Soyez les bienvenus露の都の慈姑姫

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天征の禊~VS未来文明! 玲奈の中二攻撃☆硝酸★硝酸大作戦♪

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 ■生きるための、選択死は。


 その瞬間のできごとを、混沌の濁流に例えるなら、ぴったりのイメージがある。


 朝七時、線路に陽炎がたなびく東京駅。すし詰めの電車がドッと通勤客を吐き出す。飛び散る脂汗、化粧と鉄分が入り混じったムラっ気。それらが渦巻く中に待ち行列が飛び込む。
 あるいは、師走の繁華街。排水口を胃酸で洗う泥酔者。

 その場所に居合わせた人々は、ただ状況に流されるか、抗うか選択を迫られる。
 文豪カミュは代表作の中で喝破した。

 誰もが能動的に生きているようにみえて、実は、溺れる者が藁をもつかむように、選択を強いられているだけなのだ、と。



「無条件降伏よ」

 シアの言葉は嘘偽りのないものであった。
 言葉の裏などない。自分は滅びてもいいという純粋な気持ちで大佐に接した。あまつさえ、艦隊の指揮権をニケに譲っていた。
 敵の内懐うちぶところに自殺願望を持ち込むこと自体が綿密な作戦であったのだが、ともかくも結果オーライとなった。

 和平の機運が一気に拡大し、三途艦隊に砲身を下げさせ、大佐の警戒感が薄れた。

 そこへ、奪衣婆たちの術式が一気に襲いかかる。

 まず、艦隊の目であるセンサー群がやられた。駆逐艦のマストが飴のようにねじ曲がり、フェイズドアレイ・レーダーに水ぶくれが生じる。
 識別パターンを格納した
 記憶媒体からデーターが根こそぎ吸い出され、量子ファイバーケーブルが焼き切れた。そこから火災が発生し弾薬庫へ燃え広がっていく。
 艦艇が相次いで誘爆と爆散を繰り返す。
 異変に気付いた戦闘純文学者たちが甲板に立ち、術式を振るう。
「きゃあっ!」
 呪文を唱えようとした彼女は腕を振り上げたとたんに、セーラー服を袖口から持っていかれた。紺色がちぎれ飛び、みるみる丈が短くなる。
 右肩から名古屋襟がびりっと破れ、プリーツスカートも斜めに裂けた。
 片足からスカートが脱げ落ち純白テニスウェア姿になる少女。
 「ヤダ、もう、何なの~」
 スコートのホックが壊れ、ひらひらフリルのアンダースコートを突き出して、恥じらう。
 その間にも、奪衣婆の「脱がし力」はえげつない仕事っぷりを発揮する。
 「ヤダヤダヤダ、ちょっと~~」
 見えない力がブルマのゴムを断ち切り、上昇気流がクルーネックの体操服を引っこ抜く。
 「もぉ~~おか~さん」
 涙目の少女。真っ赤な半そでレオタードに濃紺のスクール水着と折り畳んだ翼が透けて見える。
 胸元から入り込んだ風が胸元を垂直に裂く。
 スクール水着の肩ひもが切れべりべりっと蛹から蝶が羽化するように、ビキニ姿の天使が羽ばたく。

 別の術者はスカートを抑えた途端にバランスを失い、豪風の中に消えていった。

 奪衣婆の十八番おはこである「脱がし」のスキルは兵士だけでなくそれを運ぶ器にも降りかかる。

 容赦ない剥落力が重戦艦の装甲をもぎ取り、ワインのコルク栓を抜
 くように砲塔を持ち上げる。スクリューが軸から外れ、くるくると冥府の空に放物線を描く。進水を防ぐための隔壁がメリメリと割れてどっと浸水する。

 対空ミサイルや多連装砲塔でハリネズミのごとく武装した戦艦が透明な手刀で真っ二つにされ、断面から翼のない兵士たちが零れ落ちていく。
 彼らが帯びている銃や剣もさらわれ、誰得なおっさんの裸体が風に踊る。

 健康な肉体を持たないゾンビやスケルトンに至っては悲惨な最期を遂げる暇もなく、瞬時に粉砕された。

 骨や肉片や鉄くずが吹き荒れる中に熱風がドッと流れ込んだ

 軽金属や鉄材がみるみる沸点を越えて蒸発し、川底に沈んだ残骸がシルエットのまま溶けていく。<
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 猛火の中、奪衣婆はコヨーテやメディアといった、救うべき人々を能動的に選択し「引っぺがし」た。


 バレルはようやく敵の真意に気付き、遅滞なく対処を講じた。
「この!」
 彼は奪衣婆の呪力を利用して改ざんされた肉体からの脱出を企てた。
 デスシップ・フレイアスターの収魂・クローン培養機構に働きかけて、工程の逆転を命じる。肉体がカプセルに吸い込まれ、ごぼごぼと肉汁が泡立ち、大脳が浮かび上がる。バレルは偽りの身体から魂を分離し、冥界の空をめざした。

「往生特急! 臨時便をここによこせ。今すぐだ」

 彼はサラマンダーに回収列車の増発を要求し、まんまと車両に乗り移った。
「叢書世紀へ行け。西
 暦三億年代のアメイジア大陸だ!」




 最初に頭の黒い人間の頭上に爆弾の雨を降らせたのは英国人だ。
 高高度から焼夷弾をばら撒き、水平線から巡航ミサイルで住宅地を殴る相手と同じ土俵で戦う術はない。
 そいつらの背後にいる納税者たちに、自身の血で贖わせるべきだろう。
 戦略兵器は面を攻めることは出来ても点と点を護りきることは出来ない。一つの頂点を潰せば、新たな頂点が生まれるだけだ。



 ■叢書世紀ウニベルシタス黄昏たそがれ

 遠未来の地球は五大陸がひと塊となって、北極を中心にアメイジア大陸を形成している。そして、我らがハンターギルドの本拠、南極大陸は形を変え
 ながらも辛うじて残っていた。

 大陸を南北に縦断する地溝帯には麓から頂までびっしりと樹木に覆われている。

 緑の絨毯を二つの大きな影が疾走している。


「サンダーソニアっ! 最☆大☆戦☆速!!」

 妹はプラスチックカバーを手刀でたたき割り、姉は拳で赤いボタンを押しつぶす。

 世界が一瞬でシャットダウン。背後の闇に蛍光フォントが踊り狂う。
 戦闘指揮所の大小あらゆるモニターが、それぞれの四文字熟語で埋め尽くされる。

【高機動敵回避能力】 【最大戦速!】
【弾薬等超生産能力】 【最大戦速!】
【第一種主永久機関】 【最大戦速!】
【対空迎撃速射能力】 【最
 大戦速!】

 サンダーソニアの翼下パイロンが開き、多目的兵装マルチウェポンベイが突出する。一個の植民星を丸ごと焼き尽くす惑星焼夷弾プラネットボンバーが信管を明滅させている。

 地上の覇者はウルトラファイトだけではない。獰猛な浮遊生物の一種、雲層類クラウドモンガーが空の一角を制している。進化した甲殻類で大きさは三十メートルを超える。気泡を抱えたクラゲが背中に寄生しており、これで浮力を得ている。

「被照準波を探知! なにこれ?」

 玲奈はクラウドモンガーにあからさまな敵愾心を感じ取り、臨戦態勢を整えた。錯覚ではない。センサーはモンガーとウルトラファイトとの電磁気的な
 対話をとらえている。

 殺るしかない。

「アストラル・グレイス! 限☆界☆突☆破---ッ!!」

 搭載兵装がひとつ残らず目覚めた。一個の種族を絶滅させる勢いで肉薄する。

【超長距離索敵能力】 【限界突破!】
【同時多発迎撃能力】 【限界突破!】
【無尽爆薬給弾能力】 【限界突破!】
【荷電粒子砲撃能力】 【限界突破!】

 対地ミサイルが、高出力レーザーが、荷電粒子ビームが、クラウドモンガーを焼き払う。

「この地球は一日が約三十時間。ウルトラファイト達は、昼間はじっと光合成に徹しているようね」

 サンダーソニア号はブースターノズルを全開に
 して惑星の夜の側へ斬り込んでいく。

「かなり風変わりな文明をあちら側にみつけたわ」

 真帆は嬉々としてドローンを飛ばした。
 地平線の向こうは賑わっているようだ。ウルトラファイトは百万株単位で群生して都市を築いている。地下茎を利用した有線網と広葉樹の葉を応用したアンテナで意思疎通しているようだ。

「EMP(核電磁パルス)攻撃は効くかしら?」

 真帆が兵器リストをもてあそぶように何度もスクロールさせている。

「やってみればいいよ。こっちは、『ちょ~~っ』と太陽黒点を刺激してみる」

 玲奈はアストラル・グレイス号を急上昇させ高度十二キロに達した。マッハ0.8
 で空中発射型ロケット・シグナスを投擲する。ソーラーアタッキングプローブがワープドライブの後ろ盾を得て、秒速二百キロで太陽をかすめる。

 プローブは太陽面通過と同時に、表面の反応を強い磁場で抑制し、軌道周辺の温度を低下させた。たちまち地球を向いた面に黒点がびっしりと並んだ。

 サンダーソニア号がアメイジア大陸の北西部に達した。その一帯は二十一世紀現在のアフリカ大陸がそのままはまり込んでおり、サハラ砂漠の部分が北部森林とよばれるジャングルになっている。

 そこがウルトラファイト文明の中心部らしい。サンダーソニア号は電離層を刺激するための核弾頭を準備し、カウントダウンを始めた。

『七時の
 方向に微弱な重力波を探知! 敵味方識別符号に反応あり』

 サブシステムが真帆に待ったをかけた。細長い人工物が軌道をゆっくりと横切っている。

「往生特急ですって? こんな時代に?」

 真帆は牽引ビームで車両を手繰り寄せた。

「罠かもしれない」

 玲奈が近接速射砲で狙いをつける。

『物体内部から幽子情報波を検出。ソウルスキャンを完了。男性のようです。敵意はない模様』
「回収して蘇生して!」
 サブシステムの報告を受けて玲奈がクローン培養槽を起動した。再生できる肉体はメイドサーバントに限られている。「彼」には我慢してもらうしかない。


 ■ 天
 征の禊
「うぐぐ……」

 着替えを終えた「彼女」はスカートのすそを伸ばして絶対領域を必死に隠している。

「『さん』付けでお呼びしましょうか? それとも、ちゃん付けがいい?」
「た、大佐と呼びたまえ。ううっ。はづかしい」
 バレルは真帆の提案をきっぱりと拒否した。

 ”彼女”はガロンに肉体改造された経緯、ジュデッカ沖の対決、シアフレイアスター艦隊の件をかいつまんで語った。

「遺伝子操作されたんじゃ、もう戻れないわ。それよりも鬼畜な上司から解放されてよかったじゃない」

 真帆はバレルを慰めるかたわら、核のボタンを押した。十キロトンの広島型原爆が電離層に大量のガンマ線を浴び
 せている。衝撃波が成層圏をひっかきまわして、地上に致死量の電磁波をまき散らす。

「おっ。絶景だね」

 成層圏から眺めるオーロラは格別だ。玲奈はうっとりと眺めている。

「人類の可能性を潰してしまった」
 バレルは複雑な心境でウニベルシタスの終焉を見守っている。
「ヴァンパイア植物知生体の世界なんて願い下げだわ」
 玲奈は吐き捨てるように言った。
「でも、バレルちゃんの話ではウルトラファイトは生存するかもしれないんでしょ?」
 真帆は陰謀の一部始終を聞いており、安心できない様子だ。
「もうすぐ、ダメ押しの太陽嵐が来るわ。物理法則を書き換えてニュートリノ振動を促進した。ミューニュートリノは窒素と結合し
 て窒素酸化物の雨を発生させるの」
 玲奈がお得意の中二知識を披露した。
「名付けて【天征の禊】 硝酸の怒涛を受けてみよ!」
「ちょ……お姉ちゃん鬼畜過ぎる」

 強力な酸が地上の生きとし生けるもの全てを溶かしつくす直前、二隻の航空戦艦は軌道を離れた。

「それにしても、組織的な抵抗はなかったし、あっさり負けすぎじゃね?」
「おねーちゃんが凶悪過ぎて勝てる気がしなかったんじゃないの? いくらなんでも、硝酸の洪水はないわ」
 真帆も姉と同様に、何か引っかかるものを感じてはいた。だが、今は往生特急の路線を遡って、シアと合流することが先決だと考えた。

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