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第2章
第43話「サイドエピソード:一件落着」
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「……ふぅ、何とか自力で立ち上がれるまで回復したわねぇ?」
「……はい。良かった」
ノクスとライガのやり取りを少し遠目から見守っていたグリオールとレオンは、安堵の表情でそう告げた。
「それにしても、まさかライガちゃんがあそこまでやってのけるなんてねぇ……?」
グリオールは、ノクスが目を覚ます少し前の光景を思い返す。
◆◇◆◇
「あのあのっ! 待ってくださいなのです! 確かに、理屈では可能ですけど実際に彼の体内で聖水と同じ成分にするとなると……」
「ええ、かなりの材料を食べてもらう必要があります」
「あのでもっ! 味付け一切なしで素材そのまま食べるっていうのはさすがに……」
「――やる!」
「……え?」
「それでノクスが助かるんだろ? だったら何だってやってやる! どんなに不味くてもいくらでも食ってやる! だからやってくれ!」
◆◇◆◇
「……で、実際に材料全部食べ切っちゃうんだもの。本来、調合用の材料って食用じゃないから吐くほど不味いのにねぇ」
グリオールは、ライガがボロボロと涙をこぼしながら顔を歪めて食べ続けていた様子を思い出す。
時折、むせ返り何度も何度も吐き戻しそうになりながら、それでも食べ切った。
よほどノクスのことが心配だったのだろう。
「でもアンタ、“合成薬”なんてよく思いついたわねぇ?」
「……昔、どこかの愚か者に自分の作った貴重な薬をくれた人が居た……とライガが夢で見たそうです」
「ふぅ~ん? 夢ねぇ……」
グリオールはライガの背中をジッと見つめながら目を細める。
「でも正規の方法で作ってない以上、ほとんど聖水としての効果はなかったはずよね? それがあんなに回復するまで効能が跳ね上がったのは……」
クスッと笑うと、レオンの体の隅々をじっくりと眺めながら、唇の端を持ち上げた。
「さすが、色男は肉体の出来が違うわよねぇ?」
「…………」
「あの……レオンさん!!」
甲高い声が耳に届き、グリオールは視線を向けた。エルトが小走りでレオンと自分のもとへ駆け寄ってくる。
その小さな手は胸元でぎゅっと握り締められ、声はわずかに震えていた。動揺しているように見える。
「ボクのサポートしてくださって、本当にありがとうございました! あの……どうお礼を言えば良いか…!」
その言葉に、レオンは少し目を見開き、すぐに柔らかな微笑みを浮かべた。一歩前に進み出て片膝をつき、丁寧に頭を下げる。
「いいえ、今回お礼を言うのは俺のほうです」
レオンの真摯な態度に、エルトは一瞬固まったように見えた。
「エルト様、本当にありがとうございます。貴方のおかげで、ノクス様を救うことができました」
「そ、そんな……! いえいえいえ! ボクの力なんて、大したものじゃないです! むしろ、足手まといばかりで!」
慌てて首を振るエルト。その肩が小さく縮こまっているのが見えた。
「エルト様。貴方は、自分は足手まといだと仰いますが、それは事実ではありません」
レオンの低く穏やかな声が、周囲にもはっきりと響く。エルトの目がわずかに揺れた。
「貴方がいなければ、この状況を作ることは不可能だった。貴方がいてくれたからこそ、俺たちは希望を繋ぐことができた。それが真実です」
「え……? そ、そんな……っ」
「どうか忘れないでください。貴方は、素晴らしい才能と、人を支えられる優しさを持っています」
レオンの言葉には確かな力強さがあり、その場の空気が少し引き締まったように感じられた。エルトは驚きと戸惑いが入り混じった表情を見せ、口をぱくぱくと動かしたが言葉は出てこない。
「そして何より、“これは冥王の仕業ではない”とハッキリ否定してくださったあの言葉。俺は本当に救われた思いでした」
不意に、レオンがエルトの小さな手をそっと握った。その瞬間、エルトの顔は見る間に真っ赤になり、完全に言葉を失った。
「……ありがとう。君と出会えて、本当に良かった」
耳元で囁かれたエルトが、びくんと肩を震わせる。
次の瞬間――。
「あひゃぁああああっ!!!???」
――――バッタァァアアン!!(K.O.)
奇声を上げたまま、エルトは後ろへ派手に倒れこんだ。
「え、あのっ!? エルト様? エルト様、大丈夫ですか!!」
慌ててレオンが抱き起こし、額に手を当てる。どうやら意識を失ってしまったらしい。
(ああもう、また被害者が……。これだから無自覚ハーレムって嫌いよ!)
グリオールは呆れ混じりに頭を抱え、深く息を吐いた。
「……はい。良かった」
ノクスとライガのやり取りを少し遠目から見守っていたグリオールとレオンは、安堵の表情でそう告げた。
「それにしても、まさかライガちゃんがあそこまでやってのけるなんてねぇ……?」
グリオールは、ノクスが目を覚ます少し前の光景を思い返す。
◆◇◆◇
「あのあのっ! 待ってくださいなのです! 確かに、理屈では可能ですけど実際に彼の体内で聖水と同じ成分にするとなると……」
「ええ、かなりの材料を食べてもらう必要があります」
「あのでもっ! 味付け一切なしで素材そのまま食べるっていうのはさすがに……」
「――やる!」
「……え?」
「それでノクスが助かるんだろ? だったら何だってやってやる! どんなに不味くてもいくらでも食ってやる! だからやってくれ!」
◆◇◆◇
「……で、実際に材料全部食べ切っちゃうんだもの。本来、調合用の材料って食用じゃないから吐くほど不味いのにねぇ」
グリオールは、ライガがボロボロと涙をこぼしながら顔を歪めて食べ続けていた様子を思い出す。
時折、むせ返り何度も何度も吐き戻しそうになりながら、それでも食べ切った。
よほどノクスのことが心配だったのだろう。
「でもアンタ、“合成薬”なんてよく思いついたわねぇ?」
「……昔、どこかの愚か者に自分の作った貴重な薬をくれた人が居た……とライガが夢で見たそうです」
「ふぅ~ん? 夢ねぇ……」
グリオールはライガの背中をジッと見つめながら目を細める。
「でも正規の方法で作ってない以上、ほとんど聖水としての効果はなかったはずよね? それがあんなに回復するまで効能が跳ね上がったのは……」
クスッと笑うと、レオンの体の隅々をじっくりと眺めながら、唇の端を持ち上げた。
「さすが、色男は肉体の出来が違うわよねぇ?」
「…………」
「あの……レオンさん!!」
甲高い声が耳に届き、グリオールは視線を向けた。エルトが小走りでレオンと自分のもとへ駆け寄ってくる。
その小さな手は胸元でぎゅっと握り締められ、声はわずかに震えていた。動揺しているように見える。
「ボクのサポートしてくださって、本当にありがとうございました! あの……どうお礼を言えば良いか…!」
その言葉に、レオンは少し目を見開き、すぐに柔らかな微笑みを浮かべた。一歩前に進み出て片膝をつき、丁寧に頭を下げる。
「いいえ、今回お礼を言うのは俺のほうです」
レオンの真摯な態度に、エルトは一瞬固まったように見えた。
「エルト様、本当にありがとうございます。貴方のおかげで、ノクス様を救うことができました」
「そ、そんな……! いえいえいえ! ボクの力なんて、大したものじゃないです! むしろ、足手まといばかりで!」
慌てて首を振るエルト。その肩が小さく縮こまっているのが見えた。
「エルト様。貴方は、自分は足手まといだと仰いますが、それは事実ではありません」
レオンの低く穏やかな声が、周囲にもはっきりと響く。エルトの目がわずかに揺れた。
「貴方がいなければ、この状況を作ることは不可能だった。貴方がいてくれたからこそ、俺たちは希望を繋ぐことができた。それが真実です」
「え……? そ、そんな……っ」
「どうか忘れないでください。貴方は、素晴らしい才能と、人を支えられる優しさを持っています」
レオンの言葉には確かな力強さがあり、その場の空気が少し引き締まったように感じられた。エルトは驚きと戸惑いが入り混じった表情を見せ、口をぱくぱくと動かしたが言葉は出てこない。
「そして何より、“これは冥王の仕業ではない”とハッキリ否定してくださったあの言葉。俺は本当に救われた思いでした」
不意に、レオンがエルトの小さな手をそっと握った。その瞬間、エルトの顔は見る間に真っ赤になり、完全に言葉を失った。
「……ありがとう。君と出会えて、本当に良かった」
耳元で囁かれたエルトが、びくんと肩を震わせる。
次の瞬間――。
「あひゃぁああああっ!!!???」
――――バッタァァアアン!!(K.O.)
奇声を上げたまま、エルトは後ろへ派手に倒れこんだ。
「え、あのっ!? エルト様? エルト様、大丈夫ですか!!」
慌ててレオンが抱き起こし、額に手を当てる。どうやら意識を失ってしまったらしい。
(ああもう、また被害者が……。これだから無自覚ハーレムって嫌いよ!)
グリオールは呆れ混じりに頭を抱え、深く息を吐いた。
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