信長最後の五日間

石川 武義

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序章

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 息を切らし走る男がいる、重い甲冑を脱ぎ捨て、追っ手を振り切るためひたすら走る。
 頼れる家臣は、皆自分のために死んでいった。赤い鎧を着ている者達が自分の後ろに続く。
 甲斐の天目山で1人の男がいた。
 名を武田勝頼。
 武田信玄の跡継ぎであり、長篠の戦いで織田家に大敗を喫し今、逃亡の最中である。
 勝頼は、歩を止めた。
「もはや、これまでか。」
 勝頼は、涙目で言った。
「御屋形様、わたくしめが敵を食い止めまするので、ご自害を。」
 男は、勝頼に1例をして走り去った。
「父上、この勝頼を叱ってください。わたしのせいで武田家を潰してしまいました。今、そちらに行きます。」
 1582年3月、名門武田家は滅びた。
 
 翌日、織田信長に報告が入った。
「あの武田家が遂に滅びたか。」
「もはや、天下は上様になるかと。」
 側近の森蘭丸が言った。
「蘭丸、それは分からん。」
「何故にございますか?」
「わしは、御歳49歳じゃ、人間50年いつ死ぬかも分からん。」
 笑いながら信長は、安土城の廊下を歩き去っていった。

 信長の力は、強すぎる。
 羽柴秀吉が指揮している中国征伐は、完了する間近であり、柴田勝家の上杉征伐も時間の問題。近日には、丹羽長秀の四国征伐も始まる。
 信長の天下は、もう少しで届きそうであった。
 
 1582年5月27日、いよいよ信長死のカウントダウンが始まった。
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