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第2章
第42話「合成薬(コンポジット・エリクサー)」
(ああ……全身が痛い。これが死ぬ感覚なんだろうか……)
暗闇の中、ノクスの意識は途絶えかけていた。
ふと、遠い記憶の扉が静かに開いた。
まだ幼い頃のノクスは、広すぎる屋敷の中で、いつもひとり、誰にも構われることなく過ごしていた。
勉強ができれば褒められた。だからそれだけを繰り返した。でも、それ以外のものには、誰も目を向けてくれなかった――まるで、自分に価値なんてないかのように。
――静かな自分の部屋。
唯一、少年が心を許せたのは、自分の手で作った人形だけだった。
「……君は、ちゃんと僕のことを、見てくれるよね?」
本棚に寄りかけられた小さな人形に、彼は静かに語りかけていた。作って、話して、笑って、演じて。
それが“ひとり遊び”と呼ばれるものであると、理解している。
けれどそれでも、少年にとっては紛れもない救いだった。
人付き合いが苦手な彼にとって、人形だけが心を許せる「友達」だ。
しかし、どれだけ心を通わせようとしても、返ってくる言葉はなかった。そこには、温もりも、変化もなかった。
それは結局、本物ではなかったのだ。
――誰かと友達になりたい。
――誰かと笑い合いたい。
――誰かとおしゃべりしたい。
ずっと、届かないと知りながらも願い続けていた「誰か」。その姿が、ふいに脳裏に浮かぶ。
(……ライガ)
彼も人形には違いない。でも、ぶっきらぼうで、正直で、いつもぶつかってきてくれる。
人との距離感が分からなかった自分に、ためらいなく触れてくれた。
自分を偽らずにいられる、そんな相手が現れるなんて思いもしなかった。
(君は……僕をいつも見てくれる。純粋に、真っ直ぐに)
暗闇の中、ノクスの意識がかすかに明るい方へ引き戻されていく。
(ライガ……君に、会いたい)
彼の名を心の中で呼んだ瞬間、ノクスの指先がわずかに動いた。
同時に額から頬へ、何か温かいものが滴り落ちた。それはまるで、彼を包み込むように優しく、命を呼び覚ますような感触だった。
(……これは……何だろう? 温かい……。それに、体が、楽になっていく……?)
その温もりに導かれるように、ノクスの意識が、再び浮上していく――。
◆◇◆◇
「ふぃ――……!!」
「……っ!??」
ノクスが目を開けると、ライガの男の証から滴る黄金の液体が自分の顔にかかっている光景が飛び込んできた。
「おっ! ノクス、目ぇ覚めたのか!」
「ライガ……。あの、聞きたくないですが何をしているのですかね?」
「何って? ションベンだよ」
「――~~~~っっ!!?」
「あっ、あのあのっ! 僕から説明するのですよ!」
ライガを庇うようにエルトは慌てて説明をする。
◆◇◆◇
――それは数分前の出来事だった。
「……聖水の代替品を作る!?」
ライガはレオンの提案に驚愕した。
「そうだ。今から救援を呼んでも間に合わない。だからここで聖水の代替品を作る。エルト様が“合成薬”を作れる技術があるなら、ここにある材料で聖水の効能に近い薬も作れるはずだ」
「でも、材料を加工するのには錬金の窯ってのがいるんだろ?」
レオンはライガを真っ直ぐ見据えた。そして、指をライガの腹に向けて言う。
「窯ならここにある」
「えっ……!?」
「ライガ、お前の体を……窯の代わりに使うんだ」
――その突拍子も無い提案に、場の全員が凍り付いた。
「はぁああ!? 俺を錬金の窯に!? 冗談じゃねぇ!」
「お前しかいないんだ。ノクス様を助けたいならやるしかない」
「う……っ。でも……どうやって!?」
「簡単だ。材料をそのまま飲み込め。その後、エルト様に体内の成分を変化させてもらい合成薬を作り出す」
その突飛な提案に、エルトが慌てて訂正する。
「ままま待ってくださいです! あのっ、人間の合成は禁じられてて……」
「問題ありません。ライガは厳密には人間ではなく受肉人形ですから。そして……」
「ライガ、お前はどうする? このまま主人と共に消滅するか、それとも……」
「お、俺……、は……っ」
「本当なら……俺が代わってやりたい。だが、こればかりはお前にしか出来ないんだ」
◆◇◆◇
「……とまあ、そんな感じで見事俺の中で“聖水っぽい”効能のションベンができたってわけだ! へへっ!」
ライガが自信満々に笑う。しかし、ノクスの表情は引きつっている。
「なるほど。それで僕の顔面に、直接……?」
「おう! お前みたいなアホでも死んだら俺も困るからな! 仕方ねぇ!」
「ほほう……。仕方ない、ですか……」
「ちょ……っ、ライ、ライガ……くん? あの、後ろ……っ」
ケラケラ笑うライガの後ろで、今にもブチ切れそうな顔でリンク人形を構えるノクスを見て声が上ずっている。
「そうですかそうですか。仕方なく……うふふふ……ふふふ……」
ノクスの額には青筋が浮かんでいる。そして、リンク人形を構えると両足を持って、宙に浮かせた。
「うぉ……っ!? な、何だ!?」
ライガは、宙で逆さまになったかと思えば足が大きく開脚し始める。
ノクスはそのままリンク人形の両足を持って、左右に引っ張った。
「こんの……っ、バカ人形がぁぁぁああっ!!!!」
「いっでぇぇぇえええ!?? てんめぇ! 何しやがる!!」
「やかましいわぁああっ!! 主人の顔に小便ぶっかけた罰です!」
「いでぇ! 足! 足もげるぅ!!! やめろぉ!!」
「はわわわっ!! ライガくん~!?」
エルトが慌てて止めに入るも、ノクスの怒りは収まらなかった。
暗闇の中、ノクスの意識は途絶えかけていた。
ふと、遠い記憶の扉が静かに開いた。
まだ幼い頃のノクスは、広すぎる屋敷の中で、いつもひとり、誰にも構われることなく過ごしていた。
勉強ができれば褒められた。だからそれだけを繰り返した。でも、それ以外のものには、誰も目を向けてくれなかった――まるで、自分に価値なんてないかのように。
――静かな自分の部屋。
唯一、少年が心を許せたのは、自分の手で作った人形だけだった。
「……君は、ちゃんと僕のことを、見てくれるよね?」
本棚に寄りかけられた小さな人形に、彼は静かに語りかけていた。作って、話して、笑って、演じて。
それが“ひとり遊び”と呼ばれるものであると、理解している。
けれどそれでも、少年にとっては紛れもない救いだった。
人付き合いが苦手な彼にとって、人形だけが心を許せる「友達」だ。
しかし、どれだけ心を通わせようとしても、返ってくる言葉はなかった。そこには、温もりも、変化もなかった。
それは結局、本物ではなかったのだ。
――誰かと友達になりたい。
――誰かと笑い合いたい。
――誰かとおしゃべりしたい。
ずっと、届かないと知りながらも願い続けていた「誰か」。その姿が、ふいに脳裏に浮かぶ。
(……ライガ)
彼も人形には違いない。でも、ぶっきらぼうで、正直で、いつもぶつかってきてくれる。
人との距離感が分からなかった自分に、ためらいなく触れてくれた。
自分を偽らずにいられる、そんな相手が現れるなんて思いもしなかった。
(君は……僕をいつも見てくれる。純粋に、真っ直ぐに)
暗闇の中、ノクスの意識がかすかに明るい方へ引き戻されていく。
(ライガ……君に、会いたい)
彼の名を心の中で呼んだ瞬間、ノクスの指先がわずかに動いた。
同時に額から頬へ、何か温かいものが滴り落ちた。それはまるで、彼を包み込むように優しく、命を呼び覚ますような感触だった。
(……これは……何だろう? 温かい……。それに、体が、楽になっていく……?)
その温もりに導かれるように、ノクスの意識が、再び浮上していく――。
◆◇◆◇
「ふぃ――……!!」
「……っ!??」
ノクスが目を開けると、ライガの男の証から滴る黄金の液体が自分の顔にかかっている光景が飛び込んできた。
「おっ! ノクス、目ぇ覚めたのか!」
「ライガ……。あの、聞きたくないですが何をしているのですかね?」
「何って? ションベンだよ」
「――~~~~っっ!!?」
「あっ、あのあのっ! 僕から説明するのですよ!」
ライガを庇うようにエルトは慌てて説明をする。
◆◇◆◇
――それは数分前の出来事だった。
「……聖水の代替品を作る!?」
ライガはレオンの提案に驚愕した。
「そうだ。今から救援を呼んでも間に合わない。だからここで聖水の代替品を作る。エルト様が“合成薬”を作れる技術があるなら、ここにある材料で聖水の効能に近い薬も作れるはずだ」
「でも、材料を加工するのには錬金の窯ってのがいるんだろ?」
レオンはライガを真っ直ぐ見据えた。そして、指をライガの腹に向けて言う。
「窯ならここにある」
「えっ……!?」
「ライガ、お前の体を……窯の代わりに使うんだ」
――その突拍子も無い提案に、場の全員が凍り付いた。
「はぁああ!? 俺を錬金の窯に!? 冗談じゃねぇ!」
「お前しかいないんだ。ノクス様を助けたいならやるしかない」
「う……っ。でも……どうやって!?」
「簡単だ。材料をそのまま飲み込め。その後、エルト様に体内の成分を変化させてもらい合成薬を作り出す」
その突飛な提案に、エルトが慌てて訂正する。
「ままま待ってくださいです! あのっ、人間の合成は禁じられてて……」
「問題ありません。ライガは厳密には人間ではなく受肉人形ですから。そして……」
「ライガ、お前はどうする? このまま主人と共に消滅するか、それとも……」
「お、俺……、は……っ」
「本当なら……俺が代わってやりたい。だが、こればかりはお前にしか出来ないんだ」
◆◇◆◇
「……とまあ、そんな感じで見事俺の中で“聖水っぽい”効能のションベンができたってわけだ! へへっ!」
ライガが自信満々に笑う。しかし、ノクスの表情は引きつっている。
「なるほど。それで僕の顔面に、直接……?」
「おう! お前みたいなアホでも死んだら俺も困るからな! 仕方ねぇ!」
「ほほう……。仕方ない、ですか……」
「ちょ……っ、ライ、ライガ……くん? あの、後ろ……っ」
ケラケラ笑うライガの後ろで、今にもブチ切れそうな顔でリンク人形を構えるノクスを見て声が上ずっている。
「そうですかそうですか。仕方なく……うふふふ……ふふふ……」
ノクスの額には青筋が浮かんでいる。そして、リンク人形を構えると両足を持って、宙に浮かせた。
「うぉ……っ!? な、何だ!?」
ライガは、宙で逆さまになったかと思えば足が大きく開脚し始める。
ノクスはそのままリンク人形の両足を持って、左右に引っ張った。
「こんの……っ、バカ人形がぁぁぁああっ!!!!」
「いっでぇぇぇえええ!?? てんめぇ! 何しやがる!!」
「やかましいわぁああっ!! 主人の顔に小便ぶっかけた罰です!」
「いでぇ! 足! 足もげるぅ!!! やめろぉ!!」
「はわわわっ!! ライガくん~!?」
エルトが慌てて止めに入るも、ノクスの怒りは収まらなかった。
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