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毒ガスと暴風とクマの人形(後編)
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段々目が慣れてきた優作は、自分の部屋で何が起こっているのか理解し始めた。吹き上げられたものは、すべて一点、アンの目の前に集中するように動き、そこから上に流れる。優作は、それに見覚えがあった。“低気圧”だ。周辺から一点に吹き込み、その後上昇する。アンは、自分の部屋に低気圧を発生させている。ルーズベルトは吹き込んでくる瓦礫(ゴミではないが、そう表現するのが一番わかりやすい)を足場に動き回るが、いつまで続くかは分からない。恐らく、ルーズベルトも分かっているのだろう。相手は圧倒的な力を備えた魔法使い。自分は機動力で互角に渡り合っているが、動きが止まった瞬間、それは敗北を意味する。もしルーズベルトが風に吹き飛ばされないように何かに掴まれば、そこを狙い撃ちされる。かといって低気圧に捕えられればそれでもまた狙い撃ちされてしまう。やっぱり、パシられてる奴がパシってくる奴に勝てるわけがない。
ふわっ。
さっきまで抵抗していたルーズベルトが、突然風に身を任せた。そのまま低気圧へと吸い込まれていく。何をするつもりだ? 優作はルーズベルトの行動を疑った。アンは右手を突き出し、大きな空気塊を形成している。ルーズベルトが気圧の中心に来た瞬間に、狙い撃ちしようとしているのだろう。
ルーズベルトがアンの目の前に到達した。
「バウンド・カタパルト!」
アンが、大きな空気塊を打ち出す。このままなら、ルーズベルトは負ける。どうする……。
バッ。
ルーズベルトが体を大きく広げた。上昇気流を体いっぱいに受けた彼の体はものすごい勢いで打ち上げられ、空気塊をよけ、そのまま天井へと激突しそうになった。
ダッ!
ルーズベルトが天井を思いっきり蹴った。上昇の勢いと蹴りの勢いが合わさり、彼は今まで以上のスピードを得た。モフモフの弾丸は、そのままアンへと一直線に飛んでいく。
パーン。
ルーズベルトの一撃が、アンの眉間を直撃した。
「あああぁぁぁぁぁ……」
その勢いのまま、アンは吹き飛ばされ、窓から外へ放り出された。
勝った、のか? ルーズベルトが、アンに。恐る恐る机から出る優作。ぴょこっと床に着地したルーズベルト。彼は優作に誇らしげな目を向け、腕を一直線に突き出した。“Good job!”とでもしているのだろうか。そういえばアンは? 窓から外に出て無事なのだろうか。優作は慌てて窓へと向かい、外を確認しようとする。
その時、ルーズベルトが思いっきり優作の体を横から蹴飛ばした。
「何すんだよ! ルー……」
ザッ!
さっきまで優作がいたところに、一直線の光のラインが通った。そのラインが通った後には、きれいな切れ目ができている。しかも、よく見ると湿っていた。あれは、水だ。超高圧の水が、何かを切り刻むために放たれたのだ。そして、今、それを出来る奴は……。
「私は、君のことを侮っていたようだよ」
窓の外では、アンが宙に浮いている。髪と服がはためき、体から何やらオーラのようなものを放っている。例えるなら、ラスボス、と言ったところだろうか。とにかく、勝てない。どんなことをしたって勝てない、と思えてしまうような姿がそこにはあった。
「だが、君は私を知らない」
杖を前へと突き出し、アンは口を開いた。
「私はヴィヴィアン! かつてロイラン一院で最強と言われ、学生の身分でありながら“魔術師”の称号を賜った、風と気象の魔法使い、大風師・ヴィヴィアンだ!」
髪を躍らせ、大声で叫ぶその姿は、まさに大魔法使いだった。さっきまでの殺気立った態度とも、いつもの自由人とも違う。圧倒的な力の下に、あらゆるものを屈服させる存在。自然と膝を付きたくなるような風格、オーラ。そのすべてが、彼女が持つ強大な力を示していた。
「ゼロ・グラヴィティ!」
アンが叫んだ。
ボワン。
ルーズベルトが宙に浮いた。必死に手足を動かしてもがくが、ただその場で回転するだけで、これ以上移動することができない。
「この魔術にかかれば、君はもう動けない。さて、終わりとしようか」
そういうと共に、アンの右手からぼわっと火の玉が生まれた。まさか、ルーズベルトを焼き尽くすつもりか? 黙ってられない。だが、何も出来ない。どうすれば……。
「消えてしまいなさい! ゴーレム!」
アンが大きな業火を放った。窓を通り、ルーズベルトへと一直線に進んでいく。逃げられないルーズベルト。ぬいぐるみ一つ、あんな炎にやられたら一瞬で消えてしまう。
俺の宝物、ずっとしまっていけど、思い出が詰まった大切な人形。友達でもあり、家族でもあるクマ。
……傍観するしか出来ないのか? 魔法使いに必死に挑み、最後まで果敢に戦った勇者。そんな彼が消えていく様を、俺は黙って見ているしかないのか?
いやだ……。そんなの、いやだ!
「————」
口から訳の中らない言葉が飛び出した。自分自身何を叫んだのか分からない。だが、一つ分かったことがある。
——空間が、歪んだ。
「え?」
アンが家の外から家の中へ瞬間移動した。炎は別の場所へ移動したのか、完全に消えてなくなっていた。
「ルーズ、ベル……ト……」
優作は一言残し、床に倒れこんだ。
ふわっ。
さっきまで抵抗していたルーズベルトが、突然風に身を任せた。そのまま低気圧へと吸い込まれていく。何をするつもりだ? 優作はルーズベルトの行動を疑った。アンは右手を突き出し、大きな空気塊を形成している。ルーズベルトが気圧の中心に来た瞬間に、狙い撃ちしようとしているのだろう。
ルーズベルトがアンの目の前に到達した。
「バウンド・カタパルト!」
アンが、大きな空気塊を打ち出す。このままなら、ルーズベルトは負ける。どうする……。
バッ。
ルーズベルトが体を大きく広げた。上昇気流を体いっぱいに受けた彼の体はものすごい勢いで打ち上げられ、空気塊をよけ、そのまま天井へと激突しそうになった。
ダッ!
ルーズベルトが天井を思いっきり蹴った。上昇の勢いと蹴りの勢いが合わさり、彼は今まで以上のスピードを得た。モフモフの弾丸は、そのままアンへと一直線に飛んでいく。
パーン。
ルーズベルトの一撃が、アンの眉間を直撃した。
「あああぁぁぁぁぁ……」
その勢いのまま、アンは吹き飛ばされ、窓から外へ放り出された。
勝った、のか? ルーズベルトが、アンに。恐る恐る机から出る優作。ぴょこっと床に着地したルーズベルト。彼は優作に誇らしげな目を向け、腕を一直線に突き出した。“Good job!”とでもしているのだろうか。そういえばアンは? 窓から外に出て無事なのだろうか。優作は慌てて窓へと向かい、外を確認しようとする。
その時、ルーズベルトが思いっきり優作の体を横から蹴飛ばした。
「何すんだよ! ルー……」
ザッ!
さっきまで優作がいたところに、一直線の光のラインが通った。そのラインが通った後には、きれいな切れ目ができている。しかも、よく見ると湿っていた。あれは、水だ。超高圧の水が、何かを切り刻むために放たれたのだ。そして、今、それを出来る奴は……。
「私は、君のことを侮っていたようだよ」
窓の外では、アンが宙に浮いている。髪と服がはためき、体から何やらオーラのようなものを放っている。例えるなら、ラスボス、と言ったところだろうか。とにかく、勝てない。どんなことをしたって勝てない、と思えてしまうような姿がそこにはあった。
「だが、君は私を知らない」
杖を前へと突き出し、アンは口を開いた。
「私はヴィヴィアン! かつてロイラン一院で最強と言われ、学生の身分でありながら“魔術師”の称号を賜った、風と気象の魔法使い、大風師・ヴィヴィアンだ!」
髪を躍らせ、大声で叫ぶその姿は、まさに大魔法使いだった。さっきまでの殺気立った態度とも、いつもの自由人とも違う。圧倒的な力の下に、あらゆるものを屈服させる存在。自然と膝を付きたくなるような風格、オーラ。そのすべてが、彼女が持つ強大な力を示していた。
「ゼロ・グラヴィティ!」
アンが叫んだ。
ボワン。
ルーズベルトが宙に浮いた。必死に手足を動かしてもがくが、ただその場で回転するだけで、これ以上移動することができない。
「この魔術にかかれば、君はもう動けない。さて、終わりとしようか」
そういうと共に、アンの右手からぼわっと火の玉が生まれた。まさか、ルーズベルトを焼き尽くすつもりか? 黙ってられない。だが、何も出来ない。どうすれば……。
「消えてしまいなさい! ゴーレム!」
アンが大きな業火を放った。窓を通り、ルーズベルトへと一直線に進んでいく。逃げられないルーズベルト。ぬいぐるみ一つ、あんな炎にやられたら一瞬で消えてしまう。
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いやだ……。そんなの、いやだ!
「————」
口から訳の中らない言葉が飛び出した。自分自身何を叫んだのか分からない。だが、一つ分かったことがある。
——空間が、歪んだ。
「え?」
アンが家の外から家の中へ瞬間移動した。炎は別の場所へ移動したのか、完全に消えてなくなっていた。
「ルーズ、ベル……ト……」
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