7 / 7
襲撃
しおりを挟む
「ゼニア、君の初任務だ」
いつものように訓練していると、突然カシュタがゼニアの元を訪ねてきた。
「初任務、ですか......」
「ああ......本来ならば俺達がやる仕事じゃない。王国防衛隊と魔族討伐隊とは違う、もう一つの隊がやるべき仕事なのだが、事情があってな。今は防衛隊がその役割を担うことになっている」
そう、この王国に隊は三つある。三つあることにより、安定して崩れにくい支えができるのだ。
「はあ......それでその任務って」
カシュタは腰に手を当てて言った。
「治安維持だ」
-王国 城下町-
相も変わらず、ここの噴水は人々の心を癒やしてくれる。この周辺では穏やかな時が流れるが、少し市街地に入れば一変。賑やかな市場で人々が行き交っている。
「ここで違法なものを売っていないか、許可なく営業をしていないかなどを確かめるんだ。今日のところは大丈夫そうだが、見るに越したことはない」
一応見て回るが、やましいことをしている者など誰一人としていなかった。
見回りの最中、カシュタは珍しく愚痴をこぼした。
「本当はあいつらがやる仕事なのにな。ランセルめ、一体何をしているんだか」
「ランセルって......? 」
「もう一つの隊の隊長だ。ランセルとシェアル、ゴゼルは俺の同期で、シェアル以外は隊長に任命されたのも同時期だった。そしてつい最近、ランセルは隊全体で休息期間に入った」
その時のことを目の前で思い出すような表情をするカシュタ。
「まったく、騎士道が聞いて呆れる」
腕を組み困ったような表情をする。
すると、市場の奥の方から騒ぎの音が聞こえてきた。
「仕事、だな。行くぞ」
「はい」
現場に駆けつけるとそこでは、店の店主にいちゃもんをつけるジジイがいた。
「おいおいこの店の商品はなんだ!! 臭くて食えやしねぇ!! 」
見ると、ジジイは店のリンゴを勝手に手にとってかじりつき、叫びながらその店をけなしているようだ。店主は必死にジジイをなだめようとしていた。
「な、なあお客さん。店のもの勝手に食うのはちょっと......」
「あぁ!? 客に逆らうのか!? 」
見るからにヤバいジジイだった。
「よし、ゼニア。あれを収めてこい」
「えぇ? 俺が? 」
「大丈夫だ。上手くやれるさ」
「......」
緊張しながらジジイに近づく。すると先に、店主がゼニアの存在に気がついた。
「あッ! お前は......ッ!! 」
店主はゼニアを見た途端、怒った顔をして門前払いした。
「このクソ野郎が!! 英雄を投獄した男は近寄るんじゃねぇッ! 」
そう、ゼニアのあの戦いを見ていたのはカシュタとゴゼルの部下たちだけ。兵士はゴゼルがどれだけ悪いことをしてきたかしっているが、民は知らない。民から見ればゼニアは、なんの罪もない英雄を投獄した、どこの馬の骨とも分からない男なのだ。
「なにぃ? ゼニアだぁ? あの英雄を貶めた野郎がここに? 」
ジジイが振り返ると、そこにはゴゼルを投獄に追い込んだ張本人であるゼニアがいた。
ジジイはゼニアに向かって怒鳴った。
「て、テメェ! よくノコノコと街を歩けるな!! 」
店主もジジイと一緒に言った。
「ゴゼルさんはみんなの友であり父であり希望の光だった。それをお前は! 兵士や政界の人間に良くねぇことを吹き込んで、投獄に導いたんだ!! この悪魔が!! 」
「どっか行きやがれ!! 」
「......」
ゼニアは何も言い返せなかった。ゴゼルの悪行から民を守って、この都をより良くしたはずなのに。
民はそれに気が付かない。
ゼニアはうなだれながらカシュタのところに戻った。
カシュタも今の会話を聞いていたようで、気まずそうにゼニアに聞いた。
「......大丈夫、か? 」
するとゼニアは一生懸命に笑顔を浮かべて、カシュタに言った。
「大丈夫です! 俺がしたことは間違ってませんから! 」
「......」
カシュタは申し訳が立たなかった。民がゴゼルを崇拝していたことはわかっていたのに、ゼニアに英雄を投獄した濡れ衣を着せてしまった。
すると突然、王都の門の方向から大きな音がした。同時にそこから人々が逃げてきて、悲鳴をあげていた。
「まさかこれは......ゼニア行くぞ! 」
「はい! 」
人々が逃げてきた方向に向かって走る二人。現場に着くとそこには、王都内に侵入してきた魔族が数体いた。
一ツ目悪魔の魔族は言う。
「ケケケ! ゴゼルとかいう化け物みたいな人間はいなくなったらしいな。これでこの国は俺たち魔族のものだぜ!! 」
次に体長の大きいゴーレムが言う。
「こノ国、乗っ取ル。スべて奪イ取る」
ゼニアたちに向かって走ってくる魔族たち。
「ゼニア!! お前はそっちを!! 俺はこっちをやる!! 」
「はいッ!! 」
カシュタはハルバードで豪快かつスマートに。ゼニアは回避を駆使して敵を翻弄しながら戦っていた。しかし
「クソッ! いくら倒しても次々と入ってくる!! 」
魔族はとめどなく侵入してきており、王都陥落の危機に瀕していた。
その時、カシュタは敵にハルバードを弾かれて少し怯んだ。それにゼニアが気を取られてしまった。
「カシュタさ......ッ!! 」
ゼニアの体は、経験したことのないような衝撃を受けて後方に吹っ飛んだ。
「ゼニアッ!! 」
見ると、ゼニアを吹っ飛ばした張本人がそこにはいた。緑色の炎を周囲に浮かばせながら浮遊する、フードを被ったガイコツ。リーパーだった。しかも他の魔族とは力のレベルが違う雰囲気を感じさせる。手に持った大きな鎌は、その恐怖感を増大させていた。
「目障りだ。消えてもらおうか」
人を見下すかのような声で言うリーパー。何か魔法を放ったようにゼニアに向けていた手には、綠色の炎がかすかに見えた。
一方のゼニアは、想像を絶する全身の痛みに悶えていた。
(ぐあぁッ!! 痛い! 熱い! 涙が出てくる......ッ!! 」
幸い骨は折れていない。火傷もないようだが、前世の人間ならば経験することのない痛みだ。ゼニアにとっては十分耐え難い苦痛だった。
「ゼニアッ!! 」
カシュタは吹き飛ばされたゼニアの前に立ち、ハルバードをリーパーに向けた。
「ここから先へは行かせないぞ!! 」
するとリーパーは、自身の周囲の緑色の炎球を燃え盛らせて言った。
「目障りだと言ったはずだ。今すぐ消えてもらおう」
リーパーはそう言うと、炎球をカシュタに向けて一発放った。
「はぁああッ!! 」
その炎球をカシュタは、自身のハルバードで弾いて無力化してみせた。
リーパーは少し驚いたような様子を見せた。
「ほう......私の炎を防ぐものがいるとはな。しかし、これはッ! 」
するとリーパーは先程よりも大きめな炎球を数発、連続でカシュタに向けで撃った。カシュタはそのすべてを弾いていく。
「はあ、はあ......」
しかし、さすがのカシュタもこれだけのパワーを弾くとなると、かなりの体力を使う。
すると、リーパーは不敵に笑った。
「フフ、フフフフ......」
「何がおかしい」
リーパーはカシュタの手にあるものを指さした。
「貴様、自分の得物を見てみろ」
言われて見ると、カシュタのハルバードは炎を何度も弾いていたせいでドロドロに溶けてしまっていた。
「く......クソッ!! 」
「貴様は今から私に殺される。賭けてもいい」
カシュタはハルバードを投げ捨てて、リーパーに向かって両腕を広げた。
「何の真似だ? 」
カシュタは歯を食いしばって答えた。
「俺の後ろには今、守るべきものがいる!! 俺が大好きな、守るべき国と、人々がいる!! それを護るのが俺、防衛隊隊長カシュタ•ガルゼルークの役目だ!! 」
カシュタは精一杯守っているつもりがリーパーにとっては、アリが立ちはだかっている程度のものだった。
「笑わせるなよ人間風情が。貴様など私の炎で、体の髄までドロドロに溶かしてやる。賭けてもいい」
両手に緑の炎を浮かべ、目の前のアリを焼き去る準備を進めるリーパー。
ゼニアはその景色を、かろうじて残った意識の中で見ていた。
(カシュタ、さん......)
カシュタは首を後ろに回して振り返り、ゼニアに語りかけた。
「お前に濡れ衣が着せられるのを黙ってみていた謝罪がしたい。これぐらいさせてくれ」
そう言うとすぐに元の方向を向き、リーパーを睨みつけた。
「俺がこれで生き残らなければ、お前はこのまま都を乗っ取ればいい。しかし俺が生き残った時、お前はそのまま、なんの成果も得られずに帰れ! 俺は絶対に守って、生き残るッ! 賭けてもいいぞッ!! 」
自身の口癖を真似されたリーパーは、少し不快感に顔を歪めながらも、威厳を保つために不敵に笑った。
「......フフフ、いいだろう。では、跡形もなく焼き去ってやる!! 」
リーパーは無情にも、いままでの炎球よりも一回り大きいものを数発、カシュタに向かって放った。
ゼニアはその光景を絶望に満ちた心情で見ていた。
(ッ!! )
土煙が上がり、カシュタが見えなくなる。その中にカシュタだったものがあるのだと思うと、ゼニアは自分を責めずにはいられなかった。
(俺が......もし俺が、動けていれば!! )
自分に力があれば、助けられたかもしれない。そう思ってしまう。
リーパーはその様子を見て、嬉しそうに笑い声をあげていた。
「フハハハハハッ! なんと愉快な光景だ!! 」
やがて土煙が晴れる。そしてリーパーはそこに
「ハハハハハ、ハハ......」
ありえないものを見た。
「な......なんだと? 」
全身に傷や火傷を負いながらも、先ほどと変わらない姿勢を保ち続けているカシュタだ。
「き、貴様ッ!! 本当に人間か!? 」
そう疑問に思うリーパーに対し、カシュタは改めて叫んだ。
「ただの人間を焼き殺せないほどの弱い魔族は、帰れ!! 」
その迫力に少々気圧されたリーパー。賭け通りならばリーパーはそのまま都から出ていくはずだが、そこは魔族。当然のように約束を破った。
「ただの人間風情が! 私の炎を受けて立っていられるはずはないのだ!! 」
確かにカシュタは見た目は大丈夫そうだが、実際はかなりダメージを受けているようで、時折よろめいていた。
それを見たゼニアは、今一度アイアンソードを握りしめた。
(俺がやらないと......俺がやらないといけないんだッ! )
ゼニアはアイアンソードを地面に突き刺し、立ち上がるためのとっかかり代わりにした。
するとリーパーはそのアイアンソードを見て、ここに来てから一番驚いたような表情と声をあげた。
「あ、あれは......ッ!! 」
緑の宝石が埋められている以外は、かつて見たあの男が携えていた剣とまったく同じだった。
「ということはまさか、ヤツの......」
リーパーがそう驚いていると、その隙にゼニアは完全に立ち上がった。そしてアイアンソードを構えて言った。
「今度は俺が、護らないといけないんだッ!! 」
「ゼニア......」
そのゼニアの姿を見たカシュタは、そのままその場に力なく膝をついた。
一方リーパーは、怯みながらも綠色の炎を準備していた。
「ええい! いっそのこと、その忌々しい剣ごと焼き溶かしてやる!! 」
リーパーは両手に溜めていた炎球をゼニアに数発投げつけた。するとゼニアはその怒涛の攻撃を、回避を使ってすべて避けきってしまった。
普通なら避ける暇もなくダメージを負うのだろう。しかし前世の経験でゼニアは、超人的な反射神経と動体視力を手に入れた。それのおかげもあって、ゼニアは焼き溶けずに済んだのだ。
すると次の瞬間、炎球の向こう側にいたリーパーが自身の大きな鎌を取り出して、それをゼニアに向かって振り下ろした。
その時、ゼニアのアイアンソードは持ち主に声を発した。
スキルだ、もう一つのスキルをッ!!
「ッ!! 」
もうすぐゼニアの脳天に鎌の先端が刺さる。その時、ゼニアは声に応えてスキルを発動した。
あろうことか、剣術の心得があまりないゼニアが、アイアンソードでリーパーの鎌を弾いたのだ。そのスキルの名は
弾き
「ぐぬッ!? 」
リーパーはあまりの衝撃に後ろによろめいた。それが大きな隙を生んだのだ。
「うおおおおおッ!! 」
ゼニアは大きく飛び上がり、リーパーの頭蓋骨を真っ二つにする勢いでアイアンソードを振り下ろした。するとアイアンソードはリーパーの眉間あたりで止まり挟まって、引っ張ると、同時に首の骨を外した。
ゼニアはきれいに着地し、肩を上下させていた。
アイアンソードからリーパーの頭蓋骨がポロッと外れると、まだわずかに目が光っていた。
リーパーは言う。
「これで、終わりと思うな......この国の戦力は、大きく減った......それを知った魔族たちが......攻めてくる、ぞ......」
言い終わると、リーパーの目は光を失った。
「......ッ」
ゼニアは目の前の頭蓋骨にどうしようもなく怒りがわいた。
こいつはカシュタさんをあんな目にあわせ、この国の人々を恐怖に陥れたんだ、と。
アイアンソードの切っ先をその頭蓋骨に合わせた。そのまま頭蓋骨をアイアンソードで貫くと、先端に突き刺さった。
すると、少し遅れて魔族討伐隊と王都防衛隊の兵士が現場に駆けつけた。
「......ッ! 」
兵士たちは、自身のアイアンソードに魔物の頭蓋骨を突き刺したゼニアを見ていた。その姿は兵士から見ればまさに、都を守った英雄そのものだった。
今回の件が民の耳にも届けば、少しは現状が変わるだろうか。ゼニアは正しいことをしたのだと、認めてもらえるのだろうか。
いつものように訓練していると、突然カシュタがゼニアの元を訪ねてきた。
「初任務、ですか......」
「ああ......本来ならば俺達がやる仕事じゃない。王国防衛隊と魔族討伐隊とは違う、もう一つの隊がやるべき仕事なのだが、事情があってな。今は防衛隊がその役割を担うことになっている」
そう、この王国に隊は三つある。三つあることにより、安定して崩れにくい支えができるのだ。
「はあ......それでその任務って」
カシュタは腰に手を当てて言った。
「治安維持だ」
-王国 城下町-
相も変わらず、ここの噴水は人々の心を癒やしてくれる。この周辺では穏やかな時が流れるが、少し市街地に入れば一変。賑やかな市場で人々が行き交っている。
「ここで違法なものを売っていないか、許可なく営業をしていないかなどを確かめるんだ。今日のところは大丈夫そうだが、見るに越したことはない」
一応見て回るが、やましいことをしている者など誰一人としていなかった。
見回りの最中、カシュタは珍しく愚痴をこぼした。
「本当はあいつらがやる仕事なのにな。ランセルめ、一体何をしているんだか」
「ランセルって......? 」
「もう一つの隊の隊長だ。ランセルとシェアル、ゴゼルは俺の同期で、シェアル以外は隊長に任命されたのも同時期だった。そしてつい最近、ランセルは隊全体で休息期間に入った」
その時のことを目の前で思い出すような表情をするカシュタ。
「まったく、騎士道が聞いて呆れる」
腕を組み困ったような表情をする。
すると、市場の奥の方から騒ぎの音が聞こえてきた。
「仕事、だな。行くぞ」
「はい」
現場に駆けつけるとそこでは、店の店主にいちゃもんをつけるジジイがいた。
「おいおいこの店の商品はなんだ!! 臭くて食えやしねぇ!! 」
見ると、ジジイは店のリンゴを勝手に手にとってかじりつき、叫びながらその店をけなしているようだ。店主は必死にジジイをなだめようとしていた。
「な、なあお客さん。店のもの勝手に食うのはちょっと......」
「あぁ!? 客に逆らうのか!? 」
見るからにヤバいジジイだった。
「よし、ゼニア。あれを収めてこい」
「えぇ? 俺が? 」
「大丈夫だ。上手くやれるさ」
「......」
緊張しながらジジイに近づく。すると先に、店主がゼニアの存在に気がついた。
「あッ! お前は......ッ!! 」
店主はゼニアを見た途端、怒った顔をして門前払いした。
「このクソ野郎が!! 英雄を投獄した男は近寄るんじゃねぇッ! 」
そう、ゼニアのあの戦いを見ていたのはカシュタとゴゼルの部下たちだけ。兵士はゴゼルがどれだけ悪いことをしてきたかしっているが、民は知らない。民から見ればゼニアは、なんの罪もない英雄を投獄した、どこの馬の骨とも分からない男なのだ。
「なにぃ? ゼニアだぁ? あの英雄を貶めた野郎がここに? 」
ジジイが振り返ると、そこにはゴゼルを投獄に追い込んだ張本人であるゼニアがいた。
ジジイはゼニアに向かって怒鳴った。
「て、テメェ! よくノコノコと街を歩けるな!! 」
店主もジジイと一緒に言った。
「ゴゼルさんはみんなの友であり父であり希望の光だった。それをお前は! 兵士や政界の人間に良くねぇことを吹き込んで、投獄に導いたんだ!! この悪魔が!! 」
「どっか行きやがれ!! 」
「......」
ゼニアは何も言い返せなかった。ゴゼルの悪行から民を守って、この都をより良くしたはずなのに。
民はそれに気が付かない。
ゼニアはうなだれながらカシュタのところに戻った。
カシュタも今の会話を聞いていたようで、気まずそうにゼニアに聞いた。
「......大丈夫、か? 」
するとゼニアは一生懸命に笑顔を浮かべて、カシュタに言った。
「大丈夫です! 俺がしたことは間違ってませんから! 」
「......」
カシュタは申し訳が立たなかった。民がゴゼルを崇拝していたことはわかっていたのに、ゼニアに英雄を投獄した濡れ衣を着せてしまった。
すると突然、王都の門の方向から大きな音がした。同時にそこから人々が逃げてきて、悲鳴をあげていた。
「まさかこれは......ゼニア行くぞ! 」
「はい! 」
人々が逃げてきた方向に向かって走る二人。現場に着くとそこには、王都内に侵入してきた魔族が数体いた。
一ツ目悪魔の魔族は言う。
「ケケケ! ゴゼルとかいう化け物みたいな人間はいなくなったらしいな。これでこの国は俺たち魔族のものだぜ!! 」
次に体長の大きいゴーレムが言う。
「こノ国、乗っ取ル。スべて奪イ取る」
ゼニアたちに向かって走ってくる魔族たち。
「ゼニア!! お前はそっちを!! 俺はこっちをやる!! 」
「はいッ!! 」
カシュタはハルバードで豪快かつスマートに。ゼニアは回避を駆使して敵を翻弄しながら戦っていた。しかし
「クソッ! いくら倒しても次々と入ってくる!! 」
魔族はとめどなく侵入してきており、王都陥落の危機に瀕していた。
その時、カシュタは敵にハルバードを弾かれて少し怯んだ。それにゼニアが気を取られてしまった。
「カシュタさ......ッ!! 」
ゼニアの体は、経験したことのないような衝撃を受けて後方に吹っ飛んだ。
「ゼニアッ!! 」
見ると、ゼニアを吹っ飛ばした張本人がそこにはいた。緑色の炎を周囲に浮かばせながら浮遊する、フードを被ったガイコツ。リーパーだった。しかも他の魔族とは力のレベルが違う雰囲気を感じさせる。手に持った大きな鎌は、その恐怖感を増大させていた。
「目障りだ。消えてもらおうか」
人を見下すかのような声で言うリーパー。何か魔法を放ったようにゼニアに向けていた手には、綠色の炎がかすかに見えた。
一方のゼニアは、想像を絶する全身の痛みに悶えていた。
(ぐあぁッ!! 痛い! 熱い! 涙が出てくる......ッ!! 」
幸い骨は折れていない。火傷もないようだが、前世の人間ならば経験することのない痛みだ。ゼニアにとっては十分耐え難い苦痛だった。
「ゼニアッ!! 」
カシュタは吹き飛ばされたゼニアの前に立ち、ハルバードをリーパーに向けた。
「ここから先へは行かせないぞ!! 」
するとリーパーは、自身の周囲の緑色の炎球を燃え盛らせて言った。
「目障りだと言ったはずだ。今すぐ消えてもらおう」
リーパーはそう言うと、炎球をカシュタに向けて一発放った。
「はぁああッ!! 」
その炎球をカシュタは、自身のハルバードで弾いて無力化してみせた。
リーパーは少し驚いたような様子を見せた。
「ほう......私の炎を防ぐものがいるとはな。しかし、これはッ! 」
するとリーパーは先程よりも大きめな炎球を数発、連続でカシュタに向けで撃った。カシュタはそのすべてを弾いていく。
「はあ、はあ......」
しかし、さすがのカシュタもこれだけのパワーを弾くとなると、かなりの体力を使う。
すると、リーパーは不敵に笑った。
「フフ、フフフフ......」
「何がおかしい」
リーパーはカシュタの手にあるものを指さした。
「貴様、自分の得物を見てみろ」
言われて見ると、カシュタのハルバードは炎を何度も弾いていたせいでドロドロに溶けてしまっていた。
「く......クソッ!! 」
「貴様は今から私に殺される。賭けてもいい」
カシュタはハルバードを投げ捨てて、リーパーに向かって両腕を広げた。
「何の真似だ? 」
カシュタは歯を食いしばって答えた。
「俺の後ろには今、守るべきものがいる!! 俺が大好きな、守るべき国と、人々がいる!! それを護るのが俺、防衛隊隊長カシュタ•ガルゼルークの役目だ!! 」
カシュタは精一杯守っているつもりがリーパーにとっては、アリが立ちはだかっている程度のものだった。
「笑わせるなよ人間風情が。貴様など私の炎で、体の髄までドロドロに溶かしてやる。賭けてもいい」
両手に緑の炎を浮かべ、目の前のアリを焼き去る準備を進めるリーパー。
ゼニアはその景色を、かろうじて残った意識の中で見ていた。
(カシュタ、さん......)
カシュタは首を後ろに回して振り返り、ゼニアに語りかけた。
「お前に濡れ衣が着せられるのを黙ってみていた謝罪がしたい。これぐらいさせてくれ」
そう言うとすぐに元の方向を向き、リーパーを睨みつけた。
「俺がこれで生き残らなければ、お前はこのまま都を乗っ取ればいい。しかし俺が生き残った時、お前はそのまま、なんの成果も得られずに帰れ! 俺は絶対に守って、生き残るッ! 賭けてもいいぞッ!! 」
自身の口癖を真似されたリーパーは、少し不快感に顔を歪めながらも、威厳を保つために不敵に笑った。
「......フフフ、いいだろう。では、跡形もなく焼き去ってやる!! 」
リーパーは無情にも、いままでの炎球よりも一回り大きいものを数発、カシュタに向かって放った。
ゼニアはその光景を絶望に満ちた心情で見ていた。
(ッ!! )
土煙が上がり、カシュタが見えなくなる。その中にカシュタだったものがあるのだと思うと、ゼニアは自分を責めずにはいられなかった。
(俺が......もし俺が、動けていれば!! )
自分に力があれば、助けられたかもしれない。そう思ってしまう。
リーパーはその様子を見て、嬉しそうに笑い声をあげていた。
「フハハハハハッ! なんと愉快な光景だ!! 」
やがて土煙が晴れる。そしてリーパーはそこに
「ハハハハハ、ハハ......」
ありえないものを見た。
「な......なんだと? 」
全身に傷や火傷を負いながらも、先ほどと変わらない姿勢を保ち続けているカシュタだ。
「き、貴様ッ!! 本当に人間か!? 」
そう疑問に思うリーパーに対し、カシュタは改めて叫んだ。
「ただの人間を焼き殺せないほどの弱い魔族は、帰れ!! 」
その迫力に少々気圧されたリーパー。賭け通りならばリーパーはそのまま都から出ていくはずだが、そこは魔族。当然のように約束を破った。
「ただの人間風情が! 私の炎を受けて立っていられるはずはないのだ!! 」
確かにカシュタは見た目は大丈夫そうだが、実際はかなりダメージを受けているようで、時折よろめいていた。
それを見たゼニアは、今一度アイアンソードを握りしめた。
(俺がやらないと......俺がやらないといけないんだッ! )
ゼニアはアイアンソードを地面に突き刺し、立ち上がるためのとっかかり代わりにした。
するとリーパーはそのアイアンソードを見て、ここに来てから一番驚いたような表情と声をあげた。
「あ、あれは......ッ!! 」
緑の宝石が埋められている以外は、かつて見たあの男が携えていた剣とまったく同じだった。
「ということはまさか、ヤツの......」
リーパーがそう驚いていると、その隙にゼニアは完全に立ち上がった。そしてアイアンソードを構えて言った。
「今度は俺が、護らないといけないんだッ!! 」
「ゼニア......」
そのゼニアの姿を見たカシュタは、そのままその場に力なく膝をついた。
一方リーパーは、怯みながらも綠色の炎を準備していた。
「ええい! いっそのこと、その忌々しい剣ごと焼き溶かしてやる!! 」
リーパーは両手に溜めていた炎球をゼニアに数発投げつけた。するとゼニアはその怒涛の攻撃を、回避を使ってすべて避けきってしまった。
普通なら避ける暇もなくダメージを負うのだろう。しかし前世の経験でゼニアは、超人的な反射神経と動体視力を手に入れた。それのおかげもあって、ゼニアは焼き溶けずに済んだのだ。
すると次の瞬間、炎球の向こう側にいたリーパーが自身の大きな鎌を取り出して、それをゼニアに向かって振り下ろした。
その時、ゼニアのアイアンソードは持ち主に声を発した。
スキルだ、もう一つのスキルをッ!!
「ッ!! 」
もうすぐゼニアの脳天に鎌の先端が刺さる。その時、ゼニアは声に応えてスキルを発動した。
あろうことか、剣術の心得があまりないゼニアが、アイアンソードでリーパーの鎌を弾いたのだ。そのスキルの名は
弾き
「ぐぬッ!? 」
リーパーはあまりの衝撃に後ろによろめいた。それが大きな隙を生んだのだ。
「うおおおおおッ!! 」
ゼニアは大きく飛び上がり、リーパーの頭蓋骨を真っ二つにする勢いでアイアンソードを振り下ろした。するとアイアンソードはリーパーの眉間あたりで止まり挟まって、引っ張ると、同時に首の骨を外した。
ゼニアはきれいに着地し、肩を上下させていた。
アイアンソードからリーパーの頭蓋骨がポロッと外れると、まだわずかに目が光っていた。
リーパーは言う。
「これで、終わりと思うな......この国の戦力は、大きく減った......それを知った魔族たちが......攻めてくる、ぞ......」
言い終わると、リーパーの目は光を失った。
「......ッ」
ゼニアは目の前の頭蓋骨にどうしようもなく怒りがわいた。
こいつはカシュタさんをあんな目にあわせ、この国の人々を恐怖に陥れたんだ、と。
アイアンソードの切っ先をその頭蓋骨に合わせた。そのまま頭蓋骨をアイアンソードで貫くと、先端に突き刺さった。
すると、少し遅れて魔族討伐隊と王都防衛隊の兵士が現場に駆けつけた。
「......ッ! 」
兵士たちは、自身のアイアンソードに魔物の頭蓋骨を突き刺したゼニアを見ていた。その姿は兵士から見ればまさに、都を守った英雄そのものだった。
今回の件が民の耳にも届けば、少しは現状が変わるだろうか。ゼニアは正しいことをしたのだと、認めてもらえるのだろうか。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる