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第二章『猫』
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『あなたは英雄になりたかった』
暗闇から聞こえてきた声はひどく落ち着いていて、それでいて哀しげであった。
私は答えようとしたが声が出ない。
「違う」と言いたいのに出てこなかった。
やがて、ゆっくりとした足音が聞こえるようになる。
『あなたは英雄に成り損ねた』
足音は少しずつ近づいてくるが何も見えなかった。
私の体は何かに包まれるような感覚に陥る。どうやら何者かに抱きしめられているらしいが、私は恐くて抵抗することができない。私は声も出せず震えていた。すると「もういいんだ」という優しい声がした。そして再び頬に冷たい何かが触れる。それが指の感触であることに私は気づいた。「ごめんなさい、ごめん……」私は呟いていた。
そこで目が覚めた。
目の前にあるのは天井ではなくて壁だった。
カーテンの向こう側は暗いままなので真夜中だということが知れる。私は額に嫌なかび臭い匂いを感じながら体を起こす。そして両手を見てみる。何も無い、いつも通りの手だった。私はしばらくぼんやりとしてから立ち上がりベッドの脇に立つ。そのまま膝を抱え、座る。目を閉じた後、「はぁ……」と溜息をつくと顔を上げた。
その瞬間、私は大きく目を見開いた。そこには人がいたからだ。
全身を覆う白いローブに身を包んだその男はフードを被ったまま私の顔を覗き込んでいるかのようにじっとしている。そして私と目が合うと「大丈夫ですか?」と尋ねてくる。男の声はとても優しかったが同時にどこか薄気味悪さを感じさせる。男は続けた。
「夢を見たようですね。しかも悪い内容の。あなたにとってあまり良くない記憶だったのでしょう。汗が酷かったので少し拭き取らせていただきました」と言って男は一歩下がる。その時になってようやく、男は手にタオルを持っていることに気づいた。
私は慌てて頭を下げて礼を述べる。男は微笑むと言った。
「構いませんよ」男は続けて言う。「あなたは英雄になりたいんでしょう?ならこれからもっと過酷な場面に立ち会わなければならない時が来るでしょう。そういう時は、なるべく冷静に物事を見てください。きっと、あなたの力になってくれる筈です」
そう言った直後、男が纏っていた白いマントの中から黒っぽい毛玉のようなものが転がり出てくるのが見えたので私は驚きで悲鳴を上げそうになるが、すぐにそれが大きな黒猫だとわかる。だが男の方は慌てることもなく「あー、起こしてしまいましたか」と呟き、猫を抱き上げると「では私はこれで」と告げて去って行った。
残された私は呆然と立ち尽くしていたが、しばらくして我に返ると慌てて身支度を整えて家を出た。
そして、深夜の街を走る。
向かう先は、あの公園である。
暗闇から聞こえてきた声はひどく落ち着いていて、それでいて哀しげであった。
私は答えようとしたが声が出ない。
「違う」と言いたいのに出てこなかった。
やがて、ゆっくりとした足音が聞こえるようになる。
『あなたは英雄に成り損ねた』
足音は少しずつ近づいてくるが何も見えなかった。
私の体は何かに包まれるような感覚に陥る。どうやら何者かに抱きしめられているらしいが、私は恐くて抵抗することができない。私は声も出せず震えていた。すると「もういいんだ」という優しい声がした。そして再び頬に冷たい何かが触れる。それが指の感触であることに私は気づいた。「ごめんなさい、ごめん……」私は呟いていた。
そこで目が覚めた。
目の前にあるのは天井ではなくて壁だった。
カーテンの向こう側は暗いままなので真夜中だということが知れる。私は額に嫌なかび臭い匂いを感じながら体を起こす。そして両手を見てみる。何も無い、いつも通りの手だった。私はしばらくぼんやりとしてから立ち上がりベッドの脇に立つ。そのまま膝を抱え、座る。目を閉じた後、「はぁ……」と溜息をつくと顔を上げた。
その瞬間、私は大きく目を見開いた。そこには人がいたからだ。
全身を覆う白いローブに身を包んだその男はフードを被ったまま私の顔を覗き込んでいるかのようにじっとしている。そして私と目が合うと「大丈夫ですか?」と尋ねてくる。男の声はとても優しかったが同時にどこか薄気味悪さを感じさせる。男は続けた。
「夢を見たようですね。しかも悪い内容の。あなたにとってあまり良くない記憶だったのでしょう。汗が酷かったので少し拭き取らせていただきました」と言って男は一歩下がる。その時になってようやく、男は手にタオルを持っていることに気づいた。
私は慌てて頭を下げて礼を述べる。男は微笑むと言った。
「構いませんよ」男は続けて言う。「あなたは英雄になりたいんでしょう?ならこれからもっと過酷な場面に立ち会わなければならない時が来るでしょう。そういう時は、なるべく冷静に物事を見てください。きっと、あなたの力になってくれる筈です」
そう言った直後、男が纏っていた白いマントの中から黒っぽい毛玉のようなものが転がり出てくるのが見えたので私は驚きで悲鳴を上げそうになるが、すぐにそれが大きな黒猫だとわかる。だが男の方は慌てることもなく「あー、起こしてしまいましたか」と呟き、猫を抱き上げると「では私はこれで」と告げて去って行った。
残された私は呆然と立ち尽くしていたが、しばらくして我に返ると慌てて身支度を整えて家を出た。
そして、深夜の街を走る。
向かう先は、あの公園である。
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