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ラストスパート

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その日、友達とつるんでいた柳に、野風は向かっていった。

「風花、ちょっといいか? 」

「ん? なに? 」

野風が柳を廊下に連れていく姿を見て、クラス中が囃し立てた。指笛を吹いているやつもいた。

「今度の神宮祭さ、2人で行かないか? 」

言うと、柳は申し訳なさそうな顔をし、喋った。

「ご、ごめん。もう約束してるんだよね。悪いけど......」

「そ......そう」

落胆した野風は、そこで風花への想いを断ち切った。

-神宮祭当日-

一人寂しく屋台をハシゴし、りんご飴にかぶり付きながら、通りを歩いていた。すると、見たことのある人影を見た。

「風花、か? 」

去年着ていた着物も覚えている。間違いなく柳だった。しかし、隣には誰かがいた。

「あいつは、誰だ? 」

顔は見えないが、柳と楽しそうに会話をしている。野風は、自分の奥底からフツフツと湧き出てくる感情に気付かなかった。

「俺の風花を......この!! 」

右腕に風をまとわせ、これから放たれる物理攻撃の威力を倍増させる。

「こいつぁ!! 」

後ろから走って、勢いをつけながらの顔面パンチ。男は10mほどぶっ飛んだ。しかし、その後に柳が言った言葉が信じられなかった。

「炎田くん!! 」

「......炎、田? 」

殴られた頬を押さえながら振り向いたのは、紛れもなく、幼馴染みの炎田だった。

「野風、お前ならやってくれると思ったぜ」

炎田はそのまま歩き、立ち去ろうとした。しかし、その歩みよりも、野風の走りの方が早かった。

「ちょっとまて炎田!! なんでお前が風花と一緒に」

「そうでもしないと、お前は風花に本気になれないと思ったからだ」

炎田の目は光を取り込み、ただまっすぐ野風を見ていた。野風のもっと芯の部分を見ていたのかもしれない。

「......」

「何をすればいいかは、わかるな? 」

野風は決意を込め、コクリと頷いた。そして、柳の方へ歩いて行き、手を握った。

「風花。ちょっと来てくれるか? 」

「う、うん」

普段のおちゃらけた野風とは違う雰囲気に、柳は動揺していたが、同時に高揚し、頬を赤らめた。野風に連れられるまま、柳は山に入っていった。

「風花、ここだ」

柳が立っていたそこは、ある山の山頂。神宮祭会場の全体を見渡すことの出来る高台であった。

「なあ風花。神宮祭は花火が本番みたいなもんだよな」

「うん、そうだね」

「今年は、メッセージ花火ってのがあるらしいぜ」

言っていると、神宮祭の会場の更に向こう側から、花火が打ち上がった。それと同時に、アナウンスがここまで聞こえてきた。

「小宮 勇一様から、お父様の小宮 五郎様へのメッセージ花火です! 『親父、今まで育ててくれてありがとう。これからも長生きしてくれよな』」

空には、個人が色を決めて作ってもらう、オリジナルの花火が光っていた。

「......見ようぜ」

「......うん」

地面に二人で座り、花火を見つめていた。やがて、ボーッとしていた柳の顔が、アナウンスを聞いてハッとなった。

「続いて、野風 直紀様から、柳 風花様へのメッセージ花火です! 『風花、俺と付き合わないか? 返事を聞かせてくれ』」

二人はしばらく黙っていた。しかし、柳の口から返事、というより、今まで思っていた事が出てきた。

「やっと、伝えてくれたね......大好きだよ」

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