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暴風通過後の優作
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日が沈んだ町の空気は冷たく、突然開いた心の穴に容赦なく凍てつく風が吹き込んでくる。あまりにも突然降りかかった出来事を、優作はまだ受け入れられていなかった。
まさか……、これで終わりなんてないだろ? あのアンが、こんなことで……。必死に自分に言い聞かせていたが、考えれば考えるほど、自問自答すればするほど、優作は現実を理解していく。その現実が、優作にとって耐えがたいことであることも、自分の過失、自分の弱さのせいで招いてしまったことも、そして、取り返しがつかないということも理解していく。
アンが立っていた場所へ視線を移す。すると、そこに一冊のノートが落ちていた。恐らく自分のノートだろうが、かなり乱雑に使われた形跡がある。このまま何か考えても仕方ない。気分転換がてら、ノートをパラパラとめくってみた。
そこに書かれていたのは、高度で、かつ見やすい魔術の解説図だった。飛行術、魔導書の作り方のような比較的軽い魔術から大嵐の起こし方、空間の歪め方などの大規模で高度な魔術まで、様々な魔術を、分かりやすく丁寧に解説してある。
そうか、このノートはアンが魔術の理論、実践方法などを分かりやすくシンプルにまとめたものだったんだ。優作は何冊か魔導書を読んだことがあるが、このノートはどんな魔導書よりも分かりやすかった。まだ魔力が込められていないが、まるで優作専用の魔導書といった印象を受けるくらい、優作には読みやすかった。
さらにページをめくってみる。魔術の知識に関する内容はなくなり、代わりに殴り書きされた文字がびっしりと敷き詰められていた。優作は目を凝らしながら、少しずつその文字を解読していく。
『優作は自分への自信が絶望的。まずは簡単なことから繰り返し、少しづつ自信を付けていこう。成功体験は学習効率を上げるらしい』
『優作の得意な魔術は空間操作と工作系、どちらも魔女アッシュと似ている。なら、私が集めてきた魔女アッシュの知識を教えれば、もっと優作は魔法が面白くなるかな』
『やっと出会えた魔法使いの卵。楽しみだな。優作はどういう魔法使いになるのかな。出来れば、ロイランの連中みたいな名誉とか出世を考える人にはならないで欲しい。純粋に、ただ魔術を楽しんでほしいな』
『やっと、優作に恩返しができる。優作には幸せになって欲しい。私の力で、彼を幸せにする。殻を破るなら全力で助ける。高みを目指すなら、私は精いっぱい、優作を持ち上げる。そして——』
パタン、とノートを閉じた。既に目頭は熱くなっていた。気が付くと、自分の足元に大量の水がこぼれているのを見つけた。
耐えきれなくなった優作は、自分のベッドにぐだっと倒れこんだ。毛布の中に潜り込み、その場で小さく丸くなった。
俺は……、なんて奴だ……。
不安だ、不安だ、ってずっと縮こまって。手を差し伸べてくれた人を拒絶し続けて。助けてもらって、やっと抜け出したと思ったら、今度は人を傷つける。
俺は何をやってんだよ。アンは、ずっと俺を助けようとしてくれていたのに。俺を少しでも導こうと、アンなりに頑張ってくれていたのに。俺のために、必死だったのに。
なんで、なんで気づけなかったんだ。アンがいなくなる前に、何で気づけなかったんだよ。もし今なら、もっと違う接し方ができたはずだ。
ノートから伝わってきたのは、“やさしさ”だった。純粋で、混じりけのない、あったかい感情。別に何か目的があるわけじゃない。ただ、目の前の人間へ贈られるもの。冷たい学生には、絶対に出来ないこと。
自分はバカだ。いなくなって、失って初めて気づく。自分のどうしようもない無能さを何度も呪った。自分で自分を罵った。だが、何も変わらない。
もう一度、優作はノートに手を伸ばす。なぜかは分からない。ただ、もう一度読みたくなった。
ポウッ。
突然ノートが光り出した。光はだんだん強くなり、その後、ノートは光と共に消えた。
——ああ、完全に、去ってしまうのか——。
やさしさも、消えた。優作に向けられていた最後のやさしさが、静かに消えた。
——人間関係で苦労しない確実な方法。それは、人間関係を作らないこと。
久々に思い出した。アンとの日々の中で忘れていた。結局、自分は誰かのやさしさに気が付くことも、誰かにやさしさを分けることも出来ない。
最初から、触れ合わなければよかったんだ。あの時アンを拾わなければ、アンを傷つけることも無かったのだから。
もう、やめよう。
体から溢れ出す後悔に溺れながら、優作は暗闇の中でうずくまっていた。
まさか……、これで終わりなんてないだろ? あのアンが、こんなことで……。必死に自分に言い聞かせていたが、考えれば考えるほど、自問自答すればするほど、優作は現実を理解していく。その現実が、優作にとって耐えがたいことであることも、自分の過失、自分の弱さのせいで招いてしまったことも、そして、取り返しがつかないということも理解していく。
アンが立っていた場所へ視線を移す。すると、そこに一冊のノートが落ちていた。恐らく自分のノートだろうが、かなり乱雑に使われた形跡がある。このまま何か考えても仕方ない。気分転換がてら、ノートをパラパラとめくってみた。
そこに書かれていたのは、高度で、かつ見やすい魔術の解説図だった。飛行術、魔導書の作り方のような比較的軽い魔術から大嵐の起こし方、空間の歪め方などの大規模で高度な魔術まで、様々な魔術を、分かりやすく丁寧に解説してある。
そうか、このノートはアンが魔術の理論、実践方法などを分かりやすくシンプルにまとめたものだったんだ。優作は何冊か魔導書を読んだことがあるが、このノートはどんな魔導書よりも分かりやすかった。まだ魔力が込められていないが、まるで優作専用の魔導書といった印象を受けるくらい、優作には読みやすかった。
さらにページをめくってみる。魔術の知識に関する内容はなくなり、代わりに殴り書きされた文字がびっしりと敷き詰められていた。優作は目を凝らしながら、少しずつその文字を解読していく。
『優作は自分への自信が絶望的。まずは簡単なことから繰り返し、少しづつ自信を付けていこう。成功体験は学習効率を上げるらしい』
『優作の得意な魔術は空間操作と工作系、どちらも魔女アッシュと似ている。なら、私が集めてきた魔女アッシュの知識を教えれば、もっと優作は魔法が面白くなるかな』
『やっと出会えた魔法使いの卵。楽しみだな。優作はどういう魔法使いになるのかな。出来れば、ロイランの連中みたいな名誉とか出世を考える人にはならないで欲しい。純粋に、ただ魔術を楽しんでほしいな』
『やっと、優作に恩返しができる。優作には幸せになって欲しい。私の力で、彼を幸せにする。殻を破るなら全力で助ける。高みを目指すなら、私は精いっぱい、優作を持ち上げる。そして——』
パタン、とノートを閉じた。既に目頭は熱くなっていた。気が付くと、自分の足元に大量の水がこぼれているのを見つけた。
耐えきれなくなった優作は、自分のベッドにぐだっと倒れこんだ。毛布の中に潜り込み、その場で小さく丸くなった。
俺は……、なんて奴だ……。
不安だ、不安だ、ってずっと縮こまって。手を差し伸べてくれた人を拒絶し続けて。助けてもらって、やっと抜け出したと思ったら、今度は人を傷つける。
俺は何をやってんだよ。アンは、ずっと俺を助けようとしてくれていたのに。俺を少しでも導こうと、アンなりに頑張ってくれていたのに。俺のために、必死だったのに。
なんで、なんで気づけなかったんだ。アンがいなくなる前に、何で気づけなかったんだよ。もし今なら、もっと違う接し方ができたはずだ。
ノートから伝わってきたのは、“やさしさ”だった。純粋で、混じりけのない、あったかい感情。別に何か目的があるわけじゃない。ただ、目の前の人間へ贈られるもの。冷たい学生には、絶対に出来ないこと。
自分はバカだ。いなくなって、失って初めて気づく。自分のどうしようもない無能さを何度も呪った。自分で自分を罵った。だが、何も変わらない。
もう一度、優作はノートに手を伸ばす。なぜかは分からない。ただ、もう一度読みたくなった。
ポウッ。
突然ノートが光り出した。光はだんだん強くなり、その後、ノートは光と共に消えた。
——ああ、完全に、去ってしまうのか——。
やさしさも、消えた。優作に向けられていた最後のやさしさが、静かに消えた。
——人間関係で苦労しない確実な方法。それは、人間関係を作らないこと。
久々に思い出した。アンとの日々の中で忘れていた。結局、自分は誰かのやさしさに気が付くことも、誰かにやさしさを分けることも出来ない。
最初から、触れ合わなければよかったんだ。あの時アンを拾わなければ、アンを傷つけることも無かったのだから。
もう、やめよう。
体から溢れ出す後悔に溺れながら、優作は暗闇の中でうずくまっていた。
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