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盗花
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時は平成、空き家を狙った盗人がいた。この盗人がかなりのやり手で、警察も手を焼くほどであった。
ある晩、いつものように盗人が盗みを働いた後であった。
盗人は現場から少し離れた野原をしばらく住みかにすることに決定した。その野原というのが、背の低い雑草が生い茂り、木が少し生えているような、しけた野原なのであった。
ちょうどふかふかした雑草群を見つけると、盗人はよいしょと座り込み、横になった。このまま眠ってしまおうと考えたのだ。
眠ろうとは考えたものの、虫の声がうるさくて寝れやしない。挙げ句の果てには足を五、六箇所蚊に食われる始末であった。ついでにといわんばかりに、蚊は盗人の顔をも刺していったのだ。
自慢であった顔が蚊に吸われたとなると、盗人は苛立ってしまって、散歩へ出掛けた。といっても、周辺を探索する程度なのであった。
しばらく歩けば、雑草だけでなく、花が所々に咲き始めた。そんな花の中でも一際背が高いのが、主を失った悲しいひまわりなのであった。驚くことに、そのひまわりは喋りだしたのだ。しかし、今まで嫌というほど警察に追い回された身、これぐらいはなんともないのであった。むしろ、こいつを根っこからとって、売ってやろうかと考えたほどである。そんな盗人の考えは露知らず、ひまわりは泣いていた
「しくしく、しくしく」
「やいどうしたひまわりよ。そんなにしくしく泣きおって」
「聞いてくださいな、盗人さん。私のご主人が出でて来ないのです」
「お前のご主人というと、太陽か? 太陽が沈むのは当たり前のことだ。もうしばらく待つがいい」
「いえ待てません。今この瞬間も、ご主人は別のひまわりと楽しくやっておられるのでございます。その事実が悲しくて、悲しくて、とても泣かずに待ってなどいれないのです」
ひまわりの泣き声は止むことはなかった。ところで、盗人は先ほど、ひまわりを盗んでやろうかと思っていたが、不思議な事にそのような気持ちはとうに無くなっていたのである。なぜ無くなってしまったのかは、盗人自身にも分からなかった。
盗人はそれからというもの、毎日ひまわりに会いにいった。ある日、昼間に会いにいくと、ひまわりは喋らなかった。主人とお話をしているのかもしれん。そう思って盗人は、邪魔せゆようにと退散した。
またある晩。
「ひまわりよ、また会いに来たぞ」
「いらっしゃい盗人さん。今宵は星空がきれいですね」
ひまわりはいつしか泣くのを止め、盗人との会話に集中するようになっていった。
二人、また一人と一輪は、幾千の星々が浮かぶ夜空を見上げた。ひまわりの言う通り、空気が澄んでいる冬であるがゆえ、いつもよりきれいに感じた。
「ひまわりよ、最近主人とはどのような感じかな? 」
「はい......最近は出でておられる時も他のひまわりとの会話だけ。私には見向きもしないのでございます」
ひまわりは前のようにしくしく泣き始めた。この前まで盗人は、ひまわりが泣くことに何も感じなかった。むしろ鬱陶しいとしか考えなかったが、今はひまわりを泣き止ませようとしていた。
「そう泣くなひまわりよ。今は俺がそばにいるぞ」
「ありがとうございます、盗人さん」
盗人は毎日毎日、時には盗んだ金品で肥料を買い、ひまわりに与えもしていた。
そしてある日。
「ひまわりよ、今宵も月が綺麗だな」
「そうですね、盗人さん」
暫しの沈黙。先に話したのはひまわりの方であった。
「人間はいいですね。根がないもの。その足で自由に動き回り、世界を見ることができるなんて」
「ひまわり」
「はい? 」
「自由になりたいのか」
「ええ、とっても」
その言葉を聞くと、盗人はひまわりを根から引っこ抜き、どこかへ持ち去っていった。
男の行方は誰も知らない
ある晩、いつものように盗人が盗みを働いた後であった。
盗人は現場から少し離れた野原をしばらく住みかにすることに決定した。その野原というのが、背の低い雑草が生い茂り、木が少し生えているような、しけた野原なのであった。
ちょうどふかふかした雑草群を見つけると、盗人はよいしょと座り込み、横になった。このまま眠ってしまおうと考えたのだ。
眠ろうとは考えたものの、虫の声がうるさくて寝れやしない。挙げ句の果てには足を五、六箇所蚊に食われる始末であった。ついでにといわんばかりに、蚊は盗人の顔をも刺していったのだ。
自慢であった顔が蚊に吸われたとなると、盗人は苛立ってしまって、散歩へ出掛けた。といっても、周辺を探索する程度なのであった。
しばらく歩けば、雑草だけでなく、花が所々に咲き始めた。そんな花の中でも一際背が高いのが、主を失った悲しいひまわりなのであった。驚くことに、そのひまわりは喋りだしたのだ。しかし、今まで嫌というほど警察に追い回された身、これぐらいはなんともないのであった。むしろ、こいつを根っこからとって、売ってやろうかと考えたほどである。そんな盗人の考えは露知らず、ひまわりは泣いていた
「しくしく、しくしく」
「やいどうしたひまわりよ。そんなにしくしく泣きおって」
「聞いてくださいな、盗人さん。私のご主人が出でて来ないのです」
「お前のご主人というと、太陽か? 太陽が沈むのは当たり前のことだ。もうしばらく待つがいい」
「いえ待てません。今この瞬間も、ご主人は別のひまわりと楽しくやっておられるのでございます。その事実が悲しくて、悲しくて、とても泣かずに待ってなどいれないのです」
ひまわりの泣き声は止むことはなかった。ところで、盗人は先ほど、ひまわりを盗んでやろうかと思っていたが、不思議な事にそのような気持ちはとうに無くなっていたのである。なぜ無くなってしまったのかは、盗人自身にも分からなかった。
盗人はそれからというもの、毎日ひまわりに会いにいった。ある日、昼間に会いにいくと、ひまわりは喋らなかった。主人とお話をしているのかもしれん。そう思って盗人は、邪魔せゆようにと退散した。
またある晩。
「ひまわりよ、また会いに来たぞ」
「いらっしゃい盗人さん。今宵は星空がきれいですね」
ひまわりはいつしか泣くのを止め、盗人との会話に集中するようになっていった。
二人、また一人と一輪は、幾千の星々が浮かぶ夜空を見上げた。ひまわりの言う通り、空気が澄んでいる冬であるがゆえ、いつもよりきれいに感じた。
「ひまわりよ、最近主人とはどのような感じかな? 」
「はい......最近は出でておられる時も他のひまわりとの会話だけ。私には見向きもしないのでございます」
ひまわりは前のようにしくしく泣き始めた。この前まで盗人は、ひまわりが泣くことに何も感じなかった。むしろ鬱陶しいとしか考えなかったが、今はひまわりを泣き止ませようとしていた。
「そう泣くなひまわりよ。今は俺がそばにいるぞ」
「ありがとうございます、盗人さん」
盗人は毎日毎日、時には盗んだ金品で肥料を買い、ひまわりに与えもしていた。
そしてある日。
「ひまわりよ、今宵も月が綺麗だな」
「そうですね、盗人さん」
暫しの沈黙。先に話したのはひまわりの方であった。
「人間はいいですね。根がないもの。その足で自由に動き回り、世界を見ることができるなんて」
「ひまわり」
「はい? 」
「自由になりたいのか」
「ええ、とっても」
その言葉を聞くと、盗人はひまわりを根から引っこ抜き、どこかへ持ち去っていった。
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