植物大学生と暴風魔法使い

新聞紙

文字の大きさ
26 / 43

想像を爆発させる魔法使い

しおりを挟む
 ルンルン気分で漁る本棚。書かれているのは無限の知識。触れたことも、認識したことも無い知識。アンは新鮮な知識を前に、目を輝かせていた。
 場所は図書館。今まで完全に無視していたスペースは、新しい次元へと自分を導く。
 この世界は随分と教育や上達に関する研究が進んでいるな。ロイラン一院の書院には、この分野に関する本はあまりなかった。それなのに、この小さな町の小さな図書館でもこれほどの本がある。
 さて、どうすれば優作を魔法使いとして育てることができるか。どんな魔術をどんな順番で教えていくか。こちらからとにかく情報を教授すべきか。体験学習、アクティブラーニングというのも興味深かった。魔術だけじゃない。自分が旅をして見聞を広げたこと。ロイランの外の世界、そして、今ここにある世界がどんなものだったか。伝授しなければいけないことは山ほどある。
 瞬く間にいくつもの分厚い本を読破し、持ってきたノート(優作の部屋に転がっていたものをこっそり拝借している)にプランをいくつも書き上げる。
 それにしても、今のうちに調査を始めてよかった。多くの本に、『あらゆる技能の習得には最初が大切』といった内容が書いてある。また、『もともと高い技能を持った人間は指導に向かない。なぜなら出来ない人間の苦労や、出来ない理由が分からないからだ』などという記述もあった。もしこのまま鍛練を続けていたら、優作は私のペースについていけずに挫折してしまったかもしれない。実際、絨毯で飛行するときもあまり優作の安全を考えていなかった。明日からは、もう少し優作に負担が無いように飛んでみるかな。
 頭の中から溢れてくるのは様々な未来。自分が指導し、この世界で魔法使いを生み出す未来。魔法が浸透していないこの世界に、魔法を芽生えさせる一歩。ああ、わくわくする。胸の高まりが止まらない。
『間もなく閉館となります』
哀愁漂う音楽と共に、読書時間終了の知らせが流れた。ふとしたアンは窓から外を眺める。日は完全に落ち、ただの暗闇にしか見えない。そういえば、何か食べたっけ? まあ、お腹もすいていないし、昼食食べる時間も読書に充てられたのだから良しとしよう。アンは机に積み上げられた本の塔を軽々と持ち上げ、サササっと元の場所に戻していった。



 ビュウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……。

 大きな希望を抱きながら、アンはいつもの町を空から眺めていた。
 ここには、魔術を知る者は全くいない。ここは魔術を空想の物とし、現実と捉えられない世界だ。
 だが、もし私が魔術の指導に成功したら? 恐らく優作だけではないだろう。知らないだけで、魔術の才能がある者はもっといるはずだ。

 ——優作以外の人間に魔術の手ほどきを受けさせる?

 何か引っかかる感触はあるが、何も違和感のない、普通の行動だろう。魔術を広める活動としては。
 アンの想像上の視界には、魔術が浸透し、全員が普通に、自由に魔術を使うこの街が広がっていた。
 いや待て。もし私が魔術の指導をするとしたら、自分はそこまで自由に行動できないのではないか? それなら自分は大陸を駆ける風のように生きられないのではないか? いや、きっとその頃には、優作が十分優れた魔法使いになっているだろうから、優作に任せればいい感じになるだろう。
 さて、今日は寝られないな。明日からのプランを組み立て、仕上げなければ。せっかくの時間を無駄にしてはいけない。それに、そういうことを考える時間が最高に楽しい。

 ああ、明日が待ちきれない。明日の朝の鍛錬が待ち遠しくて仕方がない。魔法使いを育てる。それが、これほどまでに面白いことだったとは。魔術院の連中は一体何をしていたのだろう? こんな面白いことをしておきながら、名誉の話や出世の話ばかりしていたとは。自分のことを伝授する。自分の知識、見聞、様々なことを伝える。この純粋な楽しみをないがしろにしていたなんて、なんて勿体ないことでしょう。

〇 〇

 ガチャッっと扉を開け、並木家の住宅へと入る。
「ただいまー!」
アンのさわやかな声が建物内に反響する。
「あ、アンちゃん。お帰りなさい。……ん? どうしたのアンちゃん」
「はい?」
「だって、アンちゃんがとっても明るいから。いつも明るいけど、今日はいつも以上に。何かいいことでもあったのかしら?」
「ふふふ。分かります? そうなんです! 今日、とっっってもいいことがあったんですよ。もう明日が楽しみで楽しみで楽しみで仕方ありません!」
「……そう。良かったわね」
「?」
この時の敦子はなぜか暗かった。顔はいつも通りの笑顔だが、その裏側から隠し切れない暗さが滲み出ている。何かあったのだろうか。ふとした疑問を頭の片隅に置きながら、アンは優作の部屋へと歩き始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥
ファンタジー
町の電気屋として細々と暮らしていた俺、轟電次郎(とどろき でんじろう)。 ある日、感電事故であっけなく人生終了──のはずが、目を覚ましたら異世界だった。 そこは魔法がすべての世界。 スマホも、ドライヤーも、炊飯器も、どこにもない。 でもなぜか俺だけは、“電力を生み出し家電を召喚できる”という特異体質を持っていて── 「ちょっと暮らしやすくなればそれでいい」 そんなつもりで始めた異世界ライフだったのに…… 家電の便利さがバレて、王族に囲まれ、魔導士に拉致され、気が付けば── 「この男こそ、我らの神(インフラ)である!」 えぇ……なんでそうなるの!? 電気と生活の知恵で異世界を変える、 元・電気屋おっさんのドタバタ英雄(?)譚!

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【読者賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜

旅する書斎(☆ほしい)
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞(読者投票1位)受賞】 文化文政の江戸・深川。 人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。 暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。 家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、 「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。 常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!? 変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。 鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋…… その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。 涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。 これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...