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アキバ系異世界転生
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慈姑国が対ロボット用決戦兵器たる人間に寄せる思いは判る。が、こだわる理由が不可解だ。歩兵に対物狙撃銃を持たせるくらいなら、落とし穴で足止めしたり攻城兵器で岩塊をぶつけたり幾らでもマシな方法がありそうだ。
「人間でしか太刀打ちできないのです。それも、ロボットと同じシニフィエを持つ時代の民族……だっけ?」
セーラー服のスカーフを拾い上げ、散っていった少女兵らを悼む小町。
「シニフィエとシニフィアン。象りと意味です。あなたが着ているセーラー服もロボットも同じ『アキバ系』という智慧の源に属した象りをもっています。知能を持つ者は、常に周囲の環境に意味づけを行うことによって、状況を把握し環境に適応して生きてい ます。ただ、その隔たりが非常に大きいため、私たちが敵と接触すると混乱のあまり、麻痺してしまうの」
慈姑姫が言っているのは、世代格差というか文化摩擦的なエネルギーの波長がロボットたちと自分たちとでは著しく異なるということだろう。
彼女の話から推測するに、ロボットどもは別の時間軸から来た侵略者と思われる。あまりに時代が隔たり過ぎて慈姑族たちの魔法体系を阻害する要因があるのだろう。
「だから、私たちは人間を召喚してロボットと戦わせようとした。けれど、今度はシニフィエの格差が、この世界と違いすぎるために人間の意識は耐え切れずに崩壊してしまった。」
疲れたのか、慈姑姫が脚を組みなおすと、スカートの裾から紺色の下着が覗いた 。
ふくよかな腰周りにそって白線の帯が平行に縫いつけられている。ブルーマーだ。アキバの聖典に登場する美しい女神たちはこれを着けていて、スカートの中を大きく披露している。
「だからと言って、人間のシニフィエを身に着けたり、道具を使ったりするだけでは足りなくて、私たちの身体そのものを人間とそっくり交換するのは嫌! 確実に元に戻れる呪文は見つかっていないし、性別を選ぶこともままならないんでしょう? わたしはやぁよ。男になるなんて絶対にいや! それが宗主国の命令でも拒否する!」
小町は吐き捨てるようにいった。慈姑の国民の99.89%は女性だ。男は実を結ぶことが出来ないので無用の存在として蔑まれている。いざとなれば慈姑の女どうし で結実することができるからだ。
「わたしも賛成できません。人間の夢に潜り込んで言葉巧みに召喚の儀式を執り行うなど、神聖な学問としての魔法に反しますよ。だから慈姑の技術者は人間のエンジニアの夢に出てくる知識を掬い取り、そこから学んだのです。」
慈姑姫は得意げにノートパーソナルコンダクターを撫でる。ノートパソコンにはちゃんと慈姑の妖精たちむけにカスタマイズされたOSが載っている。ただ、そのバージョンはいろいろと運用に問題があるといわれている某社製なのだが。
「心配しなくても大丈夫よ。慈姑の科学力を信じなさい。わざわざ貴重な魔力を浪費して人間を招かずとも、こちらで産み出せばよいのですから。」
とう とうと流れるせせらぎの先へ慈姑姫の視線が流れると、そこには棺のような透明のガラスケースがいくつも浮かんでいた。
隣国や慈姑と関係のある地域から招かれた来賓が遠巻きに見ている。すがる様な面持ち、うたがいのまなこ、自信に満ち溢れた目、冷めた視線が入り乱れて降り注ぐ。
「本当に大丈夫なのでしょうな。慈姑姫。われわれ慈姑をはじめとする周辺の土候国は王国のなりふり構わぬ徴兵に、これ以上、付き合うわけにはいきません。優秀な魔道師がいなくなりますぞ」
いかにも胡散臭そうな鷲鼻の女が、薬品のシミまみれの白衣から取り出した眼鏡を拭く。
彼女は魔法陣を取り囲む術師たちを見やった。
「現在、人間一人の召喚につき、肉体交換要員を一 人、召喚魔法の施術に二人の割合で損耗している。全魔力を消耗して凡人に成り果てた施術者の転職支援、その他もろもろのケアで、新人の養成も滞っているありさま。あなた様の『三段逆スライド・トリプル増殖オギノ式明るい家庭的人類補完計画改・できちゃった♪月とすっぽん強力赤マムシこれでオットも惚れなおす!法』に頼るしかないのです」
慈姑姫はムッとした顔で補足した。
「……サービスパック? 大漁宴魚も泳ぐ千石ベッド今夜はいつもより多く廻しております絶倫スペシャル、略してクローン!、までが正式な論文タイトルですわ」
「ただでさえ、この国は男が余っているのです。魔法が一切使えない役立たずな種無しどもが、です。この調子で召喚を続けますとこの世 界から女子が絶滅します。痛みに耐えかねた諸国が王国に叛旗を翻すか、魔力が枯渇してこの世界が崩壊します。科学がとってかわるでしょうがね!」
「『科学』は信仰心を欠いたテクノロジーです。そのような物は滅びを加速するでしょう。しかし、背に腹は代えられません。最低限の毒をもって毒を制すのです。それを踏まえて慈姑の科学者が背水の陣で臨みます」
慈姑姫はやるせない気持ちで作業をすすめた。
三段逆スライド以下略、クローン!の準備が整ったようだ。機材はエメラルドグリーンに点滅している。すべて順調に稼働している。
「それでは、時間もありませんので召喚の儀式を開始しましょう!」
慈姑姫が音頭を取り、科学者は群集たちの前に立った。見栄え は計算しつくされている。
彼女はウインドウズのセットアップが完了すると、岩の上に立ち、高く両手をさし伸ばして呪文の唱和を開始した。
「師走の心は母心!……みなさん、ご一緒に!」
白衣の集団がもぞもぞとポケットから折りたたんだ紙を取り出して、追随する。
「しわすぅのこころはぁー、ははごころぉー」
「押せば命の、泉の広場、あがる。ハギヤ整形!」
「はぎや、せぇーけぇー」
「皮膚科、歯科もあるぅーーーハギヤ整ー形ー」
「はぎや、せぇーーけぇーー……」
集音マイクが彼らの声を個別に拾い、登録済みの声紋と照合する。
パーソナルコンダクターは次々に科学者の名前と認証完了の文字をスクロールさせていく 。
ガラスケースに赤い人工の光が宝石をちりばめるように灯っていく。
土候国の首長たちに無理を言って蒐集させた健康な女性のES細胞で満たされているのだ。
この細胞は血液成分に含まれていて、体毛、皮膚、爪、肝臓や骨など身体の再生する部分へと変化する。
理論上はあらゆる臓器に育つことのできる万能細胞といえる。
召喚された人間の女性が少ない上にクローン装置と適合する細胞は限られるので、こうした厳重な保管が必要なのだ。
慈姑の技術陣はこの細胞から、卵子までは作った。あと、人工胎児の慣性まであと一歩だ。
ちなみに認証キーワードが、とても妙なのだが、これはスポンサーの広告だったりする。ネーミングライツだね。
サモナメッセ ンジャーの中では、とてもお子様には見せられない光景が展開していた。
悲嘆と自爆を強いられてやけくそになった男と亡くなった妹に瓜二つの半裸少女に密室、おまけに周囲は敵だらけとくればシチュエーションの一丁上がりだ。描写は未来ある青少年の健全の為に省略する。
「わたし、男じゃないからわからないの。『中に』出したら教えてね。」
慈姑姫は、真剣に画面を睨みつつ、助手の男に助言を頼んだ。
遼平は苦悶と歓喜を繰り返し、
慈姑姫がマウスをクリックしようとする度に、助手が押しとどめる。
激しい息遣いと喘ぎ。
パーソナルコンダクターの前の「まだ、まだ」という押し問答が調和して非常にいかがわしい空気を濃密にする。
何度目 かの絶頂を乗り越えたとき、唐突にその瞬間は来た。
「うっ、出ちまう!」
遼平が小町のアバターを抱きかかえて、うめいた。
「今だ! 行けーーーーー!」
「次元転移渦動帯域、展開。 召喚門、開扉!」
「召~~~喚~~~♪」
慈姑姫はさまざまな願いを代弁する気持ちをマウスの右ボタンにこめた。
ウインドウが真っ白になって、いよいよ世界初『種子だけの異世界召喚♪』の儀式が始まる。
「人間でしか太刀打ちできないのです。それも、ロボットと同じシニフィエを持つ時代の民族……だっけ?」
セーラー服のスカーフを拾い上げ、散っていった少女兵らを悼む小町。
「シニフィエとシニフィアン。象りと意味です。あなたが着ているセーラー服もロボットも同じ『アキバ系』という智慧の源に属した象りをもっています。知能を持つ者は、常に周囲の環境に意味づけを行うことによって、状況を把握し環境に適応して生きてい ます。ただ、その隔たりが非常に大きいため、私たちが敵と接触すると混乱のあまり、麻痺してしまうの」
慈姑姫が言っているのは、世代格差というか文化摩擦的なエネルギーの波長がロボットたちと自分たちとでは著しく異なるということだろう。
彼女の話から推測するに、ロボットどもは別の時間軸から来た侵略者と思われる。あまりに時代が隔たり過ぎて慈姑族たちの魔法体系を阻害する要因があるのだろう。
「だから、私たちは人間を召喚してロボットと戦わせようとした。けれど、今度はシニフィエの格差が、この世界と違いすぎるために人間の意識は耐え切れずに崩壊してしまった。」
疲れたのか、慈姑姫が脚を組みなおすと、スカートの裾から紺色の下着が覗いた 。
ふくよかな腰周りにそって白線の帯が平行に縫いつけられている。ブルーマーだ。アキバの聖典に登場する美しい女神たちはこれを着けていて、スカートの中を大きく披露している。
「だからと言って、人間のシニフィエを身に着けたり、道具を使ったりするだけでは足りなくて、私たちの身体そのものを人間とそっくり交換するのは嫌! 確実に元に戻れる呪文は見つかっていないし、性別を選ぶこともままならないんでしょう? わたしはやぁよ。男になるなんて絶対にいや! それが宗主国の命令でも拒否する!」
小町は吐き捨てるようにいった。慈姑の国民の99.89%は女性だ。男は実を結ぶことが出来ないので無用の存在として蔑まれている。いざとなれば慈姑の女どうし で結実することができるからだ。
「わたしも賛成できません。人間の夢に潜り込んで言葉巧みに召喚の儀式を執り行うなど、神聖な学問としての魔法に反しますよ。だから慈姑の技術者は人間のエンジニアの夢に出てくる知識を掬い取り、そこから学んだのです。」
慈姑姫は得意げにノートパーソナルコンダクターを撫でる。ノートパソコンにはちゃんと慈姑の妖精たちむけにカスタマイズされたOSが載っている。ただ、そのバージョンはいろいろと運用に問題があるといわれている某社製なのだが。
「心配しなくても大丈夫よ。慈姑の科学力を信じなさい。わざわざ貴重な魔力を浪費して人間を招かずとも、こちらで産み出せばよいのですから。」
とう とうと流れるせせらぎの先へ慈姑姫の視線が流れると、そこには棺のような透明のガラスケースがいくつも浮かんでいた。
隣国や慈姑と関係のある地域から招かれた来賓が遠巻きに見ている。すがる様な面持ち、うたがいのまなこ、自信に満ち溢れた目、冷めた視線が入り乱れて降り注ぐ。
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「はぎや、せぇーーけぇーー……」
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慈姑の技術陣はこの細胞から、卵子までは作った。あと、人工胎児の慣性まであと一歩だ。
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慈姑姫は、真剣に画面を睨みつつ、助手の男に助言を頼んだ。
遼平は苦悶と歓喜を繰り返し、
慈姑姫がマウスをクリックしようとする度に、助手が押しとどめる。
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パーソナルコンダクターの前の「まだ、まだ」という押し問答が調和して非常にいかがわしい空気を濃密にする。
何度目 かの絶頂を乗り越えたとき、唐突にその瞬間は来た。
「うっ、出ちまう!」
遼平が小町のアバターを抱きかかえて、うめいた。
「今だ! 行けーーーーー!」
「次元転移渦動帯域、展開。 召喚門、開扉!」
「召~~~喚~~~♪」
慈姑姫はさまざまな願いを代弁する気持ちをマウスの右ボタンにこめた。
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