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第3章
第50話「アイツの名前」
「……は? ノクス、いま何て言った……?」
ライガの声音には、驚きと苛立ちが入り混じっている。
沈黙の間、リアナも小さく息を呑む。彼女の顔にも、信じられないという感情がありありと浮かんでいた。
「分かりません。ただ、事実としてここに名前が載っているのです」
そう告げながら、ノクスは紙面の該当箇所を指で示した。
ライガの視線が資料へ落ちる。
文字を追うその目は明らかに迷子だ。
「ええと……? これが、アイツの名前なのか? 読めねぇ」
……でしょうね、とノクスは心中で呆れる。
黙り込むライガを横目に、ノクスは後方に立つレオンへと視線を送った。
「レオン君、至急グリオールに確認したいことがあります。彼は今どこに?」
その問いに、レオンの喉が一度上下する。しかし返事は返ってこない。
「…………っ」
言葉を発する代わりに、彼は口を開閉させ、空気を掴むように舌を動かしていた。まるで見えない縄で喉を縛られているかのようだ。
「もしかして、喋れない……いや、息が出来ないのですか!?」
レオンは短く頷いた。
額に薄く汗が浮かび、その呼吸は浅く途切れがちだ。
「すみ、ませ……っ。俺、言葉……制限、掛かっ……」
途切れ途切れに漏れる声。肺を圧迫する何かと必死に格闘しているようだった。
(もしや、グリオールがレオン君に何か細工を……?)
レオンの様子から、自分に都合の悪い答えは喋れないよう、何かしらの術を掛けているようだ。
このままでは、レオンが呼吸困難で倒れてしまう。
ノクスは咄嗟に話題を変えた。
「分かりました。グリオールの居場所についてはもう聞きません。それなら大丈夫ですか?」
「~~…っ! ぷはっ、はぁ……っ。はい、大丈夫です」
声が戻ると同時に、レオンの顔色にわずかな血色が戻る。胸の上下も徐々に落ち着き、彼は深く息を吐いた。
やはり、彼からグリオールの居場所を聞き出すのは困難なようだ。
しかしこの状況は逆に、“いま自分の居場所を知られたくない”と暗に説明しているようなものではないだろうか?
ノクスは即座に次の手を探るが、心の中にわずかな苛立ちが残る。
情報源を押さえていながら、それに触れることすら許されない状況。政務官として、これほど動きを縛られることはない。
「ダメです。≪伝通の術≫にも応答がない……。グリオールさんは今どこに居るのでしょう……?」
リアナの報告が追い打ちをかける。
ノクスは小さく頷き、視線を机の上の資料から彼女へと移した。
「仕方ありません。グリオールには聞きたいことがありますからね。レオン君がダメなら、自分で探すしかない……。何か方法を考えないと」
「探すって、どうすんだよ」
苛立った声を漏らすライガ。
「そうですね……。そういえば、前に転移ゲートを触っていた際、機能一覧を見た記憶が……」
ノクスは、前回の地上界へ調査に行った際にパネルを操作していたことを思い出す。
そう、確か……。
「……あの機能を使えば! よし、いけるかもしれません」
席を立ちあがったノクスは、リアナに視線を向けた。
「そうだ、リアナ様。もし予言の書が書き換わっていたなら……」
「ええ。これから何かが起こる……ということですね。どちらにせよ予言が出てそろそろ半年、“六つの月が過ぎし時”に合致します。私は他の守護者と契約している天人達を集めて、防衛に当たります」
ノクスはその言葉を胸に刻み、資料を抱え直す。
「ノクス政務官、この書類に関しての調査、お願いできますか?」
「分かりました。お任せください!」
視線を交わし合う。彼女の瞳には、揺らぎのない決意が宿っているように見える。
「至急、他の大聖女を集めて緊急会議をしなければいけませんね。お二人とも……ノクスさんをお願いします」
リアナの視線がライガとレオンに向けられる。
「おうっ! 任せとけ!」
ライガの快活な返事に続き、レオンも無言で深く頷いた。
その様子を見ながら、ノクスは心中で小さく息を整える。
「さぁ、僕たちは急いで転移ゲートに向かいましょう! グリオールの後を追わないと」
ライガの声音には、驚きと苛立ちが入り混じっている。
沈黙の間、リアナも小さく息を呑む。彼女の顔にも、信じられないという感情がありありと浮かんでいた。
「分かりません。ただ、事実としてここに名前が載っているのです」
そう告げながら、ノクスは紙面の該当箇所を指で示した。
ライガの視線が資料へ落ちる。
文字を追うその目は明らかに迷子だ。
「ええと……? これが、アイツの名前なのか? 読めねぇ」
……でしょうね、とノクスは心中で呆れる。
黙り込むライガを横目に、ノクスは後方に立つレオンへと視線を送った。
「レオン君、至急グリオールに確認したいことがあります。彼は今どこに?」
その問いに、レオンの喉が一度上下する。しかし返事は返ってこない。
「…………っ」
言葉を発する代わりに、彼は口を開閉させ、空気を掴むように舌を動かしていた。まるで見えない縄で喉を縛られているかのようだ。
「もしかして、喋れない……いや、息が出来ないのですか!?」
レオンは短く頷いた。
額に薄く汗が浮かび、その呼吸は浅く途切れがちだ。
「すみ、ませ……っ。俺、言葉……制限、掛かっ……」
途切れ途切れに漏れる声。肺を圧迫する何かと必死に格闘しているようだった。
(もしや、グリオールがレオン君に何か細工を……?)
レオンの様子から、自分に都合の悪い答えは喋れないよう、何かしらの術を掛けているようだ。
このままでは、レオンが呼吸困難で倒れてしまう。
ノクスは咄嗟に話題を変えた。
「分かりました。グリオールの居場所についてはもう聞きません。それなら大丈夫ですか?」
「~~…っ! ぷはっ、はぁ……っ。はい、大丈夫です」
声が戻ると同時に、レオンの顔色にわずかな血色が戻る。胸の上下も徐々に落ち着き、彼は深く息を吐いた。
やはり、彼からグリオールの居場所を聞き出すのは困難なようだ。
しかしこの状況は逆に、“いま自分の居場所を知られたくない”と暗に説明しているようなものではないだろうか?
ノクスは即座に次の手を探るが、心の中にわずかな苛立ちが残る。
情報源を押さえていながら、それに触れることすら許されない状況。政務官として、これほど動きを縛られることはない。
「ダメです。≪伝通の術≫にも応答がない……。グリオールさんは今どこに居るのでしょう……?」
リアナの報告が追い打ちをかける。
ノクスは小さく頷き、視線を机の上の資料から彼女へと移した。
「仕方ありません。グリオールには聞きたいことがありますからね。レオン君がダメなら、自分で探すしかない……。何か方法を考えないと」
「探すって、どうすんだよ」
苛立った声を漏らすライガ。
「そうですね……。そういえば、前に転移ゲートを触っていた際、機能一覧を見た記憶が……」
ノクスは、前回の地上界へ調査に行った際にパネルを操作していたことを思い出す。
そう、確か……。
「……あの機能を使えば! よし、いけるかもしれません」
席を立ちあがったノクスは、リアナに視線を向けた。
「そうだ、リアナ様。もし予言の書が書き換わっていたなら……」
「ええ。これから何かが起こる……ということですね。どちらにせよ予言が出てそろそろ半年、“六つの月が過ぎし時”に合致します。私は他の守護者と契約している天人達を集めて、防衛に当たります」
ノクスはその言葉を胸に刻み、資料を抱え直す。
「ノクス政務官、この書類に関しての調査、お願いできますか?」
「分かりました。お任せください!」
視線を交わし合う。彼女の瞳には、揺らぎのない決意が宿っているように見える。
「至急、他の大聖女を集めて緊急会議をしなければいけませんね。お二人とも……ノクスさんをお願いします」
リアナの視線がライガとレオンに向けられる。
「おうっ! 任せとけ!」
ライガの快活な返事に続き、レオンも無言で深く頷いた。
その様子を見ながら、ノクスは心中で小さく息を整える。
「さぁ、僕たちは急いで転移ゲートに向かいましょう! グリオールの後を追わないと」
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