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エピソード15書かれた死の余白(後編)
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「こちらへどうぞ」
都市管理局の男は、
断定的ではない声でそう言った。
拒否という選択肢が、
最初から用意されていない言い方だった。
「断ったら?」
トラヤウルスが問い返すと、
男は穏やかに首を振る。
「その場合、
“協力的ではない冒険者”として
記録されます」
――記録。
その一語で、
《書の刻印》が微かに疼いた。
「行きましょう」
リナが小さく言う。
「ここで騒ぐ方が、
面倒になる」
管理局の建物は、
外観以上に内部が整然としていた。
白い廊下。
均一な照明。
人の気配はあるのに、
声がほとんど聞こえない。
小部屋に通され、
向かいに男が座る。
「まず、確認を」
彼は書類を開いた。
「あなたは今日、
禁書管理区画・第三層に
立ち入りましたね」
「許可は取った」
「ええ。
ですが、閲覧記録が――
“途中で消えています”」
一瞬、沈黙。
「消えた?」
「正確には、
“存在しなかったことになっている”」
その瞬間だった。
胸の奥で、
ページを破るような感覚が走った。
――違う。
消したんじゃない。
書き換えた。
《書の刻印》が、
勝手に動いた。
【閲覧者:トラヤウルス・レイン】
【閲覧内容:非該当】
【理由:危険度判定未満】
「……は?」
男が、初めて言葉を詰まらせた。
「システムが……
いや、そんなはずは……」
トラヤウルスは、自分でも驚いていた。
(今のは……
俺が、やったのか?)
いや。
“俺が”というより――
書が、自分を守った。
「どうやら、
問題はないようですね」
リナが、何食わぬ顔で言う。
「ただの書商ですから」
男はしばらく沈黙し、
やがて書類を閉じた。
「……失礼しました。
本日は、これで」
部屋を出た瞬間、
トラヤウルスは壁に手をついた。
「大丈夫?」
「……正直、
大丈夫じゃない」
体の奥が、
熱を帯びている。
魔力が減った感覚とは違う。
何かが“増えた”。
「リナ。
書が、俺を守った」
「ええ」
彼女は静かに頷いた。
「でも、それは同時に――
あなたが“介入可能な存在”だと
知られた、ということ」
「つまり?」
「もう、
ただの村の書商には戻れない」
夕暮れは、
いつの間にか夜に変わっていた。
街の灯がともり、
人々は何事もなかったように歩いている。
その中で、
トラヤウルスだけが知っていた。
――世界は、
書かれている。
そして今。
――書は、
書き返され始めた。
彼は、拳を握った。
未来死亡記録。
避けられない結末。
だが。
「……まだ、余白はある」
その余白に、
何を書くかは――
もう、
誰にも決めさせない。
都市管理局の男は、
断定的ではない声でそう言った。
拒否という選択肢が、
最初から用意されていない言い方だった。
「断ったら?」
トラヤウルスが問い返すと、
男は穏やかに首を振る。
「その場合、
“協力的ではない冒険者”として
記録されます」
――記録。
その一語で、
《書の刻印》が微かに疼いた。
「行きましょう」
リナが小さく言う。
「ここで騒ぐ方が、
面倒になる」
管理局の建物は、
外観以上に内部が整然としていた。
白い廊下。
均一な照明。
人の気配はあるのに、
声がほとんど聞こえない。
小部屋に通され、
向かいに男が座る。
「まず、確認を」
彼は書類を開いた。
「あなたは今日、
禁書管理区画・第三層に
立ち入りましたね」
「許可は取った」
「ええ。
ですが、閲覧記録が――
“途中で消えています”」
一瞬、沈黙。
「消えた?」
「正確には、
“存在しなかったことになっている”」
その瞬間だった。
胸の奥で、
ページを破るような感覚が走った。
――違う。
消したんじゃない。
書き換えた。
《書の刻印》が、
勝手に動いた。
【閲覧者:トラヤウルス・レイン】
【閲覧内容:非該当】
【理由:危険度判定未満】
「……は?」
男が、初めて言葉を詰まらせた。
「システムが……
いや、そんなはずは……」
トラヤウルスは、自分でも驚いていた。
(今のは……
俺が、やったのか?)
いや。
“俺が”というより――
書が、自分を守った。
「どうやら、
問題はないようですね」
リナが、何食わぬ顔で言う。
「ただの書商ですから」
男はしばらく沈黙し、
やがて書類を閉じた。
「……失礼しました。
本日は、これで」
部屋を出た瞬間、
トラヤウルスは壁に手をついた。
「大丈夫?」
「……正直、
大丈夫じゃない」
体の奥が、
熱を帯びている。
魔力が減った感覚とは違う。
何かが“増えた”。
「リナ。
書が、俺を守った」
「ええ」
彼女は静かに頷いた。
「でも、それは同時に――
あなたが“介入可能な存在”だと
知られた、ということ」
「つまり?」
「もう、
ただの村の書商には戻れない」
夕暮れは、
いつの間にか夜に変わっていた。
街の灯がともり、
人々は何事もなかったように歩いている。
その中で、
トラヤウルスだけが知っていた。
――世界は、
書かれている。
そして今。
――書は、
書き返され始めた。
彼は、拳を握った。
未来死亡記録。
避けられない結末。
だが。
「……まだ、余白はある」
その余白に、
何を書くかは――
もう、
誰にも決めさせない。
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追記:2025/09/20
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