36 / 66
第2章
第36話「塔」
「……あの、実はですね。貴方達が天人と思って声をおかけしたのには理由があるのです」
エルトは遠慮がちに話を切り出した。
「理由……ですか?」
ノクスが優しく促すと、エルトは目を伏せ、少し緊張した様子で続けた。
「最近、通常のモンスターに混じって、見たこともない怪物が度々目撃されているのです。しかも、その怪物を倒したハンター達が次々と謎の病に倒れているのです。なので、僕ら地上人には手が出せないのです」
「見たこともない怪物?」
ノクスが眉を寄せる。彼の隣では、グリオールが腕を組みながら首を傾げた。
「ふぅ~ん……? 臭うわねぇ。それ、いつ頃から?」
エルトは少し考え込み、記憶を辿るように答える。
「観測され始めたのは数年前からなのです。最初は突然変異種と思われたのですが、テラアースのどの原種とも特徴が違っているのです」
「特徴……というと?」
ノクスの問いに、エルトは真剣な表情で答えた。
「基本的に、テラアースのモンスターは物理的な攻撃で仕留めることが出来るのですが、その怪物はなぜか聖水でしか倒せないのです」
「え? 聖水で?」
その話を聞いて驚いた様子のノクスが、目を見開く。
「あれは本来、神事に使ったり、一部の呪いを解呪するだけの効能しかないはずですが……」
「そうなのです! だから不思議なのです! おかげで聖水がいつも品切れ状態で……」
エルトは話しながら、背負っていたカバンを開けた。中にはポーションや薬草、何種類もの調合材料が詰め込まれている。
「もちろん、こうしてポーションや薬草を調合すれば聖水を作ることは出来るのです。実は僕もいま材料を買いにきていたのです」
「おや、聖水を作れるんですか? それは凄いですね」
ノクスは感心した様子で彼を見つめる。エルトは少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「実は僕、素材を“合成”したり薬を“調合”出来る≪錬金術師(アルケミスト)≫の適性(ジョブ)を持っているのです。将来は薬屋を開くのが夢で……と、そんなことより!」
エルトの表情が再び真剣なものに変わる。
「僕が気になっているのは、そもそも奴らは何なのか、なのです。通常の手段で倒せない敵となると可能性が高いのは……」
「異形……ですね」
ノクスの低い声に場の空気が張り詰めた。
「はい、なのです。天界の情報は少しですが地上世界にも入ってきますです。そして最近、天界を脅かす“異形”なる存在が現れているとの噂も」
「なるほど、既に異形は数年前からテラアースに居たと……」
ノクスは静かに呟き、考えを巡らせる。
「ふぅん? 天界に攻め込むだけの進化をしたか、誰かの手引きか……。まぁそこまでは分からないけど、少なくとも他の地上界よりは、テラアースに異形に関する情報がありそうねぇ」
いつもの軽い口調だったが、グリオールも真剣に事態を捉えている様子だ。
「エルト君。つかぬことを伺いますが、何か怪しい施設や建物はありませんか?」
ノクスの質問に、エルトは少し躊躇いながらも頷いた。
「……は、はいです! 実は、気になっている所があるのです。そこは“白い塔”と呼ばれているのです」
「白い塔……? ね~ぇ、ノクス。それってまさか……」
「ええ。十中八九、防衛結界の制御施設……ですね。何だか、きな臭くなってきました」
◆◇◆◇
エルトに案内されたのは、薄暗い森のさらに奥──木々の密度が増した場所だった。その先に忽然と姿を現したのは、数十メートルはあろうかという巨大な塔。
「ここなのです」
エルトが一歩前に出て、塔を指差す。
「この塔は大昔に天人が建てたとのことなので、地上人は立ち入り禁止になっているのです」
「間違いありません。ここが今回の僕らの目的地ですね」
ノクスは塔を見上げながら、真剣な表情を浮かべた。どうやら見覚えがあるらしく、じっくりと構造を観察する。そんな彼に、ライガが首をかしげながら問いかけた。
「なぁ、さっき“防衛結界の制御施設”って言ってたよな?」
「ええ、そうよ」
頷いたのはグリオールだった。
「この構造物自体が、結界を張る装置になってるの。でも……」
塔の外観を見上げたまま、グリオールは何か不自然さを感じ取ったように見えた。
「やけに手入れがおろそかねぇ? 外観はボロボロ。メンテナンスが行き届いてないわぁ」
「確かに……」
ノクスも難しい顔をする。
「放置されて数年が経過しているようですね。こういった防衛の要は、定期的に検査するのが通例なのですが……」
「ま、外見だけじゃ何とも言えないわねぇ」
グリオールがくるりと振り返る。
「中も見ておかない?」
「そうですね。塔に入って調査してみましょう」
ノクスが頷くと、ライガは目を輝かせた。
「おお! 何か探検みたいだな!」
だが、すぐさまノクスが釘を刺す。
「ライガ、探検ではなく調査です。危険だと分かったらすぐに撤収しますからね?」
「はいはい、分かってるって~」
◆◇◆◇
塔の正面へと歩みを進めると、扉は驚くほどあっけなく開いた。
鍵もなければ、封印もされていない。
一行が慎重に内部へと足を踏み入れると、ノクスはすぐに立ち止まり、眉をひそめた。
「……どうにも腑に落ちませんね。メンテナンスされていないのに、ここ最近使用された形跡があります。わずかに魂力の残滓が漂っている」
「確かに、中も妙に綺麗だな」
ライガが壁を軽く叩く。
「これ、最近手入れされてるみたいだ」
「気をつけましょう。この先、何があるか分かりません」
ノクスは声を低くし、周囲を見渡す。そして、振り返ってエルトに視線を向けた。
「エルトくん、君はここで──」
その言葉を遮るように、エルトが声を張った。
「で、でも……っ! 僕もお役に立ちたいです!」
小さな体を震わせながらも、前を向いている。その必死さがノクスにも伝わってきた。
「でもねぇ? エルトちゃんの≪錬金術師(アルケミスト)≫の適性(ジョブ)って、確か生成職で戦闘向きじゃないでしょ?」
グリオールもエルトを制止する。
「そうですね。主に薬や素材の合成が得意な分、攻撃には向かない適性(ジョブ)だったはずです。酷な言い方ですが、足手まといになってしまいます。それに天人として、これ以上は地上人を巻き込む訳にいきません。ご理解ください」
ノクスは丁寧に説明した。
エルトの肩が震える。
「でも……でも……っ」
その様子を見ていたグリオールが、レオンに声をかけた。
「まぁ、だからってこんなとこに一人で残すのも危ないし。……レオン、アンタこの子の護衛しなさい」
「……了解。エルト様、俺達は塔の外で待機しましょう」
レオンは冷静にそう告げる。エルトは戸惑いながらも、頷くしかなかった。
「ぼ、僕……やっぱり足手まとい……ですよね」
その小さな声に、ノクスは胸が少し痛んだ。
レオンは少し考えた後、エルトの肩に手を置いた。
「エルト様。貴方の適性は確かに戦闘には向いていない。でも、≪錬金術師(アルケミスト)≫としての能力は間違いなく地上界の役に立つ。誰が何と言おうと、それは否定できません」
エルトは驚いたようにレオンを見上げた。
「僕……役に立てますか?」
「はい。戦闘が全てではありません。今、この場にエルト様がおられる意味はきっとあります。だから、自分の力を信じてください」
その低く静かな声には、不思議と重みがあった。ノクスの耳にもその響きが心地よく伝わってくる。
「は、はいっ! わかりましたです!」
「……さすがレオン君ですね。説得と激励を同時にやってのけるとは」
ノクスは感心しながら彼の背中を見つめた。
「まぁねぇ~? 普段は抑えさせてるけど、カリスマ性っていうの? アイツには皆、従っちゃうみたいなのよねぇ」
終始呆れ顔だが、その声からは認めざるを得ないような響きが感じ取れた。
「まぁ、こういう面倒な交渉事には便利だけど」
「ええ……本当に……」
ノクスは小さく頷く。
「レオン君のあの包み込むような存在感……良いですよねぇ♪」
「だよなぁ~! レオン兄ちゃんの言うことなら、俺何でも聞くぞ!」
ノクスは頬を染め、ライガは尊敬に満ちた声で拳を握りしめ、目を輝かせている。
普段はあんなに喧嘩が絶えないのに、レオンの話題になると意気投合してしまう。
「ああ、そうだった。ここにも面倒くさい被害者が二人も居たんだったわ……」
恍惚な表情を浮かべていると、目を細めて大きな溜息を吐くグリオールの姿が目に映った。
エルトは遠慮がちに話を切り出した。
「理由……ですか?」
ノクスが優しく促すと、エルトは目を伏せ、少し緊張した様子で続けた。
「最近、通常のモンスターに混じって、見たこともない怪物が度々目撃されているのです。しかも、その怪物を倒したハンター達が次々と謎の病に倒れているのです。なので、僕ら地上人には手が出せないのです」
「見たこともない怪物?」
ノクスが眉を寄せる。彼の隣では、グリオールが腕を組みながら首を傾げた。
「ふぅ~ん……? 臭うわねぇ。それ、いつ頃から?」
エルトは少し考え込み、記憶を辿るように答える。
「観測され始めたのは数年前からなのです。最初は突然変異種と思われたのですが、テラアースのどの原種とも特徴が違っているのです」
「特徴……というと?」
ノクスの問いに、エルトは真剣な表情で答えた。
「基本的に、テラアースのモンスターは物理的な攻撃で仕留めることが出来るのですが、その怪物はなぜか聖水でしか倒せないのです」
「え? 聖水で?」
その話を聞いて驚いた様子のノクスが、目を見開く。
「あれは本来、神事に使ったり、一部の呪いを解呪するだけの効能しかないはずですが……」
「そうなのです! だから不思議なのです! おかげで聖水がいつも品切れ状態で……」
エルトは話しながら、背負っていたカバンを開けた。中にはポーションや薬草、何種類もの調合材料が詰め込まれている。
「もちろん、こうしてポーションや薬草を調合すれば聖水を作ることは出来るのです。実は僕もいま材料を買いにきていたのです」
「おや、聖水を作れるんですか? それは凄いですね」
ノクスは感心した様子で彼を見つめる。エルトは少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「実は僕、素材を“合成”したり薬を“調合”出来る≪錬金術師(アルケミスト)≫の適性(ジョブ)を持っているのです。将来は薬屋を開くのが夢で……と、そんなことより!」
エルトの表情が再び真剣なものに変わる。
「僕が気になっているのは、そもそも奴らは何なのか、なのです。通常の手段で倒せない敵となると可能性が高いのは……」
「異形……ですね」
ノクスの低い声に場の空気が張り詰めた。
「はい、なのです。天界の情報は少しですが地上世界にも入ってきますです。そして最近、天界を脅かす“異形”なる存在が現れているとの噂も」
「なるほど、既に異形は数年前からテラアースに居たと……」
ノクスは静かに呟き、考えを巡らせる。
「ふぅん? 天界に攻め込むだけの進化をしたか、誰かの手引きか……。まぁそこまでは分からないけど、少なくとも他の地上界よりは、テラアースに異形に関する情報がありそうねぇ」
いつもの軽い口調だったが、グリオールも真剣に事態を捉えている様子だ。
「エルト君。つかぬことを伺いますが、何か怪しい施設や建物はありませんか?」
ノクスの質問に、エルトは少し躊躇いながらも頷いた。
「……は、はいです! 実は、気になっている所があるのです。そこは“白い塔”と呼ばれているのです」
「白い塔……? ね~ぇ、ノクス。それってまさか……」
「ええ。十中八九、防衛結界の制御施設……ですね。何だか、きな臭くなってきました」
◆◇◆◇
エルトに案内されたのは、薄暗い森のさらに奥──木々の密度が増した場所だった。その先に忽然と姿を現したのは、数十メートルはあろうかという巨大な塔。
「ここなのです」
エルトが一歩前に出て、塔を指差す。
「この塔は大昔に天人が建てたとのことなので、地上人は立ち入り禁止になっているのです」
「間違いありません。ここが今回の僕らの目的地ですね」
ノクスは塔を見上げながら、真剣な表情を浮かべた。どうやら見覚えがあるらしく、じっくりと構造を観察する。そんな彼に、ライガが首をかしげながら問いかけた。
「なぁ、さっき“防衛結界の制御施設”って言ってたよな?」
「ええ、そうよ」
頷いたのはグリオールだった。
「この構造物自体が、結界を張る装置になってるの。でも……」
塔の外観を見上げたまま、グリオールは何か不自然さを感じ取ったように見えた。
「やけに手入れがおろそかねぇ? 外観はボロボロ。メンテナンスが行き届いてないわぁ」
「確かに……」
ノクスも難しい顔をする。
「放置されて数年が経過しているようですね。こういった防衛の要は、定期的に検査するのが通例なのですが……」
「ま、外見だけじゃ何とも言えないわねぇ」
グリオールがくるりと振り返る。
「中も見ておかない?」
「そうですね。塔に入って調査してみましょう」
ノクスが頷くと、ライガは目を輝かせた。
「おお! 何か探検みたいだな!」
だが、すぐさまノクスが釘を刺す。
「ライガ、探検ではなく調査です。危険だと分かったらすぐに撤収しますからね?」
「はいはい、分かってるって~」
◆◇◆◇
塔の正面へと歩みを進めると、扉は驚くほどあっけなく開いた。
鍵もなければ、封印もされていない。
一行が慎重に内部へと足を踏み入れると、ノクスはすぐに立ち止まり、眉をひそめた。
「……どうにも腑に落ちませんね。メンテナンスされていないのに、ここ最近使用された形跡があります。わずかに魂力の残滓が漂っている」
「確かに、中も妙に綺麗だな」
ライガが壁を軽く叩く。
「これ、最近手入れされてるみたいだ」
「気をつけましょう。この先、何があるか分かりません」
ノクスは声を低くし、周囲を見渡す。そして、振り返ってエルトに視線を向けた。
「エルトくん、君はここで──」
その言葉を遮るように、エルトが声を張った。
「で、でも……っ! 僕もお役に立ちたいです!」
小さな体を震わせながらも、前を向いている。その必死さがノクスにも伝わってきた。
「でもねぇ? エルトちゃんの≪錬金術師(アルケミスト)≫の適性(ジョブ)って、確か生成職で戦闘向きじゃないでしょ?」
グリオールもエルトを制止する。
「そうですね。主に薬や素材の合成が得意な分、攻撃には向かない適性(ジョブ)だったはずです。酷な言い方ですが、足手まといになってしまいます。それに天人として、これ以上は地上人を巻き込む訳にいきません。ご理解ください」
ノクスは丁寧に説明した。
エルトの肩が震える。
「でも……でも……っ」
その様子を見ていたグリオールが、レオンに声をかけた。
「まぁ、だからってこんなとこに一人で残すのも危ないし。……レオン、アンタこの子の護衛しなさい」
「……了解。エルト様、俺達は塔の外で待機しましょう」
レオンは冷静にそう告げる。エルトは戸惑いながらも、頷くしかなかった。
「ぼ、僕……やっぱり足手まとい……ですよね」
その小さな声に、ノクスは胸が少し痛んだ。
レオンは少し考えた後、エルトの肩に手を置いた。
「エルト様。貴方の適性は確かに戦闘には向いていない。でも、≪錬金術師(アルケミスト)≫としての能力は間違いなく地上界の役に立つ。誰が何と言おうと、それは否定できません」
エルトは驚いたようにレオンを見上げた。
「僕……役に立てますか?」
「はい。戦闘が全てではありません。今、この場にエルト様がおられる意味はきっとあります。だから、自分の力を信じてください」
その低く静かな声には、不思議と重みがあった。ノクスの耳にもその響きが心地よく伝わってくる。
「は、はいっ! わかりましたです!」
「……さすがレオン君ですね。説得と激励を同時にやってのけるとは」
ノクスは感心しながら彼の背中を見つめた。
「まぁねぇ~? 普段は抑えさせてるけど、カリスマ性っていうの? アイツには皆、従っちゃうみたいなのよねぇ」
終始呆れ顔だが、その声からは認めざるを得ないような響きが感じ取れた。
「まぁ、こういう面倒な交渉事には便利だけど」
「ええ……本当に……」
ノクスは小さく頷く。
「レオン君のあの包み込むような存在感……良いですよねぇ♪」
「だよなぁ~! レオン兄ちゃんの言うことなら、俺何でも聞くぞ!」
ノクスは頬を染め、ライガは尊敬に満ちた声で拳を握りしめ、目を輝かせている。
普段はあんなに喧嘩が絶えないのに、レオンの話題になると意気投合してしまう。
「ああ、そうだった。ここにも面倒くさい被害者が二人も居たんだったわ……」
恍惚な表情を浮かべていると、目を細めて大きな溜息を吐くグリオールの姿が目に映った。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。