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第2章
第40話「浄化の術」
「う……っ、ゴホゴホ!」
ノクスの張った結界は、少しずつ強度が落ちていった。
塔に充満する瘴気が、じわりと内部へと染み込んでいく。
息を吸った瞬間、胸の奥が焼けるように熱く、思わず咳き込んだ。
喉がひりつき、肺の奥で軋むような痛みが走る。
「お、おい! ノクス、大丈夫か!?」
ライガの声が響く。その顔には珍しく焦りが滲んでいた。
「まずいですね。結界の効果が……ゴホッ! もっと術の鍛錬しとけば良かっ……ゲホッ!」
息を吸うたびに少量の瘴気が肺に入り、胸の痛みと共に視界の端がじわりと暗くなる。
頭ではまだ考えられるのに、体が思うように動かない。
「ノクス……」
ライガの低い声が耳に届く。
その響きには、彼らしくない迷いが混じっているように感じる。
「あはは。……大丈夫、あともう少しは保ちますよ。それよりライガは平気ですか?」
何とか呼吸を整えながら、必死に笑みを作って問いかける。
自分の声がわずかに震えているのがわかった。
「……あ、ああ。俺もまだ平気だ!」
ライガは強がるように短く答えたが、その目は明らかにこちらを気にしている。
(良かったと、言いたいけれど……。どちらにせよ僕が死ねばライガも消滅してしまう。早く……っ!)
胸中で焦燥が渦巻く。
瘴気を遮る結界の光が、目に見えて揺らぎ始めていた。
「……!? ノクス、何か塔全体が光り出したぞ?」
突然、床や壁が淡い光に包まれ始めた。
光は脈打つように広がり、まるで塔全体が息づいているかのようだった。
「……どうやら、間に合ったようですね」
ノクスはその反応を確認し、目の奥に決意を宿すと、ライガへと視線を向けた。
「ライガ、良いですか? よく聞いてください。これから僕は防衛結界を解いて≪浄化の術≫を発動します。しかし、結界の解除から術の発動までは若干タイムラグがあるんです」
「ってことは、その間は二人とも黒いモヤモヤの中ってことじゃねーか!」
ライガが顔をしかめる。
その反応から、先ほどの瘴気の中での出来事を思い出したのかもしれない。
「ええ。しかし外でエルト君も頑張ってくれていますし、ここでジリ貧になるよりはマシです。ライガは僕が倒れないよう、支えてください」
ノクスは息を整えながらも、冷静に言葉を重ねる。
しかしそれでも顔には大量の汗が滲み出ていた。
「あ、ああ! 分かった、俺が支えてやる!」
ライガも意を決したようだ。
その瞳の力強さには、安心感を覚える。
「……良い子ですね。では……行きますよ!!」
ノクスは深く息を吸い込み、結界の術式を解き放った。
瞬間、外界との隔たりが消え、せき止められていた瘴気が濁流のように押し寄せてくる。
空気が一瞬で重くなり、鼻の奥と喉を刺すような強烈な刺激が走った。
「うぶ……っ!!???」
あまりの濃さに、ノクスは咳き込み、全身が焼けるような痛みに顔を歪める。
それでも歯を食いしばり、術の発動へと意識を集中させようと立ち上がった。
「か……は……っ!?」
しかし足に力が入らず、脱力して視界が揺れる。
その体が傾いた瞬間、背後から力強い腕が支えた。
「ラ…イガ……」
掠れた声で名を呼ぶと、耳元で低く、必死な声が返ってきた。
「……しっかりしろ! 俺がついてるぞ!」
ライガの手が背をしっかりと押さえ、崩れ落ちそうな身体を支えてくれる。
だが、その彼自身も瘴気の直撃を受け、肩で荒く息をしていた。先ほどのように影響が出始めているのだろう。
「う……んぐ……っ。く……! 興奮なんて……してる場合じゃ……ねぇよ。ふぅ……っ、はぁ……っ」
目が血走りながらも、必死に自制するような声が聞こえてくる。
ライガの全身は震えていたが、それでも自分を支えるのに意識を集中してくれているようだった。
「全く、僕の人形は……ゴホッ! ……本当に、頼りがいがありますね……」
咳の合間に、ノクスは短く言葉を返す。
そして、自分を支える腕の温もりを背に感じながら、意識を術式へと集中させた。
「≪浄化の術≫……! 発動!」
術の発動と同時に、塔全体が金色の光に包まれた。
それは瘴気を押し返し、壁や床を清浄な輝きで覆い尽くしていく。
光は徐々に黒い瘴気を浄化し、重苦しい空気を吹き払っていった。
「やった……! やったぞノクス!」
と、ライガが振り返った瞬間。
「…………ゴホッ!」
ドサッ! っと、まるで荷物が崩れ落ちるような音が響いた。
「え? ノク……ス……?」
ノクスの張った結界は、少しずつ強度が落ちていった。
塔に充満する瘴気が、じわりと内部へと染み込んでいく。
息を吸った瞬間、胸の奥が焼けるように熱く、思わず咳き込んだ。
喉がひりつき、肺の奥で軋むような痛みが走る。
「お、おい! ノクス、大丈夫か!?」
ライガの声が響く。その顔には珍しく焦りが滲んでいた。
「まずいですね。結界の効果が……ゴホッ! もっと術の鍛錬しとけば良かっ……ゲホッ!」
息を吸うたびに少量の瘴気が肺に入り、胸の痛みと共に視界の端がじわりと暗くなる。
頭ではまだ考えられるのに、体が思うように動かない。
「ノクス……」
ライガの低い声が耳に届く。
その響きには、彼らしくない迷いが混じっているように感じる。
「あはは。……大丈夫、あともう少しは保ちますよ。それよりライガは平気ですか?」
何とか呼吸を整えながら、必死に笑みを作って問いかける。
自分の声がわずかに震えているのがわかった。
「……あ、ああ。俺もまだ平気だ!」
ライガは強がるように短く答えたが、その目は明らかにこちらを気にしている。
(良かったと、言いたいけれど……。どちらにせよ僕が死ねばライガも消滅してしまう。早く……っ!)
胸中で焦燥が渦巻く。
瘴気を遮る結界の光が、目に見えて揺らぎ始めていた。
「……!? ノクス、何か塔全体が光り出したぞ?」
突然、床や壁が淡い光に包まれ始めた。
光は脈打つように広がり、まるで塔全体が息づいているかのようだった。
「……どうやら、間に合ったようですね」
ノクスはその反応を確認し、目の奥に決意を宿すと、ライガへと視線を向けた。
「ライガ、良いですか? よく聞いてください。これから僕は防衛結界を解いて≪浄化の術≫を発動します。しかし、結界の解除から術の発動までは若干タイムラグがあるんです」
「ってことは、その間は二人とも黒いモヤモヤの中ってことじゃねーか!」
ライガが顔をしかめる。
その反応から、先ほどの瘴気の中での出来事を思い出したのかもしれない。
「ええ。しかし外でエルト君も頑張ってくれていますし、ここでジリ貧になるよりはマシです。ライガは僕が倒れないよう、支えてください」
ノクスは息を整えながらも、冷静に言葉を重ねる。
しかしそれでも顔には大量の汗が滲み出ていた。
「あ、ああ! 分かった、俺が支えてやる!」
ライガも意を決したようだ。
その瞳の力強さには、安心感を覚える。
「……良い子ですね。では……行きますよ!!」
ノクスは深く息を吸い込み、結界の術式を解き放った。
瞬間、外界との隔たりが消え、せき止められていた瘴気が濁流のように押し寄せてくる。
空気が一瞬で重くなり、鼻の奥と喉を刺すような強烈な刺激が走った。
「うぶ……っ!!???」
あまりの濃さに、ノクスは咳き込み、全身が焼けるような痛みに顔を歪める。
それでも歯を食いしばり、術の発動へと意識を集中させようと立ち上がった。
「か……は……っ!?」
しかし足に力が入らず、脱力して視界が揺れる。
その体が傾いた瞬間、背後から力強い腕が支えた。
「ラ…イガ……」
掠れた声で名を呼ぶと、耳元で低く、必死な声が返ってきた。
「……しっかりしろ! 俺がついてるぞ!」
ライガの手が背をしっかりと押さえ、崩れ落ちそうな身体を支えてくれる。
だが、その彼自身も瘴気の直撃を受け、肩で荒く息をしていた。先ほどのように影響が出始めているのだろう。
「う……んぐ……っ。く……! 興奮なんて……してる場合じゃ……ねぇよ。ふぅ……っ、はぁ……っ」
目が血走りながらも、必死に自制するような声が聞こえてくる。
ライガの全身は震えていたが、それでも自分を支えるのに意識を集中してくれているようだった。
「全く、僕の人形は……ゴホッ! ……本当に、頼りがいがありますね……」
咳の合間に、ノクスは短く言葉を返す。
そして、自分を支える腕の温もりを背に感じながら、意識を術式へと集中させた。
「≪浄化の術≫……! 発動!」
術の発動と同時に、塔全体が金色の光に包まれた。
それは瘴気を押し返し、壁や床を清浄な輝きで覆い尽くしていく。
光は徐々に黒い瘴気を浄化し、重苦しい空気を吹き払っていった。
「やった……! やったぞノクス!」
と、ライガが振り返った瞬間。
「…………ゴホッ!」
ドサッ! っと、まるで荷物が崩れ落ちるような音が響いた。
「え? ノク……ス……?」
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