誓い

時和 シノブ

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女の子は口調こそ荒かったものの、決して悪い子ではないようだ。
山を下る途中も僕の歩調を気にしながら、少し進んでは振り返り待っていてくれた。

「あの……」

「ん? 何?」

「君は登山に慣れているの?」

「そうだね。あんたよりは……自然をなめたら駄目だよ。いつ何があるか分からないから」

「君も怖い目にあった事があるの?」

「……そうだね。でも、登山は楽しい事も一杯あるしね」

話をしていたら、昨日の父さんとのやりとりを思い出して思わず涙が出そうになる。

(なんて自分勝手な事したんだろう……今頃、父さん心配してるよね。きっと母さんも)

――女の子に涙を見せたら恰好悪い。

女の子が前方を見ている間に必死にトレーナーで涙を拭う。

「もうすぐ山小屋に着くから、頑張れ!」

僕と、あまり年が違わなそうなのに、この子はとても逞しい。

二匹の犬達も僕を元気づける様に、僕の傍に来てくれる。
ペロペロ、ピチャピチャ、僕を起こしてくれた時と同じ感触だ。
僕の顔を心配そうに見上げている。
その姿がとても可愛くて、嬉しくて、思わず二匹の首元にすがり付いて抱きしめる。
フワフワの毛が暖かくて気持ちがいいし、安心する。

「カイとルゥ、あんたの事、気にいったみたいだね」

様子を見ていた女の子が、やっとニコっと笑ってくれた。
僕もつられて笑顔になる。
この子と少しだけ打ち解けられた気がして嬉しくなった。




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