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ある平凡な夜
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暖炉にあかあかと燃える炎。季節は春といえ、夜になれば少しばかり肌寒い。
壁掛けランプの灯りが私たちを照らす夜。
書斎のちょうど中央に立ち、私はソファに掛けたお父様と向き合っている。
大切な話があるから書斎に来なさいと言われた時。ああ、今日なのかと思うだけで、思いのほか心は凪いでいた。
いつかこの日が来ることを知っていた。それは私だけでなく、私を取り巻く全ての人々の中にあった確信だろう。
お父様の右手にお母様が、左手にはエリィが佇んでいる。部屋に入った時から、エリィとは一度も目が合わない。
他愛ないお喋りなどこの場にはふさわしくない。お父様は、前置きなく切り出した。
「リンジット。大切な話というのは他でもない、バーウィッチ家の後継者についてだ」
「はい」
建国の頃より続いてきた、魔導士にして貴族の家系、バーウィッチ家。お父様はその当主であり、私は長子、妹のエリアデルは第二子。
私はいずれ婿を迎え、家督を継ぐ。この世に生まれ出る前から定められていたことだった。
今日、今、この夜までは。
「本日をもって、バーウィッチ家の跡取りを、次女のエリアデルとする。
それに伴い、お前とルーフレッド殿下との婚約は破棄となり、新たにエリアデルとの間に婚約を交わすこととする。
これは、国王陛下、ルーフレッド殿下、並びにバーウィッチ家当主グストナム・バーウィッチとの間で決した事項である」
まだ、少し肌寒い春の夜。よく晴れて、風もなく穏やかな、取り立てることもない平凡な夜に。
私は貴族の跡取りから、ただの十七の女になった。
これはそんな、何てことのない日常の話。
壁掛けランプの灯りが私たちを照らす夜。
書斎のちょうど中央に立ち、私はソファに掛けたお父様と向き合っている。
大切な話があるから書斎に来なさいと言われた時。ああ、今日なのかと思うだけで、思いのほか心は凪いでいた。
いつかこの日が来ることを知っていた。それは私だけでなく、私を取り巻く全ての人々の中にあった確信だろう。
お父様の右手にお母様が、左手にはエリィが佇んでいる。部屋に入った時から、エリィとは一度も目が合わない。
他愛ないお喋りなどこの場にはふさわしくない。お父様は、前置きなく切り出した。
「リンジット。大切な話というのは他でもない、バーウィッチ家の後継者についてだ」
「はい」
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私はいずれ婿を迎え、家督を継ぐ。この世に生まれ出る前から定められていたことだった。
今日、今、この夜までは。
「本日をもって、バーウィッチ家の跡取りを、次女のエリアデルとする。
それに伴い、お前とルーフレッド殿下との婚約は破棄となり、新たにエリアデルとの間に婚約を交わすこととする。
これは、国王陛下、ルーフレッド殿下、並びにバーウィッチ家当主グストナム・バーウィッチとの間で決した事項である」
まだ、少し肌寒い春の夜。よく晴れて、風もなく穏やかな、取り立てることもない平凡な夜に。
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