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エピソード14禁書管理区画への招待(前編)
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案内された通路は、都市の中心から外れていた。
石畳は磨かれているが、人の気配がない。
建物の高さも、次第に低くなっていく。
「この辺り……活気がないな」
トラヤウルスの呟きに、フードの人物は答えない。
ただ、一定の距離を保ったまま歩き続ける。
背後では、リナが無言で周囲を観察していた。
「気をつけて。
ここ、結界が何層も重なってる」
「やっぱり、普通の区画じゃないか」
曲がり角を越えた先に、古い石造りの建物が現れた。
装飾は少なく、窓も小さい。
だが――違和感がある。
《書の刻印》が、微かに反応していた。
「……ここは」
「禁書管理区画」
フードの人物が、ようやく口を開く。
「表向きには存在しない施設だ。
都市の歴史、契約、封印記録……
すべて“扱いを誤れば災厄になる情報”を保管している」
扉の前で、彼は立ち止まった。
金属製の扉には、文字が刻まれている。
だが、読み取れない。
いや――読めないのではない。
“読ませない”。
「これは……」
トラヤウルスが一歩近づいた瞬間、
文字が蠢いた。
《書の刻印》が、強く脈打つ。
「近づきすぎないで」
リナが低く制した。
「この扉、読もうとした瞬間に
“代価”を要求してくるタイプよ」
「代価?」
「記憶、感情、名前……
契約系の禁書によくあるやつ」
フードの人物が、鍵を取り出す。
「安心しろ。
君に直接触れさせるつもりはない」
扉が、重く開いた。
中は、想像以上に広い。
書架。
封印箱。
鎖で拘束された書物。
空気そのものが重く、
長時間いれば精神を削られそうだった。
「……これは、危ないな」
トラヤウルスは、正直な感想を漏らす。
「だからこそ、君を呼んだ」
フードの人物が振り返る。
「我々には、読めない書が増えすぎた」
「読めない?」
「読めば壊れる。
読む前に狂う。
あるいは――記録される」
エピソード13で見た帳簿が、脳裏をよぎる。
「君のスキルは、“読む”ことそのものを制御できる。
しかも、完全な戦闘職ではない」
「それが、理由?」
「そうだ。
君は“観測者”として最適だ」
一瞬、沈黙。
リナが腕を組み、ため息をつく。
「要するに、
危険な役目を押し付けたいだけでしょ」
否定はなかった。
「報酬は?」
トラヤウルスが尋ねる。
フードの人物は、迷わず答えた。
「禁書閲覧権。
そして――君自身に関係する記録」
心臓が、一拍遅れて鳴った。
「……僕に?」
「正確には、
“過去に死んだ君”についてだ」
空気が、凍りつく。
トラヤウルスは、ゆっくりと息を吐いた。
「なるほど……
断れないわけだ」
禁書管理区画。
それは、知識の墓場であり、
運命を狂わせる場所。
彼は、まだ知らない。
この区画にある一冊が、
彼自身の未来を、大きく歪めることを。
石畳は磨かれているが、人の気配がない。
建物の高さも、次第に低くなっていく。
「この辺り……活気がないな」
トラヤウルスの呟きに、フードの人物は答えない。
ただ、一定の距離を保ったまま歩き続ける。
背後では、リナが無言で周囲を観察していた。
「気をつけて。
ここ、結界が何層も重なってる」
「やっぱり、普通の区画じゃないか」
曲がり角を越えた先に、古い石造りの建物が現れた。
装飾は少なく、窓も小さい。
だが――違和感がある。
《書の刻印》が、微かに反応していた。
「……ここは」
「禁書管理区画」
フードの人物が、ようやく口を開く。
「表向きには存在しない施設だ。
都市の歴史、契約、封印記録……
すべて“扱いを誤れば災厄になる情報”を保管している」
扉の前で、彼は立ち止まった。
金属製の扉には、文字が刻まれている。
だが、読み取れない。
いや――読めないのではない。
“読ませない”。
「これは……」
トラヤウルスが一歩近づいた瞬間、
文字が蠢いた。
《書の刻印》が、強く脈打つ。
「近づきすぎないで」
リナが低く制した。
「この扉、読もうとした瞬間に
“代価”を要求してくるタイプよ」
「代価?」
「記憶、感情、名前……
契約系の禁書によくあるやつ」
フードの人物が、鍵を取り出す。
「安心しろ。
君に直接触れさせるつもりはない」
扉が、重く開いた。
中は、想像以上に広い。
書架。
封印箱。
鎖で拘束された書物。
空気そのものが重く、
長時間いれば精神を削られそうだった。
「……これは、危ないな」
トラヤウルスは、正直な感想を漏らす。
「だからこそ、君を呼んだ」
フードの人物が振り返る。
「我々には、読めない書が増えすぎた」
「読めない?」
「読めば壊れる。
読む前に狂う。
あるいは――記録される」
エピソード13で見た帳簿が、脳裏をよぎる。
「君のスキルは、“読む”ことそのものを制御できる。
しかも、完全な戦闘職ではない」
「それが、理由?」
「そうだ。
君は“観測者”として最適だ」
一瞬、沈黙。
リナが腕を組み、ため息をつく。
「要するに、
危険な役目を押し付けたいだけでしょ」
否定はなかった。
「報酬は?」
トラヤウルスが尋ねる。
フードの人物は、迷わず答えた。
「禁書閲覧権。
そして――君自身に関係する記録」
心臓が、一拍遅れて鳴った。
「……僕に?」
「正確には、
“過去に死んだ君”についてだ」
空気が、凍りつく。
トラヤウルスは、ゆっくりと息を吐いた。
「なるほど……
断れないわけだ」
禁書管理区画。
それは、知識の墓場であり、
運命を狂わせる場所。
彼は、まだ知らない。
この区画にある一冊が、
彼自身の未来を、大きく歪めることを。
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