シコルスキー・ブギを今月今夜も踊ってくれ

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ノーマはベッドに横たわり天井を見つめた

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ノーマはベッドに横たわり天井を見つめた。窓の外は明るい。カーテン越しに朝の日差しを感じる。私は今日も生き延びたのだ。
私はゆっくりと上半身を起こした。身体に異常がないことを確認すると、部屋の隅に目を向ける。そこにある鏡台に自分の姿を写した。そこには一人の女性が立っている。長い髪はぼさぼさに乱れ、服はボロボロになって汚れている。その姿を見た途端、激しい後悔に襲われた。私は何ということを考えたのだろう。私は一体何をしたのだろうか。私は、私は、私は――。
私は、あの時のことを思い出すと辛くなる。思い出したくないと思うのに、頭の中から離れない。忘れることができないのだ。私のせいで、私の存在がすべての原因だった。だからせめて、私のことはもう忘れてほしい。それがランスロットに対する願いだった。
メリカがノーマの前に姿を現したのは、ノーマがアルヴィン・ランフォード博士の記憶を取り戻して、しばらく経ってからのことだ。メリカはアルヴィンと決別し、メリカとして生きる道を選んだ。そして彼女はアルヴィンのことをずっと気にかけていたのだという。
アルヴィンはメリカを庇って死んでしまった。そのことで彼女は罪の意識を感じ、責任を取らなければと考えた。しかし、それは無意味なことだった。メリカはアルヴィンではなかったからだ。メリカがノーマに謝っても意味はない。むしろそれは逆効果であると言える。しかしメリカは諦めきれずに何度も会いにきた。しかしノーマはそれを拒み続けた。それでもメリカはノーマを救おうとしてくれていたのかもしれない。だがある日を境にメリカはパタリと来なくなった。そしてそれっきり姿を見せることがなかった。だから私は、彼女のことをずっと考えていたのだ。しかし私は、メリカに会ったとしてもどう接すれば良いのか分からなかった。そもそも、私とメリカの間には大きな壁があった。それは、私がビホルダーに操られていたせいで引き起こされた悲劇なのだが、ノーマにとっては関係なかった。ノーマは自分に対して、嫌悪感を抱き始めていた。ノーマは自分の意思ではなく、アルヴィンの意思で動いていたということに気付かされていたのだ。
――ごめんなさい。ごめんなさい。ノーマ、許して……
メリカは泣きながらそう言って、何度も頭を床に打ち付けた。ノーマはその姿を見ていることしかできなかった。
メリカはアルヴィンを裏切ったという罪を償わなければならないと思っていたらしい。しかし、結局ノーマはメリカの謝罪を受け入れることはできなかった。ノーマにとってメリカの行為は贖罪などではなく、自分を正当化するための言い訳にしか思えなかった。メリカが自分に助けを求めてくるたびに、ノーマの心に苛つきが募っていった。
私は、ランスロットとノーマのことが好きだった。ノーマのことも嫌いじゃないし、できることなら仲良くしたいとも思っていた。でも、二人には距離があるように見えた。私は二人が一緒にいるところを見て、仲直りしてほしいと願っていた。二人の間を取り持とうといろいろ頑張った。
しかし結局うまくいかず、そのうち二人は私を避けるようになった。そして私も二匹との関わり合いを避けて過ごすようになっていた。そんなある日の出来事だった。ノーマが私を訪ねてきたのは初めてのことだった。そしてその時すでにノーマは変わってしまっていた。
私はノーマの変化に気付いたが、どうすることもできなくて戸惑ってしまった。そして気付いた時にはもう遅かった。ノーマの様子がおかしいのはすぐに分かった。しかし私は見て見ぬふりをしていた。
「――ランスロット?」
私は恐る恐る名前を呼んだ。ノーマは何も答えず俯いている。私は彼女の顔を覗き込んだ後、「ひゃぁ!」と言って仰け反った。なぜならノーマの瞳孔が開いていたから。ノーマの目が真っ赤に染まっている。
「ランスロット、私はね、あなたのことが大好きよ。あなたの為ならなんだってできる。だからね――、私を、私を殺して……」
ノーマは私に微笑みかけた。「――な、なに、馬鹿なこと言ってんのよ! そんなことできるわけがないでしょ! それに、あなたは私の大切な友達なのよ! そんなことできないわよ! ノーマ! ねぇ! ノーマ! お願いだから正気に戻ってよ! ねぇ! ねぇ! ノーマ! ノーマ! ノーマァッ!!」
「みんな私を愛してないのね?」
「愛しているわよ! 私はあなたのことを愛してる! ねぇ、ノーマ! お願い! 正気に戻って! お願い……! お願い……! お願い……! お願い……! お願い……! お願い……! お願い……! お願い……!」
「嘘つき。みんな私をバカにしている。寄ってたかってイジメてる。私がこんなに苦しんでいるのに」
「違うわ! そんなつもりじゃない! ただ私は――」
「私だって、ランスロットのことが好きなんだよ? だからお願い――」
ノーマは私の首に手をかけようとする。私は咄嵯に身を引いた。するとノーマの手が私を通り抜けるようにして後ろの壁に当たった。「あ――」ノーマは驚いていた。私は急いで振り返った。
ノーマの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。「ご、ごめん、なさい……。うう、ぐすっ」
私は呆然としていた。クワッとノーマが歯をむき出しにした。「うぅ――」
――こ、殺される――!!
「ランスロット――!」「――きゃあああっ!!!」
私の身体がびくりと跳ねた。「今だ、撃て!」
「えっ!?」
「早くしろ! 撃ち殺せ! 急げ! やれぇええええええ――!!!」
私の手の中にある銃口が震えている。私の意志に反して、腕は動き出そうとしない。――私はこの人を殺したくない――! そのときだった。銃声が響き渡った。
目の前にいるのはノーマではなかった。ノーマは地面に崩れ落ちた。ノーマが撃たれた。私は慌てて彼女を抱きかかえた。そして彼女を撃った人物に視線を向けた。私は信じられなかった。その男は、ランスロット・マクファーソン博士だった。
ランスロットは私を見ると申し訳なさそうな顔を浮かべた。「ブラックホール憑依型の呪詛だ。いったいどこの誰が?とにかく君を護らなければと思ったんだ」
ランスロットは拳銃をホルスターに仕舞った。
私はしばらく動くことができなかった。頭が混乱していて何をしたらいいのか分からない。
ランスロットが言った。
君は大丈夫なのか? 怪我はないかい? 私が答えようとした時、
「ランスロット、あなた、なんで、どうして――?」
ノーマが喋った。
その言葉は弱々しく、消え入りそうだ。
ランスロットは目を逸らすと、私に向かって言った。「君を傷つけたくはなかった。すまなかった」「――私、私のせいで、私のせいで、ランスロットが……、ごめんなさい、私のせいで……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――」
私はノーマの身体を強く抱きしめると、ランスロットをキッと睨んだ。そして大声で叫んだ。
「なんなのよこれー! 説明してよー!」
私は自分の叫び声で目が覚めた。身体中から汗が出ていた。
あれから一年以上の月日が流れたけれど、今でも時々悪夢を見ることがある。私は夢の中で、ランスロットに問い質そうとするのだ。
「ランスロット……、教えてよ、一体何があったの? なぜノーマを撃ったの? どうしてあんなことをしたの?」そして私はいつもそこで目が覚めるのだ。
あの日のことは、まるで遠い過去の出来事のように感じられるときもある。しかし、
「お姉ちゃん、今日は一緒に遊ぼうぜ。なぁ、俺とゲームしよう。今日こそは負けないからな!」
「ふふん、今日はどんな手で来るのか楽しみね。そういえば、この間買ってきた本だけど――、あら、おはようございます。ランスロットさん。今朝は早いんですね」
私はまだ、あの日を忘れることができないでいるのだ。
俺は今日も仕事場である《ムーンライドアイランドステーション》へ向かうべく地下鉄に乗り込んでいた。通勤ラッシュに巻き込まれて座席には座れないものの車内は割と空いている方だと思う。
「あの……すいません」隣に座っていた女性が小声で話しかけてきた。
「はい?」と聞き返すと女性は、「ちょっと困っていまして、もしよろしければ助けてもらえないでしょうか?」と言った。彼女はどう見ても十代半ばぐらいの少女だったのだが、「――分かりました」
「では、失礼します」彼女はそう言うと鞄の中から紙袋を取り出した。そして中身を俺に見せるように開いた。
それは一枚の封筒だった。そこには宛名として『差出人・ランスロット・マクファーソン様』と書かれていた。
「えっと……」
 
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