119 / 156
断絶の航悔(スーパー・カリフォルジリスティック・エクスピアリ・ドーシャス⑦ 琥珀の間
しおりを挟む
■ ヤンガードライアス彗星とアメリカ皇帝の逆襲
ハーベルトはスマイルメッセージの内容を脳裏に反芻していた。集団――高次知能集団は人類の精神エネルギーを簒奪して叡智の結晶を完成させようと躍起になっていたではないか。
「変異せよ。そして故郷に凱旋せよ」
人類をうまいこと言いくるめて肉体を捨てさせ、その精神のみを彗星にアップロードさせる。
ヤンガードライアス彗星の遺志とは、すなわち――魂泥棒――そういう事だ。
「騙されては駄目よ!」
巡洋艦ロングビーチから邨埜純色がダイマー聴覚に割り込んで来た。
「あいつは所詮、宇宙人。まともな取引に見せかけて、きっと裏があるに違いない」
聞こえるようにわざとチャンネルをオープンにする。
すると、ウンエントリヒ・アハトアハトから苛立たしげな反論が来た。
「悪辣なのはどちらかしら。巨悪の陰謀をすんでのところで阻止してあげたのに、その言い草はないわ! アメリカ皇帝を擁立したヴァイアーン幻想教団は藤野祥子をコアにして熱力学第二法則を脱しようとしているのよ。それがどういう結果を招くかご存知かしらん?」
「邪悪の樹です。ヴァイアーン幻想教団は生命の樹、知恵の樹を植えて、創造主の手によらない独自の輪廻を管理運営したいのでしょう」
エリスの指摘にハウゼルが答えた。
「そういう事よ。少なくとも高次知能集団に邪悪などといったマイナス要素はありません。集団は星々の叡智を束ねて、より良き高みを目指しているのです。エントロピーの克服。その足を引っ張る邪悪性……」
「もういいよ!!」
宇宙人の饒舌を祥子がさえぎった。
「エリスもハーベルトも嫌いだ! 純色も、ハウゼルも、望萌も、どいつもこいつもボクの行き先を邪魔する。勝手にレールを敷かないでくれ!」
オーマイゴッド粒子がバリバリと逆流する。機関車が青白い稲穂を纏った。メインスクリーンに亀裂が生じて、割れた液晶が散らばる。このままで量子蒸気ボイラーを誘爆されてはかなわない。
ウンエントリヒは慌てて祥子を投棄した。真っ逆さまに落ちていくと思いきや、背中に黄金の翼が生えた。力強く宙を叩いて風に乗る。
ハウゼルがTWXを進めようとした瞬間、機関車の真正面にドーナツ状の光が広がった。
「ボクの邪魔をしないでくれ!」
祥子はマーサズヴィニャード号に仁王立ちして、両手を蟷螂の斧のように構えている。そこから次々と強力なエネルギーが撃ち出される。まるで、怯える少年たちを庇う保護者のようにふるまっている。
輪を強烈な炎が潜り抜けてくる。息をのんだ列車長にかわって望萌が急制動をかけた。列車をかすめるように高速熱源体が飛び去っていく。
「どうするの? 延々と同じサイクルを繰り返す世界か、それとも集団と前進し続ける未来か。旗色を早く決めてちょうだい」
エリスはウンエントリヒの機関車を小型ヨットに向けた。
「まだ間に合うわ。祥子が『受精卵』を形作る前なら始末できる」
エリスはウンエントリヒ・アハトアハトの後部車両に指令を送った。客車の外装が剥がれ、砲身やミサイルランチャーが林立する。
「それって、ドイッチェラントがシノワに下るということ?」
ハーベルトが難色を示すと、エリスは当たり障りのない表現に言い換えた。
「いいえ。シノワが枢軸に加盟するということよ」
その図々しい態度にハーベルトは吐き気を催した。ラファームシノワ人特有の傲慢と貪欲に生理的嫌悪感がある。そんな連中を同志と呼びたくない。それでもエルフリーデ大総統の実質的な摂政たる自分の損得勘定がわだかまりを抑えつけた。
やはり、ハーベルトはドイッチェラント人だ。邪悪の樹を植えてまで熱力学第二法則をねじ伏せようというやり方には馴染めない。暴力的で短絡的で――そう、ブレイクスルーだ。連合国が好む解決方法だ。粗雑で野蛮で拡張と形式を重んじるドイッチェラントの価値観と相容れない。それに比べて高次知能集団は建設的だ。なにより鉄の規律に反しない。
前進あるのみ、だ。
「ダメよ! ハーベルト。口車に乗せられては――」
純色の警句が虚しく響く。ハーベルトの心は揺らがなかった。
「いいわ。殺って」
■ バイカル湖 マーシャ・クリロフ号
艦内の装甲区画では逮捕したイチゲロフの取り調べが行われていた。艦隊の留守を預かるシュリーマン艦長はイヴォルギンスキー・ダツァンを家宅捜索して得られた証拠物を元に、陰謀のベールを取り払う。
「荒井吹雪に地底世界の橋渡し役を担わせる計画だった?」
「そうだ。シャンバラ誘導体はチベット教の密書カーラチャクラ・タントラを具象化したものだ。シャンバラとは幸福の源という意味を持つ。当該文書には、地底王国の扉は非常に霊験あらたかな国のすぐそばにあると書かれている。現実問題としてそのような美しい国は中央アジアのどこにもない。しかし、シャンバラは精神世界だけに存在する抽象概念でも幻想でもない。確固として君臨する」
「その入り口、いわば召喚ゲートとなる『国家』を無理やり建設しようとしたのね。人道的に許せないやり方で!}
シュリーマン艦長は口にハンカチを当てた。
「そうだ。荒井吹雪に地底人の子供を宿す準備をした。腹の中にシャンバラの国民が根付けば、そこがシャンバラの属領だ」
うそぶく僧侶の額にシュリーマンが拳銃を押し当てた。
「敬虔なブリャート人の信仰を破壊することは容認できない。すぐに処刑できない理由は、お前に用途が残っているからだ」
シュリーマンは凛として咲く花の如く言い放つ。
「フン、いい気になるなよ。いいだろう、お前らの黒い腹の内を当ててやろうか。シャンバラの扉を開けて俺が死なない理屈をモノにしようってんだろ。そうはいくか!」
彼は啖呵を切るとペッと唾を吐いた。身の危険を感じた女子武装SSがシュリーマンを庇う。ねばねばした痰がスカートに付着した。
「ひゃん☆」
たちまち大穴が広がる。下に履いていた純白のテニススコートにも焦げ目が広がり、アンスコとブルマが溶け落ちる。
「ひあ、ちょ、ちょっと!!」
彼女はたちまち火達磨となった。ヒト型の消し炭が紅蓮の中にくずれていく。
「うわーっ、総員退避」
居合わせた女性たちは悲鳴をあげて部屋を飛び出す。火災報知器が鳴り、消火剤が噴霧されるか、火はますます勢いを増す。
炎は一瞬で天井をなめつくし、他のフロアまで燃え広がる。
「どういう事だ? 」
シュリーマンは首をひねった。
枢軸製の消火剤には酸化反応を抑制するもの、火災を泡で包んで窒息させるもの、周囲の酸素を奪うもの等、状況に応じた種類がある。
「消火薬剤を中和する機構が働いている模様です」
急きょ呼ばれた技術将校が訝しんだ、シュリーマンは舌打ちする。
「わかった、ブロックごと閉鎖しろ! 二酸化炭素の排出用意!!」
その決断に周囲から異論が噴出する。「待ってください。まだ避難が……」
シュリーマンは究極の解決法を打ち出して、問題をねじ伏せる。
「構うものか! 私は陸軍将校ではないが、共通ルールを知っている。前進あるのみ、だ!!」
非情な決断が下された。逃げ遅れた大勢の女性たちは鋼鉄の扉に生爪を張り付けたり、喉をかきむしって息絶えた。死に際に思慕の念が芽生え、互いに身を寄せ合ったまま旅立った女たちもいた。その躯を赤い悪魔が跡形もなく滅ぼした。
「沈没します。総員退艦命令を!」
副官に促されてシュリーマンは苦渋した。親衛隊の所有物を破壊したとあっては厳罰を免れないだろう。
「爆撃誘導員を出せ。艦の周囲に展開させ、ダイマー能力で脱酸素させろ」
「お言葉ですが、そんな余裕はありません。機関部を延焼するのも時間の問題です。じき、爆沈します」
部下たちの猛反対を聞き入れ、彼女はやむなく結論を出した。「ツェッペリンNTで離艦する」
その言葉を聞いて、拘束具を填めたイチゲロフが口を開いた。
「その前に俺を解放しろ。それとも、飛行船を焼かれたいか?」
彼が黄ばんだ歯を見せる。一も二もなくシュリーマンは脅迫に屈した。僧侶は傾いた甲板から湖面に没した。
「鈴をつけておいただろうな? あれの行き先に部隊を配置しろ」
女性艦長は抜かりなく指示を下した。飛行船がマーシャ・クリロフを離れる、
遠ざかっていくオモチャを病室の窓から眺めながら、吹雪はつぶやいた。
「琥珀の間。琥珀の間に接近してはいけない」
彼女は次第に興奮して、ネグリジェのまま車いすから立ち上がった。
「ねぇ。私を艦長室に連れていって! シュリーマンは大変な過ちを犯そうとしているわ。冬の宮殿に行ってはだめ。エカテリーナ二世の側近を追いかけては駄目!」
ナースステーションから看護婦が駆け付けた。白衣の下からごついブルマ―が見え隠れする。スイカ二つ分のサイズはありそうだ。
暴れる女教師をいとも簡単に羽交い締めした。胸元からグリジェを引き裂いて、産褥ショーツ姿にする。
「だめ! エルミタージュ宮殿に接近するのだけは止めさせて。あそこには虚構と現実の扉が、いやん」
吹雪にタラコ唇が吸い付いた。大根脚が色白肌に絡みつく。
「んあ、あふ♡、ヤダ」
鐘楼は抵抗むなしく押し倒された。
■
「イチゲロフを泳がせた、ですって? こっちはそれどころじゃないの」
上下左右に揺れ動く機関車の中でハーベルトはダイマー聴覚を塞いだ。
小型ヨットに飛び乗った祥子は相似した異性たちと徒党を組んで猛反撃を仕掛けてきた。
枢軸特急とウンエントリヒが外套効果を展開して徹底抗戦している間に、後衛のロングビーチが艦砲射撃を加える。しかし、ヨットは攻撃を一切受け付けず、まるで液晶画面に張り付いたシールのように戦局から超越している。
「ご覧の通りよ。マーシャ・クリロフの事はしかたないわ。新しいオモチャが手に入ったんだもの♪ それよりも、こっちに来て」
ハーベルトは叱責するよりも応援を要請した。
藤野祥子が加わったモントークボーイズは正体不明の術式を用いて、枢軸のQCD戦術をことごとく無効化している。
「祥子があんなに抵抗するなんて予想外だったわ」
ハーベルトは誤算が生じた理由を純色に尋ねた。
「母性本能に目覚めたのでしょう。子を護る母は凶悪です」
彼女はそういうと、カロリーメーターの数値を読み取った。
「世界システム……ニコラ・テスラが考案した世界システムが稼働しています。この場を逃れるためには、その枠組みを一角だけでも崩さないと」
純色がダイマー共有視覚に北米大陸の西部を投影した。格子状のエネルギーに覆われている。
ハーベルトはそれを思い浮かべるうちに嬌声をあげた。
「西海岸、カルフォルニア……そうだわ! いいことを思いついた。ユーレカ!!」
ハーベルトはスマイルメッセージの内容を脳裏に反芻していた。集団――高次知能集団は人類の精神エネルギーを簒奪して叡智の結晶を完成させようと躍起になっていたではないか。
「変異せよ。そして故郷に凱旋せよ」
人類をうまいこと言いくるめて肉体を捨てさせ、その精神のみを彗星にアップロードさせる。
ヤンガードライアス彗星の遺志とは、すなわち――魂泥棒――そういう事だ。
「騙されては駄目よ!」
巡洋艦ロングビーチから邨埜純色がダイマー聴覚に割り込んで来た。
「あいつは所詮、宇宙人。まともな取引に見せかけて、きっと裏があるに違いない」
聞こえるようにわざとチャンネルをオープンにする。
すると、ウンエントリヒ・アハトアハトから苛立たしげな反論が来た。
「悪辣なのはどちらかしら。巨悪の陰謀をすんでのところで阻止してあげたのに、その言い草はないわ! アメリカ皇帝を擁立したヴァイアーン幻想教団は藤野祥子をコアにして熱力学第二法則を脱しようとしているのよ。それがどういう結果を招くかご存知かしらん?」
「邪悪の樹です。ヴァイアーン幻想教団は生命の樹、知恵の樹を植えて、創造主の手によらない独自の輪廻を管理運営したいのでしょう」
エリスの指摘にハウゼルが答えた。
「そういう事よ。少なくとも高次知能集団に邪悪などといったマイナス要素はありません。集団は星々の叡智を束ねて、より良き高みを目指しているのです。エントロピーの克服。その足を引っ張る邪悪性……」
「もういいよ!!」
宇宙人の饒舌を祥子がさえぎった。
「エリスもハーベルトも嫌いだ! 純色も、ハウゼルも、望萌も、どいつもこいつもボクの行き先を邪魔する。勝手にレールを敷かないでくれ!」
オーマイゴッド粒子がバリバリと逆流する。機関車が青白い稲穂を纏った。メインスクリーンに亀裂が生じて、割れた液晶が散らばる。このままで量子蒸気ボイラーを誘爆されてはかなわない。
ウンエントリヒは慌てて祥子を投棄した。真っ逆さまに落ちていくと思いきや、背中に黄金の翼が生えた。力強く宙を叩いて風に乗る。
ハウゼルがTWXを進めようとした瞬間、機関車の真正面にドーナツ状の光が広がった。
「ボクの邪魔をしないでくれ!」
祥子はマーサズヴィニャード号に仁王立ちして、両手を蟷螂の斧のように構えている。そこから次々と強力なエネルギーが撃ち出される。まるで、怯える少年たちを庇う保護者のようにふるまっている。
輪を強烈な炎が潜り抜けてくる。息をのんだ列車長にかわって望萌が急制動をかけた。列車をかすめるように高速熱源体が飛び去っていく。
「どうするの? 延々と同じサイクルを繰り返す世界か、それとも集団と前進し続ける未来か。旗色を早く決めてちょうだい」
エリスはウンエントリヒの機関車を小型ヨットに向けた。
「まだ間に合うわ。祥子が『受精卵』を形作る前なら始末できる」
エリスはウンエントリヒ・アハトアハトの後部車両に指令を送った。客車の外装が剥がれ、砲身やミサイルランチャーが林立する。
「それって、ドイッチェラントがシノワに下るということ?」
ハーベルトが難色を示すと、エリスは当たり障りのない表現に言い換えた。
「いいえ。シノワが枢軸に加盟するということよ」
その図々しい態度にハーベルトは吐き気を催した。ラファームシノワ人特有の傲慢と貪欲に生理的嫌悪感がある。そんな連中を同志と呼びたくない。それでもエルフリーデ大総統の実質的な摂政たる自分の損得勘定がわだかまりを抑えつけた。
やはり、ハーベルトはドイッチェラント人だ。邪悪の樹を植えてまで熱力学第二法則をねじ伏せようというやり方には馴染めない。暴力的で短絡的で――そう、ブレイクスルーだ。連合国が好む解決方法だ。粗雑で野蛮で拡張と形式を重んじるドイッチェラントの価値観と相容れない。それに比べて高次知能集団は建設的だ。なにより鉄の規律に反しない。
前進あるのみ、だ。
「ダメよ! ハーベルト。口車に乗せられては――」
純色の警句が虚しく響く。ハーベルトの心は揺らがなかった。
「いいわ。殺って」
■ バイカル湖 マーシャ・クリロフ号
艦内の装甲区画では逮捕したイチゲロフの取り調べが行われていた。艦隊の留守を預かるシュリーマン艦長はイヴォルギンスキー・ダツァンを家宅捜索して得られた証拠物を元に、陰謀のベールを取り払う。
「荒井吹雪に地底世界の橋渡し役を担わせる計画だった?」
「そうだ。シャンバラ誘導体はチベット教の密書カーラチャクラ・タントラを具象化したものだ。シャンバラとは幸福の源という意味を持つ。当該文書には、地底王国の扉は非常に霊験あらたかな国のすぐそばにあると書かれている。現実問題としてそのような美しい国は中央アジアのどこにもない。しかし、シャンバラは精神世界だけに存在する抽象概念でも幻想でもない。確固として君臨する」
「その入り口、いわば召喚ゲートとなる『国家』を無理やり建設しようとしたのね。人道的に許せないやり方で!}
シュリーマン艦長は口にハンカチを当てた。
「そうだ。荒井吹雪に地底人の子供を宿す準備をした。腹の中にシャンバラの国民が根付けば、そこがシャンバラの属領だ」
うそぶく僧侶の額にシュリーマンが拳銃を押し当てた。
「敬虔なブリャート人の信仰を破壊することは容認できない。すぐに処刑できない理由は、お前に用途が残っているからだ」
シュリーマンは凛として咲く花の如く言い放つ。
「フン、いい気になるなよ。いいだろう、お前らの黒い腹の内を当ててやろうか。シャンバラの扉を開けて俺が死なない理屈をモノにしようってんだろ。そうはいくか!」
彼は啖呵を切るとペッと唾を吐いた。身の危険を感じた女子武装SSがシュリーマンを庇う。ねばねばした痰がスカートに付着した。
「ひゃん☆」
たちまち大穴が広がる。下に履いていた純白のテニススコートにも焦げ目が広がり、アンスコとブルマが溶け落ちる。
「ひあ、ちょ、ちょっと!!」
彼女はたちまち火達磨となった。ヒト型の消し炭が紅蓮の中にくずれていく。
「うわーっ、総員退避」
居合わせた女性たちは悲鳴をあげて部屋を飛び出す。火災報知器が鳴り、消火剤が噴霧されるか、火はますます勢いを増す。
炎は一瞬で天井をなめつくし、他のフロアまで燃え広がる。
「どういう事だ? 」
シュリーマンは首をひねった。
枢軸製の消火剤には酸化反応を抑制するもの、火災を泡で包んで窒息させるもの、周囲の酸素を奪うもの等、状況に応じた種類がある。
「消火薬剤を中和する機構が働いている模様です」
急きょ呼ばれた技術将校が訝しんだ、シュリーマンは舌打ちする。
「わかった、ブロックごと閉鎖しろ! 二酸化炭素の排出用意!!」
その決断に周囲から異論が噴出する。「待ってください。まだ避難が……」
シュリーマンは究極の解決法を打ち出して、問題をねじ伏せる。
「構うものか! 私は陸軍将校ではないが、共通ルールを知っている。前進あるのみ、だ!!」
非情な決断が下された。逃げ遅れた大勢の女性たちは鋼鉄の扉に生爪を張り付けたり、喉をかきむしって息絶えた。死に際に思慕の念が芽生え、互いに身を寄せ合ったまま旅立った女たちもいた。その躯を赤い悪魔が跡形もなく滅ぼした。
「沈没します。総員退艦命令を!」
副官に促されてシュリーマンは苦渋した。親衛隊の所有物を破壊したとあっては厳罰を免れないだろう。
「爆撃誘導員を出せ。艦の周囲に展開させ、ダイマー能力で脱酸素させろ」
「お言葉ですが、そんな余裕はありません。機関部を延焼するのも時間の問題です。じき、爆沈します」
部下たちの猛反対を聞き入れ、彼女はやむなく結論を出した。「ツェッペリンNTで離艦する」
その言葉を聞いて、拘束具を填めたイチゲロフが口を開いた。
「その前に俺を解放しろ。それとも、飛行船を焼かれたいか?」
彼が黄ばんだ歯を見せる。一も二もなくシュリーマンは脅迫に屈した。僧侶は傾いた甲板から湖面に没した。
「鈴をつけておいただろうな? あれの行き先に部隊を配置しろ」
女性艦長は抜かりなく指示を下した。飛行船がマーシャ・クリロフを離れる、
遠ざかっていくオモチャを病室の窓から眺めながら、吹雪はつぶやいた。
「琥珀の間。琥珀の間に接近してはいけない」
彼女は次第に興奮して、ネグリジェのまま車いすから立ち上がった。
「ねぇ。私を艦長室に連れていって! シュリーマンは大変な過ちを犯そうとしているわ。冬の宮殿に行ってはだめ。エカテリーナ二世の側近を追いかけては駄目!」
ナースステーションから看護婦が駆け付けた。白衣の下からごついブルマ―が見え隠れする。スイカ二つ分のサイズはありそうだ。
暴れる女教師をいとも簡単に羽交い締めした。胸元からグリジェを引き裂いて、産褥ショーツ姿にする。
「だめ! エルミタージュ宮殿に接近するのだけは止めさせて。あそこには虚構と現実の扉が、いやん」
吹雪にタラコ唇が吸い付いた。大根脚が色白肌に絡みつく。
「んあ、あふ♡、ヤダ」
鐘楼は抵抗むなしく押し倒された。
■
「イチゲロフを泳がせた、ですって? こっちはそれどころじゃないの」
上下左右に揺れ動く機関車の中でハーベルトはダイマー聴覚を塞いだ。
小型ヨットに飛び乗った祥子は相似した異性たちと徒党を組んで猛反撃を仕掛けてきた。
枢軸特急とウンエントリヒが外套効果を展開して徹底抗戦している間に、後衛のロングビーチが艦砲射撃を加える。しかし、ヨットは攻撃を一切受け付けず、まるで液晶画面に張り付いたシールのように戦局から超越している。
「ご覧の通りよ。マーシャ・クリロフの事はしかたないわ。新しいオモチャが手に入ったんだもの♪ それよりも、こっちに来て」
ハーベルトは叱責するよりも応援を要請した。
藤野祥子が加わったモントークボーイズは正体不明の術式を用いて、枢軸のQCD戦術をことごとく無効化している。
「祥子があんなに抵抗するなんて予想外だったわ」
ハーベルトは誤算が生じた理由を純色に尋ねた。
「母性本能に目覚めたのでしょう。子を護る母は凶悪です」
彼女はそういうと、カロリーメーターの数値を読み取った。
「世界システム……ニコラ・テスラが考案した世界システムが稼働しています。この場を逃れるためには、その枠組みを一角だけでも崩さないと」
純色がダイマー共有視覚に北米大陸の西部を投影した。格子状のエネルギーに覆われている。
ハーベルトはそれを思い浮かべるうちに嬌声をあげた。
「西海岸、カルフォルニア……そうだわ! いいことを思いついた。ユーレカ!!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
182年の人生
山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。
人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。
二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。
『月のトカゲを探す者』第一部(全三部)。
(表紙絵/山碕田鶴)
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる