狼の仮面

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もっと強くなる必要があった

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御堂は接近戦になるとろくに戦うことができない。特に格闘戦は苦手だと言っていい。それは、御堂の武器が拳ではなく、刃渡り二〇センチ以上のナイフだったからではない。御堂の武術はあくまでも護身のためのものであり、本格的な訓練を積んでいるわけでもないのだ。
御堂の師匠が言うには、御堂は身体強化の魔術をうまく使いこなせていないらしい。
だが、御堂は、その欠点を克服するために特訓をすることにした。次に上げた成果は、魔術の行使能力の向上だった。
これは主に御堂の精神的な問題によるものだが、御堂は、この一ヶ月の修行の成果によって、最低限、人の姿をした相手と戦うことができるようになったのだ。
これは、今までの御堂にとっては大きな進歩だった。だが、まだ足りない。御堂は、もっと強くなる必要があった。
御堂は、さらに強くなろうと決意した。だが、御堂の最大の問題は、魔術の習得が遅々として進まないことだった。
御堂は、魔術の天才などという大層なものではないが、それでも一般的な人間に比べれば才能があるほうだという自信はあった。だが、御堂は、一向に成長の兆しを見せない。
原因は分かっている。……御堂が魔術を使おうとすると、必ず何かしらの邪魔が入るのだ。
たとえば、御堂が攻撃魔術を唱えようとすると、なぜか途中でかき消されてしまう。それどころか、ひどい頭痛や吐き気に襲われてしまうのだ。――だが、御堂が攻撃以外の簡単な治癒や解毒などの魔術を試してみると驚くほど簡単に成功してしまう。
他にも、様々な実験を繰り返した結果分かったことがある。――それは、御堂が唱えようとした魔術に対して強い抵抗力を持つ者がいると、その人物が近くにいる場合に限り、その系統の魔術が使えなくなるということだ。……この謎の現象に心当たりのある者は意外と多いようだ。御堂は、この事実から一つの仮説を立てた。
それは、御堂が唱えようとしている魔術に対抗できるほどの力を持った魔術師が、なんらかの手段を用いて妨害しているのではないか、というものだった。
だが、この仮説は半分正しくて、半分間違っていた。
なぜなら、この妨害は、魔術的なものではなく物理的なものなのだから――この原因を突き止めようと、御堂は何度も試みた。だが、結局は無駄に終わった。
だが、御堂は諦めなかった。……この障害を乗り越えない限り、御堂は魔術を使いこなすことはできないだろう。
そのためにも、御堂は、少しでも多くの知識を吸収しなければならないのだ。
だが、今の御堂では、とてもではないが、まともな魔術師になることは不可能だろう。
――どうすれば、俺は本当の意味で魔術師になれるのだろうか?
「草薙御堂、何を悩んでいるのですか?」
不意に声をかけられた。振り返るとそこには、アンジェ・スタインバーガーの姿があった。
「あ、ああ、アンジェか……」
御堂は、アンジェの美貌に見惚れながら返事をした。
「あなたには、悩みごとなんて似合わないわよ」
アンジェはそう言って微笑んだ。
「そうかな?」
「ええ。……それより、あなたの部屋に遊びに行ってもいいかしら?」
「ああ」
アンジェは、御堂の部屋に入るなり、御堂の勉強机の上に腰掛けた。
「御堂、ちょっと話を聞いてくれる? 最近、わたしの周りで妙な噂が流れているの」アンジェは憂鬱そうな表情を浮かべて言った。
「妙な噂?」
御堂は首を傾げた。
「御堂は狼男なんじゃないかって」
「はあっ!?」……一体、どういう意味だ? 御堂は目を丸くする。
「そんなことないわよね」とアンジェ。
「当り前だろ! 俺がどうして人食い人種の仲間入りをしなくちゃならないんだ!」
「よかった。でも御堂も一応、警戒しておいたほうがいいわね」
「何を警戒しろってんだよ!」
「魔導士よ。どうも狼男たちが仲間内から選りすぐりのシャーマンを選抜して送り込んだんじゃないかって憶測が流れてる。目的は御堂の修業を妨げるため。そればかりでなく、御堂、貴方の能力は戦力になる。だから御堂を狼男にしようと色々謀ってる。そういえば、あなた、最近やたら丸いものに御執心じゃない?例えば丸顔の女子とか。まるで満月に憧れるように見とれてたわね。獣化がはじまってるんじゃない?クスクス」

「……あのなぁ」御堂は溜息をついた。
「そんなわけあるか!だいたい俺は犬なんか好きじゃないぞ。あいつらは人を噛むだろ。噛みつくだろ。あんなもん可愛くもないだろ。凶暴で、下品で」
クゥン。御堂の足元にどこからともなく子犬がすり寄ってきた。上目遣いに尻尾を振っている。クンクン甘えてとうとう御堂もついなでてしまった。「それ、うちの子なんです」
アンジェとは別の女子が声をかけてきた。
丸顔だった。そしてアンジェはいつの間にかいなくなっていた。
そして犬がクワッと牙を剥いた。
「これ以上、我らに手出しをするな、さもなくば我らの軍門に下るか、命が惜しくば選べ」と丸顔の女が言った。その目は爛々と輝き牙からは血の滴までたれていた。
その瞬間、「待てーッ!」
御堂は走り出した。
背後に、殺気が迫る。だが御堂の足は決して止まらない。
「師匠、師匠、助けてくださーい」
スマホで必死に師匠を呼び出した。するとアンジェがお腹を抱えて笑っている。
「噂は本当だったでしょ」
そして彼女は涙さえ浮かべる。その笑い方は、もう爆笑といっても過言ではなかった。そしてついにアンジェは倒れこんでしまったのだ。だが、それでもまだ笑い続けていた。……本当に恐かったのだ。
「はあ、はあ……、し、死ぬ、は、は、は……、はは……、うっ、げほっ、ごほッ、ぐふぅ」
「…………おまえ、笑いすぎだろ」
御堂は恨めしげにつぶやくと、師匠に電話をかけた。
『――もしもし?』
「師匠、今、どこにいますか?」
『今は自宅だ』
「これからそちらに向かいます。詳しい話はそこで」
御堂は電話を切ると、全力で駆けだした。
三〇分後、御堂はアンジェと師匠の自宅マンションに到着した。インターホンを押し、出てきたのはアンジェだった。
「遅かったわね。待ちかねたわよ」
御堂は、アンジェを睨みつけた。
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