ざっているのはその為です。しかし、例の予言と異形の出現で戦力として召喚することを提案してからは大忙しですよ。ほっほっほ!」

「ちょーっと、そろそろ良いかしらぁ~?」

話が止まらないジルミスに見かねて、グリオールが割って入った。

「アタシ達、これから大聖女様に報告があるの! ジルミスさん、何か用でもあるのかしら?」

「いえいえ、ちょっとした雑談ですよ。私もこれから召喚の儀を執り行うので。ああほら、例の【ステータスオープン】? いま流行ってるでしょ? 実は私も取り入れることにしたんです」

「あっそ? じゃあ、そろそろお暇しようかしら~」

「おや、そういえばグリオール政務補佐官殿、日課の浄化装置のチェックは宜しいので?」

ジルミスの問いかけに、グリオールの眉がピクリと動いた。

「毎日、それはそれは熱心に地上から送られてくる魂を入念にチェックされていたじゃありませんか」

「ええ、そうね。でももう良いわ。何だか、飽きちゃったしぃ~」

「おやおや、“アタシ、浄化装置の監視がしたくて、この仕事選んだの”と仰っていたのに。よほどお暇なんですねぇ? ほっほっほ!」

「そ。アタシ自由人なの。で? 他に用件は?」

「ああ! これは失礼。もしかして私、緊張してるのかもしれませんね。それでつい誰かに話をして緊張をほぐしたくなっているのかも。そうそう! 聞きました? 間違えて“馬”を召喚してしまった挙句、蹴られて病院送りになった方もいたそうですよ。ほっほっ!」

さすがに見かねたノクスは、あいだに割って入る。

「最初は誰だって緊張するものですよ。では、私たちはこれで。素質ある守護者が召喚されることを祈っています」

そして、ライガの背中を軽く押すと「行きましょう」とグリオール達にも促した。

「また今度、ゆっくりお茶でもしましょうねぇ。ほっほっほ!」

ジルミスは4人を見送りながらニコニコと笑っていた。

「何なんだ? あのやけにニヤニヤしてたジジイ。つか、普通に嫌味ったらしかったな」

「あの方はジルミス・ハーディ様。僕の今の役職の前任者で、現在は人形管理課に異動になっています。その、話し出すと止まらないというか……」

「……? 前任者ぁ?」

「あのジイさん。元は政務官でノクスの上司だったのよ。コネで就いたはいいものの、会議すっぽかすわ、必要書類は提出し忘れるわ、各所からクレームの嵐だったしねぇ。ま、結果として異動になったのも仕方ないってわけ」

「グリオール、言い過ぎですよ? 日々の雑務に追われてうっかり、というのはよくあることです」

「うっかり? 当時補佐官だったアンタに自分の仕事丸投げで、お茶すすりながら賭け事ばっかりしてた気がするけどぉ?」

「う……っ」

「ま、アンタが優秀だったからこそ、今の地位に就いた。それだけのことよ。さぁさ、ちゃっちゃと報告して帰りましょ? アタシ、レオンの服買いたいのよ。とびっきりセクシーなやつ♡」

グリオールが意味ありげな目配せに、レオンは顔を真っ赤にしてうつむいた。

「兄ちゃん……アンタも大変だな」

ライガはレオンに同情的な眼差しを送っていた。
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