37 / 66
第2章
第37話「異形の正体」
「ふむ、結界の強度は問題ないようですね」
ノクス達一行は、塔の最深部にある装置を調べていた。それは防衛結界を張る為の装置で、今まさに稼働中のようだ。
「多少サビは目立ちますが、特に目立って壊れているということはなさそうです」
「ってことは、異形が侵攻してきた時もここの結界は稼働中だったって訳ねぇ? だったら、前回の襲撃で異形が結界をすり抜けたのはどうしてかしらぁ?」
「ノクス、見ろよこれ!」
その時、別の部屋からライガの声が響いた。
ノクスとグリオールが駆け寄ると、そこには巨大な装置が鎮座していた。
円形の部位を中心に無数の管や機械が絡みつき、装置全体が青白く微かに光を放ちながら、稼働している気配を醸し出している。
「これは……一体?」
ノクスが目を凝らして装置を観察する。
「これ、どこかで見たことあるわねぇ……?」
グリオールが腕を組んで考え込む。
「ここは結界を張るのに関係する装置しかない筈です。どうしてこんなものが……?」
「……? 二人とも何言ってんだ? これって、さっき通ってきたやつだろ?」
「え? 通ってきたって……」
「それってまさか……転移ゲートのことぉ?」
「おう! 何かバチバチしてるし、違うのか?」
ライガは気楽そうに答えるが、二人は顔を見合わせる。
「確かに、旧式の転移ゲートはこういうデザインが多かったと聞きます。今は効率重視でシンプルだから気づかなかった……」
「ほんと、ライガちゃんの自由な発想力と観察眼には恐れ入るわねぇ。でも、どうしてこんな場所に転移ゲートが? それに、まだ稼働しているのも不可解よねぇ」
しかし、考えるのも面倒という態度で続けた。
「とにかく、現地調査はここまででいいんじゃない? あとは上に報告して、本格的な調査は大聖女様に任せましょ?」
「ええ、そうですね。もし下手に触って暴走したら大変です」
「何だよ、もう探検終わりか? つまんねーの……」
ライガは退屈そうに、装置から伸びる太いケーブルにどさりと腰を下ろした。
――――ガコンッ!!
「……んぁ?」
「……え?」
「……あら?」
三人の声が、ほぼ同時に重なった。
見ると、ライガが座った太いケーブルの接続部が無惨にも外れていた。
ロック機構が限界を迎えていたのか、すでにケーブルが抜け落ちている。
「お、おい……コレ、マズくね?」
ライガが青ざめながらケーブルを指差す。
「ライガ!? 何してんですかぁああああ!?」
ノクスが青ざめた顔で駆け寄る。
「ち、違ぇって! ただ座っただけだって!!」
ライガは急いで立ち上がり、両手を上げて否定した。
「――あ~らまぁ」
その様子を見たグリオールが、軽く首を振る。
「老朽化のせいで接続部が腐ってたのねぇ。そりゃ抜けても仕方ないわぁ」
その瞬間――装置が突如、赤く明滅しはじめた。警告音が、鋭く塔内に響き渡る。
『ビィィーッ……ビィィーッ……!!』
「なっ……!」
全員が振り返ったときには、すでに遅かった。
装置の中心が激しく光り出し、轟音とともに塔全体が大きく揺れる。
壁の継ぎ目から、砂のような細かい埃がパラパラと舞い落ちた。
「うぉっ! 何だこれ!」
思わずよろめいたライガが、目を見開く。
「ライガ、君ってやつは……! 褒めたばかりだったのに! ああもうっ!」
ノクスが頭を抱え、情けなさそうに叫んだ。すると、装置から黒い空間が次々と生じる。
「な、何だぁ? 黒いのがうようよしてるぞ?」
「あれは……まさか、浄化される前の魂……?」
「……はぁ!? どういうことだ?」
「ふぅ~ん? なるほど、何だか見えてきたわねぇ。今回の事件の全容……」
「なぁ、おい! あそこ!」
ライガが険しい表情で指さした先を、ノクスも視線で追う。
黒い液体がじわじわと空間の裂け目から漏れ出し、生き物のように蠢いている。
それは次第に形を整え、やがて異様な姿へと変貌した。
「あれは……まさか異形!?」
ノクスの目が見開かれ、冷たい汗が背中を伝う。
「おい! どんどん出てくるぞ!?」
液体の流出は止まらず、新たな異形が次々と生まれていく。
瞬く間に膨れ上がり、塔内部は異形たちで埋め尽くされようとしていた。
「分かってます! ライガ、出入り口に結界を張るのでしばらく持たせてください! グリオールは先に避難を!」
ノクスは声を張り上げ、結界術の準備を始めた。
だが、その手は僅かに震えている。状況は明らかに不利で、どれだけ持ち堪えられるかわからない。
「はぁ~い♡ んじゃ、お言葉に甘えて先に逃げてま~す♪」
グリオールは軽口を叩きながらも冷静に判断したのか、そそくさと出口へ向かっていった。
◆◇◆◇
「おらぁあああっ!!」
ライガの拳が異形を吹き飛ばす。
「ギィィィイイイ!!」
断末魔をあげた異形は黒い霧へと変わり、空間に溶けていく。
(なんだ、あれは……? 異形の形が崩れて、瘴気に変わった……?)
結界の中で様子を観察していたノクスは、その異様な変化を目の当たりにする。
「おらぁっ! あはははっ! 弱ぇえなぁ! もっと来いよ! ひゃははぁっ!!」
異形に対してではない。明らかにライガの態度がおかしい。
(何だ……? さっきより興奮している? いや、確かにライガは元々戦闘は得意だが、これは……?)
「ライガ! 何か変です。一旦、結界の中へ入りなさい!」
「うるっっせぇぇえ! 邪魔すんならテメェもぶっとばすぞぉぉぉおおお!!」
ノクスは驚愕した。確かにライガは普段から憎まれ口を叩くことはあるが、今の彼はまるで別人のようだ。
「これは、まさか――……!?」
ノクス達一行は、塔の最深部にある装置を調べていた。それは防衛結界を張る為の装置で、今まさに稼働中のようだ。
「多少サビは目立ちますが、特に目立って壊れているということはなさそうです」
「ってことは、異形が侵攻してきた時もここの結界は稼働中だったって訳ねぇ? だったら、前回の襲撃で異形が結界をすり抜けたのはどうしてかしらぁ?」
「ノクス、見ろよこれ!」
その時、別の部屋からライガの声が響いた。
ノクスとグリオールが駆け寄ると、そこには巨大な装置が鎮座していた。
円形の部位を中心に無数の管や機械が絡みつき、装置全体が青白く微かに光を放ちながら、稼働している気配を醸し出している。
「これは……一体?」
ノクスが目を凝らして装置を観察する。
「これ、どこかで見たことあるわねぇ……?」
グリオールが腕を組んで考え込む。
「ここは結界を張るのに関係する装置しかない筈です。どうしてこんなものが……?」
「……? 二人とも何言ってんだ? これって、さっき通ってきたやつだろ?」
「え? 通ってきたって……」
「それってまさか……転移ゲートのことぉ?」
「おう! 何かバチバチしてるし、違うのか?」
ライガは気楽そうに答えるが、二人は顔を見合わせる。
「確かに、旧式の転移ゲートはこういうデザインが多かったと聞きます。今は効率重視でシンプルだから気づかなかった……」
「ほんと、ライガちゃんの自由な発想力と観察眼には恐れ入るわねぇ。でも、どうしてこんな場所に転移ゲートが? それに、まだ稼働しているのも不可解よねぇ」
しかし、考えるのも面倒という態度で続けた。
「とにかく、現地調査はここまででいいんじゃない? あとは上に報告して、本格的な調査は大聖女様に任せましょ?」
「ええ、そうですね。もし下手に触って暴走したら大変です」
「何だよ、もう探検終わりか? つまんねーの……」
ライガは退屈そうに、装置から伸びる太いケーブルにどさりと腰を下ろした。
――――ガコンッ!!
「……んぁ?」
「……え?」
「……あら?」
三人の声が、ほぼ同時に重なった。
見ると、ライガが座った太いケーブルの接続部が無惨にも外れていた。
ロック機構が限界を迎えていたのか、すでにケーブルが抜け落ちている。
「お、おい……コレ、マズくね?」
ライガが青ざめながらケーブルを指差す。
「ライガ!? 何してんですかぁああああ!?」
ノクスが青ざめた顔で駆け寄る。
「ち、違ぇって! ただ座っただけだって!!」
ライガは急いで立ち上がり、両手を上げて否定した。
「――あ~らまぁ」
その様子を見たグリオールが、軽く首を振る。
「老朽化のせいで接続部が腐ってたのねぇ。そりゃ抜けても仕方ないわぁ」
その瞬間――装置が突如、赤く明滅しはじめた。警告音が、鋭く塔内に響き渡る。
『ビィィーッ……ビィィーッ……!!』
「なっ……!」
全員が振り返ったときには、すでに遅かった。
装置の中心が激しく光り出し、轟音とともに塔全体が大きく揺れる。
壁の継ぎ目から、砂のような細かい埃がパラパラと舞い落ちた。
「うぉっ! 何だこれ!」
思わずよろめいたライガが、目を見開く。
「ライガ、君ってやつは……! 褒めたばかりだったのに! ああもうっ!」
ノクスが頭を抱え、情けなさそうに叫んだ。すると、装置から黒い空間が次々と生じる。
「な、何だぁ? 黒いのがうようよしてるぞ?」
「あれは……まさか、浄化される前の魂……?」
「……はぁ!? どういうことだ?」
「ふぅ~ん? なるほど、何だか見えてきたわねぇ。今回の事件の全容……」
「なぁ、おい! あそこ!」
ライガが険しい表情で指さした先を、ノクスも視線で追う。
黒い液体がじわじわと空間の裂け目から漏れ出し、生き物のように蠢いている。
それは次第に形を整え、やがて異様な姿へと変貌した。
「あれは……まさか異形!?」
ノクスの目が見開かれ、冷たい汗が背中を伝う。
「おい! どんどん出てくるぞ!?」
液体の流出は止まらず、新たな異形が次々と生まれていく。
瞬く間に膨れ上がり、塔内部は異形たちで埋め尽くされようとしていた。
「分かってます! ライガ、出入り口に結界を張るのでしばらく持たせてください! グリオールは先に避難を!」
ノクスは声を張り上げ、結界術の準備を始めた。
だが、その手は僅かに震えている。状況は明らかに不利で、どれだけ持ち堪えられるかわからない。
「はぁ~い♡ んじゃ、お言葉に甘えて先に逃げてま~す♪」
グリオールは軽口を叩きながらも冷静に判断したのか、そそくさと出口へ向かっていった。
◆◇◆◇
「おらぁあああっ!!」
ライガの拳が異形を吹き飛ばす。
「ギィィィイイイ!!」
断末魔をあげた異形は黒い霧へと変わり、空間に溶けていく。
(なんだ、あれは……? 異形の形が崩れて、瘴気に変わった……?)
結界の中で様子を観察していたノクスは、その異様な変化を目の当たりにする。
「おらぁっ! あはははっ! 弱ぇえなぁ! もっと来いよ! ひゃははぁっ!!」
異形に対してではない。明らかにライガの態度がおかしい。
(何だ……? さっきより興奮している? いや、確かにライガは元々戦闘は得意だが、これは……?)
「ライガ! 何か変です。一旦、結界の中へ入りなさい!」
「うるっっせぇぇえ! 邪魔すんならテメェもぶっとばすぞぉぉぉおおお!!」
ノクスは驚愕した。確かにライガは普段から憎まれ口を叩くことはあるが、今の彼はまるで別人のようだ。
「これは、まさか――……!?」
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。