双子の兄に全てを持って行かれ、家を追い出された俺を待っていたのは……

灰狼〜皐月〜

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48話〜お留守番中〜

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 ハヤテ達が王都に着いた頃、エラスは自分の部屋で日課の祈りをしていた。

「……どうか今日も、皆様が平穏に過ごせますように」

 静かに祈りを捧げる。
 そんな中で私達のパーティーがして来た事を思い出す。

 勇者だから優遇しろと言って宿は常に一番良い部屋。
 代金もだいぶまけさせた。
 本当に、いろんな人に、多くの人に迷惑をかけて来た。

 でもそれで世界に平和をもたらす事ができれば、目覚めた魔王を倒す事ができればまだ良かったかもしれない。

 でも現実は違った。
 二人のパーティーメンバーに裏切られ、メンバーの一人が犠牲になり、裏切り者も捕縛されて裁かれた。
 が、裏切り者の一人が現在行方不明となっており、生死は不明。

 現在も騎士達が行方を追っているらしいけど、手がかりは一向に掴めないそうです。
 幸いな事に勇者であるカラトは操られていた事もあってか、罪には問われなかったのですが、だからといって今までして来た事が無しになる訳ではありません。

 カラトはして来た事の重大さに押し潰されかけ、一時は再起不能になりかけました。
 でも、それを彼の弟であるハヤテが救ってくれた。
 私の、想い人を救ってくれた。
 私はカラトの事が好きです。
 だから、危ないと思ったけど旅にも同行した。

(……私が支えなきゃ!! )

 大人しかった事もあってか村の男子にいじめられていた時、カラトとハヤテが助けてくれたのを思います。
 あの時、将来勇者になるってのに目の前で泣いている子をほっとけるかよとカラトが言っていたのが懐かしい。

 そんな眩しくってカッコ良かった彼を、あのクソ女は汚した。
 悔しかった。
 憎かった。
 でも私はシスターだった。
 仲間を癒し助ける存在。
 それは私の誇りであり、自慢でもあった。

 そんな私に、彼女達を傷付け、パーティーから追い出すなんて事はできなかった。
 いや、シスターでなくとも実力差から私では敵わなかっただろう。
 そして捨てられ、ボロボロになったカラトはとある村に行き着き、そこでハヤテと再会した。

 彼は、カラトに恨み言も言わずに仲間に引き入れた。
 思えばそれは彼なりのやり返しだったのかもしれない。
 恨まれて当然の事をしたのに、何も言われない。
 言ってくれた方が楽になるから言わないのかもしれないと私は思っている。

「……ふぅ。ハヤテ達は今頃教会かしら……」

 お祈りを終え、窓の外を見ながら呟く。
 ふとそこで思い出すのはユミナの事だ。
 昨日、ハヤテと恋人関係になった彼女。
 私から見ると、彼女は危うい。

 彼女は父も母も失い、人との繋がりが絶たれる事を恐れている。
 小さい頃から兄のように慕っていたハヤテと大きくなったら結婚すると言っていたが、彼はセーラと付き合ってしまった。
 それがおそらく、彼女の繋がりに対する欲求をより強めてしまったのだろう。

 多分彼女は彼を愛してはいない。
 好きではあるが、そもそも愛というものを知らないのだろう。
 彼を失いたくないから側にいるのだろう。
 だからおそらく、彼を繋ぎ止めるためならなんでもするだろう。

 ハヤテの敵を率先して討ち、ハヤテが求める物を手に入れるだろう。
 彼女は危険だ。
 だからこそ道を踏み外させてはならない。
 その為に私は戦おう。
 だが取り敢えず今はやる事がある。
 それは

「ウルさーん、ルフさーん。お散歩行きますよ~」
「ワフー!!」
「ワウ~!!」
「わっぷ」

 お散歩という単語を聞き、尻尾を全力で振りながら私に飛びかかるウルさんとルフさん。
 私とミナモさんでジャンケンをし、負けた私が散歩に行く事になったのです。

「リード良し!! では行って来ますね」
「はーい。お願いね~。言う事聞くんだよー?」
「ワフ!!」
「ワウ!!」

 家を出るなり二匹共凄い力で私を引っ張る。
 転ばないように足を前に出しますが彼等の引っ張る力はとても強いので結局

「ふべっ!?」
「ワッフワフ~!!」
「ワウワウワーウ!!」
「と、止まって下さい~!!」

 転んだ私はしばらく二匹に引きずられたのでした。



 しばらくしてやっと止まった二匹。
 そこは野原で風が吹くと草が囁くように鳴ります。
 が、ここで一度お説教です。

「ウルさん!! ルフさん!!」
「ワフ!!」
「ワウワウ!!」
「痛かったですよ!!」
「ワフ~?」
「ワウ?」
「全く……女の子には優しくしなきゃダメですよ?」
「ワフ!!」
「ワウ!!」
「……返事だけは良いんだから」

 呆れ半分、穏やか半分。
 そんな気持ちでじゃれ合う二匹を眺めます。

 そこで気付きました。
 こんなに穏やかな気持ちなのはいつぶりなのだろうか、と。
 思い返してみれば常に私は気を張っていた。
 セーラ達が横暴すれば私が謝罪し、全額ではないがまけて貰った分の差額を払ったりもした。

 いつかは、やがていつかは皆が元に戻ると信じて尻拭いをして来た。
 でも、その日は来なかった。
 その日が来る前にパーティーは崩壊した。
 元に戻る事なく、傷口は大きくなり、治る事なく崩壊した。

 それからは私はカラトを守る為に働いた。
 廃人のようになり、今までして来た事に対する罪悪感から怯えて震える彼を見て私は去れなかった。 

 建築現場では慣れない肉体労働で周囲からドヤされ、酒場での接客では身体を舐めるように見られ、時には夜の誘いをされた。
 金はやるからと。
 でもそれだけは頷けなかった。

 稼いだお金は決して多い額ではなかった。
 けれど、お金を稼ぐ事の大変な事を私は学べた。
 それと同時に私は、まけさせた分の差額を少しでも払っていた時の自分はその行為に酔っていたんだと気付けた。

 どれだけ自分は相手を上から見ていたのか。
 恥ずかしかった。
 それと同時に罪悪感も生まれた。
 それでも止まる訳にはいかなかった。
 彼の為にも、自分の為にも。
 そしてあの日、ハヤテ達に救われて今に至る。
 そうして私達は、温かいベッドで眠る事ができた。
 気を張らずに済む瞬間。
 幸せだと思えた。
 ウルさん達と触れ合える時、幸せと感じた。

「ワフ!!」
「どうしましたか?」
「ワウ!!」
「おぉ~、立派な獲物ですね。今夜のおかずにしましょうか」
「ワッフ~!!」
「ワウワ~ウ!!」

 私の思考を遮るように戻って来たウルさん達。
 二匹共それぞれ獲物を捕らえており、自慢するように見せてくれる。
 ウルさんが捕まえたのはオンソクウサギと言う中型の草食モンスター。
 その名の通り、足が速いのだが残念な事に直線でないとその速さを活かせない生物です。

 ルフさんが捕まえたのはメイサイネズミ。
 オンソクウサギ程ではないが中型の草食モンスター。
 このメイサイネズミは住んでいる環境で体毛の模様が違うという性質を持っており、一匹として同じ柄はいないと言われています。
 またその模様のおかげで目視で見つけるのが難しく、鼻の良いウルさんやルフさんの様なモンスターでないと見つけられないと言われる程、隠れるのが上手いのです。

「見つけられるなんて凄いですね~」
「ワウ~」
「ワフゥ」

 私の言葉にドヤ顔をする様に得意気な表情をするルフさん。
 それを見てウルさんは負けるものかと言わんばかりにまた獲物を獲りに行ってしまいました。
 それを追うようにルフさんもまた狩りへ行ってしまいます。
 しばらくすると彼等はまたそれぞれ獲物を捕らえて戻って来ましたが、また行ってしまいました。

「お二人共元気ですね~」

 それからしばらく彼等の狩りに付き合い、帰る頃には獲物がドッサリの状況。
 袋を持って来ておいて良かったと、思う私でした。

「……こんなにあるのでしたらお隣さんにお裾分けをしましょうかね」

 少し前の私ではそんな事を考える余裕は無かったでしょう。

「ワフ~ワフワウ~!!」
「ワウワウワオーン!!」
「はいはい、今行きますよ~」

 こんな穏やかな気持ちを思い出させてくれた事に感謝。
 こんな穏やかな時間を過ごさせてくれた事に感謝。
 感謝と同時にごめんなさい。
 ごめんなさいと同時に、大切な物を思い出させてくれてありがとう。
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