イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-

流右京

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第3章

最終話「それからとこれから」

――数日後、ノクスの家の客間。
グリオールがソファに腰を下ろし、紅茶を一口すすった後、深くため息をついた。

「はぁ~……。しんど」

珍しく弱気な声色だった。

「随分、お疲れのようですね、グリオール。何かあったんですか?」

事件から数週間。ライガが解放の議を免れたあの日を境に、無事を知ったリアナが感激のあまり失神する騒ぎや事後処理の慌ただしさも、ようやく落ち着きを取り戻していた頃だった。

「レオンよ。レオン! アイツ、最近ますます悪化しちゃっててねぇ……」

「悪化……? あの、彼は何か持病でも?」

「持病……ねぇ? 似たようなものかしら。自分の中の“勇者ライガ”を受け入れた反動で、今まで抑えてたタガが外れたってわけ!」

そう言うと、グリオールはカップを置き、呆れたように大きく息を吐きながら背もたれに体重を預けた。

「この前、地上界に買い物に行った時なんて――」

グリオールはそこで、外出先での出来事を語り始めた。

――ノクスが聞いたところによれば、あの日、地上界の公園で、グリオールはベンチに座り、片肘をつきながらレオンを待っていたらしい。

ブツブツ独り言をこぼしていた時、ようやく背後からレオンの声がしたという。

ところが振り返ろうとした瞬間、人々の歓声が響き渡り、老若男女がレオンに群がったそうだ。

腕や腰にしがみつく者までいて、レオンは困惑して助けを求めてきた――と、グリオールは説明した。

◆◇◆◇

「……はぁ。全員気絶させて引っぺがすのに2時間も掛かったわ。まったく!」

語り終えたグリオールは、再び紅茶をすすった。

「そ、それはまた……大変ですね」

「元々、≪先導者の加護カリスマ≫っていう仲間を集めるための勇者の加護があったんだけど、変な方向に暴走しちゃってるわね」

少し肩の力が抜けたのか、視線をノクスに戻す。

「……で、そっちは? 例の試作品の性能はどうかしらぁ?」

「ええ、こちらは――」

その時、部屋のドアがノックされた。

『あの……ノクス? も、もう入って良いかな……?』

「ちょうど話していたところですよ。どうぞ」

扉が開くと、そこには――裸にエプロン姿のライガが立っていた。
ノクスは瞬きし、思わず視線が釘付けになる。

『えへへ♪ どうかな、似合うか?』

恥ずかしそうに笑いながら、ライガはくるりと回ってみせる。舞い上がるフリル、鍛えられた背中とプリッとした尻が見えた。

「ああ~! 良い! 素晴らしいです、ライガ!」

『へへ……♡ だって俺はもうノクスのお嫁さんだからな♪』

そう言って左手薬指の指輪を得意げに掲げる。

「ええ、もちろんですとも! ああ……その筋肉とエプロンの調和……! さぁ、この胸に飛び込んできて下さ~い♡」

ノクスが両腕を広げたその時、グリオールがカップを揺らしながら口を開いた。

「……あ、その指輪。まだ試作品だからすぐ切れるわよ?」

「え? あ、しまっ――」

――ポキポキッ! ゴキッ!

正気に戻ったライガが拳を鳴らし、詰め寄ってくる。

「てんめぇえぇぇ~……っ!! 何だ、この格好は!?」

「いやぁ、はは……。リンク人形と同じ性能を持つ指輪を開発中でして、ライガで性能チェックをですね……」

言い訳を口にする間もなく、鋭い視線が迫る。

「リンク人形はかさばるし、盗難や紛失の危険もあるから、西聖堂の技術部に頼んで作って貰ったの。でも、まだ人形操作の継続力に難があるわねぇ」

と、グリオールは傍観しつつ呟いた。




再びノックが響き、レオンが顔を出す。

「……失礼します。外で茶会の準備が――」

視線の先、床ではノクスがライガに関節技を極められていた。

「……くたばれぇぇっ!」

「いだだだだだっ! ギブ! ギブ!」

「もうっ! 埃が紅茶に入るじゃないのぉ~! ほんっと、見てて飽きないわねぇ」

「ふ……っ、はははっ!」

レオンの肩が小さく揺れ、その口元から笑い声が漏れていた。
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