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第七話

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十分ほど歩いたところで百貨店に到着。まずはそうだな…布団からかな。家具を取り扱うお店へ向かう。

「今更なんだけど、何買うつもりなの?」

「とりあえず布団かな。いつまでも寝袋じゃ、樹里ちゃんも辛いだろうし」

「…言いづらいんだけどさ。あたしそんなにお金ないよ?」

「あぁ良いよ。俺が出すし」

「えぇ!?いやいやいや…」

ぶんぶんぶんと全身で俺の提案を否定する樹里ちゃん。こちらとて引くつもりは毛頭ないが。

「布団って安くても5000円は余裕で超えるでしょ。流石に申し訳ないって!寝袋あるし買う必要ないよ!」

「女の子にいつまでも寝袋を使わせるわけにはいかないよ。風邪にでもなったらどうするのさ。今の俺の懐はあったかい。布団くらいなら全然大丈夫だよ」

「そういう問題じゃない!」

むむむむむと睨み合う俺たち。お互い一歩も譲る気はない。どうやって彼女を説き伏せようかと考えていると、俺の頭にピンと名案が浮かぶ。

「じゃあ分かった!こうしよう。俺はちょうど布団を買い替えようとしている!結構使い込んでるしね。つまり、俺は俺のために布団を買う!別に樹里ちゃんのためじゃないよ!けどあの布団にも愛着がわいてるし、もしかすると買ってからいらないって思うかもしれない。そうなったら樹里ちゃんが使ってよ。捨てるのも勿体無いしね」

無論、買いかえるつもりなんて微塵もないが、こうでもしないと樹里ちゃんは首を縦には振らないだろう。若干強引な気もするが、早口に言い終え、樹里ちゃんの返答を待たずにずんずんと布団売り場へと向かう。

「…ありがとう!!」

困ったような、怒ったような、だけど少し嬉しそうな。そんな感謝の気持ちを述べながら樹里ちゃんが俺の後についてくる。

結局、布団は1番安かったものを購入した。なるべく高い布団を買おうとする俺と、なるべく安い布団を買おうとする樹里ちゃんでまた一悶着あったのだが、それはまた別のお話。



「…次は、あぁそうだ、ドライヤー。電化製品売り場はっと…」

「ドライヤーも買い替えちゃうの?」

「うん。だって樹里ちゃんあのドライヤーをクソザコゴミカス、猿の方がまだマシな製品作れるぞって散々煽ってたじゃん」

「そこまで口悪くないよあたし!?」

長期間使ってないからか元からなのか知らないが、あのドライヤーはかなり性能が悪い。であるなら、買い替えは必須なのだが、何故だか樹里ちゃんはあまり気乗りしない様子。

「ドライヤーは…まぁ、うん。あれでいいかな」

「遠慮しないでって」

「遠慮じゃなくて!…だって、あのドライヤーなら、毎日陽斗に髪乾かしてもらえるし。」

セリフの後半萎縮していき、モゴモゴと呟く樹里ちゃん。しかしながら今回はしっかりと聞き取ることができた。

「…え、なんて?あのドライヤーなら毎日陽斗に髪乾かしてもらえるしって部分しか聞き取れなかった。」

「一言一句間違えずに全部聞き取れてるー!!」

恥ずかしそうに項垂れる樹里ちゃん。…まぁそういう理由なら、男佐井寺陽斗、樹里ちゃんの髪、乾かさせていただきやす。

続いてシャンプー。百貨店内にあるスーパーに向かい、シャンプーコーナーへ。数が異常に多く、こういったものに無頓着な俺はどれを選べばいいのかまるで分からない。

「樹里ちゃんがいつも使ってるのはどれ?」

「えーっと…これ」

そういい樹里ちゃんが手に取ったのは、最も安いシャンプー。今俺が使っているものよりもずっと安い。思わずため息が漏れる。

「なんで嘘つくかなぁ…」

「嘘じゃないもん!このシャンプーにはこのシャンプーの良さがあるんだもん!」

このシャンプーがいい、これじゃないとやだ、と子供のような口調で一点張りの樹里ちゃん。俺は樹里ちゃんの頭をおもむろに掴み、髪をわしゃわしゃと乱す。樹里ちゃんは目を白黒とさせていた。

「シャンプーの値段なんて数百円しか違わないし、誤差だよ誤差。まさか俺、シャンプーすら買えない男だと思われてるの?」

「いや、そういうわけじゃ–––」

「…もう少しさ、俺を頼ってよ、樹里ちゃん。」

居候をお願いしてきてる時点で、俺に頼ってくれている。それは、分かっている。であるなら、もっともっと頼ってくれていい。すでに頼ってくれているのだから、変なとこで気を使わないでほしい。

それもこれも全て踏まえた上で、俺は樹里ちゃんを招き入れている。彼女の力になりたい。そのために俺はいかなる出費も、努力も、惜しむことはない。

それが、今の俺を作ってくれた彼女への数十年の時を経た恩返しになるのなら。

「俺に迷惑がかかるから。もし樹里ちゃんがそう感じているのなら、それは大きな間違いだ。この程度のこと、迷惑でもなんでもない。樹里ちゃんのために、俺が自分から、自分の意思でやっていることなんだからさ」

俺の訴えは彼女に響いただろうか。数秒考えた後、樹里ちゃんは素早く、少し高めのシャンプーを手渡してくる。いつも使っているシャンプーだろう。

「お願いします!!」

頭を深々と下げ、そうお願いをしてくる樹里ちゃん。うむ、よろしい、と偉そうに言いながらシャンプーを受け取り、2人で少し笑い合った。

「…必ずお金は返します。」

「いいよいいよそんなの。樹里ちゃんは優しいなぁ。」

「…それ、陽斗が言う?」

同様にリンス、ボディソープを買い物カゴに入れ、レジへと向かう。休日の昼間というだけあって、レジ前はかなり混み合っていた。

「あ、ちょっと買いたいものがあるんだけど、行ってていい?」

「うん、いいよ。お金は足りる?あげようか?」

「いや、大丈夫だと思う。何かあったら連絡して」

早足にスーパーから出て行く樹里ちゃん。女の子だし、男の俺に知られたくないようなものを買いたいのだろう。俺に止める義理はない。俺も俺で買いたいことがある。



数分後、大きめの買い物袋を掲げた樹里ちゃんと合流。何を買ったのかと聞いても教えてくれない。それが少し気になりながら帰路に着く。

時刻は14時半。休憩時間をオーバーしてしまった。それに気づいた樹里ちゃんは、家に着くやいなや、取り返すと言わんばかりに凄まじい勢いで勉強を始めた。

俺はと言うと、少し遅めの御飯時ということで昼食を作ることにする。今日のメニューはチャーハンにコーンスープ。卵をご飯をかき混ぜ、サラダ油をしいたフライパンへ。絶妙なタイミングでベーコン、玉ねぎを加え、塩胡椒を少々。

お椀にチャーハンを詰めてひっくり返し、中華料理屋で出てくるような形にして、最後に刻み葱を振りかければ、ものの数分で完成。

コーンスープはインスタントで。料理には妥協も必要なのである。

「樹里ちゃーん。お昼出来たけどどうする?」

「ありがと!後で食べるからそこ置いとい–––」

樹里ちゃんの言葉を遮るようにぐぅ~っとお腹が鳴る音がする。俺ではないということは…樹里ちゃんがお腹を押さえて恥ずかしそうに俯いていた。

「一緒に食べる?」

「…はい、そうします」

ローテーブル前に座り、2人でチャーハンを口に運ぶ。うん、パラパラで美味しい。樹里ちゃんは目を輝かせ、絶賛するようにパタパタと俺の肩を叩きながら今度作り方を教えてほしいとお願いしてきた。

やっぱりご飯は誰かと一緒に食べた方が美味しい。そんなこんなで、樹里ちゃんは勉強と談笑を繰り返しながら、俺はゲームと談笑を繰り返しながらという対照的な時を過ごし、夜を迎えるのであった。



時刻は20時30分。樹里ちゃんの休憩時間に合わせて一緒に夜ご飯でも作ろうかと考えていたら少し遅い時間になってしまった。すでにお腹が何度もぐるぐると悲鳴を上げている。

「さて、それでは本日もお夕飯を作っていきたいと思います」

「陽斗さん。今夜は何を作るんですか?」

深夜の料理番組のようなノリでキッチンに立つ。俺と樹里ちゃんの、ある種初めての共同作業…ぐへへへ。

「そうですね。今回は樹里ちゃんの大嫌いな酢豚を…待て樹里ちゃん。包丁はそんな握り方しないし人にも向けちゃダメだ」

ふーっふーっと野獣のような呻き声をあげながら、包丁を逆手に握りしめて高々と上げる樹里ちゃん。

彼女の酢豚嫌いは折り紙付きで、給食で酢豚が出た時は全て口に含み、飲み込まないままトイレに駆け込み全て便器に吐き出していたと彼女の口から聞いた覚えがある。

それなら普通に残せば良くね?と思ったが、彼女の酢豚嫌いはその次元ではないのだろうと適当に結論づけさせていただく。

「…まぁ、普通にカレーかな。材料切ってぶちこむだけだし簡単でしょ?おぉっと、樹里ちゃんは包丁すら扱えないんだったね!これは難易度が跳ね上がぁぁぁぁ!?じゅっ樹里ちゃん!?包丁に突きという使用方法は無いよ!?」

俺の目元めがけて文字通り包丁を突いてくる樹里ちゃん。ギリギリで避けた包丁は壁に突き刺さっていた。当たれば普通に致命傷である。

「…次は当てる」

「…次とやらが来ないことを願うよ」

「それはあたしの気分次第」

「あ、俺の行動次第じゃないんだ。樹里ちゃんの気分でワンチャン俺刺されるんだ」

怒りに燃える樹里ちゃんをなだめ、材料を並べる。あぁ、そうだそうだ、忘れてた。一度キッチンから離れ、買い物袋からあるものを取り出して大事に背中に隠しながらホップステップジャンプで樹里ちゃんに近づく。

「じゅーりちゃんっ!」

「うわなんかその笑顔嫌な予感する…」

「んなこと言わないでよ。実は樹里ちゃんにプレゼントを買ってきたんだよ。はい、コレ」

背中に隠していたあるものを手渡す。彼女は何事かとそれを手に取り、広げる。

「エプロン?」

「正解!今日の朝キッチンに立つ樹里ちゃん見てびびびっと来てさ。思わず買っちゃった」

キッチンに立つ朝の樹里ちゃんをみて何かが足りないと思っていた。あの時から買おうと決めていたもの。それがエプロンである。会計が終わってからも少し時間があったため、100円ショップで買ってきたエプロンだ。気に入ってくれるといいのだが。

「えぇありがと!着てもいい?」

「もちろん」

嬉しそうにエプロンを身につける樹里ちゃん。わくわくとその時を待つ。エプロンを身につけた樹里ちゃんは腰に手を当て、グラビアアイドルのようなセクシーポーズを決めながら一言。

「わーいこれであたしもナイスバディ!ってなるかぁ!」

「お手本のようなノリツッコミっ!」

エプロンを脱ぎ捨て、地面にバァンと投げつける樹里ちゃん。エプロンにはボンキュッボンのビキニのプリントアウトされている。エプロンをつけるとちょうどビキニを着ているように見えるという寸法だ。いやはや、これを見たときは流石に大笑いしてしまった。

「何これは。あたしの身体が貧相って言いたいの?」

「…いや、そこまでの深い意図はないです。ただ単純に面白いかなぁって」

「見てなさい陽斗…あたしだって第三次性徴が来ればきっとボンキュッボンになれるんだから!」

「う、うん。第三次性徴が存在すればそうかもね…」

生物学的には第二次性徴までしかないが、前向きなその心は評価したい。

「まぁそっちは冗談で、本当はこっち」

もう一つ、背中に隠していたエプロンを取り出す。こちらは花柄の可愛らしいエプロン。樹里ちゃんに似合うだろうと思って買ってきたものだ。樹里ちゃんは無言で受け取り、身につける。くるりと一回転し、エプロンの裾を持ち上げ、太陽のような明るい笑顔を見せる。

「うん、可愛い。センスいいね、陽斗」

「いやいや、まぁ俺ってセンスの塊みたいなもんだからね」

「謙遜しなよそこは。…んじゃ、陽斗はこっちだね」

無事にプレゼントを渡し大団円…と思いきや、にこりと笑いながら、ビキニの方のエプロンを押し付けてくる樹里ちゃん。表情は笑っているが、目は笑っていない。あ、これ、断ったら殺されるやつだ。恥を捨てて黙って装着する。

なるほどなるほど、こういう着心地か。これは中々…

「んぐふふっ…似合ってるよ」

「…ごめん樹里ちゃん」

「なに?」

「…こんなもの着させて」

これは中々、穴があったら入りたい案件だ。

自分で着てみて分かる、ビキニエプロンの恥ずかしさ。ケラケラと可愛らしく笑う樹里ちゃんを見ることができたので一応買った価値はあったかなとプラスに考える。

「んじゃ、腹も減ったしちゃっちゃと作りますか。まずは野菜を切ってもらえる?」

「ん、頑張る」

包丁を手に深呼吸し、まずはジャガイモに刃を入れる樹里ちゃん。包丁を扱う上で必須条件の猫の手ができておらず危なっかしい。親の気持ちになりハラハラと見ているが、固くて切れないのか、両手を使い包丁の背を押しプルプルと震えている。

「あ」

樹里ちゃんの口から少し間抜けな声が漏れた。つるん、と擬音が聴こえてきそうな勢いでジャガイモが滑り、包丁がまな板を捉える。ジャガイモは勢いそのまま飛んでいき、

「いえもんっ!!」

俺の顔面に被弾した。どんなピタゴラスイッチだよ。のけぞり後ろに倒れる。

「あは…あはは!あははははは!!」

「いや笑い方怖っ。人の不幸見て心の底から笑ってんじゃん」

ジャガイモが直撃した額をさすりながら立ち上がり、手ほどきをするため樹里ちゃんの後ろに回り込み背後から手を取る。彼女の左手を包むようにして握り、右手も同様に包丁を掴む。

「左手はこうやって丸めてないと指切っちゃうからね。包丁は上から押して、手前に引く。そうすればほら、簡単に切れるでしょ?」

ジャガイモをきれいに二等分に。樹里ちゃんを操りながら手取り足取り教えてあげる。小気味よく切り続けていくも、樹里ちゃんに反応がない。石のように固まり、顔を真っ赤にしながら––––というところであることに気づく。

あれ?この体勢もしかしてすっごい恥ずかしくない?

背後から抱きつくように手を回し、彼女の手を握る。包丁捌きを教えることに必死で気づいていなかったが、これは一種のバックハグなのでは?

樹里ちゃんの真っ白なうなじが目の前にある。どうして女の子のうなじはこう、なんというか…奥ゆかしいのか。大学の卒論で書こうか。『人は異性に対し、胸や臀部など、普段衣服等で隠されているところにエロスを感じるわけだが、それは髪に隠されたうなじに対しても同じことが言えると私は考えている。見え隠れするうなじは我々男の視線を釘付けにし離さない。』…みたいな感じで。

うん、それがいい!そうしよう!

と、自分でも訳の分からないことを考えながら、手だけは動かし続け彼女の後ろから野菜を切り続ける。トントン、トントントントンと。

「…あ、ちょ、陽斗!?」

「トントーン…トン?」

指先に激痛が走る。俺の人差し指を包丁の刃がしっかりと捉えていた。



「…というわけで完成!名付けて、『愛情たっぷり!俺のヘモグロビンもたっぷり!血塗れカレー~白血球赤血球その他諸々を添えて~』!」

「凄いよ陽斗!なんでそんなに食欲を失くすような料理名を付けられるの!もはや一種の才能だね!」 

「へへっ…よせやい」

人差し指で鼻の下を擦り照れ隠し。

包丁は俺の人差し指の第一間接辺りを捉え、物凄い勢いで出血したが、幸いにも大事には至らず、しっかりと動かすことができる。噴水のように血が出たときはかなりパニックになったが、俺以上に樹里ちゃんがパニックになっており、包丁を手にバタバタと手を振り回す彼女を見てなんとか落ち着きを取り戻すことができた。

ちなみに血が付着した野菜は全て捨ててあるので衛生面に何の問題もない。それでも少し気になるところはあり、お互い複雑な表情をしながらカレーを完食した。味は良かったんだけどね、味は。
  
ご飯を食べたということは…お次は入浴タイム!おそらく今日もアイマスクに耳栓をされるだろうが、なんとか隙を見て彼女のあられもない姿を一目見てみたい。おっと、こほん。

あくまで幼馴染みとして彼女の成長を知るためだからね?

心の中ではそんなことを考えながら、なんともないように風呂場に向かおうとする俺に樹里ちゃんが待ったをかけた。

「どうしたの樹里ちゃん。…というかいつまでエプロンしてんのさ」

「あ、いやこれは…陽斗からのプレゼントだから出来るだけ身につけてたくて…」 

「…やだ、俺の幼なじみ…可愛すぎ?」

ちなみにビキニのエプロンの方はタンスの奥深くに封印してある。罰ゲームで使用する機会でもない限りもう二度と取り出すことはないだろう。

「じゃなくて!実はあたしも陽斗にプレゼントを買ってきたの。気に入ってくれるといいんだけど」

ほほう、プレゼントとな。

少し緊張しながら、俺がずっと気になっていた買い物袋に手を伸ばす樹里ちゃんに期待が高まる。

樹里ちゃんが手にしたのは…つっかえ棒のようなもの。組み立て式の収納棚のようなもので、冷蔵庫の上や洗濯機の上など、天井付近のデッドスペースに、つっかえ棒の要領で設置することで、その上に小物やらを置けるという代物らしい。

…これがプレゼント?プレゼントというからにはいささか家庭的すぎるというかなんというか。

疑問に思う俺に、ニコニコしながらついてきてと言う樹里ちゃん。言われるがままについていく。彼女は風呂場に入ると、テキパキとそれを設置。簡易的な物置スペースを作り出す。

「よし、ぴったり」

「えーっと、樹里ちゃん?これは…」

「この上にタオルとか着替えとか置いとけば、お風呂から上がったら風呂場の中で身体を拭いて、着替えることができるでしょ?天井付近だから濡れることはないだろうし、これがあればお互いの見えるところで服を脱ぐ必要はないじゃん」

ははぁ、ほーん、なるほどね。買い物前に風呂場をメジャーで測っていたのはこのためか。

それがあれば風呂場内で全てを完結できるため、無理やりここに押し入らない限りは樹里ちゃんの裸は見られないというわけか。

ふむ、なんとしても阻止しなくては。

無言で解体しようと手を伸ばす俺に、樹里ちゃんが言葉を続ける。

「あたしのお風呂のタイミングで毎回陽斗に目隠しするのは申し訳ないし…どう?名案でしょ?」

褒めて褒めて!と言わんばかりに、尻尾が生えていたらはちきれんばかりに振っているであろう樹里ちゃん。

さて、究極の選択だ。樹里ちゃんの裸を見ることができるかもという期待、それに対し、今、褒められて喜ぶ樹里ちゃんの笑顔を天秤にかけ、そして…

「ナイス…アイデア」

喜ぶ樹里ちゃんに天秤が傾き、絞り出すように親指を立てて言う。キュッと目を瞑り俺の褒め言葉を噛みしめ咀嚼する樹里ちゃん。

「どういたしまして!」

心の底から嬉しそうな樹里ちゃん。そんな表情を見ていると不思議と俺も笑顔になってしまう。

けどね樹里ちゃん…俺、笑ってるけど、心は泣いてるよ…

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