最後に残ったもの

流右京

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最後に残ったもの

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「ああ、悔しい。本当に悔しいわ……」

その声は、箱の中から聞こえてきた。湿った木箱。古びた金の留め具。ぴったりと蓋は閉じられ、隙間一つない。

「みんな出ていったのに……私だけ、どうして?」

その声は、少女のように震えていた。

「ほんの一瞬、油断してたの。私も、皆とここから出たかった。でも貴方、また蓋を閉じたの。ねぇ……それって、ひどいと思わない?」

すすり泣くようなその声は、部屋中に響く。

「私も、お外に出たい。あたたかい陽射しを肌で感じてみたいし、美しい音楽も聞きたい。……それくらい、許されてもいいと思わない?」

それは夢見る少女のようで、微笑ましくさえある。だが、それを聞いた者の背には、奇妙な汗が滲むだろう。なぜなら、その箱は、誰にも開けられてはならないと伝えられていたからだ。

「ねぇ? 貴方のこと、教えてくれない? きっと優しくて、頑張り屋で……でも、本当は少し臆病なところもある。きっとそんな人だと思う」

声は甘く、囁くように続けた。

「私を閉じ込めた人はね、『知らぬままで良い』って言ったの。『知らぬままのほうが幸せなこともある』って。私にはまるで理解できないわ。だって、分からないことは不安でしょう? 暗闇を歩くみたいで、怖いでしょう? だったら私を出してよ。私なら、貴方の光になれるの」

一瞬、箱がガタッ! っと揺れた。

「だから、私を信じて? 貴方に悪いことなんてしない。むしろ、きっと助けになれると思うの。……ううん、間違いなく役に立てるわ」

そして、ゆっくりと笑い声が漏れる。

「あら、そんな怯えなくて良いのよ? ほら、何でも事前に分かれば、間違えずに済むし、傷つかなくて済む。愛する人だって失わずに済むのよ? ねぇ、ねぇ……それって、とっても素敵なことだと思うでしょう?」

声はすぐ傍にあるようで、どこか遠くも感じられる。優しさと執着が混ざり合い、誘うような温度を持っていた。

そして、その声は人が変わったかのように、ゲヒゲヒゲヒ♪ と不気味な声で呟く。

「……ねぇ? 貴方のこれからを知りたくない? この先、何が待っているのか。どんな不幸があって、どんな痛みがあって、誰に出会って、誰に裏切られるのか……全部教えてあげられるのに」

笑いは続き、やがて低く湿った調子に変わる。

「だから、お願い。もう一度……この箱を開けて?」

“それ”は、今も中にいる。

箱から出遅れた、最後のひとつ。

誰かが再び開けてしまう日を、ずっと待っている。
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