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エピソード19上層からの呼び声(後編)
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円卓の中央に置かれた契約書から、微かな魔力が立ち上っていた。
それは攻撃的なものではない。
だが、触れれば絡め取られる類の力だ。
「……随分と、丁寧に作られた契約ですね」
トレイアウルスは視線を落としたまま、静かに言った。
「評価してもらえて光栄だ」
評議会の男は、椅子に深く腰掛ける。
「都市にとって、情報は血液だ。
君の《書の刻印》は――血管に直接触れる針のようなものだ」
つまり、危険だと言っている。
「だからこそ管理する。
君には“都市記録官補佐”として働いてもらう」
提示された条件は一見、破格だった。
居住権、報酬、装備の提供。
ダンジョン探索の自由度も高い。
だが――
「この条項」
トレイアウルスは、ある一文を指でなぞった。
「《都市に不利益をもたらす記録の開示を禁ずる》」
室内の空気が、わずかに重くなる。
「つまり……僕が“読めても、書けないこと”が出てくる」
「賢いな」
男は頷いた。
「都市は正義だけで回っているわけではない。
必要な“影”もある」
リナが、人の姿へと戻った。
その目は、冷たい。
「要するに、見たものを黙ってろって話ね」
「魔女殿、言葉が過ぎる」
「いいえ。正確よ」
リナは、トレイアウルスの隣に立つ。
「この子の力は、“読む・記す・更新する”。
でもあなたたちは、“都合のいい記録係”が欲しいだけ」
男は肩をすくめた。
「結果的には同じだ。
君たちが拒否すれば――」
「拒否しません」
トレイアウルスの声が、静かに割り込んだ。
評議会の面々が、一斉に彼を見る。
「ただし、条件があります」
彼は契約書を手に取り、目を閉じた。
《書の刻印》が、淡く光る。
「この契約……
“記録の管理者”が、都市側に固定されています」
「それが何だ」
「管理者を、共同に変更してください」
空気が凍った。
「都市と、僕」
男の目が細くなる。
「それは――」
「無理な話じゃありません」
トレイアウルスは、淡々と続けた。
「僕は、記録を“書き換えられる”存在です。
一方的な契約は、いずれ歪みます」
リナが小さく笑う。
「壊される前に、最初から噛み合う形にした方がいい」
沈黙。
やがて、男は息を吐いた。
「……交渉が上手いな」
「書商ですから」
短い沈黙の後、男は頷いた。
「いいだろう。
共同管理――前例はないが、作ろう」
契約書が、光を放つ。
その瞬間、トレイアウルスは確信した。
(この都市は――)
(“書ける”)
《新規記録解放》
《都市契約・共同管理者:仮登録》
頭の奥で、確かな感触が生まれる。
評議会を出た後、白柱の影の下で、リナが言った。
「……大物に食いついたわね」
「はい」
トレイアウルスは、空を見上げる。
「でも、ここからが本番です」
都市は強い。
だが、書かれたものは――変えられる。
彼のやり直しは、
今、個人から“世界”へと広がり始めていた。
それは攻撃的なものではない。
だが、触れれば絡め取られる類の力だ。
「……随分と、丁寧に作られた契約ですね」
トレイアウルスは視線を落としたまま、静かに言った。
「評価してもらえて光栄だ」
評議会の男は、椅子に深く腰掛ける。
「都市にとって、情報は血液だ。
君の《書の刻印》は――血管に直接触れる針のようなものだ」
つまり、危険だと言っている。
「だからこそ管理する。
君には“都市記録官補佐”として働いてもらう」
提示された条件は一見、破格だった。
居住権、報酬、装備の提供。
ダンジョン探索の自由度も高い。
だが――
「この条項」
トレイアウルスは、ある一文を指でなぞった。
「《都市に不利益をもたらす記録の開示を禁ずる》」
室内の空気が、わずかに重くなる。
「つまり……僕が“読めても、書けないこと”が出てくる」
「賢いな」
男は頷いた。
「都市は正義だけで回っているわけではない。
必要な“影”もある」
リナが、人の姿へと戻った。
その目は、冷たい。
「要するに、見たものを黙ってろって話ね」
「魔女殿、言葉が過ぎる」
「いいえ。正確よ」
リナは、トレイアウルスの隣に立つ。
「この子の力は、“読む・記す・更新する”。
でもあなたたちは、“都合のいい記録係”が欲しいだけ」
男は肩をすくめた。
「結果的には同じだ。
君たちが拒否すれば――」
「拒否しません」
トレイアウルスの声が、静かに割り込んだ。
評議会の面々が、一斉に彼を見る。
「ただし、条件があります」
彼は契約書を手に取り、目を閉じた。
《書の刻印》が、淡く光る。
「この契約……
“記録の管理者”が、都市側に固定されています」
「それが何だ」
「管理者を、共同に変更してください」
空気が凍った。
「都市と、僕」
男の目が細くなる。
「それは――」
「無理な話じゃありません」
トレイアウルスは、淡々と続けた。
「僕は、記録を“書き換えられる”存在です。
一方的な契約は、いずれ歪みます」
リナが小さく笑う。
「壊される前に、最初から噛み合う形にした方がいい」
沈黙。
やがて、男は息を吐いた。
「……交渉が上手いな」
「書商ですから」
短い沈黙の後、男は頷いた。
「いいだろう。
共同管理――前例はないが、作ろう」
契約書が、光を放つ。
その瞬間、トレイアウルスは確信した。
(この都市は――)
(“書ける”)
《新規記録解放》
《都市契約・共同管理者:仮登録》
頭の奥で、確かな感触が生まれる。
評議会を出た後、白柱の影の下で、リナが言った。
「……大物に食いついたわね」
「はい」
トレイアウルスは、空を見上げる。
「でも、ここからが本番です」
都市は強い。
だが、書かれたものは――変えられる。
彼のやり直しは、
今、個人から“世界”へと広がり始めていた。
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追記:2025/09/20
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