十九歳に戻った村の書商は、契約した魔女と共に世界を書き換え、人類の頂点を目指す

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エピソード11光の柱と富める村(前編)

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丘を越えた瞬間、トラヤウルスは無意識に足を止めていた。

視界の先に広がっていたのは、
これまで彼が見てきたどんな集落とも異なる光景だった。

平原の中央に築かれた巨大な街。
外壁は厚く、高く、隙間なく積み上げられた石で構成されている。
その中心から、天へ向かって真っ直ぐに伸びる一本の光柱があった。

白く、澄み切った光。
昼間であるにもかかわらず、はっきりと視認できるほど強い。

「……あれは……」

言葉にならない違和感が、胸の奥に溜まる。

魔力だ。
だが、これまでダンジョンや魔物から感じてきたものとは質が違う。
暴力的でも、濁ってもいない。

整えられ、循環し、制御されている。

「都市核型の魔力装置ね」

隣で、リナが静かに言った。

「長期間、安定運用されている。
 あれを維持できるってことは――この街は、相当“上”よ」

上。
その言葉に、トラヤウルスは小さく息を呑んだ。

彼が生まれ育った村は、
力を持たないがゆえに、ただ流され、踏みにじられるだけの場所だった。

守る壁も、抗う力もない。
英雄と魔人の戦いに巻き込まれ、
一夜で消え去る程度の存在。

だが、この街は違う。

近づくにつれ、外壁の精巧さがはっきりと分かる。
見張り塔には複数の兵士。
装備は統一され、動きに無駄がない。

「……ここなら、生き方が変わるかもしれない」

思わず漏れた呟きに、
リナはすぐに答えなかった。

代わりに、鋭い視線を街へ向けたまま言う。

「期待しすぎないこと。
 富と秩序のある場所ほど、選別は残酷よ」

分かっている。
だが、それでも。

《書の刻印》が、微かに反応した。

視界の端に、淡い文字が滲む。

【観測対象:高位循環式魔力炉】
【安定度:極めて高】
【危険度:低(管理下)】

「……読める」

自分でも驚くほど、はっきりとした感覚だった。

「断片的だけど、構造が分かる。
 あれは“力を誇示するための光”じゃない。
 街全体を支える中枢だ」

「つまり、ここは見せかけじゃないってことね」

街門の前に立つと、衛兵たちの視線が一斉に集まった。

「止まれ。
 自由都市ヴァルグリッドだ。
 名と目的を告げろ」

鋭い声。
だが、敵意よりも警戒が勝っている。

トラヤウルスは一歩前に出た。

「俺はトラヤウルス。
 書を扱う者だ。
 知識の売買と解析を生業にしている」

一瞬、空気が張り詰める。

「書商……?」

衛兵の一人が、半信半疑で呟いた。

「この街でその名を出すなら、
 相応の覚悟が必要だぞ」

「承知している」

その言葉は、自然と口から出ていた。

逃げるために来たわけじゃない。
選ばれるために、ここに立っている。

門が、重々しい音を立てて開いた。

「入れ。
 だが問題を起こすな」

石畳の街路が、視界に広がる。

人の数。
商いの声。
魔導灯の明かり。

トラヤウルスは、胸の奥で確信していた。

ここから先は、
“生き延びるだけの旅”ではない。
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