イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-

流右京

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第2章

第37話「異形の正体」

「ふむ、結界の強度は問題ないようですね」

ノクス達一行は、塔の最深部にある装置を調べていた。それは防衛結界を張る為の装置で、今まさに稼働中のようだ。

「多少サビは目立ちますが、特に目立って壊れているということはなさそうです」

「ってことは、異形が侵攻してきた時もここの結界は稼働中だったって訳ねぇ? だったら、前回の襲撃で異形が結界をすり抜けたのはどうしてかしらぁ?」

「ノクス、見ろよこれ!」

その時、別の部屋からライガの声が響いた。

ノクスとグリオールが駆け寄ると、そこには巨大な装置が鎮座していた。
円形の部位を中心に無数の管や機械が絡みつき、装置全体が青白く微かに光を放ちながら、稼働している気配を醸し出している。

「これは……一体?」

ノクスが目を凝らして装置を観察する。

「これ、どこかで見たことあるわねぇ……?」

グリオールが腕を組んで考え込む。

「ここは結界を張るのに関係する装置しかない筈です。どうしてこんなものが……?」

「……? 二人とも何言ってんだ? これって、さっき通ってきたやつだろ?」

「え? 通ってきたって……」

「それってまさか……転移ゲートのことぉ?」

「おう! 何かバチバチしてるし、違うのか?」

ライガは気楽そうに答えるが、二人は顔を見合わせる。

「確かに、旧式の転移ゲートはこういうデザインが多かったと聞きます。今は効率重視でシンプルだから気づかなかった……」

「ほんと、ライガちゃんの自由な発想力と観察眼には恐れ入るわねぇ。でも、どうしてこんな場所に転移ゲートが? それに、まだ稼働しているのも不可解よねぇ」

しかし、考えるのも面倒という態度で続けた。

「とにかく、現地調査はここまででいいんじゃない? あとは上に報告して、本格的な調査は大聖女様に任せましょ?」

「ええ、そうですね。もし下手に触って暴走したら大変です」

「何だよ、もう探検終わりか? つまんねーの……」

ライガは退屈そうに、装置から伸びる太いケーブルにどさりと腰を下ろした。

――――ガコンッ!!

「……んぁ?」

「……え?」

「……あら?」

三人の声が、ほぼ同時に重なった。

見ると、ライガが座った太いケーブルの接続部が無惨にも外れていた。
ロック機構が限界を迎えていたのか、すでにケーブルが抜け落ちている。

「お、おい……コレ、マズくね?」

ライガが青ざめながらケーブルを指差す。

「ライガ!? 何してんですかぁああああ!?」

ノクスが青ざめた顔で駆け寄る。

「ち、違ぇって! ただ座っただけだって!!」

ライガは急いで立ち上がり、両手を上げて否定した。

「――あ~らまぁ」

その様子を見たグリオールが、軽く首を振る。

「老朽化のせいで接続部が腐ってたのねぇ。そりゃ抜けても仕方ないわぁ」

その瞬間――装置が突如、赤く明滅しはじめた。警告音が、鋭く塔内に響き渡る。

『ビィィーッ……ビィィーッ……!!』

「なっ……!」

全員が振り返ったときには、すでに遅かった。
装置の中心が激しく光り出し、轟音とともに塔全体が大きく揺れる。
壁の継ぎ目から、砂のような細かい埃がパラパラと舞い落ちた。

「うぉっ! 何だこれ!」

思わずよろめいたライガが、目を見開く。

「ライガ、君ってやつは……! 褒めたばかりだったのに! ああもうっ!」

ノクスが頭を抱え、情けなさそうに叫んだ。すると、装置から黒い空間が次々と生じる。

「な、何だぁ? 黒いのがうようよしてるぞ?」

「あれは……まさか、浄化される前の魂……?」

「……はぁ!? どういうことだ?」

「ふぅ~ん? なるほど、何だか見えてきたわねぇ。今回の事件の全容……」

「なぁ、おい! あそこ!」

ライガが険しい表情で指さした先を、ノクスも視線で追う。

黒い液体がじわじわと空間の裂け目から漏れ出し、生き物のように蠢いている。
それは次第に形を整え、やがて異様な姿へと変貌した。

「あれは……まさか異形!?」

ノクスの目が見開かれ、冷たい汗が背中を伝う。

「おい! どんどん出てくるぞ!?」

液体の流出は止まらず、新たな異形が次々と生まれていく。
瞬く間に膨れ上がり、塔内部は異形たちで埋め尽くされようとしていた。

「分かってます! ライガ、出入り口に結界を張るのでしばらく持たせてください! グリオールは先に避難を!」

ノクスは声を張り上げ、結界術の準備を始めた。

だが、その手は僅かに震えている。状況は明らかに不利で、どれだけ持ち堪えられるかわからない。

「はぁ~い♡ んじゃ、お言葉に甘えて先に逃げてま~す♪」

グリオールは軽口を叩きながらも冷静に判断したのか、そそくさと出口へ向かっていった。

◆◇◆◇

「おらぁあああっ!!」

ライガの拳が異形を吹き飛ばす。

「ギィィィイイイ!!」

断末魔をあげた異形は黒い霧へと変わり、空間に溶けていく。

(なんだ、あれは……? 異形の形が崩れて、瘴気に変わった……?)




結界の中で様子を観察していたノクスは、その異様な変化を目の当たりにする。

「おらぁっ! あはははっ! 弱ぇえなぁ! もっと来いよ! ひゃははぁっ!!」

異形に対してではない。明らかにライガの態度がおかしい。

(何だ……? さっきより興奮している? いや、確かにライガは元々戦闘は得意だが、これは……?)

「ライガ! 何か変です。一旦、結界の中へ入りなさい!」

「うるっっせぇぇえ! 邪魔すんならテメェもぶっとばすぞぉぉぉおおお!!」

ノクスは驚愕した。確かにライガは普段から憎まれ口を叩くことはあるが、今の彼はまるで別人のようだ。

「これは、まさか――……!?」
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