イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-

流右京

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第1章

第17話「最後のどんでん返し」

「ブラァァァア~ボォオ~ゥ!!!」

中央大聖堂の応接室にはグリオールの声と拍手が響いている。
リアナとノクスは、目の前で繰り広げられた一部始終に、呆然とした表情を浮かべながらその様子を見守っていた。

「す……すごい……っ!」

リアナが呟く。
視線の先には、グリオールが満足げに笑いながら、レオンを褒め称えている姿。その興奮ぶりは、はっきり言って異常だ。

「うっふふ♪ あー面白かった! 合格よぉ~レオン。アンタ、良いわぁ~♪ 今度、超超超セクシーな服買ってあげなくっちゃ♪」

「ええっと……。とにかく! レオン君の活躍で見事に異形を倒せましたね。良かった……」

ノクスは額の汗を拭うと椅子に座り直し、すでに冷めきった紅茶を一口すする。

「は、はい……。そうですね。はぁ……」

リアナも安心したように息を吐きながら、ゆっくりと腰を下ろした。
顔にも少し疲れが見えるが、安堵の表情だ。

「それにしてもジルミス係官には、本当に申し訳ないことをしました。私が気付くのがあと一歩早ければ、彼も命を落とすことも無かったのに……」

彼女は悔しそうに、じっと画面の先を見つめる。
その目の奥には深い反省の色が浮かんでいた。

「仕方ないわよぉ~! 大聖女様? たまたまイレギュラーな事態が重なった。それだけのことよ♪」

グリオールはまるで他人事のように軽く言い放つ。
その態度にノクスは内心で不快感を覚えたが、表には出さないようにしていた。

「ジルミス様、あんなに召喚成功して嬉しがってたのに……」

ノクスもまた顔をゆがめ、ジルミスのことを思い返していた。

「……それにしてもあのジイさん。巨人に真っ先に狙われたのは不運よねぇ? せめて守護者が攻撃されてたら体制を立て直せ……」

「…………」

「…………」

「……いや、どちらにしろ無理でしたね」

「……そうね、見るからにアホっぽかったし」

あの混乱を招いた青年の姿を思い返す。
自ら巨人を呼び出した挙句、主人が死んでもまるでゲーム感覚で終始ケラケラと笑いながら白煙とともに消えていった。

その話題はすぐに軽く流され、まるで何事もなかったかのように次の話題へと移っていく。

「ジルミス係官の墓標は責任を持って私が立てましょう。ただ、その前にあの巨人を何とかして処理しないといけませんが……」

リアナは画面に目をやるなり、目を見開いた。

「……? あの、ちょっと待ってください。あの巨人、何だかさっきより大きくなってませんか?」

「……大きく? 元々デカいのは変わらないでしょぉ?? まぁでも、レオン以上にアソコのデカい男は見たことないけどぉ」

「いえ、そうじゃなくて! 何というか、膨らんでる……みたいな……?」

「え……?」

スクリーンに映る巨人の亡骸は、確かにさっきより形態が変わっていた。
全身黒一色だったその巨人の至る所に、赤い文様のようなものが浮かび上がっている。

「あれは……何か、外がひび割れて隙間から中が見えている……という感じですね。しかもどんどん広がって、サイズも少しずつ大きくなっているような……?」

リアナに続いて、グリオールもジッと巨人を観察する。

「ふぅ~ん? 確かに“膨らんでる”って表現が適切ねぇ?」

「膨らんでる……?」

ノクスは、その言葉に聞き覚えがあった。


≪……なぁ! それってパンの話か?≫

突然、画面の向こうからライガが話かけてきた。

「え? ……な、なんです急に?」

≪確かにアイツ、なんか膨らんでるぞ! これって、ノクスのカビパンの袋みたいだ!≫

「カ、カビパン……???」

頭に?マークを浮かべているリアナ。
ノクスは慌てて訂正する。

「え、えーっとですね! つまり、事態が変わっているとライガは言いたいんです!!!」

「ねぇ~え? ライガちゃんの発言、言い得て妙じゃなぁい? それって、つまりかなりマズイってことかも」

≪そうだな! 確かにあのパンはかなり不味まずかったぞ! 腐ってたからな!!≫

「ライガ!! ちょっと黙りなさ……。ん?」

そこでノクスはある可能性に気づく。

「あ、あの! リアナ様。これはただの仮説ですが、もしあの異形が死後に発動する何かを仕掛けていたとしたら……っ」

「……あり得ますね。これだけの用意周到な準備をする相手です。自分が負けた時の想定をしていてもおかしくありません」

「つまり、最後っ屁ってやつねぇ~? で、それってどんな屁かしら?」

ノクスは顎に手を当て、考える。

「あの巨人がどんどん“膨らんでいる”のだとしたら、まず考えられる可能性は……」

「……爆発。ですね?」

リアナは険しい表情に変わる。
既に最悪の事態を想定しているようだ。

「ええ、しかもあれだけの巨体です。その被害は計り知れない。しかも膨らんでいるスピードを考えると、いつ爆発するかも分かりません。早く対応しないと!」

「そ、そうですね! その提案はもっともなんですけれど……」

リアナは頭を抱え、今度は膝までついた。

「うううぅぅ……っ! どう考えても、それだけの規模の大爆発を抑える妙案が浮かびません……」

「じゃああのっ、巨人が出てきた異空間の座標軸を突き止めて送り返すとか……!」

ノクスが思いついたという表情を見せるが、すかさずグリオールが口を挟んだ。

「それって、今から? この短時間で? 逆タンできるっていうのぉ~?」

「うう……どうしよう、どうすれば……っ!!???」

グリオールに現実を突きつけられ、頭を抱えるノクス。
その横でリアナはブツブツと独り言を言っている。

「氷の術で閉じ込め……いいえ、圧倒的に水分が足りない! 遥か上空に飛ばして……あんな重量を浮かせる人数がどこに? いっそ今すぐ爆発させ……そんなのダメ! そうだ、結界で閉じ込めるとか……でも、爆発のエネルギーをどこに逃がすの? ううぅぅ……っ!」

混乱する二人を前に、グリオールは終始落ち着いていた。

「これ、完全に詰んじゃったわねぇ~? まさか、最後の最後でこんな形でどんでん返しされるなんてねぇ~」

「グリオール!! 貴方どうしてそんなに落ち着いてるんですか! 見なさい、大聖女様を!」

「あぁ……お花畑……綺麗……ふふ、ふふふ……」

「……ほら! リアナ様なんてもう膝まで抱えて現実逃避始めてますよ!?」

「だぁってぇ~! そんな都合よくアイデア思いつかないんだも~ん! 短い人生だったわぁ~。もっとレオンに恥ずかしいことさせたり、際どい服着せたり、他にも色々させて遊びたかったぁ~!」

「いやぁあああ!!! 僕だってまだ死にたくないぃぃ!! 何でこう次から次へと都合の悪い展開になるのぉぉおおっ!!!」

≪……なぁ、おいっ! なぁってば!≫

と、スクリーン越しにライガが声をかけてくる。

≪さっきから、何をワーワーギャーギャー騒いでるんだ?≫

「あ、あのですねライガ!! こっちは真剣に……っ!」

≪だから、コイツもう腐ってんだろ? なら、ゴミ箱に捨てちまえば良いじゃん!≫

「え……?」

その言葉に、一同は唖然とした。

≪だーかーらっ! あそこに捨てちまえば良いだろうが! あ・そ・こ!!≫

そう言って、ライガが指さした先には――……。
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