イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-

流右京

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第3章

第46話「サイドエピソード:リアナとライガ」

部屋は静けさを取り戻し、紅茶の香りが漂っている。

しかし、リアナの心はどこか落ち着かなかった。
言葉にしづらい感情が胸に引っかかり、視線を落としてはまたライガを見て、迷うように指を組み直した。

(……話しかけたい。でも、どう切り出せばいいのかな?)

たったそれだけのことがこんなにも難しいとは思わなかった。

大聖女としてではなく、一人の少女として誰かに言葉を向ける。そんな経験は、今までなかったからだ。

「あ、あの……っ。ライガくん……?」

まだノクスの文句をブツブツ言っているライガに、意を決して声をかける。

「んぁ? 何だ?」

「その、良ければ少し、お話しませんか?」

リアナは自分でも驚くほど緊張しながら言葉を紡ぐ。

「おう、良いぞ? で、何を話すんだ?」

ライガは気軽にそう言うと、ノクスの席に腰を下ろし、肘をテーブルに突きながらリアナを見つめた。

(……こういうところ、すごく気楽で羨ましいなぁ)

自分とはまるで違う存在。
でも、それが嫌なわけではなかった。むしろ、その自由な在り方に憧れさえ感じていた。リアナは小さく息を吸い込み、思い切って言葉を続けた。

「あの……、ライガ君。この前、なんですけど。私と、その……友達になろうと言ってくれましたね?」

ライガは少し驚き、目を瞬かせた後、すぐに笑顔になってうなずいた。

「おうっ! 言ったな!」

ライガは何の迷いもなく「言った」と答えた。それが当たり前のように、まるで少し前の会話を思い出す程度の気軽さで。

(私は……どうして、こんなにも緊張しているの?)

「…………っ!」

気づけば、顔が熱を帯びていた。視線を逸らそうとしたが、ライガが不思議そうにじっとこちらを見ている。

「……どした? 何か耳まで真っ赤だぞ?」

「い、いえいえっ!」

慌てて否定するが、顔の熱は引かない。

「その、私……今まで友達というものができたことなくて……。あ、大聖女なので当然なのですけど」

何とか言い訳を口にすると、ライガは不思議そうに首をかしげた。

「ふ~ん……? じゃあさ、悩みとかはないのか?」

「え? 悩み……ですか?」

予想外の問いにリアナは驚きの表情を浮かべる。

「うん。実はさ、俺……最近よく変な奴の夢見るんだけど。そいつ、いつもずっと悩んでるんだ。でも、周りには誰も悩みを話せなくて」

ライガの口調が、ふと真剣なものに変わった。

「その方は……ずっとお一人だったのですか?」

「おう。周りの連中は、いつもそいつのこと『凄い』とか、『さすがだ』ってもてはやしてた。けどさ、そんな一方的に期待を押し付けられたら、誰にも弱音なんて吐けなくなるじゃん」

その言葉を聞いた瞬間、リアナの心が小さく波打つ。

(……それって)

それは――まるで自分自身のことのように感じ、言葉が詰まった。

「弱音が吐けない……ですか。確かに、それはプレッシャーでしたでしょうね。いえ、むしろ毎日のようにもてはやされていたら……」

「そうそう! そうなんだよ! 何かさ、そいつも段々『もうウンザリだ』って思うようになっていったんだ」

その言葉を聞いたリアナの胸に小さな波紋が広がった。

「……少し、分かる気がします」

思わず、そう呟いた。

「私も、大聖女になってから周りの期待に応えようと必死でしたから……」

自分の心の奥底にある感情を、初めて誰かに吐き出したような気がした。

「ずっと、重責に押しつぶされそうになってて……。どうして良いか、分からないんです」

「どうして良いか、分からない……?」

「他の、大聖女の方々との会議でも……私だけ除け者にされているような、そんな雰囲気があって……。それでも、逃げだすことはできないから……」

「除け者……? みんな、お前のこと嫌いなのか??」

「いえ、明言された訳ではないんです。ただ、そんな……気がして」

「……?? 気がする?」

「うぅ……、ええっと……。何と言って良いか。その、モヤモヤする……みたいな」

「ああ! モヤモヤか! そうだな、それなら俺も分かるぞ!」

「……え?」

「俺さ、俺も……何つーか、モヤモヤがあったんだ。どうして良いか、分かんないってやつ。リアナと同じだ」

少し間を置き、続ける。

「でもさ、ノクスに話したんだ。最初、正直に話すのちょっと怖かった……けど。 でも、話してるうちに何かスッキリしてきたんだ」

「……話す……ですか」

「少し……羨ましいです。私にも……そんな人が居てくれたら……」

「んぁ? 何だよ、お前何言ってんだ? もう俺が居るだろ?」

ライガは無邪気にニカッと笑った。

「え……あの……っ、でも、だって……」

「だって、友達だろ? 俺達!」

ライガの言葉に、リアナは目を見開いて驚いた。しばらくその場に静けさが広がり、リアナは少し照れたように頬をかきながら言葉を続ける。

「……ええ、そうですね。私達……お友達ですよね?」

曇りのない真っ直ぐな目を見て、リアナの心が少し温かくなった。彼の言葉は、思っていた以上に力強く、心に響いた。

「へへっ! 俺、リアナと友達になれて嬉しいぞ! 本当だぞ!」

屈託のない満面の笑みを見せるライガ。
その笑顔につられるように、リアナの頬も自然と緩んでいった。

「ありがとう、ライガ君」

リアナは自分が長い間抱えていた孤独感が、少しずつ解けていくのを感じた。
それは、ライガの無邪気で温かい言葉があったからこそ、だった。

「おう! これからもよろしくな!」

ライガの言葉に、リアナは心からうなずき、少しだけ安心したように肩の力が抜ける。
“友達”という言葉の本当の意味を、ようやく理解できた気がした。
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