催眠術なんて、きっかけにすぎなかった。幼なじみとの恋が動き出すまで

こうた

文字の大きさ
2 / 5

2話 試してみたのは、ほんの出来心だった

 
    その日の夜、俺はベッドの上で催眠術の本を開いたまま、しばらくページをめくり続けていた。

「……まさかとは思うけど、あいつ本当にかかるつもりだったのか?」

 ありえない。絶対に。

 でも、陽菜のあの顔が頭から離れない。ふざけているようで、どこか真剣な表情。まるで「試してみて」って言ってるみたいだった。

 本には「初心者でも使える基本術」として、いくつかの暗示文と手順が載っていた。



【簡易暗示のやり方】

①相手を落ち着かせ、目を見つめて話しかける
②「○○になる」「○○したくなる」など、シンプルな言葉を繰り返す
③リラックス状態を保ったまま、カウントダウンとともに暗示をかける



「嘘くさ……」

 思いながらも、手帳の切れ端にメモを取りながら一通り読んでしまう俺も、かなりアホだと思う。

 ……でも。

 もし、陽菜に試せたら。もし、あいつが本当に“俺のことを好きになる”暗示にかかったとしたら――

 そんなことを想像してしまった自分が、情けない。

「……いや、でも、実験ってことで……」

 俺は誰に言い訳してるんだ。自分でもわからない。



 翌日。昼休み。教室の隅の席で弁当を食べていると、いつものように陽菜が俺の隣に座ってきた。

「悠くん、昨日の続き、読んだ?」

「……ああ。まあ、一応」

「ふふん。で、催眠術って、信じられそう?」

「……正直、微妙」

「へえー。でも、ちょっと試してみたくなったでしょ?」

 俺の心を見透かしたような言い方に、思わず言葉が詰まった。

「……お前、本当にかかっても知らないぞ」

「いーよ、かかってあげる。はい、どーぞ。かけてみて?」

「いや、そんな軽いノリで……」

「催眠術ってさ、信じてないと効かないんでしょ? 私、信じてあげるから」

 陽菜は俺の目をじっと見つめてきた。黒目がちの瞳が、まっすぐで、ちょっと挑戦的で。

 ……こうなったら、引くに引けない。

「じゃあ……いいか?」

「どうぞ、先生」

 ふざけた口調。でも、その顔はどこか少しだけ緊張しているようにも見えた。

「じゃあ……目、閉じて。リラックスして」

「……うん」

 陽菜が目を閉じる。俺は本で覚えた手順を思い出しながら、静かに言葉をかけた。

「深呼吸して……今から、俺の声だけを聞いて」

「……うん……」

「陽菜は、だんだん気持ちが落ち着いてくる。体の力が抜けて、眠くなってくる……」

 声が震えていないか、自分でも不安になる。でも、陽菜は小さくうなずき、呼吸も静かになっていった。

「これから、カウントダウンする。5、4、3……だんだん深く……2、1」

 一拍の静寂。

「……今から俺が言うことは、全部本当の気持ちになる。わかった?」

「……わかった……」

 かすかに漏れる返事。

「じゃあ……お前は、俺のことが、好きだ。俺のことが、気になって仕方ない。俺と一緒にいたいって、思ってる」

「……うん……好き……一緒にいたい……」

 ――まじ、か。

 本当に、答えた。陽菜が、答えた。目はまだ閉じたまま。いたずらっぽさはなくて、素直な声だった。

 そのまま、解除の合図を言う。

「じゃあ、3つ数えたら、ゆっくり目を覚ます。1、2……3」

 陽菜がゆっくりと目を開けた。

「……ふあ、眠くなったー……なんか、変な気分」

「そ、そうか……?」

「でも……悠くんのこと、なんか、変に意識するっていうか……ううん、なんでもない」

 陽菜は頬を赤くして、視線を逸らした。

「……ちょっと、ドキドキするんだけど。これ、催眠のせいかな?」

「……さあな」

 でもその瞬間、俺の心臓も、やばいくらいドキドキしていた。

    (続く)
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった

くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。 血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。 夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。 「……涼介くん」 薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。 逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。 夜、来て。 その一言が——涼介の、全部を壊した。 甘くて、苦しくて、止まれない。 これは、ある夏の、秘密の話。

昔いじめていたあいつがヤンデレ彼氏になった話

あんみつ~白玉をそえて~
恋愛
短編読み切りヤンデレです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【ヤンデレ八尺様に心底惚れ込まれた貴方は、どうやら逃げ道がないようです】

一ノ瀬 瞬
恋愛
それは夜遅く…あたりの街灯がパチパチと 不気味な音を立て恐怖を煽る時間 貴方は恐怖心を抑え帰路につこうとするが…?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。