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第2章
第28話「レオンのご奉仕その1」
「レオン君を僕に預けたいって……。どういうことです?」
突然のグリオールの懇願に、ノクスは状況が飲み込めなかった。
「ちょっとね、どうしても外せない用事があるの。多分明日まで掛かりそうだから、それまでレオンを預かってくれないかしらぁ~?」
「しかし、今もし例の異形に襲われたら、守護者が居ないと……」
「ああ、大丈夫♪ レオンならアタシがどこに居てもきっと駆けつけてきてくれるから。そうでしょ? レオン」
グリオールはレオンに投げキッスした。レオンはすかさず片膝をつき、胸に手を当てて忠誠の姿勢を取る。
「……はい。例え地の果てでも、必ずグリオール様のお傍に」
「いやいやいやっ! 物理的に無理ですって! レオン君も何グリオールに乗せられてんです!?」
「うふふっ♪ 地の果ては無理でも、世界の裏側くらいだったら来てくれる? なんちゃって」
冗談めいた口調に、レオンは無言で応じた。
「さて、じゃあお願いできる? 出来るだけ早く帰ってくるから」
「分かりました。レオン君なら大歓迎です」
「やったぁ~~っ! 兄ちゃんお泊まりすんのか!?」
ライガは歓喜のあまり、その場でピョンピョン飛び跳ねる。
「こらっ、ライガ!! ……全く!」
「……ノクス様。お世話になります。よろしくお願いいたします」
一人大はしゃぎのライガを横目に、レオンは行儀よくノクスへお辞儀した。
「いえいえ! こちらこそ。流石にライガをもう一人預けたいなんて言われたら、卒倒してましたけどね。あははっ」
その言葉にレオンはピクリと反応した。
「……了解しました。では、ノクス様が卒倒なさらないよう細心の注意を払います」
「いやいやいやっ! 冗談! 冗談ですって!! レオン君は本当に真面目ですねぇ」
「じゃ、話はついたってことで♪」
グリオールはレオンに顔を寄せ、囁いた。
「ま、安心なさい。さっきみたいな真似はもうしないわ? アンタもたまには羽を伸ばすのも良いでしょ?」
「……グリオール様。俺は、貴方にお仕えすることに不満がある訳では……」
「そんなの分かってるわ? 本当にただ、今回は一人で行動したほうが気が楽ってだけ」
何の話なのか、ノクスにはまるで見当がつかない。ただ、二人の間にだけ共有されている何かがあるらしいことは分かった。
「アタシね? ノクスのことは気に入ってるの。紅茶の好みもお茶請けの趣味も合うし。だからアタシが戻るまでノクスをご奉仕しなさい」
「……了解」
「ふふっ。くれぐれも調子に乗って……やり過ぎないようにね?」
少し複雑そうなレオンの表情を横目に、グリオールは皆へ別れの挨拶をした。
「さてそれじゃ、みんな~! グリオールちゃんが帰って来るまで、くたばっちゃダメよぉ~? んちゅっ♡」
そう言い残し、投げキッスしながら出ていった。
◆◇◆◇
その夜、月明かりの下。
ノクスたちは抱えきれないほどの袋を抱えて、ようやく街から戻ってきた。
「……ふぅ。食材の買い出しはこんなものでしょうか」
玄関先で一息ついたノクスは、手元の袋を持ち直す。夜の風が、買い物袋の隙間からふわりと香る果物の匂いを運んできた。
「荷物持ち、ありがとうございます。レオン君」
隣で黙々と袋を支えていたレオンに声をかけると、彼はで小さく首を傾げた。
「……3人分にしては多いですね。数日分のストックでしょうか?」
落ち着いた声でそう問われ、ノクスは困ったように笑った。
「ああいえ。ライガが大体、黒焦げにしてしまうので……」
言い終える前に、後方からむくれた声が飛んでくる。
「うっせぇなぁ! 卵は一人で割れるようになっただろうが!」
振り返れば、腕組みしたライガがむすっとした顔で立っていた。
「……では、この食材は全て使って問題ないでしょうか」
レオンが真顔で確認すると、ノクスは小さく頷いた。
「ええ。先にライガをお風呂に入れたら、晩御飯を作りますね」
穏やかな声に、レオンも静かに返す。
「ノクス様。ぜひ俺もお手伝いさせてください」
「おや、ありがとうございます。ではまた後で――」
ノクスは嬉しそうに微笑むと、玄関の扉を開いた。
◆◇◆◇
「ライガ! 暴れたら洗えないでしょうが!!」
湯気に包まれた浴室で、ノクスの声が響く。
「うっせえなぁ! もう自分で洗えるって言ってんだろ!」
バシャバシャと水が跳ねる音。ノクスはため息をつきつつ、ライガの頭にシャンプーをかけた。
「ほら、目をつぶって!」
「いでっ! いでででっ! やめろバカノクス!」
その時、背後から静かな声がした。
「ノクス様、お待ちください」
「え? レオン君?」
「……俺が代わっても宜しいでしょうか?」
「し、しかし……」
「大丈夫です。お任せください」
スポンジを受け取ったレオンがライガの背後へ回る。
「……その声、レオン兄ちゃんか?」
「ライガ、少し大人しくしていてくれよ」
レオンが髪の間に指を通すと、ライガの肩の力がふっと抜けたように見えた。先ほどまでの抵抗が嘘のように収まり、黙って身を任せている。そのまま丁寧に髪を泡立てると、シャワーで洗い流していく。
(……す、すごい。顔にお湯かけられるの嫌がるライガが、あんなに大人しいなんて……)
脱衣所から見守るノクスは、ライガの表情に目を見張った。
「熱くはないか?」
「ううん、全然。すっげぇ気持ちいい……」
その声色から、本当に心地よさそうなのが伝わってくる。
レオンは淡々と泡を流し、髪の間や首筋に残った泡も指先で取り除いていく。その仕草は無駄がなく、動きに迷いがない。
「これで全部だな。……次は体を洗おう」
桶に湯を汲み、スポンジを泡立てるレオン。その手つきは慣れている印象を受けた。
「泡だらけで立つのは危ない、そこに座ってていいぞ」
ライガは大人しくレオンの前に鎮座する。
「さ、肩の力を抜いて」
「うん、わかった……」
短く答え、肩の力を抜くライガ。レオンは首筋から腕、胸元、腹部へと順に洗っていく。
「よし、背中を向けてみろ」
言われるがまま背を向けるライガ。あの野生児がここまで素直なのは珍しい。ノクスはその様子にただ唖然とした。
「んひゃぁ……。すっげ気持ちいい……」
洗い終える頃、ライガの頬はわずかに赤く染まり、湯気に包まれていた。
突然のグリオールの懇願に、ノクスは状況が飲み込めなかった。
「ちょっとね、どうしても外せない用事があるの。多分明日まで掛かりそうだから、それまでレオンを預かってくれないかしらぁ~?」
「しかし、今もし例の異形に襲われたら、守護者が居ないと……」
「ああ、大丈夫♪ レオンならアタシがどこに居てもきっと駆けつけてきてくれるから。そうでしょ? レオン」
グリオールはレオンに投げキッスした。レオンはすかさず片膝をつき、胸に手を当てて忠誠の姿勢を取る。
「……はい。例え地の果てでも、必ずグリオール様のお傍に」
「いやいやいやっ! 物理的に無理ですって! レオン君も何グリオールに乗せられてんです!?」
「うふふっ♪ 地の果ては無理でも、世界の裏側くらいだったら来てくれる? なんちゃって」
冗談めいた口調に、レオンは無言で応じた。
「さて、じゃあお願いできる? 出来るだけ早く帰ってくるから」
「分かりました。レオン君なら大歓迎です」
「やったぁ~~っ! 兄ちゃんお泊まりすんのか!?」
ライガは歓喜のあまり、その場でピョンピョン飛び跳ねる。
「こらっ、ライガ!! ……全く!」
「……ノクス様。お世話になります。よろしくお願いいたします」
一人大はしゃぎのライガを横目に、レオンは行儀よくノクスへお辞儀した。
「いえいえ! こちらこそ。流石にライガをもう一人預けたいなんて言われたら、卒倒してましたけどね。あははっ」
その言葉にレオンはピクリと反応した。
「……了解しました。では、ノクス様が卒倒なさらないよう細心の注意を払います」
「いやいやいやっ! 冗談! 冗談ですって!! レオン君は本当に真面目ですねぇ」
「じゃ、話はついたってことで♪」
グリオールはレオンに顔を寄せ、囁いた。
「ま、安心なさい。さっきみたいな真似はもうしないわ? アンタもたまには羽を伸ばすのも良いでしょ?」
「……グリオール様。俺は、貴方にお仕えすることに不満がある訳では……」
「そんなの分かってるわ? 本当にただ、今回は一人で行動したほうが気が楽ってだけ」
何の話なのか、ノクスにはまるで見当がつかない。ただ、二人の間にだけ共有されている何かがあるらしいことは分かった。
「アタシね? ノクスのことは気に入ってるの。紅茶の好みもお茶請けの趣味も合うし。だからアタシが戻るまでノクスをご奉仕しなさい」
「……了解」
「ふふっ。くれぐれも調子に乗って……やり過ぎないようにね?」
少し複雑そうなレオンの表情を横目に、グリオールは皆へ別れの挨拶をした。
「さてそれじゃ、みんな~! グリオールちゃんが帰って来るまで、くたばっちゃダメよぉ~? んちゅっ♡」
そう言い残し、投げキッスしながら出ていった。
◆◇◆◇
その夜、月明かりの下。
ノクスたちは抱えきれないほどの袋を抱えて、ようやく街から戻ってきた。
「……ふぅ。食材の買い出しはこんなものでしょうか」
玄関先で一息ついたノクスは、手元の袋を持ち直す。夜の風が、買い物袋の隙間からふわりと香る果物の匂いを運んできた。
「荷物持ち、ありがとうございます。レオン君」
隣で黙々と袋を支えていたレオンに声をかけると、彼はで小さく首を傾げた。
「……3人分にしては多いですね。数日分のストックでしょうか?」
落ち着いた声でそう問われ、ノクスは困ったように笑った。
「ああいえ。ライガが大体、黒焦げにしてしまうので……」
言い終える前に、後方からむくれた声が飛んでくる。
「うっせぇなぁ! 卵は一人で割れるようになっただろうが!」
振り返れば、腕組みしたライガがむすっとした顔で立っていた。
「……では、この食材は全て使って問題ないでしょうか」
レオンが真顔で確認すると、ノクスは小さく頷いた。
「ええ。先にライガをお風呂に入れたら、晩御飯を作りますね」
穏やかな声に、レオンも静かに返す。
「ノクス様。ぜひ俺もお手伝いさせてください」
「おや、ありがとうございます。ではまた後で――」
ノクスは嬉しそうに微笑むと、玄関の扉を開いた。
◆◇◆◇
「ライガ! 暴れたら洗えないでしょうが!!」
湯気に包まれた浴室で、ノクスの声が響く。
「うっせえなぁ! もう自分で洗えるって言ってんだろ!」
バシャバシャと水が跳ねる音。ノクスはため息をつきつつ、ライガの頭にシャンプーをかけた。
「ほら、目をつぶって!」
「いでっ! いでででっ! やめろバカノクス!」
その時、背後から静かな声がした。
「ノクス様、お待ちください」
「え? レオン君?」
「……俺が代わっても宜しいでしょうか?」
「し、しかし……」
「大丈夫です。お任せください」
スポンジを受け取ったレオンがライガの背後へ回る。
「……その声、レオン兄ちゃんか?」
「ライガ、少し大人しくしていてくれよ」
レオンが髪の間に指を通すと、ライガの肩の力がふっと抜けたように見えた。先ほどまでの抵抗が嘘のように収まり、黙って身を任せている。そのまま丁寧に髪を泡立てると、シャワーで洗い流していく。
(……す、すごい。顔にお湯かけられるの嫌がるライガが、あんなに大人しいなんて……)
脱衣所から見守るノクスは、ライガの表情に目を見張った。
「熱くはないか?」
「ううん、全然。すっげぇ気持ちいい……」
その声色から、本当に心地よさそうなのが伝わってくる。
レオンは淡々と泡を流し、髪の間や首筋に残った泡も指先で取り除いていく。その仕草は無駄がなく、動きに迷いがない。
「これで全部だな。……次は体を洗おう」
桶に湯を汲み、スポンジを泡立てるレオン。その手つきは慣れている印象を受けた。
「泡だらけで立つのは危ない、そこに座ってていいぞ」
ライガは大人しくレオンの前に鎮座する。
「さ、肩の力を抜いて」
「うん、わかった……」
短く答え、肩の力を抜くライガ。レオンは首筋から腕、胸元、腹部へと順に洗っていく。
「よし、背中を向けてみろ」
言われるがまま背を向けるライガ。あの野生児がここまで素直なのは珍しい。ノクスはその様子にただ唖然とした。
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