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6月

雨が止まない季節ですよ

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梅雨です!

雨ばっかりだし、湿気はすごいし。
千香ちゃんみたいに髪がストレートだったらいいけど、私はクセっ毛でゴワゴワしちゃうから困る!
今日の朝は曇ってたけど雨が降ってなかったのに、湿度の高さは半端なくて結局まとまらなかったし。

話変わって。
六月だからみんな夏服になり学校の雰囲気が少し変わった。
女の子の露出が増えて薄着になったんだよ。ハアハア。
そういう意味では大変よろしい季節になりました。

と、現実逃避はこのくらいにして。

今私は、昇降口でコソコソと姿を隠しながら偵察をしている。
だってすぐそこに美鈴ちゃんがいるんだもん。

帰ろうと思って千香ちゃんと来たんだけど、千香ちゃんが教室に傘を置いて来ちゃったらしくて、私は昇降口で待ってることにしたのである。
そんな時に美鈴ちゃんが来ちゃうから、もう大変。慌てて隠れたよ!

改めて考えると隠れる必要って全然ないんだけどね……。隠れ損である。

すぐに帰るのかと思ったんだけど、なんだか様子がおかしい。
鞄の中から何かを探しているみたんなんだけど、ないみたいなのである。
手には傘がないから折り畳み傘を探してるのかも。

とうとう鞄の捜索を諦め、昇降口の外で恨めしそうに雨雲を見上げる美鈴ちゃん。
なかったんだね……。残念。

傘なしで帰るには少しツラいほどの雨である。
濡れて帰れば確実に風邪を引く。

私の傘を貸してあげようかな。
いや、でも……。今接触するのは時期尚早だよね。どうしよう。

靴箱の影でやや挙動不審な私の横を、さっと誰かが通り外へと出ていく。

「あれ、美鈴ちゃん?どうしたの、帰らないの?」

あのやり手の図書委員だ!
外へ出て美鈴ちゃんに気付いて話しかけている。

きぃぃいぃー!どうしてアイツなの。葵先輩カモン!

「それが、傘を忘れちゃったみたいで……」

困り顔で状況を教える美鈴ちゃん。

「あ、それなら僕の傘に入ってく?」

な、ななんと……爆、弾、発、言!ドカーン!
ダメだよ、絶対ダメ。断ってー!

私の念をもろともせず、図書委員は傘を広げ美鈴ちゃんの方に傾けた。
遠慮しているのか、美鈴ちゃんは戸惑いがちに尋ねる。

「でも、いいんですか?」

全然よくないよ!
断ってー。そんな奴と一緒に帰らないで。

「電車通学だから、駅まででいいならいいよ」
「私も電車だから助かります。お願いします」

ペコッと頭を下げ、図書委員の傘の下に入る美鈴ちゃん。
ああ、なんてことだ。相合傘だなんて……。

昇降口の屋根から抜け、大雨の中に足を踏み出す二人。
入れてもらうことに抵抗があるのか、遠慮しているのか、美鈴ちゃんは頭だけ入るくらいしか傘に入れていない。
だから肩や腕が雨に濡れてしまっている。

距離に気づいたのか、図書委員はすぐに美鈴ちゃんの方に近づく。
だが、美鈴ちゃんがさっきと同じくらいの空間を間に空けて離れる。

あわわわ、これじゃ体の側面がびしょ濡れになっちゃうよ。
風邪ひかないといいけど。

「ちゃんと入らないと濡れるよ」

図書委員は、腕を美鈴ちゃんの腰に回して引き寄せた。
これで距離がグッと近くなり、美鈴ちゃんも逃げることができず傘の中に引き入れられた。
美鈴ちゃんの方は急に腰に手を回されて驚いて、緑士のことを凝視している。

ちょ、ちょ、ちょっとー!
女子の腰に手を回すなんて、な、なんて不埒な!
離しなさいよ、確かに美鈴ちゃんは濡れないけどそこまでしたらダメでしょうが。

「あ、あ、ありがとうございます…」

凝視して気づいたのか顔も体も至近距離なことに照れたようにお礼を囁く美鈴ちゃん。
実際その声は雨音に消されて私には聞こえなかったけど、雰囲気的にそうお礼を言ってそうである。

むかつくー!
ああ、今からでも雨の中に飛び出して二人の間に割って入りたい。
健全な高校生の距離で帰れよー!
あの図書委員には油断も隙もあったものじゃない。


二人の姿が見えなくなり、私一人でイライラとしている時に千香ちゃんは戻ってきた。

「待たせてごめんね」
「大丈夫だよ」

ああ、女神だ。
私の怒りは千香ちゃんを見て一瞬で霧散する。
千香ちゃんのことを見ていると、心が安らぐ。えへへ。

傘を差して、雨が降る外へ出る。すごい音である。
そこで、ふと思った。

「ねえ、千香ちゃん。そっちの傘に入ってもいい?」

さっきの光景を思い出して、相合傘をしたくなったのだ。

「急にどうしたのよ」
「え、なんとなく……、ダメかな?」

ちょっと嫌そうな顔をされてしまった。ショック。

「……ダメではないわよ。好きにしていいわ」

千香ちゃんの言葉で一気にテンションが上がる。
好きにしていいって言った?!言ったよね?
好きにしちゃうよ?相合傘しちゃうよ?!

自分の傘をたたんで、千香ちゃんの隣へ。
傘の中に二人、とても近い距離である。

「千香ちゃん、千香ちゃん。大好きー」
「知ってるわ。傘の持ち手、未希が持ちなさい」
「はーい」

千香ちゃんと相合傘できてご満悦の私と、そっぽを向く千香ちゃん。
今の私は気分が良いから、傘の持ち手でも、荷物でも何でも持っちゃうよ。


相合傘も嬉しいんだけど、向こうを向いて歩く千香ちゃんの口角が上がっていることが何より嬉しいのですよ。
顔を背けてても、隠しきれてないよ。さっきの嫌そうな顔は、照れ隠しだったんだね。
千香ちゃんも相合傘を楽しんでくれるのなら、またいつか相合傘しようかな、と思うのでした。


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