イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-

流右京

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第1章

第14話「サイドエピソード:屋敷へ」

ライガとレオンは、中央大聖堂から南にあるジルミスの屋敷へ向かって走っていた。

ふと肩越しに後ろを振り返ると、かすかな光がぴったり二人を追うように揺れ動いている。
小さな光点で、見落とせば消えてしまいそうなほどだ。

ノクスからそれが何かは聞いた。リンク人形の術の応用で、自分達が居る応接室に中継され、映像が送られているのだそうだ。

正直、説明を受けても理屈はさっぱりわからない。
だが今はそんなことを気にしている暇はなかった。

頭の中は、目の前のジルミスの屋敷へどう突っ込むかでいっぱいだった。

――その決意は、数刻前のやり取りから生まれたものだ。

◆◇◆◇

「だ~か~らっ!! あのジジイの守護者召喚を止めれば良いんだろ!? 俺が行ってやるって言ってんだ!」

ライガの怒声に、ノクスは眉をひそめ、同じ音量で返してくる。

「な・ん・で! ライガが行くことになってるんですか! 君は僕の守護者でしょうが!」

「けど、そのジジイの屋敷にも連絡つかないってリアナが言ってたじゃねーか!」

「ぶぶぶ……無礼者ぉおおおおっ!! 大・聖・女・様! と呼びなさい!」

「ノクスさん! お、落ち着いて……っ」

リアナが慌ててなだめに入る。
その隙に、グリオールがクチャクチャと何かを噛みながら、ライガに問いかけてきた。

「ライガちゃん、どぉしてそんなに行きたいのぉ~?」

口の中の音がやけに耳に付く。だが、その挑発めいた響きに、胸の奥から言葉が飛び出した。

「俺さ、ずっとムシャクシャしてて……。もう、限界なんだ」

その言葉に、グリオールが一瞬動きを止めたように見えた。
自分の中で抑えきれない苛立ちが、さらに膨れ上がる。

「あんなこととか……!」

頭に浮かぶのは、ノクスにされた数々のお仕置きの場面。

「あんなことまで……!」

尻を出して叩かれたこと、食べかけのカビパンを口に押し込まれ感謝を強要されたこと、広場で猫なで声を出して踊らされたこと……。

「他にも色々……!!」

胸の奥で、怒りと悔しさとがぐるぐると渦巻く。

「腹いせにあのジジイを一発ぶん殴って、ストレス発散してやるぁあああ~!!」

「ええええええぇぇぇええ~~!? ちょ、何言ってんですか! そんな理由で!?」

ノクスは驚きの声を上げ、その目を見開く。だが、それでもライガはそのまま言い続けた。

「だって主人ノクスには逆らえねぇってんなら仕方ねぇだろ? 一発殴ってスッキリしてぇんだよ!」


「……グリオール様、宜しいでしょうか」

二人のやり取りを聞いていたレオンは、何かを決意したような表情でグリオールの前にひざまづく。

「……なぁに? アンタも、行きたいっていう気?」

グリオールは不機嫌そうに、クチャクチャと口で何かを噛む音を鳴らしながらレオンに冷たい視線を送る。

「……はい。ライガのサポートをさせてください」

その言葉を聞くと、グリオールはわざとらしくその頭にドシッと足を置く。しかし、レオンに怯む様子は見られない。

「ねぇ~え? それって、アタシより大事なことぉ?」

「……いいえ、グリオール様は俺の全てです」

「クッチャクッチャ……。ふぅ~ん? それでもアタシの傍を離れるのは誰の為? ライガちゃん? ノクス? それとも大聖女様のため?」

グリオールはクチャクチャと何かを噛みながら、足のかかとをグリグリとレオンの頭に擦り付ける。

「……………」

しかしレオンはその真剣な表情を崩さず、頭に置かれたグリオールの足を掴んだ。

そのまま自分の唇の位置まで持っていき、その靴先にキスをするとまっすぐグリオールを見つめる。

「……もちろん、全てグリオール様の為です」

「……ふぅ~ん?」

グリオールはしばらくレオンに冷たい視線を送っていたが、パッといつもの笑顔に戻る。

「……まぁ良いわ。転移ゲートが使えないんじゃ道案内が必要だし、先輩として、ライガちゃんのこと最後まで面倒見てあげて?」

すると、グリオールは強引にレオンを口元に引き寄せる。

「クッチャクッチャ……そろそろ、噛むのも飽きてきたわ。アンタ、これ飲んでくれる?」

グリオールの口内には明らかに何かが入っているように頬が膨らんでいるのが見えた。

「……了解」

レオンはそう言うと、口をパクッと大きく開けた。

グリオールはそれを確認すると、クチュクチュと口の中の塊を舌に乗せ、口移しでレオンの口内へ一気に押し込む。

「んぐ……っ!?? ん……っ!!」

グリオールの大きな口から移ってきたその塊は飲むにはかなり大きいらしい。

ごくりと喉が鳴る音がこちらまで聞こえる。

「……ぷはっ! はぁ……っ」

そして、グリオールはレオンの口から垂れたよだれをベロりと舐める。

「んふっ♪ アンタのよだれ……美味しいわねぇ~? もっと舐めたいわぁ♪ レオンの色んなところをペロペロしちゃいたい。クスッ♪」

「……ありがとうございます。グリオール様」

「……レオン。せいぜい私を楽しませて頂戴ねぇ?」

その場の空気が異様な熱を帯び、ライガは言葉を失っていた。

(……やっぱ、あの二人、ヤベぇ)

◆◇◆◇

こうしてレオンの随行が決まり、今に至る。

――林の中を走り抜けながら、レオンは後ろを走るライガに声を掛けた。

「ライガ、ジルミス様の屋敷までは俺が案内する。ついてきてくれ」

「ああ、分かった!」

後から付いていくライガだったが、明らかにレオンの息は上がっていた。

「お、おいレオン兄ちゃん! 大丈夫か?」

「問題、ない。はぁ……、はぁ……っ。空間が乱れている以上、転移ゲートは使えないからな。直接行くしか手段がない」

しかし、程なくレオンは力つきたのか近くにあった木に手をついて足を止めた。

「はぁ……、はぁ……っ」

全身が汗でびっしょりと濡れ、もはや肩で息をしていた。ライガは心配になり思わず声を掛けた。

「お、おい……っ。まだそんなに走ってないのに、すげぇ汗……」

その時、ライガの脳裏にグリオールが自身の傷を治すためにレオンの魂力を吸い出している光景がよぎった。

「もしかして、あの時か……?」

「察しが……良いな。そうだ、受肉人形は……その魂力量によって体力が上がったり、力を得たりできる。逆に言えば、魂力が足りなければこうしてすぐにエネルギー切れを起こしてしまうんだ」

ライガは、浄化の部屋でノクスが「主人から魂力を貰わないと動けなくなる」と言っていた意味を理解した。

「じゃあ、レオン兄ちゃんは魂力をもらう為にいつもあんな仕打ちに耐えてるのか……。ひでぇな……」

「……いや、良いんだ。俺はただ、あの方を愛しているから」

思わず同情の意志を示すライガだったが、レオンの言葉に「えっ?」と聞き返す。

「俺は、あの方を愛している。けれど、あの方の興味は俺の肉体からだだけなんだ」

ポタポタと大量の汗を流しながらも、レオンは前に進んでいく。

「……そんなこと、分かっている。けれど、それでも……。いつか!」

「レオン兄ちゃん……」

ライガは、どれだけグリオールに酷い仕打ちをされても揺るがない忠誠心を見せるレオンが少し格好良く見えた。

「……なぁ。せめて今からでもグリオールに魂力をもらえないのか? 俺は、ノクスから魂力もらえてるぞ?」

「確かにリンク人形を通せば、主人からの魂力の供給は可能だ。だが今は空間が不安定で、下手に新規接続するとさっきのように異形が居る空間に繋がる危険が高いんだ」

「……そういえば、リアナも同じこと言ってたっけ」

「ああ。大聖女様が、すぐに関係各所に転移ゲートを含む接続術式を用いた施設の封鎖や、天人達に術の使用を禁止するよう通達を出したのはその為だ」

(つまり俺は、空間が不安定になる前からリンク人形と接続してたからセーフってことか)

思い返すと、広場で散々やらされた恥ずかしい人形劇。あれもリンク人形を通して魂力を注いでいた。
まさか、あの屈辱的なやり取りがこんな形で生きてくるなんて、少し不満だ。

「じゃあ、あのジジイにもその通達ってのが伝わってるんじゃ……」

「いや、実は一ヶ所だけ例外がある。それは…………」
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