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エピソード20都市の腹の中(後編)
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石の人形は、ぎこちなく一歩を踏み出した。
足音は重いが、敵意よりも――迷いが混じっている。
「止まりなさい」
リナが低く告げる。
だが、人形は反応しない。
胸部に刻まれた魔法陣が、不規則に明滅していた。
本来なら、都市の中枢から供給されるはずの魔力。
それが途切れ、代わりに“残骸”だけが流れ込んでいる。
「……壊れている、というより」
トレイアウルスは、ゆっくりと前に出た。
「放置されている」
人形の視線が、彼を捉える。
その瞬間、頭の中に文字が流れ込んだ。
《命令確認》
《補修対象:白柱都市・下層基盤》
《進捗率:73%》
《中断理由:――》
最後の行が、ノイズに塗りつぶされている。
(……終わることを、許されなかった)
剣を抜く理由は、なかった。
この存在は敵ではない。
ただ、記録から見捨てられただけだ。
「トレイアウルス、下がって」
リナが警戒する。
「完全停止させるなら、破壊しか――」
「いいえ」
彼は首を振った。
「この都市は、壊すことで問題を解決してきた。
だから、ここに“腹の中”ができた」
ペンを取り出し、《書の刻印》を起動する。
空中に、淡い文字が浮かび上がった。
《未完了記録:都市補修番号C-17》
《状態:継続中》
「……書き足す」
彼は、静かに言葉を紡ぐ。
《最終命令:任務終了》
《補修完了扱い》
《個体処遇:休止・保管》
文字が、確定する。
次の瞬間――
人形の胸部から、光が溢れた。
「……!」
魔力が逆流し、
歪んだ刻印が、ゆっくりと正しい形へ戻っていく。
人形は、膝をついた。
そして――
初めて、人らしい声を発した。
「……完了、確認」
重い体が、静かに横たわる。
その表情は、どこか安らいでいた。
「……終わらせたのね」
リナが、息を吐く。
「ええ。
戦って勝ったんじゃない。
終わらせてあげただけです」
その時、周囲の壁が微かに震えた。
刻印が一斉に反応し、
新たな情報が浮かび上がる。
《内部ダンジョン安定化》
《異常値:低下》
《報告先:評議会》
「……見られたわね」
リナが、苦笑する。
「ええ。
たぶん、気づかれました」
都市は、この場所を隠したかった。
だが今、書かれてしまった。
「評議会は、あなたを危険視する」
「それでも、いいです」
トレイアウルスは、赤い花を見下ろした。
「書かれなかったものが、
また切り捨てられる世界なら――」
彼は、はっきりと告げる。
「俺は、記録する側に立つ」
遠くで、通路が開く音がした。
新たな足音。
人のものだ。
都市は、もう気づいている。
この書商は、
都合よく忘れられる存在ではないと。
足音は重いが、敵意よりも――迷いが混じっている。
「止まりなさい」
リナが低く告げる。
だが、人形は反応しない。
胸部に刻まれた魔法陣が、不規則に明滅していた。
本来なら、都市の中枢から供給されるはずの魔力。
それが途切れ、代わりに“残骸”だけが流れ込んでいる。
「……壊れている、というより」
トレイアウルスは、ゆっくりと前に出た。
「放置されている」
人形の視線が、彼を捉える。
その瞬間、頭の中に文字が流れ込んだ。
《命令確認》
《補修対象:白柱都市・下層基盤》
《進捗率:73%》
《中断理由:――》
最後の行が、ノイズに塗りつぶされている。
(……終わることを、許されなかった)
剣を抜く理由は、なかった。
この存在は敵ではない。
ただ、記録から見捨てられただけだ。
「トレイアウルス、下がって」
リナが警戒する。
「完全停止させるなら、破壊しか――」
「いいえ」
彼は首を振った。
「この都市は、壊すことで問題を解決してきた。
だから、ここに“腹の中”ができた」
ペンを取り出し、《書の刻印》を起動する。
空中に、淡い文字が浮かび上がった。
《未完了記録:都市補修番号C-17》
《状態:継続中》
「……書き足す」
彼は、静かに言葉を紡ぐ。
《最終命令:任務終了》
《補修完了扱い》
《個体処遇:休止・保管》
文字が、確定する。
次の瞬間――
人形の胸部から、光が溢れた。
「……!」
魔力が逆流し、
歪んだ刻印が、ゆっくりと正しい形へ戻っていく。
人形は、膝をついた。
そして――
初めて、人らしい声を発した。
「……完了、確認」
重い体が、静かに横たわる。
その表情は、どこか安らいでいた。
「……終わらせたのね」
リナが、息を吐く。
「ええ。
戦って勝ったんじゃない。
終わらせてあげただけです」
その時、周囲の壁が微かに震えた。
刻印が一斉に反応し、
新たな情報が浮かび上がる。
《内部ダンジョン安定化》
《異常値:低下》
《報告先:評議会》
「……見られたわね」
リナが、苦笑する。
「ええ。
たぶん、気づかれました」
都市は、この場所を隠したかった。
だが今、書かれてしまった。
「評議会は、あなたを危険視する」
「それでも、いいです」
トレイアウルスは、赤い花を見下ろした。
「書かれなかったものが、
また切り捨てられる世界なら――」
彼は、はっきりと告げる。
「俺は、記録する側に立つ」
遠くで、通路が開く音がした。
新たな足音。
人のものだ。
都市は、もう気づいている。
この書商は、
都合よく忘れられる存在ではないと。
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