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5月

使えないなら使えるようにすればいい

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憂鬱である。テンション最底辺である。

今日は二回目の挨拶運動なのだ。
これさえ終われば、もう私は挨拶運動をやらなくて済むけど一回目同様、男ばかりでやる気が出ない。

しかも、地味にイラッとくるのは林である!

あいつ、私と連絡先を交換してから一回も報告をしてこなかったのだ。
全く使えない奴である!
私の輝く未来のためにしっかり働け!と声を大にして言いたい。
ていうか、後で言う。絶対言ってやる。

気分は最悪だ。
挨拶する意欲は湧かないし、林を見るとイライラしてくるし。
とっとと終わってしまえ。


心中で林に対する悪態をつきながら、挨拶運動の時間を乗り越えた私。
よし!じゃあ林に喧嘩を売りに行こう。

「林、来なさい!」

腕を強く引いて連れてくるのは、前回と同じ場所。
やはり人は全くいない。

「あんたどうして私に報告入れないのよ!日常生活の中で色々情報があったでしょ」
「え……、あれ本気だったんですか?」

何とぼけたこと言っているの。

「当然本気に決まってるでしょ」

美鈴ちゃんのことならなんでも知りたいんだから。
何のために林を協力者にしたと思っているんだ!まったく。

「ほら、今までの分の報告を今して!美鈴ちゃんの普段の様子とか、変わったこととか何かないの?」

まくしたててグイグイ詰め寄ると、林がどんどん遠のいていく。なんでよ!

視線をあちこちにせわしなく泳がせた後、林が小さく口を開いた。

「変わったことというか、ちょっと騒ぎになったのは、この前風紀委員長の西川先輩が来ていて愛咲さんが転びそうになったところを支えたことでしょうか……。そのあとは普通に連絡事項を言われて、愛咲さんの次に僕にも連絡事項を一対一で話して先輩は帰っていきましたけど……」

どうして次第に声がフェードアウトしていくのよ!
聞き取りにくくて林に密着しちゃってるんですけど。

そして、そんなことより。

「そのことはうちの学年のほとんどが知っているからね。もっと、なんていうか……私が知らなそうなこととかないの?」

そういうことが知れなきゃ協力者の意味がないもの。
私一人での情報収集に限界を感じたから林に話しかけたのに、こんなんじゃ一人の時と変わらない。

「えっと……。特にないかな」

林はそう言うと、居心地悪そうにしている。
本当にこのままじゃ意味がないし、価値がない。
どうするかな……。

「あっ、そうだ!林、あなた美鈴ちゃんと仲良くなりなさい」
「なんで?」

私すごくいいこと思いついたんじゃない?!冴えてるよね。
喜色満面の私に対して、不可解そうでうんざり顔の林。

「林が美鈴ちゃんと仲良くなれば本人と色々話ができるし、些細なこととかにも気付けると思うの。そうしたら、林は私にどんな話をしたかとか、美鈴ちゃんにどんな癖があるだとか報告できるでしょ!」
「えっ……、さすがに話した内容を流すのはどうかと思うけど。それにそこまで知りたいなら、橋本さんが直接愛咲さんと仲良くなった方がいいんじゃ?」

せっかく私が素晴らしいアイディアを出したのに、ドン引きっていう表情しないでよ

「まだ時期じゃないんだってば!一番仲良くなれるタイミングで話しかけたいの。だけど、どれまで待ちきれないから他の人使って情報収集しているんでしょうが。話した内容については林の判断で私に教えてくれればいいから。ね?ね?いいでしょ?」

私が詰め寄りすぎて、後ろに逃げてた林の逃げ場がもうなくなっている。
今がチャンスと思い、林にズイズイ近寄ってお願いする。
逃げ場がないから、断れまい。

「でも、僕なんかが女子と仲良くなる方法なんて知らないし……」

林の目をガン見する私の視線から逃れるように、林は明後日の方向を向く。
もうひと押しでいけるとみた!

「同じ風紀委員だし、体育祭で仕事があるんでしょ?そこから話しかければいいよ。あとは趣味とか、色々知っていければ何とかなるって」
「僕お喋り得意じゃないし……」
「なにかあったら私に連絡しなさい!相談に乗ってあげるから」

堂々言い放つと、林が溜息をついた。

「わかったよ……。橋本さんに相談するのが一番不安なんだけどね」

林の言葉の後半は聞こえなかったけど、まあいいや。
私は勝ったよ!

「じゃあ今度こそ、よろしくね。林!」

今度はしっかり私のために働いてよ!

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