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エピソード34監視される選択(前編)
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白柱の都市は、かろうじて呼吸を取り戻していた。
行政塔の周囲では、人々が小声で言葉を交わし始めている。
怒号は減り、代わりに戸惑いと疲労が滲んだ沈黙が広がっていた。
完全な混乱ではない。
だが、元の“無風”でもない。
「……中途半端ね」
リナが低く呟く。
「止まらずに済んだ。でも、納得もしていない」
トレイアウルスは頷いた。
刻印書を閉じたまま、都市の空気を感じ取る。
住民たちは動いている。
話し、考え、迷っている。
だが同時に――
どこかで、怯えていた。
「選択を返された人間は、まず不安になる」
彼は静かに言う。
「正解が消えるからだ」
リナは視線を巡らせた。
「監視者たちは引いた。でも、消えたわけじゃない」
「当然だ」
刻印書の表紙が、かすかに熱を持つ。
《要注意》
《文明監視記録体:観測継続中》
「……見られてるな」
「ええ。しかも、かなり近い」
その時だった。
行政塔の入口付近で、ざわめきが起きる。
数人の市民が、警戒した様子で後ずさった。
現れたのは、一人の男だった。
白柱の都市の住民とは違う服装。
簡素だが、明らかに“外”の意匠。
背には記録端末らしき装置を背負っている。
「都市外調停機関より参りました」
男は、落ち着いた声で名乗った。
「私は代理記録官。
この都市で起きた最適化崩壊について、
“確認”を行います」
住民たちが息を呑む。
調停。
確認。
その言葉が持つ意味を、誰もが直感していた。
責任の所在を探す者だ。
男の視線が、ゆっくりと群衆をなぞる。
そして――止まる。
トレイアウルスの前で。
「……あなたですね」
断定だった。
「記録の流れが、あなたを中心に歪んでいる」
刻印書が、はっきりと反応した。
《外部接触》
《交渉フェーズ:開始》
リナが一歩前に出る。
「名乗りもしないで、随分と踏み込むのね」
男は軽く頭を下げた。
「失礼。
私の名はエドガー・ラインフェルト」
その目は冷静だった。
だが、優しさも敵意もない。
ただ――
“業務”の目だ。
「あなたに、お話を伺いたい」
トレイアウルスは、静かに答える。
「内容による」
エドガーは微かに笑った。
「では、単刀直入に」
彼は言った。
「この都市を、
あなたが管理する意思はありますか?」
周囲の空気が、張りつめる。
管理。
それは、監視者とは別の形の“支配”。
トレイアウルスは、即答しなかった。
選択を返した街で、
再び“代理”になるという提案。
刻印書が、重く脈打つ。
《選択要求》
《回答猶予:短》
――これは、戦いではない。
だが、
これまでで最も危険な問いだった。
行政塔の周囲では、人々が小声で言葉を交わし始めている。
怒号は減り、代わりに戸惑いと疲労が滲んだ沈黙が広がっていた。
完全な混乱ではない。
だが、元の“無風”でもない。
「……中途半端ね」
リナが低く呟く。
「止まらずに済んだ。でも、納得もしていない」
トレイアウルスは頷いた。
刻印書を閉じたまま、都市の空気を感じ取る。
住民たちは動いている。
話し、考え、迷っている。
だが同時に――
どこかで、怯えていた。
「選択を返された人間は、まず不安になる」
彼は静かに言う。
「正解が消えるからだ」
リナは視線を巡らせた。
「監視者たちは引いた。でも、消えたわけじゃない」
「当然だ」
刻印書の表紙が、かすかに熱を持つ。
《要注意》
《文明監視記録体:観測継続中》
「……見られてるな」
「ええ。しかも、かなり近い」
その時だった。
行政塔の入口付近で、ざわめきが起きる。
数人の市民が、警戒した様子で後ずさった。
現れたのは、一人の男だった。
白柱の都市の住民とは違う服装。
簡素だが、明らかに“外”の意匠。
背には記録端末らしき装置を背負っている。
「都市外調停機関より参りました」
男は、落ち着いた声で名乗った。
「私は代理記録官。
この都市で起きた最適化崩壊について、
“確認”を行います」
住民たちが息を呑む。
調停。
確認。
その言葉が持つ意味を、誰もが直感していた。
責任の所在を探す者だ。
男の視線が、ゆっくりと群衆をなぞる。
そして――止まる。
トレイアウルスの前で。
「……あなたですね」
断定だった。
「記録の流れが、あなたを中心に歪んでいる」
刻印書が、はっきりと反応した。
《外部接触》
《交渉フェーズ:開始》
リナが一歩前に出る。
「名乗りもしないで、随分と踏み込むのね」
男は軽く頭を下げた。
「失礼。
私の名はエドガー・ラインフェルト」
その目は冷静だった。
だが、優しさも敵意もない。
ただ――
“業務”の目だ。
「あなたに、お話を伺いたい」
トレイアウルスは、静かに答える。
「内容による」
エドガーは微かに笑った。
「では、単刀直入に」
彼は言った。
「この都市を、
あなたが管理する意思はありますか?」
周囲の空気が、張りつめる。
管理。
それは、監視者とは別の形の“支配”。
トレイアウルスは、即答しなかった。
選択を返した街で、
再び“代理”になるという提案。
刻印書が、重く脈打つ。
《選択要求》
《回答猶予:短》
――これは、戦いではない。
だが、
これまでで最も危険な問いだった。
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追記:2025/09/20
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