イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-

流右京

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第3章

第54話「冥界ヘルフレイル」

ノクスたち一行は城の中を進んでいた。

「あの、なんかどんどん進んでますけど、勝手に中へ入っちゃって良かったのでしょうか?」

「大丈夫だ。俺、ここには前に来たことある」

「え……? ライガ、今何と?」

「何となくだけど俺、ここには前に来たことある気がするんだ。この冥王城にな」

「え……? えええぇっぇぇぇ!? めめめ…冥王城!? ……ってことは、ここは冥界ヘルフレイル!?」

「……んだよ、雰囲気で大体分かるだろ?」

「いやいやいや、分かってたまるか! どどど……どういう事です!? 何で、いつの間に冥界へ来てるんです!? まさか転移ゲートの誤作動? いや、それよりここを知っているとはどういう事!???」

「……ああもうっ! うっせぇなぁ、俺だって上手く説明できねーよ。何となくだよ、何となく!」

やり取りを交わしながら進んでいくと、一行は広間のような部屋へとたどり着いた。

奥には段差があり、その頂上にはポツンと椅子のようなものが置かれている。

「あれは……?」

「こういうの、絵本で見たことあるぞ。あれって王様が座ってる椅子だよな」

「ということは、ここは玉座の間でしょうか。まさかグリオールも転移ゲートの誤作動でここに飛ばされて……?」

「……誤作動では、ありません」

いつの間にか口がきけるようになったのか、レオンが静かに語りかける。

「……レオン君?」

ノクスは彼の言葉にハッとした。

「そういえば……。確か転移ゲートにはレオン君から情報を機械に読み取らせて起動しましたよね? そしたら冥界ヘルフレイルへ通じてしまった……」

「……はい、その通りです」

レオンは、まるで覚悟を決めたように続けた。

「……俺は、ここで生まれました。だから俺の情報を読み取れば、ヘルフレイルに繋がることは分かっていた」

「ここで……生まれた? レオン君、君は一体……?」

「ノクス様。俺、本当は……」

――と、その時だった。

シュルルル……バシィ!!!
どこからともなく現れた縄が、ライガとレオンを縛り上げた。

「んな……っ!? 何だこりゃ?」

「こ……これは……っ、≪束縛の術バインディング≫!?」

パチパチパチ……。

静寂を破るように、拍手と共に人影が現れる。
ゆっくりと姿を見せたその人物を見たノクスは険しい表情を浮かべた。

「……やはり貴方でしたか」

「ノクス? おい、どういうことだよ!」

ノクスは目の前の人物を睨みつけながら答えた。

「……最初に感じた違和感、それは例の巨人が現れた時に貴方にリアナ様の≪伝通の術コンタクト≫が通じたことです。旧転移ゲートの誤作動によって、あの時間帯での新規接続術式は使用不能だったのに何故通じたのか。それは初めから誰かが連絡してくるのを見越して、予め自分へのチャンネルを開通させていたから」

人影はニヤリと笑う。

「そのタイミングで、まるで僕たちに見せつけるように召喚した青年にわざと【ステータスオープン】させるよう誘導した。あれは自分が殺される瞬間を誰かに目撃させる為の演出だったんです。恐らく元の計画では、巨人の出現に気付いて接触してきた南聖堂の職員あたりを証人に仕立て上げるつもりだったのでしょうね」

人影は口角を吊り上げ、喉の奥で笑い声を漏らした。

「巨人に潰された後、貴方の服の切れ端一つ見つからなかったそうです。あの時、ライガが発見した空間の歪み。実はあの時、潰されたように見せかけて召喚の間へ逃げ込んでいた。つまり狙いは、わざと自分が死んだように見せかけることだった」

「……違いますか!? ジルミス様!!」

人影に光が差し込み、その姿があらわになる。
そこに立っていたのは、あの老人だった。

「……ほっほっほ! お察しの通りです。しかしそれはあくまで状況証拠。どこで確信を得たのでしょうかね?」

―――その時、ノクスはレオンの視線に気付いた。

互いに目で合図を送り、コクリと頷く。
そして、ジルミスに振り返ると懐から資料を取り出した。

「証拠は、これです。東聖堂の資料室で見つけました」

ノクスは懐から書類を取り出し、ジルミスに見せつけた。

「この資料によれば、貴方は政務官時代に転移ゲートの運用を担当していた。そして、廃棄数を偽り、処分費用をピンハネしていた」

「……ほう」

ジルミスの唇が吊り上がる。
ノクスは資料を指差しながら一つ一つ指摘していく。

「しかも巧妙なことに、各業者や部署ごとに“部分的”かつ“分散的”に改ざんしていた。ある業者は納品数を水増しし、別の業者は処理日数を短縮。貴方はそれらをまとめ、整合性があるように見せかけた。単体の帳簿だけでは矛盾に気付けない――完璧な隠し方です」

「ほっほっほ。“木を隠すなら森の中”。確か、異世界のことわざでしたかな?」

「そう――下手に削除するより、正常に見せかける方が不正はバレにくい。だから帳簿は残し、中身だけを少しずつ書き換えた。整然と並ぶ書類、押印も完璧。誰も疑わない、“理想の管理簿”です」

ノクスの声が冷たく響く。
ジルミスは目を細め、楽しげに笑った。

「恐らく、白い塔への廃棄を業者に指示したのも貴方ですね?」

「ほう……その口振りから察するに、白い塔も既に調査済みのようですな? まったく、ご苦労なことで」

「しかし、放置された旧ゲートのいくつかが暴発を起こした。
不正が露見するのを恐れた貴方は、自ら調査に動いた――そうでしょう?」

その言葉に、ジルミスの眉がかすかに動いた。

「地上界テラアースの“白い塔”に廃棄されていた旧転移ゲート。誤作動を確認したその時、今回の計画を思いついた――違いますか?」

「ククク……お見事。あのゲートが魂の安置空間を繋いでいたのは偶然でしたがね。 これを天界にぶつければ面白いことになると思いまして」

「自分の死を偽り、天界に異形をけしかけて、貴方は何がしたいのですか?」

「ふふ、私の目的? 目的ですか? そうですねぇ…?」

ジルミスがふっと目線を逸らした瞬間――……。

「―――ノクス様!」

その掛け声を聞いたノクスはすぐに後ろを振り返り、レオンとライガの方向へ駆け出した。

―――ズバッ! ブチブチブチ!!

レオンは足に装着していたナイフを素早く引き抜き、自らを縛る縄を断ち切る。

そして、軽やかに地面を蹴り、すれ違いざまにノクスにナイフを手渡した。

「……ナイスです! レオン君!」

ノクスがナイフを受け取った瞬間、レオンはすぐさまもう片足に装着されていたナイフを抜き放ち、一直線にジルミスへと突進する

「ほほぅ、これはこれは! なるほど、先ほどの推理ショーはこのための時間稼ぎでしたか!! これは参りましたねぇ!」

「――――はぁぁあああっ!!!」

レオンは勢いよく跳躍し、ジルミスに向かって刃を振りかざした。

―――バチバチバチ!!!

「……ぐぁっ!? ……っ!??」

しかし、その刃は届かなかった。突如としてジルミスとレオンの間に巨大な透明の壁が出現し、次の瞬間、壁から放たれた雷のような電撃がレオンを貫く。

ズガガガ……ドゴッォォォォン!!!!

衝撃波が炸裂し、レオンの身体は壁へと叩きつけられた。

「……レオン君!?」

ノクスはすぐにレオンから受け取ったナイフでライガの縄を切る。

「……兄ちゃん!!」

自由になったライガは即座に駆け寄り、倒れ込んだレオンの体を支えた。

「……ぅ……ぐ……っ」

「こ、これは……!? ≪矛盾の壁パラドックス・ウォール≫!? 防御と反撃を同時に行う高等術式……」

「ほっほっほ! いやぁ、初めてにしては上手くできましたねぇ? これは面白い!」

「ま……っ、待ってください! どうしてそんな術が使えるんです!? 本来、それは天人数人でやっと発動できる術のはず……!」

「その表現は少し違いますねぇ~。正確には“天人数人分の魂力で”……です。ククッ」

「相当量の魂力が必要という点では同じでしょう!? 天人一人分の魂力では発動条件が合わないと言っているんです!」

「ククク……。まぁまぁ、少しお待ちなさい。そろそろ時間です」

「時間? 一体何の……?」

「さて、ここで面白い見世物があります。貴方も御覧なさい」

ジルミスは余裕たっぷりに指をパチンと弾いた。

すると、空間に揺らぎが生じ、巨大なスクリーンが現れる。

「あ、あれは……?」

映し出されたのは、中央大聖堂の広場。

そこでは、守護者たちが異形の怪物たちと必死に戦っている光景だった。

「ああ。そうそう! さっきの推理ショー良いですねぇ。私もおしゃべりさせてくださいよ。ずっと誰かに話したくてうずうずしていたのです」

ジルミスはまるで自慢話をするかのように恍惚とした表情で話し始めた。

「貴方は疑問に思いませんでしたか? 異形が天人達を襲う理由。それはもちろん、私がそう仕向けたのです」

「襲いたくなるように仕向けた……? どういうことです!?」

「おや、気づきませんでした? 彼らは、元々は浄化される前の地上人の魂。異形として歪んでも、それなりに意思はあるのです。そして、彼らがもっとも憎んでいる存在といえば?」

「ま、まさか……!!」

「せいかい~! そう、私はただ、彼らの認識を少し歪めただけ。あの異形たちは、自分以外の生物が全て“冥王”だと錯覚しているのです!」

「そ、そんな馬鹿な! 彼ら地上人は“冥王”に会ったこともないのに!」

「そう! そうです、それですよ。会ったこともないからこそ、み~んな他人が“冥王”だと思い込めるんです!! 貴方も知っているでしょう? テラアースの地上人は一度思い込むと頑なにその考えを変えようとしない他責思考文化。そして、幼子の頃から常習的に憎しみの対象と教えられてきた存在に突然出会ったらどうします? 怒りに身を任せて襲い掛かりたくなるでしょう? あははははっ!!」

「~~~~~っ!!」

ノクスはギュッと拳を握る。

もちろん、エルトを含め全てのテラアースの地上人が冥王を憎んでいる訳ではないだろう。

しかし、全ての責任を冥王に押し付けていたあの村の現状を鑑みるに、納得してしまう。

「おっと、あの巨人だけは別ですよ? あれは先ほど貴方が仰ったように私の死を偽装する為に魂を練って作った代物。貴方がたが何をせずとも、時間がきたら証拠隠滅に起爆するよう術式を仕込んでおいたのです」

まるで、自画自賛するようにジルミスは続ける。

「さぁ、ここからが本題。君は塔で面白い現象を体験しませんでしたか?」

「……っ! まさか!」

「ふふっ、ほぅら……そろそろ始まりますよ?」

そして、スクリーンに目をやると――……。
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