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第2章
第26話「サイドエピソード:ライガとレオン」
レオンの手が、ゆっくりとライガの喉元に触れた。
「…………っ!?」
……と、その瞬間、レオンはハッと正気を取り戻し、頭を抱える。
「……オレ。オレ、ハ……??」
肉体からはすっかり寒気が引いていた。
レオンは正気に戻ったことに安堵し、ライガの髪を撫でる。
「……やっぱり、俺は……お前の前から居なくなったほうが……」
「~~ヘックシッ!!!!」
と、突然ライガが大きなくしゃみをして目を覚ます。
「……ふぁ~! んぁ?」
「…………」
「あ、おはよ~! レオンに兄ちゃ……、あ」
ライガは自分のくしゃみと鼻水でレオンの顔がびちゃびちゃになっているのを見て、驚愕する。
「うぁああっ!! ごごごゴメン!!! 兄ちゃん!!」
すぐに脱ぎ捨ててあった布を手に取ると、レオンの顔に押し当て、グリグリと擦り始めた。
「ごめんなっ? ごめんなっ? 俺、気持ちよくってつい……!!!」
「……っ、い、いや。問題な……うぶっ!! あの、ライ……ぅぐっ!」
ライガが力任せに擦るせいでレオンの顔がガクンガクンと上下に揺れる。
「……どうだ? 綺麗になったか?」
「あ、ああ。問題……ない」
レオンはやっとの思いでライガの顔面扱きから解放される。
「良かったぁ~! でも兄ちゃんの膝枕スッゲー気持ちよかったぞ!」
「……そうか。それは、良かっ……」
レオンはジーっとライガが先ほど顔を拭いた布を見つめている。
「なぁ、ライガ。お前が手に持ってる、それは……」
「え? ああ、俺の下着だけど? ほら、ウェディングドレス着させられた時に脱いだやつ」
「……えっと。つまり脱いだばかりの下着で、それで俺の顔を拭いた……のか」
「……おうっ!!!」
「そ、そうか。ありがとう」
ライガの全く悪気のない言葉に、レオンは感謝の言葉以外を伝えるのを諦めた。
「そういえば俺、寝てる間に変な夢見てたみたいだ」
「夢……? どんな感じの?」
「えっと、前にも見たことがあるんだけどさ、甲冑を着た兄ちゃんが出てくるんだ。それで、少し年下の兄ちゃんと二人で怪物の討伐に向かったんだけど――……」
◆◇◆◇
――その夢は、ただの夢というにはあまりに鮮明でリアルだった。
森の奥に住むという怪物退治に向かった二人、それぞれの強みを生かした連携ができていた。
しかし、怪物が放った自爆技によって状況は一変した。
「……おい! しっかりしろ!」
青年は、大やけどを負った少年に声を掛けていた。
辛うじて薬を飲み命を繋いでいるが、少年の下半身は無くなっている。彼の命の灯も残り僅かであることは明らかだった。
「あ、はは……。まさか、あんな技……使ってくるなんてな。しっぱい、しちまったなぁ……」
「もういい! 喋るな! いま手当てを……」
「いや、良い……。助からないって分かってる。今も薬の効果で、無理やり命を繋ぎとめてるだけだしな」
「~~~~~っ」
「お前……やっぱすげぇな? こんな大惨事でも無傷だもんな。あはは……っ」
青年は唇を嚙み切ると、滲んだ血を唾液に混ぜた。
「だったら、これで……」
――と、青年はおもむろに少年にキスをする。
直後、少年の体は淡く光るが、すぐに弱くなっていく。
「そんな……っ! これでもダメなのか……!?」
愕然とする青年に、少年はニッと笑った。
「ん……っ、はぁ……。おいおい、昨日……がっつりヤッたばかりだろ? ってか、いくらその力を使っても、ここまで負傷してたら効果ねぇよ」
「ごめん…っ! ごめん……! 俺が、もっと……注意していれば……っ」
「バーカ……! 足手まといは俺のほうだっての。こんなんじゃ、お前の恋人、失格だなぁ」
「そんな、こと……っ。頼む、死ぬな……! 俺を残していかないでくれ!」
そして、彼を包んでいた光が徐々に消えていく。
「ああ……もうそろそろ、薬の効果も……切れそうだな。そうだ、これ……俺の作った薬。お前にやるよ」
少年は、ポケットから自分が作った合成薬を青年に渡した。
「……ごめんな? お前をまた…一人に……しちま……」
そして、そのまま少年は息を引き取った。
「……どうして、俺だけがいつも生き残るんだ?」
青年は、冷たくなっていく少年の体を抱きしめ、静かに涙を流した。
「……もう、許してくれ……! 誰か、誰でもいい、俺を許して……」
◆◇◆◇
―――語り終えたライガは、ふぅっと大きく息を吐く。
「それでな。その兄ちゃん、ずっと泣いてたんだ――」
「…………」
レオンは黙ったまま、ライガの“夢”の話に耳を傾けていた。
「なんか、あいつ、いつも悩んでたんだ。でも、相談できる相手が誰もいなくてさ」
「……なぁ、ライガ。本当は、俺はお前の……」
その瞬間、レオンの言葉は「ギュルルルゥゥゥ……」と、ライガの大きな腹の虫の音に搔き消される。
「ああ~腹減ってきた! あ、もうあの二人の“大事な話”って終わってるかな??」
「……こういう時は、頃合いを見て声をかけるんだ。主人を立てるのも俺たちの役目だからな」
「おうっ!!」
ライガがパッと明るく表情が変わったのを見て、レオンは溜息交じりに少し和らいだ表情に戻った。
「…………っ!?」
……と、その瞬間、レオンはハッと正気を取り戻し、頭を抱える。
「……オレ。オレ、ハ……??」
肉体からはすっかり寒気が引いていた。
レオンは正気に戻ったことに安堵し、ライガの髪を撫でる。
「……やっぱり、俺は……お前の前から居なくなったほうが……」
「~~ヘックシッ!!!!」
と、突然ライガが大きなくしゃみをして目を覚ます。
「……ふぁ~! んぁ?」
「…………」
「あ、おはよ~! レオンに兄ちゃ……、あ」
ライガは自分のくしゃみと鼻水でレオンの顔がびちゃびちゃになっているのを見て、驚愕する。
「うぁああっ!! ごごごゴメン!!! 兄ちゃん!!」
すぐに脱ぎ捨ててあった布を手に取ると、レオンの顔に押し当て、グリグリと擦り始めた。
「ごめんなっ? ごめんなっ? 俺、気持ちよくってつい……!!!」
「……っ、い、いや。問題な……うぶっ!! あの、ライ……ぅぐっ!」
ライガが力任せに擦るせいでレオンの顔がガクンガクンと上下に揺れる。
「……どうだ? 綺麗になったか?」
「あ、ああ。問題……ない」
レオンはやっとの思いでライガの顔面扱きから解放される。
「良かったぁ~! でも兄ちゃんの膝枕スッゲー気持ちよかったぞ!」
「……そうか。それは、良かっ……」
レオンはジーっとライガが先ほど顔を拭いた布を見つめている。
「なぁ、ライガ。お前が手に持ってる、それは……」
「え? ああ、俺の下着だけど? ほら、ウェディングドレス着させられた時に脱いだやつ」
「……えっと。つまり脱いだばかりの下着で、それで俺の顔を拭いた……のか」
「……おうっ!!!」
「そ、そうか。ありがとう」
ライガの全く悪気のない言葉に、レオンは感謝の言葉以外を伝えるのを諦めた。
「そういえば俺、寝てる間に変な夢見てたみたいだ」
「夢……? どんな感じの?」
「えっと、前にも見たことがあるんだけどさ、甲冑を着た兄ちゃんが出てくるんだ。それで、少し年下の兄ちゃんと二人で怪物の討伐に向かったんだけど――……」
◆◇◆◇
――その夢は、ただの夢というにはあまりに鮮明でリアルだった。
森の奥に住むという怪物退治に向かった二人、それぞれの強みを生かした連携ができていた。
しかし、怪物が放った自爆技によって状況は一変した。
「……おい! しっかりしろ!」
青年は、大やけどを負った少年に声を掛けていた。
辛うじて薬を飲み命を繋いでいるが、少年の下半身は無くなっている。彼の命の灯も残り僅かであることは明らかだった。
「あ、はは……。まさか、あんな技……使ってくるなんてな。しっぱい、しちまったなぁ……」
「もういい! 喋るな! いま手当てを……」
「いや、良い……。助からないって分かってる。今も薬の効果で、無理やり命を繋ぎとめてるだけだしな」
「~~~~~っ」
「お前……やっぱすげぇな? こんな大惨事でも無傷だもんな。あはは……っ」
青年は唇を嚙み切ると、滲んだ血を唾液に混ぜた。
「だったら、これで……」
――と、青年はおもむろに少年にキスをする。
直後、少年の体は淡く光るが、すぐに弱くなっていく。
「そんな……っ! これでもダメなのか……!?」
愕然とする青年に、少年はニッと笑った。
「ん……っ、はぁ……。おいおい、昨日……がっつりヤッたばかりだろ? ってか、いくらその力を使っても、ここまで負傷してたら効果ねぇよ」
「ごめん…っ! ごめん……! 俺が、もっと……注意していれば……っ」
「バーカ……! 足手まといは俺のほうだっての。こんなんじゃ、お前の恋人、失格だなぁ」
「そんな、こと……っ。頼む、死ぬな……! 俺を残していかないでくれ!」
そして、彼を包んでいた光が徐々に消えていく。
「ああ……もうそろそろ、薬の効果も……切れそうだな。そうだ、これ……俺の作った薬。お前にやるよ」
少年は、ポケットから自分が作った合成薬を青年に渡した。
「……ごめんな? お前をまた…一人に……しちま……」
そして、そのまま少年は息を引き取った。
「……どうして、俺だけがいつも生き残るんだ?」
青年は、冷たくなっていく少年の体を抱きしめ、静かに涙を流した。
「……もう、許してくれ……! 誰か、誰でもいい、俺を許して……」
◆◇◆◇
―――語り終えたライガは、ふぅっと大きく息を吐く。
「それでな。その兄ちゃん、ずっと泣いてたんだ――」
「…………」
レオンは黙ったまま、ライガの“夢”の話に耳を傾けていた。
「なんか、あいつ、いつも悩んでたんだ。でも、相談できる相手が誰もいなくてさ」
「……なぁ、ライガ。本当は、俺はお前の……」
その瞬間、レオンの言葉は「ギュルルルゥゥゥ……」と、ライガの大きな腹の虫の音に搔き消される。
「ああ~腹減ってきた! あ、もうあの二人の“大事な話”って終わってるかな??」
「……こういう時は、頃合いを見て声をかけるんだ。主人を立てるのも俺たちの役目だからな」
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