ほんのかすり傷と思っていました

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女の子として扱われるのは嫌だ

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「何でもないですよ。ちょっと新庄を脅しているだけです。大丈夫です。別に殺しませんよ。ただ、女の子だということを認めるまで、少しだけ痛めつけるつもりですがね」
「ふむ。それで君は満足できるのか?」
「え?」
月詠はようやく振り返った。
「何が言いたいんですか?」
「私は新庄君のことが好きだと言った。月詠君には新庄君を愛する権利があると思う。だが、私のことも忘れて欲しくはないね」
佐山は新庄を抱き寄せながら言った。
「私が愛するのは彼女だけだ。だが、彼女が愛されるのは、彼女の自由だと思っている。故に、もし仮に、月詠君が新庄君を好きなように愛するとしても、それは仕方のないことだ。月詠君に止める権利などないだろう」
「……っ」
「ああ、誤解しないように言おう。月詠君のことを悪く言っているわけではないよ。私はむしろ感心すら覚えているほどだ。月詠君は実に理性的な人間だ。感情的になりやすい人間の思考を読み取る術に長けていて、常に冷静に物事を判断することができる。素晴らしい能力だと思うよ」
「……」
「だから、私達はこれからも仲良くやっていけるとそう思っているのだが、どうかな?」
佐山の問い掛けに、しかし、月詠は何も言わなかった。
ただ、黙って立ち尽くす。
そして、しばらくの後、彼女は踵を返した。
「…………わかりました。今日は帰ります。また明日来ましょう。新庄、貴方はそこで待っていてください」
言って、月詠は部屋を出ていった。
● 佐山は月詠が去った後も新庄を抱いたままだった。
新庄の身体は細く軽い。男装をしていた時も細かったが、今はさらに細い。まるで壊れ物のようだ。
そんな新庄は、今、ベッドの上で横になっている。
「さっきのことだけど」
新庄が言うと、佐山がこちらを見た。
「僕は本当に男なんだ」「……」
「信じて欲しいんだ。僕は、男として育てられたから、男のフリをしてたけど、本当は女の子なんだ。嘘ついてごめんなさい。でも、僕は男だ。女の子じゃない。女の子として扱われるのは嫌だ。だって僕は男なんだから!」
「では何故、月詠君の前で女の子であることを隠そうとしたのかね?」
問われて、新庄は答えられなかった。言葉が出てこない。
それは、
「……わか、らない」
「わからない? どういうことかな」
新庄は一度目を伏せてから、ゆっくりと口を開く。
「あの時は必死だったから。怖くて、とにかく逃げたかった。それに、男装してれば誰も僕が女だとは気づかないと思ったんだ。男装は楽しかったし、男である方が都合が良かったんだよ。男なら何をしても許されると思ってた。女の子の服を着ても怒られないし、スカート穿いても文句言われないし、胸が大きくなっても誰にも気付かれないで済む。それがすごく嬉しかった。男のままでいるつもりだった。男のままずっと生きていけばいいと思っていた」
けれど、
「月詠さんに女の子であることがバレた。そして、月詠さんの目の前で裸にされた。その時、僕は思ったんだ。このままじゃ駄目だって」
自分は女なのだと。
男ではないのだ。
「だから、月詠さんが帰った後、僕は服を脱いだ。全部。自分の身体を見せようと思った。今までは、自分が男の子だと思い込んでいたから平気だった。けど、女の子であることを隠していたせいか、その、恥ずかしくって。それでも、僕はちゃんと見せようと頑張った。全部」
新庄の言葉を聞きながら佐山は無言だった。
新庄は続ける。
「全部見せたら凄くスッキリした気分になったよ。それで、もう大丈夫だと思ったんだけど、何故か月詠さん、また僕のところに来たんだよね。それも、今度はもっと怒ってるみたいに見えた。だから、慌てて僕は言った。『やめて』って。そしたら、月詠さん、『貴方が悪いんですよ!』って叫んで―――」
新庄は自分の両手を見下ろした。
「それで、その、気が動転したっていうか、どうして良いかわかんなくなって、それでつい言っちゃったんだ。『助けて! お願い誰か来て!!』って」
すると、
「すぐに人が来たよ。……御陰様で助かった」
「それは何よりだ」佐山は言い、それから新庄の手を取った。新庄は反射的に手を引くが、佐山は強く握ってくる。
「あ、あの、手を離して欲しいんだけど」
「何故?」
「えっと、それは、その、いろいろと困るというか」
「ふむ。だが、君が私の質問に答えるまでは離さないつもりだよ」
「……」
新庄は息を呑んでから、
「……わ、わかったよ」
観念する。
「……えっと、それで、僕達がそういう関係だと思われたらしくて、でも僕は否定して、だから、月詠さんは勘違いしているんだよって、言ったんだよ。そうしたら、月詠さん、急に変なこと聞いてきて。『貴方は佐山のことが好きなんですね?』って」「……」
「どうなの、って聞かれたらそりゃ好きだけどさ。そんな当たり前のこと聞くなんて月詠さんもおかしなことを言うなって思って、そうです、好きですって答えたよ。
そしたら、月詠さん、いきなり怒り出して。……ううん、違うかな。僕が月詠さんを怒らせたのかもしれない」
「月詠君が怒った理由、わかるかね?」
新庄は首を横に振った。わからないという意思表示だ。
「わかれば苦労しないよ……」
「まぁ、そうだが」
佐山は苦笑して、
「しかし、君はよく正直に答えられたものだね。普通は異性から好きだと言われた場合、多少は動揺するものだと思うのだが」
「ああ、それ? でもさ、僕は男として育てられてきたわけだし。月詠さんには悪いけど、恋愛感情とかよく判らないんだよね」
「ふむ。つまり君は、男女間の愛情というものを知らない、と?」
新庄は眉を寄せて考えた末、
「んー……多分そうなんじゃないかと思う」
「では、私に対する気持ちも本当のものではないということかね? 私が君を好きだと言っても?」「……あの、佐山くん、僕達は女の子同士だから、そういう言い方はちょっと」
「…………ああ、失礼」
「いや、別に謝るようなことじゃないけど」
「ともあれ、君の今の台詞を聞いて私は少々傷ついたが」
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