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第1章
第16話「サイドエピソード:魂玉(こんぎょく)」
「うあぁあああ……っ!! ……!?」
ライガは勢いよく巨人に向かって駆け出したものの、すぐになぜか地面に貼り付いたように動けなくなった。
≪ライガ……? どうしたんですか!?≫
心配するノクスの声。
膝がガクガクと震え、足裏から全身へと冷たいものが這い上がってくる。
それは今まで感じたことのない、言いようのないものだった。
「なんだよ、これ……!? ……動け……! 動けよっ!!」
必死に叫んでも、足は言うことをきかない。
「……それは、“恐怖”というんだ」
すぐ後ろでレオンの声がした。
「に、兄ちゃん……っ、俺……でも……っ!」
情けなさと悔しさが同時にこみ上げ、気づけば視界が滲んでいた。
「……ライガ、もういい。お前は良くやった」
頭の上に温かい手が置かれる。レオンが落ち着いた目で見下ろしていた。
「……あんな相手に恐怖を感じるのは、正常な反応だ。それでも、立ち向かっていこうとした姿勢は評価に値する。後は任せろ」
「……兄ちゃん……」
その背中が離れていく。レオンは両足に付けたホルスターから二本のナイフを抜き、目の前で交差させるように構えた。
巨人がこちらを見下ろし、影を落とすと、その圧に思わず喉が鳴った。
勝てるはずがない――そう思った瞬間、レオンは静かに歩き出していた。
深く息を吸い、巨人を鋭く睨み据える。
何十倍もある巨体。誰が見ても勝ち目はない。けれどレオンは臆する様子を見せず、一歩ずつ大地を踏みしめた。
≪いけない! ライガ、レオン君を止めなさい! どう考えても危険です!≫
背後の球体からノクスの声が響く。耳元に直接差し込まれたような切迫感に、思わず肩が跳ねた。
「と、止めろって言われても……っ」
すぐにグリオールの間延びした声が割り込んできた。
≪大丈夫よぉ。確かにレオンの得意武器は勇者が使ってるような剣だけど、あの子の戦闘センスだったら十分いけるわ≫
≪武器の問題ではありません! 一人であの巨人に挑むなんて――≫
「お前ら、うるせぇっ! 耳元で騒ぐなよ!」
そう言い放った直後だった。
巨人の拳が、空気を裂き鉄塊のような質量で迫っていく光景が目に飛び込んでくる。
レオンは咄嗟に身を翻すが、衝撃波が大気を揺らす。
鈍い音と共にレオンの体が吹き飛ばされ、背中から地面に叩きつけられた。
「がはっ……!」
起き上がろうとした彼の影を、巨人の巨腕が覆う。
振り下ろされる一撃を転がるようにかわすも、その呼吸は既に荒い。
「オオオオオオォォォ……!!!!!!」
空気を震わせる咆哮。耳を塞いでも、低くうねる音が頭蓋の奥に響く。地面がビリビリと震え、胸まで振動が伝わった。
「……っ!」
レオンの手も震えている。大量の汗、焦りと苦痛がにじんでいるような表情だ。
「……まだだ……俺は……っ!」
歯を食いしばり立ち上がるが、動きは重い。魂力が尽きかけているのか、足元がふらついている。
「レオン兄ちゃ……っ!」
「……くるなっ!!」
制止の声が鋭く突き刺さる。息は荒れ、額から血が垂れても視線は巨人から外していなかった。
足を引きずりながら、ナイフを握り直し、構えている。
「……俺は、あんな戦いはしない。……すべて出し切る。俺はもう……お前とは違うんだ!」
(レオン兄ちゃん、誰に向かって話してるんだ……?)
その独り言に、聞き覚えのない熱がこもっていた。
≪レオン君はもう限界です! 下がらせましょう!≫
≪私も同意見です。あの様子だと、きっと魂力も枯渇寸前なのでは……≫
耳元でリアナとノクスの慌てた声が聞こえる。
だが、それを鼻で笑うように、グリオールが紅茶をすする音が混じった。
(何なんだよ……自分の守護者がこんなにボロボロなのに……)
不快感が募る中、突然――……。
――ズザァッ!!
レオンが巨人に吹き飛ばされ、すぐ近くの木に激突した。木が悲鳴を上げるように軋み、幹が裂ける。
「レオン兄ちゃん!」
駆け寄って支えた体は、驚くほど軽く感じた。力が抜けきっている。
≪あ~ら、ボロボロになってアタシ好みになってきたわねぇ?≫
グリオールの甘ったるい声に、レオンがフラつきながら立ち上がる。
「おい、やめろよ! 兄ちゃんはもう限界……!」
≪……ふふ、そろそろかしらねぇ~?≫
直後、レオンが天を仰ぎ、喉を裂くような声を上げた。
「~~~っ!? ぐあ……っ!?」
全身が不自然に痙攣している。
その変化に背筋がゾッとした。
≪ライガちゃんも、見えるでしょ? あの美しく鍛え上げられた肉体(からだ)。アレと初めて出会った時、ハートを撃ち抜いてあげたの。それ以来、あの子はアタシに夢中で、首ったけ。アタシを満足させる為に、何でもしてくれるお人形に変わったのよ≫
「な、なんだ……兄ちゃんどうしたんだ……?」
≪まーったく、消化するのに結構時間かかったわねぇ? ま、多めに練っといたから当然といえば当然だけど≫
≪え……? あの、どういうことです……? レオン君のあれは一体……≫
ノクスも同じ光景を見ているようだが、理解できていないといった口調だ。
直後、リアナの声が聞こえてくる。
≪そういえば、先ほどレオン君に口から何か飲ませてましたよね? あれはまさか……魂玉(こんぎょく)ですか?≫
「こんぎょく……? なんだよそれ」
初めて聞く言葉だ。
≪確か、魂力を固めておく技術ですよね? エネルギーの自然分散を抑えて、長期保存しておけるという……≫
≪え、ええ。例えて言うなら水が蒸発しないように氷にして固めるようなものです。ですが、それは本来大掛かりな装置が必要なはず……≫
≪ええ~? そうなの? やっだぁ~、アタシてっきり誰でも出来るもんだと思ってたぁ~♪≫
わざと大げさに驚くグリオールの声が聞こえる。
「んな……っ! 何で装置無しでそんなの出来るんだよ! 何者なんだよお前!」
≪何者って、そんなの決まってるでしょ? アタシはレオンのご主人さ・ま♪≫
レオンの体が熱を帯び、呼吸が荒くなる。握る刃もわずかに震え、目は異様な光を宿していた。
「はぁー……ふぅー……はぁあああ…………っ!!!」
レオンは全身を震えさせながら呼吸していた。
すると、球体からグリオールの声が響く。
≪どぉ~お? レオン。アタシの魂力は気持ち良いでしょう?≫
――ビクンッ!!! レオンの体が無意識に反応する。
≪今どんな気持ちかしら? 興奮する? 心臓が爆発しそう? 全身の血が沸騰して、理性の糸が切れそうなんでしょ?≫
「グ……リオ……ル……さま……」
≪そうよぉ? アタシはアンタの中に居るの。アタシの魂力が全身を駆け巡って、体が隅々まで支配されていってるの≫
レオンはどんどん呼吸が荒くなっていく。
≪分かるでしょう? 感じるでしょう? いまアンタの全身が、細胞一つ一つがアタシに夢中なのよぉ≫
「ワ……カル……カン……ジル……!」
レオンは、先ほどとは比べ物にならない程、グリオールの言葉に体中をビクビクと弾ませて反応していた。
≪体中が熱いでしょ? 熱くて熱くてたまらないんでしょ? イキたいでしょう? レオン≫
「アツイ……! イキ……タイ……ッ!!!!」
≪良いわよぉ~? イカせてあげる。絶頂しちゃいなさい。アンタのイキ狂った姿で、アタシをキュンとさせて?≫
次の瞬間、レオンが地を蹴った。
地面が爆ぜるような音と共に土煙が弾け飛び、その奥から野獣の咆哮が響く。
「…………うがぁぁあああああっ!!!! グルアァァァァァアッ!!」
雄たけびを上げるレオン。その刃は巨人の足に深々と食い込み、巨人の膝が折れる音が響く。
倒れ込む巨体を前に、レオンは立ち上がりざまに咆哮を上げた。
「はやっ……!」
ライガの目にも残像しか映らない。
巨人の腕が薙ぎ払うように振り抜かれるが、その寸前でレオンの姿はふっと消え、次の瞬間には肩に刃を突き立てていた。
「ギィァアアアア!!??」
空を引き裂くような巨人の悲鳴が響く。
だがレオンは止まらない。肩から首筋へ、首筋から顎下へ――刃が踊るたび、黒い肉片が次々と空中に霧となって散った。
「うぅぅぅおおおおおっ!! ォオオオオオオ!!!」
その声と共に、レオンは巨人の顔を蹴って頭と駆け上がっていく。
それは信じられない速さで次の瞬間には巨人の遥か上空に達している人影が見えた。
「ガルルぁああぁああぁぁぁ~~~っっ!!!!!!」
レオンは凄まじい叫びと共に体を高速回転しながら巨人の脳天目掛けて突進する。
――――ズドォオオオオオンッッ!!!!!
渾身の力で、ナイフが巨人の頭部へ突き刺さる。
「ギャァァァアアアアア……!!!」
と、地の底から響くような悲鳴。
その一撃に、黒い巨体がまるで勢いよくお辞儀するかのように頭から地面に叩きつけられ、物凄い量の土煙が辺り一面に舞い上がっていく。
(な、なんだ……? レオン兄ちゃん、さっきとは別人みたいだ……っ)
――ズバッ! ザシュッ! ……鈍い音が煙の中から絶えず聞こえてくる。
やがて、巨人の最後の断末魔が周囲に轟くと、その声は段々と小さくなっていった。
ヒュォオオ…………。
静寂に包まれた戦場。風と共に土煙が消えていく。
既に息絶えたと思しき巨人の頭上に、男の影が見えてきた。
それは立ったまま放心し、微動だにしないレオンの姿。
「……。はー…………はー……」
レオンは一瞬空を見上げると、小さな声で言葉を呟く。
「グリオー……ル…………さ……ま……。あい……シ……テ……ル……」
――――ドサッ!
レオンはまるで全てを出し切ったかのようにゆっくりと倒れた。
「……レオン兄ちゃん!!!」
ライガはその圧倒的な戦闘にしばし呆然としていたが、レオンが倒れるのを確認するとすぐに駆け寄っていった。
「…………」
(か、完全に気絶してる……。すっげぇ、こんなデケェのをたった一人で……)
巨人はピクリとも動かず、完全に沈黙していた。
「レオン兄ちゃん……カッケェエエエエ~!!!!」
ライガは尊敬した様子の眼差しできらきらと目を輝かせ、思わず声を漏らした。
ライガは勢いよく巨人に向かって駆け出したものの、すぐになぜか地面に貼り付いたように動けなくなった。
≪ライガ……? どうしたんですか!?≫
心配するノクスの声。
膝がガクガクと震え、足裏から全身へと冷たいものが這い上がってくる。
それは今まで感じたことのない、言いようのないものだった。
「なんだよ、これ……!? ……動け……! 動けよっ!!」
必死に叫んでも、足は言うことをきかない。
「……それは、“恐怖”というんだ」
すぐ後ろでレオンの声がした。
「に、兄ちゃん……っ、俺……でも……っ!」
情けなさと悔しさが同時にこみ上げ、気づけば視界が滲んでいた。
「……ライガ、もういい。お前は良くやった」
頭の上に温かい手が置かれる。レオンが落ち着いた目で見下ろしていた。
「……あんな相手に恐怖を感じるのは、正常な反応だ。それでも、立ち向かっていこうとした姿勢は評価に値する。後は任せろ」
「……兄ちゃん……」
その背中が離れていく。レオンは両足に付けたホルスターから二本のナイフを抜き、目の前で交差させるように構えた。
巨人がこちらを見下ろし、影を落とすと、その圧に思わず喉が鳴った。
勝てるはずがない――そう思った瞬間、レオンは静かに歩き出していた。
深く息を吸い、巨人を鋭く睨み据える。
何十倍もある巨体。誰が見ても勝ち目はない。けれどレオンは臆する様子を見せず、一歩ずつ大地を踏みしめた。
≪いけない! ライガ、レオン君を止めなさい! どう考えても危険です!≫
背後の球体からノクスの声が響く。耳元に直接差し込まれたような切迫感に、思わず肩が跳ねた。
「と、止めろって言われても……っ」
すぐにグリオールの間延びした声が割り込んできた。
≪大丈夫よぉ。確かにレオンの得意武器は勇者が使ってるような剣だけど、あの子の戦闘センスだったら十分いけるわ≫
≪武器の問題ではありません! 一人であの巨人に挑むなんて――≫
「お前ら、うるせぇっ! 耳元で騒ぐなよ!」
そう言い放った直後だった。
巨人の拳が、空気を裂き鉄塊のような質量で迫っていく光景が目に飛び込んでくる。
レオンは咄嗟に身を翻すが、衝撃波が大気を揺らす。
鈍い音と共にレオンの体が吹き飛ばされ、背中から地面に叩きつけられた。
「がはっ……!」
起き上がろうとした彼の影を、巨人の巨腕が覆う。
振り下ろされる一撃を転がるようにかわすも、その呼吸は既に荒い。
「オオオオオオォォォ……!!!!!!」
空気を震わせる咆哮。耳を塞いでも、低くうねる音が頭蓋の奥に響く。地面がビリビリと震え、胸まで振動が伝わった。
「……っ!」
レオンの手も震えている。大量の汗、焦りと苦痛がにじんでいるような表情だ。
「……まだだ……俺は……っ!」
歯を食いしばり立ち上がるが、動きは重い。魂力が尽きかけているのか、足元がふらついている。
「レオン兄ちゃ……っ!」
「……くるなっ!!」
制止の声が鋭く突き刺さる。息は荒れ、額から血が垂れても視線は巨人から外していなかった。
足を引きずりながら、ナイフを握り直し、構えている。
「……俺は、あんな戦いはしない。……すべて出し切る。俺はもう……お前とは違うんだ!」
(レオン兄ちゃん、誰に向かって話してるんだ……?)
その独り言に、聞き覚えのない熱がこもっていた。
≪レオン君はもう限界です! 下がらせましょう!≫
≪私も同意見です。あの様子だと、きっと魂力も枯渇寸前なのでは……≫
耳元でリアナとノクスの慌てた声が聞こえる。
だが、それを鼻で笑うように、グリオールが紅茶をすする音が混じった。
(何なんだよ……自分の守護者がこんなにボロボロなのに……)
不快感が募る中、突然――……。
――ズザァッ!!
レオンが巨人に吹き飛ばされ、すぐ近くの木に激突した。木が悲鳴を上げるように軋み、幹が裂ける。
「レオン兄ちゃん!」
駆け寄って支えた体は、驚くほど軽く感じた。力が抜けきっている。
≪あ~ら、ボロボロになってアタシ好みになってきたわねぇ?≫
グリオールの甘ったるい声に、レオンがフラつきながら立ち上がる。
「おい、やめろよ! 兄ちゃんはもう限界……!」
≪……ふふ、そろそろかしらねぇ~?≫
直後、レオンが天を仰ぎ、喉を裂くような声を上げた。
「~~~っ!? ぐあ……っ!?」
全身が不自然に痙攣している。
その変化に背筋がゾッとした。
≪ライガちゃんも、見えるでしょ? あの美しく鍛え上げられた肉体(からだ)。アレと初めて出会った時、ハートを撃ち抜いてあげたの。それ以来、あの子はアタシに夢中で、首ったけ。アタシを満足させる為に、何でもしてくれるお人形に変わったのよ≫
「な、なんだ……兄ちゃんどうしたんだ……?」
≪まーったく、消化するのに結構時間かかったわねぇ? ま、多めに練っといたから当然といえば当然だけど≫
≪え……? あの、どういうことです……? レオン君のあれは一体……≫
ノクスも同じ光景を見ているようだが、理解できていないといった口調だ。
直後、リアナの声が聞こえてくる。
≪そういえば、先ほどレオン君に口から何か飲ませてましたよね? あれはまさか……魂玉(こんぎょく)ですか?≫
「こんぎょく……? なんだよそれ」
初めて聞く言葉だ。
≪確か、魂力を固めておく技術ですよね? エネルギーの自然分散を抑えて、長期保存しておけるという……≫
≪え、ええ。例えて言うなら水が蒸発しないように氷にして固めるようなものです。ですが、それは本来大掛かりな装置が必要なはず……≫
≪ええ~? そうなの? やっだぁ~、アタシてっきり誰でも出来るもんだと思ってたぁ~♪≫
わざと大げさに驚くグリオールの声が聞こえる。
「んな……っ! 何で装置無しでそんなの出来るんだよ! 何者なんだよお前!」
≪何者って、そんなの決まってるでしょ? アタシはレオンのご主人さ・ま♪≫
レオンの体が熱を帯び、呼吸が荒くなる。握る刃もわずかに震え、目は異様な光を宿していた。
「はぁー……ふぅー……はぁあああ…………っ!!!」
レオンは全身を震えさせながら呼吸していた。
すると、球体からグリオールの声が響く。
≪どぉ~お? レオン。アタシの魂力は気持ち良いでしょう?≫
――ビクンッ!!! レオンの体が無意識に反応する。
≪今どんな気持ちかしら? 興奮する? 心臓が爆発しそう? 全身の血が沸騰して、理性の糸が切れそうなんでしょ?≫
「グ……リオ……ル……さま……」
≪そうよぉ? アタシはアンタの中に居るの。アタシの魂力が全身を駆け巡って、体が隅々まで支配されていってるの≫
レオンはどんどん呼吸が荒くなっていく。
≪分かるでしょう? 感じるでしょう? いまアンタの全身が、細胞一つ一つがアタシに夢中なのよぉ≫
「ワ……カル……カン……ジル……!」
レオンは、先ほどとは比べ物にならない程、グリオールの言葉に体中をビクビクと弾ませて反応していた。
≪体中が熱いでしょ? 熱くて熱くてたまらないんでしょ? イキたいでしょう? レオン≫
「アツイ……! イキ……タイ……ッ!!!!」
≪良いわよぉ~? イカせてあげる。絶頂しちゃいなさい。アンタのイキ狂った姿で、アタシをキュンとさせて?≫
次の瞬間、レオンが地を蹴った。
地面が爆ぜるような音と共に土煙が弾け飛び、その奥から野獣の咆哮が響く。
「…………うがぁぁあああああっ!!!! グルアァァァァァアッ!!」
雄たけびを上げるレオン。その刃は巨人の足に深々と食い込み、巨人の膝が折れる音が響く。
倒れ込む巨体を前に、レオンは立ち上がりざまに咆哮を上げた。
「はやっ……!」
ライガの目にも残像しか映らない。
巨人の腕が薙ぎ払うように振り抜かれるが、その寸前でレオンの姿はふっと消え、次の瞬間には肩に刃を突き立てていた。
「ギィァアアアア!!??」
空を引き裂くような巨人の悲鳴が響く。
だがレオンは止まらない。肩から首筋へ、首筋から顎下へ――刃が踊るたび、黒い肉片が次々と空中に霧となって散った。
「うぅぅぅおおおおおっ!! ォオオオオオオ!!!」
その声と共に、レオンは巨人の顔を蹴って頭と駆け上がっていく。
それは信じられない速さで次の瞬間には巨人の遥か上空に達している人影が見えた。
「ガルルぁああぁああぁぁぁ~~~っっ!!!!!!」
レオンは凄まじい叫びと共に体を高速回転しながら巨人の脳天目掛けて突進する。
――――ズドォオオオオオンッッ!!!!!
渾身の力で、ナイフが巨人の頭部へ突き刺さる。
「ギャァァァアアアアア……!!!」
と、地の底から響くような悲鳴。
その一撃に、黒い巨体がまるで勢いよくお辞儀するかのように頭から地面に叩きつけられ、物凄い量の土煙が辺り一面に舞い上がっていく。
(な、なんだ……? レオン兄ちゃん、さっきとは別人みたいだ……っ)
――ズバッ! ザシュッ! ……鈍い音が煙の中から絶えず聞こえてくる。
やがて、巨人の最後の断末魔が周囲に轟くと、その声は段々と小さくなっていった。
ヒュォオオ…………。
静寂に包まれた戦場。風と共に土煙が消えていく。
既に息絶えたと思しき巨人の頭上に、男の影が見えてきた。
それは立ったまま放心し、微動だにしないレオンの姿。
「……。はー…………はー……」
レオンは一瞬空を見上げると、小さな声で言葉を呟く。
「グリオー……ル…………さ……ま……。あい……シ……テ……ル……」
――――ドサッ!
レオンはまるで全てを出し切ったかのようにゆっくりと倒れた。
「……レオン兄ちゃん!!!」
ライガはその圧倒的な戦闘にしばし呆然としていたが、レオンが倒れるのを確認するとすぐに駆け寄っていった。
「…………」
(か、完全に気絶してる……。すっげぇ、こんなデケェのをたった一人で……)
巨人はピクリとも動かず、完全に沈黙していた。
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