十九歳に戻った村の書商は、契約した魔女と共に世界を書き換え、人類の頂点を目指す

kairo_arche

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エピソード12都市が与える試練(後編)

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試験室は、管理局の地下にあった。

石造りの円形空間。
壁一面に刻まれた魔法陣が、静かに淡い光を放っている。

「ここでは、虚偽も誤魔化しも通用しない」

試験官の男が告げる。

「君の役目は単純だ。
 三つの資料を解析し、正確に“読む”こと」

机の上に置かれたのは、
魔導書の断片、破損した契約書、そして黒く煤けた石板。

どれも、普通の書商では扱えない代物だ。

「制限時間は十分。
 補助魔法、外部干渉は禁止」

周囲の魔法陣が強く輝いた。

結界が閉じる。

トラヤウルスは、深く息を吸った。

――焦るな。
――読むだけでいい。

最初に手を伸ばしたのは、魔導書の断片だった。

《書の刻印》が反応する。

文字が、情報が、意味が流れ込む。

高度な増幅術式。
だが、核心部分が意図的に削られている。

「……偽装だ」

彼は小さく呟いた。

「この書は完成品じゃない。
 弟子用に、危険部分を削った訓練用の写本」

次に契約書。

血の痕跡。
署名の重なり。
そこにある違和感。

「契約対象が、途中で差し替えられている……
 元の契約者は、すでに死亡しているはずだ」

最後に石板。

これが、一番厄介だった。

文字ではない。
だが、“記録”ではある。

トラヤウルスは、目を閉じ、石板に触れた。

《書の刻印》が、強く脈動する。

断片的な情景。
詠唱。
暴走。
崩壊。

「……これは失敗した転移実験の残骸。
 触れ続ければ、魔力汚染を引き起こす」

彼は、静かに手を離した。

沈黙。

試験官が、ゆっくりと息を吐く。

「……時間だ」

結界が解かれ、光が収束する。

試験官は、資料を確認し、何度も視線を行き来させた。

「……正解だ」

その声には、驚きが隠せていなかった。

「しかも、想定以上に深く読んでいる」

周囲にいた管理局員たちが、ざわめく。

「非戦闘系スキル……《書の刻印》だったな」

「はい」

「厄介だが、価値がある」

試験官は、登録書を差し出した。

「自由都市ヴァルグリッドにおいて、
 君を正式な書商として認める」

その瞬間。

トラヤウルスは、胸の奥が静かに熱くなるのを感じた。

――ここからだ。

力を誇る者たちの街で、
“読む力”だけを武器に進む。

試験室の外で、リナが微笑んでいた。

「合格ね」

「ああ……」

「これで、ようやく“舞台”に立てた」

彼女の言葉は、軽い。
だが、その奥には確信があった。

都市は、試練を与えた。
そして同時に、道を開いたのだ。
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